時価総額1000億ドルを支えるRippleの勝負手:XRP売却ビジネス、決済拡大、ETFと政治の行方
- 2025/4/10
- XRP

【要約】
・Rippleが高度に集中管理されたトークン配布モデルで物議を醸しつつも、世界中の金融機関から支持を集める理由
・クロスボーダー決済事業の拡大や新たな買収によるRWA(現実世界資産)の取り込みなど、多角的に事業を推進
・SECとの長年の法廷闘争が和解に向かい、米国での規制リスクが後退
・トランプ陣営との「親密関係」による政治的追い風やETF期待が、XRPの価格上昇を後押し
・大口によるXRP売却やトークンロックアップの仕組みをめぐる懸念もくすぶる
Rippleは「売却ビジネス」なのか? 高時価総額の裏側
暗号資産市場では「脱中央集権」という精神が重要視されてきました。しかし、古参ブロックチェーンプロジェクトであるRippleは、そのトークン配布モデルが極めて集中しており、しばしば「加密(暗号)世界の理念に反する」と批判されてきました。創業当初からXRPの大量保有者はRipple社そのものであり、実際にRippleのCEOであるBrad Garlinghouse氏も「XRPを売却しなければ利益を出せない」と語ったことがあります。さらに、テクノロジーの進化が乏しいという指摘や、ビジネス収益だけを見ると“ゾンビ企業”扱いされることすらありました。
それにもかかわらず、Rippleは世界中の金融機関や送金サービス企業から強い支持を集め、その時価総額は1000億ドル規模にまで到達することも珍しくありません。近年ではETFの承認機運、米国の政治的支持、クロスボーダー決済の拡充、新たなステーブルコインの発行など、多方面で追い風が吹いており、再び脚光を浴びる状況となっています。
クロスボーダー決済を軸に、多角化を図るRipple
Rippleの核となるのはやはり決済事業、とりわけ国際送金の分野です。今年も非洲(アフリカ)向け送金プラットフォームChipper Cashとの提携を通じて同地域へ進出したり、ポルトガルの老舗両替所Unicâmbioとの連携でブラジルとの即時決済を実現。日本ではSBI新生銀行がRippleの分散型台帳(DLT)を活用した海外送金を導入するなど、世界規模でビジネスを広げています。
このようなグローバル展開を支えるため、Rippleは取得ライセンスの拡充にも注力しています。2025年4月時点でアメリカ33州やドバイなど世界各地で計55枚を超える送金免許(MTL)を取得。最近ではニューヨーク州とテキサス州のライセンスを取得し、さらにドバイ金融サービス局からも認可を受け、アラブ首長国連邦(UAE)で規制下の暗号資産決済サービスを提供する初のブロックチェーン企業となりました。
また、Rippleは独自ステーブルコインである「RLUSD(Ripple Liquidity USD)」を積極的に広める戦略にも乗り出しています。2024年末に発行が始まったRLUSDは時価総額が2.9億ドルを超え、DeFiや決済分野でのユースケース拡大を目指し、ChainlinkやRevolut、Zero Hashなどと提携。今年に入って取引所Kraken上場や決済ソリューションへの組み込みが進んだことで、BKK ForexやiSendといったクロスボーダー決済にもRLUSDが組み込まれています。今後はさらなる支払プラットフォームへの導入も計画中です。
最近では、暗号資産フレンドリーなプライムブローカー「Hidden Road」を12.5億ドルで買収すると発表し、大きな話題となりました。Hidden Roadは300社以上の機関投資家を抱え、従来の決済チャネルで100億ドル超の決済を手がける企業です。買収完了後はRLUSDをメインの担保資産として活用し、取引関連の処理をXRP Ledgerへ移管する予定だといいます。これにより、現実世界資産(RWA)の領域でRippleがさらなる存在感を示す可能性も注目されています。
さらに、Rippleはカストディやウォレット事業にも足を伸ばしています。2024年10月に暗号資産カストディサービスを開始したのに続き、今年3月には「Ripple Custody」の商標を出願。ここには暗号資産や法定通貨、デジタル通貨の保管管理を含む金融サービスが明記されており、今後は公式ウォレットの開発も検討しているとみられています。Garlinghouse氏自身も「支払い、不動産、証券取引といった金融領域へのさらなる進出を図る」と述べており、送金以外の収益源を多角的に育てる姿勢を示しています。
SECとの長期抗争が一段落、トランプ政権との距離
米国ではトランプ大統領誕生後に暗号資産規制の風向きが変化し、Rippleにとって追い風となりました。4年以上続いたSECとの訴訟は2025年3月に大きく動き、初期的な和解が成立。昨年の裁判で課された1.25億ドルの罰金のうち7500万ドルをSECが返還し、Ripple側は交差上訴を取り下げることで合意しました。Garlinghouse氏は「SECが上訴を放棄するのはRippleの全面的勝利」とアナウンスし、米国市場での事業展開再加速を宣言しました。
長引く訴訟を背景に、Rippleは米国での事業顧客を海外に95%も移さざるを得なかったといいます。しかし政治工作にも積極的で、2024年の米大統領選にあたって巨大PAC「Fairshake」へ多額の資金提供を行い、業界内でも突出した影響力を発揮しました。その政治的後押しが、トランプ元大統領との「親密関係」を生んだとも指摘されています。
実際、Garlinghouse氏がトランプ氏と会食する様子をSNSに投稿したり、トランプ氏のMEMEトークン「TRUMP」の初期資金繰りをRippleが支援するなど、暗号資産市場では双方の関係が取り沙汰されてきました。さらにトランプ氏が自身のSNS「Truth Social」でXRPに言及したことで、取引量が急増。最近ではXRPを米国の戦略的準備資産に加えると打ち出し、暗号業界全体が大きく注目する事態に発展しています。
ETF申請ラッシュとXRPの可能性
米国ではビットコインやイーサリアムなど主要暗号資産のETF承認をめぐり期待が高まっていますが、XRPも例外ではありません。カナダのPurpose InvestmentsはXRPに連動するETFを証券監査当局に届け出、ブラジルでは2月に世界初となる現物XRP ETFが取引所B3でローンチ。米国でもHashdexをはじめ、多くの運用会社がXRP ETFの申請を進めている最中です。
SECの訴訟終結が近づくなか、市場アナリストたちは「現物XRP ETFの承認は時間の問題」と予測。Garlinghouse氏自身も「2025年下半期にXRP ETFが登場する可能性が高い」とBloomberg TVで語っています。あわせて、Ripple LabsのIPO(新規株式公開)の道も閉ざされてはいないと示唆しており、投資家の期待感は増すばかりです。
価格高騰と根強い代替懸念
数々の好材料を背景に、今年に入りXRPは一時3.3ドルまで上昇し、2018年1月以来の高値を更新。渣打銀行のレポートによれば、トランプ氏当選後半年の間にXRP価格は6倍近く上がったとの分析が示されています。渣打は、規制当局の首脳交代やXRP特有のクロスボーダー決済での優位性が今後も価格を支えると予想。トランプ大統領の任期中に12.5ドルへ達する可能性を示唆しています。
一方でRippleの事業モデルは、「XRP投資家を保護する義務が会社にない」点で懸念を呼んでいます。これはRippleがXRPの売却で現金収益を得ていることから、「投資家が取得するのはRipple社の株式ではなく、何の権利も伴わないトークンに過ぎない」という見方が強まっているためです。かつてGarlinghouse氏が「XRPを売却しないと会社は利益を出せない」と認めたように、投資家側からは供給圧力に対する不安が尽きません。
実際、XRPは発行総量1000億枚で、そのうち550億枚をRipple社がエスクロー管理しているとされています。毎月一定量が自動解放される仕組みですが、使い切らなかった分は再度ロックアップする運用が継続中です。また共同創業者のChris Larsen氏やJed McCaleb氏らは多額のXRPを個人で保有しており、一部は市場に定期的に放出されていることも報じられています。
ニュースの解説
今回取り上げたRippleの動向は、クロスボーダー決済分野での実績やSEC訴訟問題の解決進展、そして政治的サポートの存在が複雑に交差している点で注目度が高まっています。ETFへの期待も重なり、XRPの市場価格を下支えする構図が鮮明です。一方、トークンの集中管理や売却による収益モデルには根強い疑問が残るため、投資家や業界関係者は引き続きRippleのエスクロー解除や大口保有者の動向を注視している状況です。今後、規制機関が暗号資産をどのように位置づけ、政治力がどこまで市場を動かすのか――Rippleが示す次の一手は、業界全体の方向性を占う重要なキーポイントとなるでしょう。