【要約】
・トランプ大統領とイーロン・マスク氏がSNS「X」で激しく対立し、互いに暴露合戦を展開
・その余波で株式・仮想通貨市場が大きく動揺し、ビットコインやドージコインを含む主要銘柄が軒並み下落
・「Kill the Bill」のスローガンをネタにした新規ミームトークンが続々登場するなど、投機的熱狂が一部で高まる
・トランプ氏の加密(暗号資産)関連ビジネスでも内部対立が表面化し、「トランプ・ウォレット」などをめぐる混乱が広がる
・今後の法案の行方や両者の関係修復次第で、市場のボラティリティがさらに上下する可能性
トランプとマスクの対立が仮想通貨市場に与えた衝撃
仮想通貨市場は、ドナルド・トランプ大統領とイーロン・マスク氏というふたつの巨大な影響力に振り回され、大きな波乱に直面しています。2025年6月初旬、もともと「政府効率化局(D.O.G.E.)」局長として協力関係にあったマスク氏が、トランプ政権の大型法案「One Big Beautiful Bill(通称:ビッグ・ビューティフル法案)」を公然と批判したことで両者は決裂。SNS「X(旧Twitter)」やトランプ氏のTruth Social上で相互に暴露や批判が飛び交い、市場全般に不安感が広がりました。
激化する舌戦:暴露合戦と政権の対抗措置
マスク氏はX上で「トランプは未公開のエプスタイン関連ファイルに名前が載っている」などと示唆し、政権や支持者を大きく動揺させました。一方トランプ大統領は「マスクは狂った」「彼への政府補助金や契約を打ち切る」と演説するなど、激しい言葉で応酬。さらに、マスク氏が自ら「Kill the Bill(法案を葬れ)」と呼びかけたことでSNS上の世論も二極化し、ハッシュタグ「#TeamElon」「#TeamTrump」が飛び交いました。
こうした政治的対立の背後には、マスク氏が推し進めていた政府効率化プロジェクト(D.O.G.E.)の成果を台無しにしかねない法案の財政拡大策や、電気自動車(EV)関連の補助・優遇廃止などが含まれています。マスク氏にとってビジネス上の利害が深刻に脅かされる状況となり、トランプ陣営も「彼は補助金が欲しいだけだ」と非難。両者の蜜月関係は完全に崩壊しました。
市場が急変動:ビットコイン急落、ドージコインも下げ
この衝突が表面化した6月5日以降、仮想通貨市場では急速に売りが広がり、ビットコイン(BTC)は心理的な重要ラインである10万ドルを一時的に割り込みました。大幅な下落率こそ数%にとどまりましたが、記録的高値圏にあったがゆえに投資家の動揺は大きいものとなっています。イーサリアム(ETH)やリップル(XRP)も5%前後下落し、Avalanche(AVAX)、ソラナ(SOL)といったハイリスク銘柄は7〜9%の急落を記録しました。
特にマスク氏が一貫して支持してきたドージコイン(DOGE)は、約9%下落と主要銘柄の中でも深刻な値動きに。マスク氏の影響力を背景に乱高下を繰り返してきた通貨だけに、「マスク砲」が裏目に出た格好です。ただしテスラ株が15%超の大幅安となったため、「それに比べればまだ軽傷だ」とする見方もあります。
「Kill the Bill」のミームコイン乱立
マスク氏が放ったスローガン「Kill the Bill」をヒントに、Solana系の分散型取引所などで「Kill Big Beautiful Bill (KBBB)」という新興ミームコインが短時間で時価総額5000万ドル超に到達するなど、投機的な動きも沸き起こりました。しかしその後すぐに急落し、投資家が大損失を被る場面も発生。両氏の発言力がいかに暗号資産に波紋を広げるかを象徴する事例となっています。
トランプ陣営の「仮想通貨」事業でも分裂
一方、トランプ大統領周辺では、複数の加密(暗号資産)プロジェクトが乱立している状況が浮き彫りとなりました。大統領自身の名を冠した「Trump」トークンやNFTの運用主体がいくつも存在し、さらに大手NFTマーケットプレイスのMagicEdenとの「トランプウォレット」共同発表をめぐって、トランプ氏の家族や関係者が真偽を否定するなど混乱が表面化。Eric Trump氏や関係会社が「公式ウォレットは別に用意している」と発言するなど、事実上の内紛状態に陥っています。
また、トランプ大統領の妻・メラニア氏の名前を冠した「$MELANIA」という通貨が突如発行されるなど、プロジェクト同士で利権や認知度を奪い合う構図も表面化。複数のトークンが「トランプブランド」を巡って競合し、法的措置をちらつかせるケースも見られるようになりました。
アナリストの見解:短期ノイズか、それとも政策リスクか
専門家の多くは今回の騒動を「マーケットにとって一時的なショックイベント」と捉えています。確かにビットコインや主要アルトコインは下落したものの、長期的トレンドを覆すほどの決定打ではないと分析する声が大勢です。マスク氏とトランプ氏はともに高い発信力を持つため、短期的には追加の売り材料や市場の神経質な反応を誘発するリスクもありますが、最終的にはファンダメンタルズ重視の値動きに回帰するだろうという見通しが一般的です。
とはいえ、トランプ政権の政策動向がEV支援策や暗号資産に対する規制姿勢にどう影響を及ぼすかは依然不透明。法案が上院で修正・否決されれば、財政刺激策の縮小による景気への波及が懸念される一方、大規模歳出で膨張する財政赤字が抑制される利点もあるため、マーケットの反応は読みにくい側面があります。さらに、マスク氏が政権との協力関係から離脱したことで、暗号資産政策が強硬化するのではないかという見方もあり、今後の成り行きが注目されています。
ニュースの解説
今回のトランプ・マスク騒動は、政治とテクノロジー、そして仮想通貨という三つの領域がいかに密接に絡み合っているかを浮き彫りにしました。大統領や巨大IT企業のトップがSNSで舌戦を繰り広げ、その発言ひとつが市場を大きく揺さぶる時代—投資家はこうした“突発リスク”にいっそう備えておく必要があります。
また、トランプ氏周辺で起こっている「公式ウォレット」の混乱に見られるように、暗号資産ビジネスが急拡大する一方で、運営主体の不透明さやブランドの乱用など多くの課題が浮き彫りとなりました。政治家や著名起業家の影響力が強い分、プロジェクトへの資金集中と混乱が同時に生じるのは必然ともいえます。
市場のボラティリティが高まる局面では、一部のミームコインや新興トークンに便乗した過熱投資が生じやすく、大きく値上がりした後に急落する事態も散見されます。こうした動きを過去の一時的ブームと切り捨てるか、新たな資金流入の呼び水と見るかは今後の展開次第ですが、いずれにせよ長期視点と情報の精査がより重要になるでしょう。
トランプ政権の大型法案が今後どうなるのか、マスク氏との対立は解消されるのか。いずれも不透明な要因が残る中、仮想通貨市場はしばらく神経質な動きが続くとみられます。政治とテクノロジーが緊張関係を強めるこの局面で、投資家や市場参加者は冷静に状況を把握し、本質的な価値やリスク管理に注目しながら動向を見極めることが求められているといえるでしょう。