賀一 Binance共同CEOの素顔と経歴

▽ 要約

創業者CZの右腕である賀一がBinance共同CEOとなり、その経歴と影響力を整理する。
四川省農村出身で心理学・教育・テレビ司会を経たキャリアが、ユーザー理解と物語性の高い戦略に結び付いた。
OKCoinとライブ配信企業で培った攻めのマーケティングが、Binance初期の爆発的成長とBNBの成功を下支えした。
YZi Labsと共同CEO体制で投資とプロダクトを両輪とするガバナンスが強化され、規制・競争環境への備えが進んでいる。

Binance共同創設者で共同CEOとなった賀一 Binanceの歩みと現在の権限を整理し、経営ガバナンスとエコシステムへの影響を投資家目線で概観する。

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Binanceの経営トップに新たに加わった共同CEO・賀一は、四川省の農村に生まれ、テレビ司会者やライブ配信企業のマーケターを経て暗号資産業界に飛び込んだ異色の経歴を持ちます。 創業者CZの右腕としてBinanceを世界最大級の取引所に押し上げた立役者であり、現在は取引所と投資会社YZi Labsの両輪を通じてエコシステム全体に影響を及ぼす存在です。本稿では賀一 Binanceの歩みと人物像を整理し、投資家が経営体制やガバナンスを評価するうえで押さえておきたいポイントを解説します。

農村からBinance共同CEOへ

1986年生まれの賀一は四川省の寒村に育ち、教員だった両親の下で厳しい家事労働と読書三昧の生活を送り、「本の虫」とあだ名されるほど学業に打ち込んだとされています。

幼少期は水汲みや薪割りを担当し、電気も不安定な環境のなかで両親の蔵書を何度も読み返すことで、自力で学ぶ姿勢を身につけました。十代になると16歳で清涼飲料の販促アルバイト、短期間ながら寝具店店長としてスタッフ管理や売上管理も経験し、早くから現場感覚と数字への感度を鍛えています。
2006年頃には北京に移り、在職者向けのカウンセリング心理学修士課程に進学し、国家公認の心理カウンセラー資格を取得しました。その後、雲南省麗江の私立芸術大学でクラス担任として約2年間教壇に立ち、学生の進路指導やクラス運営を通じて人材マネジメントを体験します。市場ニーズの限界を感じて心理学の道から離れ、「安定こそ最大のリスク」と考えるようになったことが、その後の大胆なキャリア転換の出発点となりました。

心理学・教育・テレビ司会で培った「人間理解」

心理学と教育現場で培った観察力と共感力に、テレビ司会者としての表現力が加わることで、賀一は「人を動かすストーリーテラー」としての基盤を確立しました。

心理カウンセリングの訓練を通じて意思決定バイアスや集団心理を学び、クラス担任としては数十人規模の学生のモチベーション管理やトラブル調整を日常的にこなしました。これらの経験は、のちにグローバルユーザーコミュニティを相手にしたコミュニケーションや危機対応で生かされています。
その後オーディションを経て中国の旅行専門チャンネル「旅游衛視」や北京テレビの旅番組司会者となり、2012〜2014年にかけて《美丽目的地》《有多远走多远》《北京新発見》などで各地を巡りました。 カメラの前で視聴者に物語を届ける一方、「棚に並んだ飲料のようにラベルだけ整えられ賞味期限を待つ存在にはなりたくない」と感じ、資産運用やビットコインのニュースに触れるなかで「お金の本質」や新技術に強く惹かれていきます。こうして、表舞台の安定したキャリアよりも、新しいルールメイキングに関わる道を選ぶ決意を固めていきました。

OKCoinとライブ配信企業でのマーケティング実績

中国暗号資産取引所OKCoinとライブ配信プラットフォーム一下科技での経験は、低予算でも高いインパクトを生む「攻めのマーケティング」を体現し、後のBinance急成長のリハーサルとなりました。

2014年、賀一はOKCoinの副総裁兼CMOとしてブランド構築を担当し、ニューヨーク・タイムズスクエアの大型ビルボード広告や中国の人気就職番組「非你莫属」への出演を通じて、同社の認知度を一気に高めました。 番組では「ビットコインはデジタルの黄金」と語り、中国の一般視聴者に暗号資産のコンセプトを浸透させる役割も果たしました。この場で講演者として登壇していたエンジニアの趙長鵬(CZ)を3時間にわたり口説き、CTOとしてスカウトしたことが、後のBinance創業チーム結成の出発点になります。
2015年にOKCoinを離れた後は、動画・ライブ配信企業一下科技のマーケティング責任者として「一直播」「秒拍」「小咖秀」などのグロースを統括しました。韓流スターのソン・ジュンギを起用したライブ配信企画では、数百万人規模の視聴者を集め、同社の企業価値は約$3B規模に達したと報じられています。 著名人起用と、一般ユーザーが投げ銭で収益を得られる設計を組み合わせ、「熱狂をつくり、そこに経済圏を重ねる」手法をここで実証したことが、後のBinanceコミュニティ戦略に直結しました。

Binance創業とBNBへの「背水の陣」コミット

Binance創業とBNBトークンへの個人的コミットメントは、賀一が単なるCMOではなく、リスクを取る創業者であることを象徴しており、現在の持分と発言力の源泉になっています。

2017年、CZから「国境なき取引プラットフォーム」という構想を示されると、賀一はライブ配信企業での安定した幹部ポジションを離れ、Binance共同創設者として参画しました。創業当初は競合が乱立し、独自トークンBNBのIEOも初日は公募価格$0.15を割り込むなど、必ずしも順風満帆ではありませんでした。
この局面で彼女は手元資金の大半だった約100万元(当時約$150,000)を投じ、市場に出回っていたBNB約20万枚を買い支えたとされています。後にウォール・ストリート・ジャーナルや専門メディアは、彼女がケイマン籍の持株会社を通じてBinanceの株式を少なくとも10%保有していると報じており、暗号業界で最も裕福な女性の一人とみなされています。
創業初期のBinanceでは、高級車などを賞品とするキャンペーンや大学生コミュニティを活用した紹介プログラムを展開しつつ、「上場料をトークン払いにする」「コミュニティの声に基づき素早く上場する」といった柔軟な上場方針を採用しました。 その結果、創業から半年足らずで取引高世界一に躍進し、BNB価格も急回復するなど、マーケティングとプロダクト・マーケットフィットの両面で成果を上げています。

YZi Labsと共同CEO体制—資本と経営の二本柱

ベンチャー投資部門Binance Labsのトップ就任と、その独立・改称を経てのYZi Labs誕生、そして2025年の共同CEO就任により、賀一は「取引所の経営」と「エコシステム投資」の両面で意思決定権を持つ存在になりました。

2022年の「クリプト冬」にはBinance Labs責任者としてPolygonやLayerZero、Aptosなどへの投資を統括し、短期相場に左右されない長期志向を鮮明にしました。 2025-01には同部門が家族オフィス型の投資会社YZi Labsとして独立し、Web3・AI・バイオテクノロジーまで投資対象を拡大。ポートフォリオは250件超、運用規模は数十億ドル規模と報じられています。
2025-10にはBNBチェーン向け$1B規模の「BNB Builder Fund」が発表され、DeFi・RWA・AI・DeSci・決済など広範な分野の開発支援を行うことが示されました。 BNBが時価総額で世界3位の暗号資産に躍進するなか、YZi LabsはBNBエコシステム強化の中核プレーヤーになりつつあります。
一方、交換業としてのBinanceは、2023年の米当局との和解とCZ退任を経て、コンプライアンス重視のフェーズに入りました。2025-12-03に発表された賀一の共同CEO就任は、規制・法務を管掌するリチャード・テンと、プロダクト・ユーザー体験・コミュニティ・戦略投資を統括する賀一という役割分担を明確化する布陣と位置付けられます。

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米メディアの報道では、賀一とCZが共同でYZi Labsを所有し、Binance親会社の株式を少なくとも10%保有しているとされており、経営と資本の両面で「創業者カルチャー」を維持する構図がうかがえます。

賀一の人物像:挑戦・規律・ユーザー第一

複数の証言や本人の発言からは、「安定を嫌い、ユーザーに近いところでリスクを取り続けつつ、最終的には規律とコンプライアンスを重んじる創業者」という一貫した人物像が見えてきます。

テレビ司会者やライブ配信企業幹部といった成功ポジションを捨てて暗号資産業界に飛び込み、BNBに全財産に近い額を投じたエピソードは、挑戦志向とリスク許容度の高さを象徴します。一方で、OKCoin退職時には競業避止義務を守り、同業他社からの高額オファーを断って別業界に移ったことから、リスクテイクとルール遵守を切り分ける姿勢も読み取れます。
危機対応の面では、米司法当局の追及でCZが一時退任・起訴された局面でも、彼女はBinanceに残り、規制当局との協議やテロ関連資産の凍結、ユーザー保護策の強化を主導したと報じられています。 「ユーザーが熱狂しているときにシステムを落とすのは起業家の恥」と技術陣に伝えてきたように、急成長とシステム安定性の両立を重視する姿勢が強いと言えます。
また、暗号資産業界が男性中心と言われるなかで、彼女は「币圈一姐(コイン界の一姐)」「暗号クイーン」とも呼ばれ、CoinDeskとProof of Talkが選ぶ「Top 50 Women in Web3 and AI 2025」にも名を連ねています。 本人はジェンダーを前面には出さず、「創業者としての責任」と「ユーザーへの説明責任」を強調するスタイルを取り、それがBinanceおよびYZi Labsの対外メッセージ全体にも反映されています。

▽ FAQ

Q. 賀一はいつBinance共同CEOに就任したか?
A. 2025-12-03に賀一はBinanceの共同CEOに就任し、リチャード・テンと二頭体制を組んでいる。

Q. 賀一の出身と学歴は?
A. 1986年生まれの賀一は四川省農村出身で、2006年に北京で心理学修士課程と国家心理カウンセラー資格を取得した。

Q. YZi Labsとは何か?
A. 2025-01に独立したYZi LabsはCZと賀一が関与する投資会社で、250件超の案件と$1B規模のBNB Builder Fundを通じてBNBチェーンとWeb3・AI領域を支援している。

■ ニュース解説

2025-12-03に発表された賀一の共同CEO就任は、米当局との和解後に単独CEOを務めてきたリチャード・テンと役割を分担することで、創業者カルチャーを維持しつつコンプライアンスとオペレーション体制を強化する動きと位置付けられます。 一方で、YZi Labsの$1Bファンドや約3億人規模とされるユーザー基盤を含む巨大エコシステムの中で、個人創業者に権限とリスクが集中し過ぎないかというガバナンス上の論点も残ります。
投資家の視点:短期的にはリーダーシップの安定と規制当局との対話強化がBinanceの事業継続リスクを下げる一方で、特定個人への依存度、各国規制環境の変化、BNB価格とエコシステム全体の相関などを慎重にモニタリングしつつ、取引所エクスポージャーや関連トークン投資の位置付けをポートフォリオ全体のリスク管理のなかで評価することが重要です。

※本稿は一般的な情報提供を目的としており、特定銘柄・金融商品の売買を推奨するものではなく、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

(参考:Binance Blog,Binance Square