▽ 要約
ディール 10年・200MW超のHPC契約で37億ドルの収入を確保。
スキーム Googleが18億ドルを保証し、WULFに8%相当ワラント。
設備 Lake Marinerで液冷・345kV二重送電のAI特化設計を提供。
収益性 NOI率85%見込みで年3.15億ドル、延長で最大87億ドル。
投資家の関心は「Google 8%出資 テラウルフ AIホスティング」が示す新しい資本と設備の組み方に集まるため、本件はAI需要の取り込みとリスク配分の実例であり、契約条項と建設計画、財務インパクトを立体的に解説します。
取引の全体像とスキーム
高密度AI計算需要の急拡大を受け、Fluidstackとの10年・200MW超HPCコロケ契約で約37億ドルの収入が確定し、2回の5年延長で最大約87億ドルへ拡張可能となった。
契約は年次エスカレーター付きのModified Gross Leaseで、サイトNOI率は85%(年約3.15億ドル)を想定、建設コストは1MWあたり8〜10百万ドルのレンジが示された。
履行支援としてGoogleはFluidstackのリース債務18億ドルを保証(バックストップ)し、対価として約4,100万株のワラントを取得、行使後ベースで約8%の持株比率となる見込みである。
稼働計画は2026年前半に40MWの初弾を立ち上げ、同年末までに200MW超を完成させる工程感が示され、ニューヨーク州西部のLake Marinerキャンパスで提供される。
施設・技術仕様(Lake Mariner)
二重345kV送電と閉ループ液冷、超低遅延ファイバーを備えるため、高電力密度・高発熱の生成AIワークロードを安定稼働できる設計となった。
本件の200MW超は総容量約250MWに相当し、AI/HPC用途に最適化された構内電源・冷却・通信の三位一体で拡張スピードを担保する。
資金調達とリスク配分
Googleのバックストップでプロジェクト債務の信用補完が効く一方、需要鈍化時の過剰設備・金利上昇リスクはテラウルフに残るため、ハイリスク・ハイリターンの構造である。
同社は同日にカユーガサイトで最大400MWの開発権と80年の土地リースも公表しており、資本調達や段階建設を通じた規模拡大の布石を打った。
TeraWulfの事業モデルと転換
自社BTCマイニングに加えHPCホスティングを第二の柱に据えるため、ゼロカーボン電源(主に水力・原子力)と既存キャンパスのスケールを活かした多角化が加速している。
2024年にはTalenとのノーチラスJVを整理して約9,000万ドルを確保し、Lake Mariner集中とHPCシフトの資本再配分を進めた。
スケジュールと拡張計画
2026年前半40MWの先行稼働を皮切りに同年末までの200MW超完成を目指すため、収益貢献は2026年下期から本格化する見通しである。
並行してカユーガの長期グラウンドリース(最長80年)を確保し、Lake Mariner外の将来拡張オプションを積み上げている。
Googleの狙いと業界比較
AI計算力を外部から弾力的に調達するため、Googleは保証+ワラントのハイブリッドでリスク限定・リソース確保を両立し、自社の2030年「24/7 CFE(カーボンフリー電力)100%」目標とも整合する。
同様の枠組みはMicrosoft×CoreWeaveにも見られ、外部GPUクラウドと長期契約・資本参加を併用して供給確保と資本効率を高める潮流が強まっている。
他社事例(Microsoft×CoreWeave/OpenAI×Crusoe)
ハイパースケーラーは外部専業と組み、長期コミットや出資を通じて規模拡大と柔軟性を確保するため、CoreWeave案件では「10年で最大100億ドル」規模の契約が報じられた。
一方OpenAIはOracle/Crusoeと大規模電源・GPU調達の座組みを進め、米国内で段階的にギガワット級のデータセンター構想を具体化している。
市場・規制の反応
発表直後、WULF株は一時+59%前後まで急騰し、好条件の長期収入確定とGoogle関与が評価された一方、足元では高ボラティリティが続く。
規制面では、NY州の化石燃料由来PoW新設一時停止法(2022–2024)の枠組みと整合し、Lake Marinerの水力・原子力中心の電源構成は環境面の受容性を高めている。
▽ FAQ
Q. Googleの出資比率と取得手段は?
A. Alphabetは約4,100万株のワラント取得で行使後約8%保有、Fluidstackの18億ドル債務を保証します。
Q. 契約収入と延長オプションは?
A. 初期10年で約37億ドル、5年延長×2で最大87億ドル、提供は200MW超のHPC容量です。
Q. 設備仕様のポイントは?
A. Lake Marinerは345kV二重送電・閉ループ液冷・低遅延光網を備え、総容量約250MW相当です。
Q. 収益性と投資負担は?
A. サイトNOI率85%想定で年約3.15億ドル、建設単価は1MWあたり8~10百万ドルが目安です。
Q. 稼働タイムラインは?
A. 第1段階40MWが2026年前半、年末までに200MW超の完成を見込みます。
■ ニュース解説
テラウルフはFluidstackと10年・200MW超のHPC契約を結びGoogleの18億ドル保証を得たため、長期収入の視認性と資金調達力が向上する一方で設備過剰・金利上昇時の下振れリスクは残る。
簡潔に整理すると、(1) 37億〜87億ドルの契約収入と高NOI率でキャッシュフローが強化、(2) ゼロカーボン電源×液冷のAI特化設計で差別化、(3) Googleは保証+ワラントで供給確保とリスク限定、という構図である。
投資家の視点:建設・調達の実行とテナント信用、金利・電力価格、GPU世代交代リスクをモニターするのが一般的対応で、マイルストーン(40MW立上げ、200MW完工、NOI実現)ごとに前提検証を行うべきである。
※本稿は投資助言ではありません。