日本のIEO市場とホワイトペーパー規制の要点

▽ 要約

実績:国内IEOは公募割れが多数、90%超の下落例も。
法制化:金商法へ移管しWPを法定開示とする方向。
欧州比較:MiCAは100万ユーロ以下等でWP免除。
罰則:虚偽・不開示に行政処分と民事責任を検討。

国内IEOの投資妙味は本当にあるのか――結論は「限定的」です。主要案件の多くが公募比で大幅下落し、投資家損失が常態化しています。金融庁は日本のIEO ホワイトペーパー規制を含む制度見直しを進め、開示の質と責任を法的に担保する方針です。本稿は実績一覧と規制案、MiCA等の海外比較を一次資料で整理し、リスクと活用の勘所を解説します。

国内IEO実績の全体像(2021〜2024)

主要案件の多くが短期に高騰後失速したため、公募割れと大幅下落が常態化した。
2021年のPLTは初期に急騰後に公募近辺へ収れん。FCRは公募2.2円に対し2025年0.2円台、FNCTは上場直後に急伸後0.2円前後で推移、ELFは12.5円から1円未満へ、BRILも初日高騰後に数円水準で推移と、公募比で−50〜−90%台が目立つ。唯一NIDTは一時25倍まで上昇したが、その後は数円台へ落ち着いた。国内案件の「初値プレミアム」は短命で、需給の収縮が早いのが特徴だ。

主要案件の実績ポイント

短期の投機需要が先行したため、持続的な買い手不在で反落が早かった。

トークン実施取引所公募価格現状・推移(サマリー)
PLTCoincheck4.05円初期高騰後に公募近辺へ収れん。
FCRGMOコイン2.20円1円割れへ下落局面が長期化。
FNCTCoincheck0.41円初日急騰後に下落。
NIDTDMM BTC / coinbook5.00円一時高騰後、2025年は5〜8円で推移。
ELFbitFlyer12.50円1円未満へ下落。
BRILCoincheck21.60円初日高騰後、数円台で推移。

岩下直行教授の指摘と示唆

価格実績が脆弱なため、IEOは「投機的ゲーム性」が強く、伝統的市場から切り離すべきと問題提起された。
岩下教授(京大)は、国内IEOの多くが公募割れ・大幅下落に陥った現実から、短期値幅取りの色彩が濃いと分析。「規制強化=安全」という誤解(“お墨付き”効果)にも警鐘を鳴らし、主要暗号資産(BTC・ETH)と投機色の強いトークンを峻別して扱う必要性を示した。

金商法への一本化とWP法制化の骨子(日本案)

投資家保護の実効性を高めるため、発行・販売時の説明責任と虚偽排除を制度化する。
暗号資産を金商法の新カテゴリーに位置付け、発行者やIEO募集者・取引所にホワイトペーパー(WP)作成・公表を義務付ける方向。WPにはプロジェクト・トークンの基本情報、関係者情報、技術基盤、資金使途、リスク要因等の網羅的開示を求め、虚偽記載や不開示には行政処分・刑事罰に加え民事賠償責任も検討。重要事実の変更時は適時訂正・再公表を義務付ける案が示されている。

適用範囲と運用(免除・適時開示・実務負担)

小規模配布や無償配布には柔軟性を持たせる一方、重要変更の適時開示で情報鮮度を担保する。
欧州の運用を参照しつつ、資金規模や配布形態での免除導入を検討。公表後の重要変更は適時訂正・再公表を義務化し、自主規制団体での情報集約も視野に入る。実務上は、WPの標準フォーマット化、第三者レビューやソースコード検証の仕組みづくりが鍵となる。

関連:国内IEO公募価格割れの実態と制度論

海外比較(MiCA/米国/シンガポール/マルタ・ドバイ)

各国は「開示フォーマット+責任付与」と「免除枠」で投資家保護と市場育成の両立を図る。
EUのMiCAは原則WP義務だが、12か月で総対価100万ユーロ以下、各国150名未満、適格投資家限定、無償配布やマイニング報酬などで免除。WPは原則事前承認不要だが、公開20営業日前までに当局へ通知。米国は専用WP制度はなく、証券該当時は登録届出(S-1等)で詳細開示し、未登録販売はSECが厳格に執行。シンガポールはSCS(単一通貨建ステーブルコイン)にWP公表義務。マルタはVFA法でWPの事前登録制、ドバイVARAはルールブックに基づく発行・配布規律を整備している。

EU(MiCA)の運用

届出・公開のタイムラインを明確化し、免除と責任のバランスを取る。
MiCAでは、WPの当局通知(原則20営業日前)、重大変更時の7営業日前通知、免除条件の明確化、投資家向け注意表示(「目論見書ではない」等)を義務付ける。上場申請時は別途WPが必須となる点にも留意が必要だ。

米国の枠組み

「証券なら登録」が原則で、未登録販売はエンフォースメントで抑止する。
トークンが有価証券に該当すれば証券法に基づく登録・開示が必要。未登録ICOの取締りが継続し、近年も違反類型は「虚偽」や「未登録募集」が中核。ヘスター・パース委員は一時的セーフハーバー案を提起してきたが、制度化には至っていない。

シンガポール/マルタ・ドバイ

ステーブルコインはWPで消費者保護、発行規律は法令・ルールブックで詳細化。
シンガポールのSCSでは、WPで価値維持メカニズム、権利、リスク等の開示を課す。マルタはVFA法でWPの登録とVFAエージェント関与を義務化。ドバイVARAは発行ルールブックに基づく発行・流通の要件と、カテゴリー別の取り扱い・配布責任を整備する。

制度導入の影響と課題(投資家・発行体・取引所)

事前・継続開示の強化で質の低い案件は淘汰される一方、過度な負担は案件流出を招く。
WPを法定文書化することで、虚偽・不開示に対する牽制と投資家の事後救済が強化され、明らかな不良案件の参入は抑制される。一方で、過重な責任付与は良質な新規案件の海外流出を招きかねない。WPの標準化、記述責任の限定(故意・重過失に限定など)、第三者レビュー体制の整備により、保護とイノベーションの両立を図るべきだ。

▽ FAQ

Q. 日本のIEO ホワイトペーパー規制案の要点は?
A. 金商法に位置付け、WP義務と虚偽・不開示の罰則、適時開示と民事責任を導入する方向(2025年9月のWG資料)。

Q. EUのMiCAでWP免除となる主な条件は?
A. 12か月で総対価100万ユーロ以下、各国150名未満、適格投資家限定、無償配布やマイニング報酬など。

Q. 国内IEOの下落率が大きい例は?
A. ELF(12.5円→1円未満)、BRIL(21.6円→数円)、FCR(2.2円→0.2円台)などで−80〜−90%台が散見。

Q. NIDTの公募価格と上場は?
A. 公募5円、2023年4月26日にDMM Bitcoin等で取扱開始、2025年は5〜8円で推移の局面が多い。

Q. シンガポールSCSのWP開示項目は?
A. 発行体情報、価値維持メカニズム、権利・リスク、監査結果等を企業サイトで公表・更新する運用。

■ ニュース解説

国内IEOの多くが公募割れで投資家損失が顕在化したため、金融庁は金商法移管とWP法制化で情報非対称の縮減を図る一方で、過度な負担は案件流出を招く懸念がある。
投資家の視点:短期の需給相場に依存するIEOは原資回収確度が低く、WPとコード、資金使途・ロックアップ、割当先・販売方法を最低限点検した上で、分散・少額・回避を選択する等の自己規律が必要です。

※本稿は投資助言ではありません。

(参考:金融庁,EU規則(MiCA),MAS(シンガポール金融管理局),MFSA(マルタ金融庁)