▽ 要約
計画:2026-04-01〜2026-06-30に発行開始を目標
制度:信託型「3号電子決済手段」で円を分別管理
体制:新生信託が発行、SBI VCトレードが流通
論点:チェーン未公表と国際規制適合が焦点
SBIとStartaleは信託銀行発行の円連動トークンを2026-04-01〜2026-06-30に計画し、倒産隔離と大口決済を両立する枠組みで国際決済やRWA決済の基盤化を狙う。

規制に準拠した「デジタル円」は、国際送金やトークン化資産の決済で本当に使えるのか。SBIとStartaleは信託型の枠組みで円建てステーブルコインを2026-04-01〜2026-06-30に発行する計画を掲げる。本稿では仕組み、関係各社の役割、投資家が見るべき論点を時系列で解説します。
信託型3号で狙う規制準拠のデジタル円
信託財産で裏付ける「3号電子決済手段」にすることで、倒産隔離と大口決済の両立を狙う。
本計画は、改正資金決済法に基づく「電子決済手段」のうち、信託会社型(3号)として円を裏付けに設計される。
発行主体を信託銀行に置き、預かった円を信託財産として分別管理することで、利用者資産の保全を制度面から担保する発想だ。
信託財産として管理される点は、典型的な「準備金型」との違いを作る。
発行体が万一破綻しても、信託財産は原則として分別管理され、受益者である利用者の資産が保全される仕組みになる。
3号は、2号(資金移動業者型)で論点になりがちな1,000,000円上限の制約を受けにくい枠組みとされる。
そのため、個人の小口よりも、企業間決済やトークン化資産の受け渡しなど「大口・高頻度」の用途を主戦場に据えやすい。
発行・償還の基本フロー
信託口座の入出金と、オンチェーン上の発行・焼却を1対1で連動させる運用が想定されている。
利用者が円を信託銀行に預け入れると、同額相当のトークンがブロックチェーン上で発行される設計が示されている。
逆に換金時はトークンを焼却(burn)し、信託財産から円が払い出されるため、オンチェーンの供給量と信託残高の整合が中核となる。
実運用では、誰がどの単位で償還できるか、償還の所要時間、手数料体系が体験価値を左右する。
とりわけ企業利用では、会計・資金管理のオペレーションに耐える「償還の確実性」と「手続きの標準化」が普及条件になりやすい。
役割分担
発行は新生信託、流通はSBI VCトレード、技術はStartaleが担う構図だ。
発行主体はSBIグループ傘下の新生信託銀行が担い、発行・償還の責任を負う。
流通面ではSBI VCトレードが取引所・交換業務を通じて取り扱いを促進し、流動性形成のハブになる想定だ。
SBIホールディングスは規制対応の統括と、機関投資家・事業法人への導入支援を担う立場に立つ。
一方のStartale Groupは、スマートコントラクト設計、API、セキュリティ対策、コンプライアンス機能の実装を主導するとされる。
背景:制度整備と円デジタル決済の空白
日本では改正資金決済法で発行主体が限定され、規制準拠の選択肢が整い始めた。
改正資金決済法では、銀行・信託・資金移動業者のみがステーブルコイン発行主体になれる。
「誰が発行できるか」を明確にしたことで、国内での円連動ステーブルコインの制度設計が現実的になった。
同時に、国内ではメガバンク各社がデジタル通貨や決済インフラの実証を進め、民間主導の「デジタル円」構想が複線化している。
その中で本計画は、信託銀行発行を軸に、クロスボーダーや資本市場の決済に照準を合わせる点で補完関係を狙う構図だ。
海外に目を向けると、ステーブルコイン市場はUSD連動が中心で、規模は$300B級ともされる。
円の選択肢が増えることは、暗号資産市場の為替分散や、円建て取引ニーズの掘り起こしにつながる可能性がある。
技術基盤:チェーン未公表のまま進む設計
ブロックチェーン名は未開示だが、スマートコントラクトとAPIで「プログラマブルな円決済」を作る方針が語られている。
現時点で、採用するブロックチェーンの具体名は公式には明示されていない。
一方でStartaleはAstar Networkの運営や、ソニーグループとEthereumレイヤー2「Soneium」の共同開発などの実績があるとされ、実装力が前提に置かれている。
技術面の肝は、発行・焼却のコントラクトが、信託財産の入出金と厳密に対応することだ。
加えて、事業者が統合しやすいAPI、監査・モニタリング、障害時のフェイルセーフを含めて「金融インフラ相当」の要件を満たす必要がある。
コントラクトと外部連携
外部サービスが組み込みやすいように、発行・送金・償還のインターフェース整備が想定される。
企業の基幹システムや決済ゲートウェイは、ブロックチェーン単体では動かない。
そのため、KYC/AML、口座連携、残高照会、会計連携を含む周辺APIと運用設計が、実需を取り込む鍵になる。
コンプライアンス機能
グローバル利用を見据えるほど、トラベルルール対応や凍結機能などの設計が重要になる。
国際送金や機関投資家用途では、トラベルルール(送金人・受取人情報の付与)や不正対策が運用要件として乗りやすい。
オンチェーン側で特定アドレスを制限できるか、監督当局・司法手続きにどう対応するかは、分散性と規制のトレードオフになり得る。
使い道:国際決済とトークン化資産の決済通貨
狙いは「国際的な決済通貨」と「RWA・デジタル証券のDVP」を支える円の決済レールになることだ。
主用途として示されているのは、クロスボーダー送金・決済での活用だ。
ブロックチェーン上で円相当を即時に移転できれば、着金時間短縮や事務コスト削減が期待され、海外取引での円建て決済の選択肢を増やし得る。
もう一つの軸は、トークン化資産(RWA)やデジタル証券の決済通貨としての位置づけである。
証券と代金を同時に受け渡すDVP決済をオンチェーンで行うには、安定した決済資産が必要で、円連動トークンはその役割を担える。
オンチェーン金融での需要も、将来的な拡張余地として語られている。
DeFiで円建てのレンディングやDEX取引が成立すれば、暗号資産経済圏に円の価値を持ち込み、会計・決済の基準通貨を増やす効果がある。
リテール決済や個人送金は、技術的には可能でも、最初から主目標に置かれにくい。
まずは企業間・国際間取引での実績を積み、ユーザー保護とシステム安定性を確認しながら段階的に広げるのが自然なロードマップになる。
論点とリスク:流動性と国際規制、比較軸
成否は「十分な流動性」と「法域を跨ぐ運用設計」を同時に満たせるかにかかる。
最初の論点は、取引所上場とマーケットメイクによる流動性の厚みだ。
円連動トークンはUSD連動に比べ需要が小さくなりがちで、板が薄いと決済資産としての実用性が下がるため、供給者・利用者の同時獲得が必要になる。
次に、海外展開を本気で狙う場合、EUのMiCAなど各法域の要件が追加コストになり得る。
準備資産の透明性、開示、監督当局への報告、消費者保護は国ごとに差があり、単一スキームのまま全球展開するのは難しい。
JPYCやメガバンク案との比較
国内では規制区分と用途の違いが、当面の棲み分けを作る可能性がある。
JPYCは資金移動業者型(2号)で、1,000,000円上限が適用されるため小口寄りになりやすい。
一方の信託型3号は上限の対象外とされ、企業間・資本市場・国際決済など大口用途を狙いやすい点が差になる。
メガバンク各社のデジタル通貨構想は、国内決済の効率化や既存インフラ刷新を主目的に置きやすい。
本計画はグローバル決済やオンチェーン資本市場をより強く意識しており、競合と補完が同時に起こり得る。
今後の注目点と時系列
2026-04-01〜2026-06-30の発行目標に向け、当局手続き、チェーン選定、参加企業の獲得が主要マイルストーンになる。
発行までに最も重要なのは、金融当局の監督下でのコンプライアンス体制の完成度だ。
届出やシステムリスク管理、AML/CFT運用の実装が、スケジュールの前提条件として位置付けられている。
技術面では、採用チェーンとマルチチェーン方針の開示が市場の関心を集める。
どのチェーンで発行し、ブリッジやラップではなく「同一性」をどう担保するかは、DeFi連携や海外利用の難易度を左右する。
需要面では、トークン化資産プラットフォームや国際送金ネットワークとの接続が具体化するかが焦点だ。
SBIグループ内の実装、提携先の獲得、初期ユースケースの公開が、流通量と信頼を同時に押し上げる材料になる。
▽ FAQ
Q. 発行主体は誰で、法的な位置づけは?
A. 新生信託銀行が資金決済法の3号電子決済手段として発行し、円を信託財産で100%分別管理、信託受益権を根拠に運用する想定。
Q. 発行開始はいつを目標としている?
A. 計画では2026-04-01〜2026-06-30に発行開始を目標とし、金融当局の最終承認とシステム審査の完了が前提となる。
Q. 流通や交換はどこが担う?
A. SBI VCトレードが上場・交換を担い、電子決済手段等取引業者として円や他暗号資産との売買・送受を提供し、流動性を形成する想定。
Q. どのブロックチェーンで動くのか?
A. チェーン名は未公表だが、StartaleがAstar運営やSoneium開発の知見を生かし、スマートコントラクト実装を主導するとされる。
Q. 1,000,000円の送金・残高上限はかかる?
A. 信託型3号は原則1,000,000円上限の対象外とされ、2号と異なり企業間決済・クロスボーダー送金など大口用途を想定する。
■ ニュース解説
信託銀行発行の円連動トークンを規制準拠で実装するため、倒産隔離と大口決済を両立しやすいので国際決済やRWA決済の基盤化が期待される一方で、チェーン選定と流動性、国際規制の適合が実装の難所になる。
制度面の整備が進むほど民間デジタル円の競争は活発化するため、国内勢の棲み分けと相互運用性が中長期の焦点になりやすい。
投資家の視点:発行時期(2026-04-01〜2026-06-30)の確度、当局手続き、採用チェーン、初期ユースケース、取引所での板の厚み、国際展開時の追加コストを「事実の更新」で追う姿勢が重要になる。
※本稿は一般的な情報提供を目的としており、特定銘柄・金融商品の売買を推奨するものではなく、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
(参考:SBIホールディングス)





