2022年6月、イタリアのファッションブランドPINKO(ピンコ)は、看板商品のバッグ「Love Bag」をデジタルアートにした初のNFTコレクション「Meta Love Bag」を、パリのテクノロジー見本市VivaTechnologyで発表しました。旧版の記事は、この発表を「高級ブランドが次々とNFTに参入するきっかけになる」と紹介していました。
その後、PINKOのブロックチェーンへの取り組みは、NFTアートの販売から、実際に売るバッグの一つひとつにデジタルの証明書を付ける「真贋証明」へと重心を移していきます。この記事では、発表の内容とその後の展開を確かめ、ファッションブランドにとってブロックチェーンがどんな役割を果たすようになったのかを整理します。
何が発表されたか:10点のNFTアート「Meta Love Bag」
Meta Love Bagは、PINKOの定番バッグLove Bagを、現実には存在しない姿のデジタル作品に作り変えた10点のNFTのコレクションです。Web3の分野で作品や体験の制作を手がけるデジタルエージェンシーMirrorと組んで制作され、2022年6月15日から18日まで開かれたVivaTechnology 2022で、最初の3作品が披露されました。3作品は、Mirrorのアートディレクターを務める3Dアーティストが手がけたものです。
NFTの保有者には、専用のコミュニティやパーティー、デジタルやリアルのイベント、今後の新作への参加などの特典が用意されるとされ、PINKOはこれを「メタコマース」と呼ぶ、NFTを入り口にした新しい顧客との関係づくりの第一歩と位置づけていました。
旧版の記事は、このNFTを「Love Bagの超物理的バージョン」と表現していましたが、発表の中身は、バッグのデザインを題材にした限定数のデジタルアートと、保有者向けの特典を組み合わせたものでした。
背景:2021年の「Reimagine」とブロックチェーン認証
PINKOがブロックチェーンを使ったのは、Meta Love Bagが初めてではありません。2021年3月には、使われなくなった衣類や生地を回収して作り直すコレクション「Reimagine」を発表し、約4,000メートルの生地を再利用したと説明しています。
このコレクションでは、イタリアの企業Luxochainのブロックチェーンを使って製品を認証し、タグに埋め込んだNFCチップにスマートフォンをかざすと、製品の情報を確認できるようにしていました。旧版の記事も触れていたとおり、これはNFTアートの販売ではなく、実物の製品の来歴を記録するための使い方です。
環境への配慮を示すリサイクルの取り組みと、それを証明するブロックチェーンの記録を組み合わせた点が、PINKOの初期の特徴でした。
2022年11月:店舗でのNFT販売
2022年11月7日、PINKOはMeta Love Bagのシリーズを一般の顧客向けに販売し始めました。ニューヨークのスプリングストリートとミラノのモンテナポレオーネ通りの旗艦店に特別な展示を設け、3Dの作品を店内で見られるようにしたうえで、スマートフォンの案内に沿って購入できる仕組みです。
購入者には、今後の新作の先行購入、2023年に立ち上げる予定のコミュニティでの「VIC(Very Important Customer)」としての立場、特別なセールや限定イベントへの招待などが特典として示されました。オンラインだけでなく実店舗で体験させることで、暗号資産に詳しくない顧客にもNFTを身近に感じてもらう狙いがあったと考えられます。
一方、このシリーズの販売数や価格、使われたブロックチェーンについて、公開された情報では確認できませんでした。
その後どうなったか:全Love Bagにデジタルツイン
大きな転換となったのは、2023年12月の発表です。PINKOは、Luxochainと、NFCタグ技術を持つTemeraと組み、2023年春夏シーズン以降に生産されるLove Bagのすべてに、ブロックチェーン上の「デジタルツイン」を付けると発表しました。対象は63万点を超えるとされています。
仕組みは次のとおりです。バッグの内側に暗号化機能を持つNFCタグを縫い付け、スマートフォンをかざすと真贋の確認が始まります。デジタルツインには製品の画像、説明、シリアル番号などが記録され、購入者は専用のサイトからこれを受け取れます。デジタルツインはPolygonのブロックチェーン上のNFTとして発行されます。
さらに、製品のシリアル番号を特定の顧客と結びつけることで、正規の流通経路以外で売られる商品(並行市場)を見つけやすくする狙いも示されました。NFTの役割が、限定アートの販売から、すべての製品の身元を記録する道具へと変わったことになります。
なぜ「アート」から「真贋証明」へ移ったのか
2022年後半からNFT市場は大きく冷え込み、限定アートとしてのNFTの人気や価格は下がりました。高級ブランドにとって、NFTアートの販売だけで継続的な収益や顧客との関係を築くのは難しくなったと考えられます。
一方、真贋証明やデジタル製品パスポートは、市場の流行に左右されにくい用途です。偽造品への対策、中古市場での取引の安心感、修理や再販売の履歴の管理など、ブランドにも購入者にも実務的な利点があります。欧州では、製品の素材や環境への影響などの情報をデジタルで提供する「デジタル製品パスポート」の導入に向けた動きも進んでおり、PINKOも今回の取り組みをその方向への一歩と説明しています。
旧版の記事は「NFTを通じたブランド品の宣伝や販売が広がる」と予想していましたが、実際に定着しつつあるのは、宣伝よりも製品管理のための使い方だと言えます。
購入者として知っておきたいこと
- デジタルツインは製品の証明書:実物のバッグとひも付いた記録で、投資目的のNFTとは性格が違います。売却益を期待するものではありません。
- 受け取り方を確認する:購入後に専用サイトで受け取る方式の場合、手続きをしないと記録が手元に残らないことがあります。
- 中古で買うときの確認材料になる:真贋確認の仕組みがある商品は、NFCタグで確かめられるかどうかが判断材料の一つになります。
- 個人情報の扱い:シリアル番号と購入者を結びつける仕組みでは、どんな情報が記録されるのかをプライバシーポリシーで確認しておくと安心です。
時計の分野での似た取り組みとして、スマートウォッチにNFTを表示する機能はタグ・ホイヤーのNFT表示機能の記事で紹介しています。
日本の読者が押さえておきたいこと
PINKOの製品は日本でも販売されていますが、デジタルツインの受け取りや真贋確認の機能が日本で購入した製品にも同じように使えるかは、購入時に店舗や公式サイトで確認してください。
ブランドが発行するNFTや証明書は、ブランドの運営するサービスが続くことが前提になっている場合があります。ブロックチェーン上の記録そのものは残っても、確認用のサイトやアプリが終了すると使い勝手が大きく変わることもあります。ブランドのNFTを受け取るときは、それが何を証明し、どこで確認できるのかを把握しておくと安心です。そもそもNFTとは何かを確認したい人は、初心者向けのNFTの仕組みの解説から読んでみてください。
日本でも、高級品の中古取引は大きな市場になっており、真贋の確認は購入者にとって重要な関心事です。ブランド自身が発行する証明の仕組みが広がれば、中古品の取引の安心感を高める手段の一つになり得ます。
よくある質問
Q. PINKOのMeta Love Bagとは何ですか?
A. 看板商品のバッグLove Bagをデジタルアートにした10点のNFTコレクションです。2022年6月にパリのVivaTechnologyで発表され、デジタルエージェンシーのMirrorと制作されました。
Q. PINKOのNFTは店舗でも買えたのですか?
A. 2022年11月7日から、ニューヨークとミラノの旗艦店で特別な展示を設け、スマートフォンの案内に沿って購入できる形で販売されました。
Q. デジタルツインとは何ですか?
A. 実物の製品にひも付くデジタルの記録です。PINKOは2023年春夏以降のLove Bagすべてに付け、NFCタグで真贋を確認できるようにしました。記録はPolygon上のNFTとして発行されます。
Q. デジタルツインのNFTは売って利益を得られますか?
A. 製品の証明書として使うもので、投資目的のものではありません。売却益を期待して受け取るものではないと考えてください。
この記事の出典
- The Cryptonomist:PINKO launches its first Meta Love Bag NFTs
- The Cryptonomist:Pinko lands again in the metaverse with its new NFT collection
- The Interline:PINKO brings metaverse into its flagship stores with MetaLoveBag NFT collectibles
- The Cryptonomist:PINKO, Luxochain & Temera: the new authentication system of Love Bag and the digital twin
- PINKO:Meta Love Bags Collection
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




