「イーサリアム」新財政戦略とRWA市場の主導権争い:最新動向を徹底解説

【要約】
・イーサリアム財団が新財政方針を策定し、ETH売却の条件や運営コスト削減策を明確化
・「Defipunk」原則を導入し、DeFiにおけるプライバシー基準を強化
・RWA(現実資産のトークン化)市場でイーサリアムは依然として主要地位を維持
・ただし高速チェーンや専用チェーンが規制対応や性能面で新たな選択肢として浮上

イーサリアムは“受動”から“能動”へ:新財政戦略の全容とインパクト

イーサリアムは、長年にわたってDeFiやNFTをはじめとするブロックチェーンエコシステムの中心的存在として機能してきました。しかし近時、イーサリアム財団は財務管理に対するアプローチを大幅に転換し、より明確なETH売却条件と厳密な運営コスト削減策を盛り込んだ新財政方針を公表しています。6月4日に公開されたこの方針は、以下の点が注目に値します。

  • 年度運営費用を資金全体に占める割合として定期的に見直し、2030年までに支出を資産の15%から5%へ大幅削減
  • キャッシュが2.5年分の運営費を下回った場合にのみ自動的にETHを売却
  • DeFiプロトコルへの積極的な資金提供やステーキングなどを検討し、リスクと収益性のバランスを図る
  • 隔期的なレポート開示による透明性の確保

同財団が過去に突如としてETHを売却し、コミュニティから批判を浴びたことは記憶に新しいですが、今回の策定では「将来にわたる運営と長期目標の整合性」をより明確にした点が評価を得ています。もっとも、運営コストを下げることはコミュニティからの助成やリサーチ開発資金に影響を及ぼす可能性もあるため、その進捗は今後も注視が必要です。

■「Defipunk」原則:プライバシーと自律性の両立をめざす新基準

新たに導入された「Defipunk」と呼ばれるプライバシー基準は、イーサリアムが掲げる自主主権・中立性という理念を具体的に反映するものです。

  • 誰でも許可なくアクセスできること
  • 自己管理型ウォレットを前提とすること
  • オープンソースライセンスの採用
  • 取引の秘匿化と検閲耐性を備える技術要件

これらを充たすDeFiプロトコルを優先的に評価し、満たさない場合でも「将来的に実装の計画を示す」など、明確な改善ロードマップがあれば資金供給の対象になり得ると示されています。
ただし、特に欧米を中心に透明性やコンプライアンスが強く求められる規制動向とのギャップが広がるリスクも否定できません。プライバシー保護と規制遵守をいかに両立させるかは、今後の課題といえそうです。

RWA市場で際立つイーサリアムの存在感:競合チェーンの台頭と次のステージ

一方、**RWA(現実資産のトークン化)**市場では、イーサリアムが依然として圧倒的シェアを誇ります。現在は総取引量の50%以上を担うなど、先発優位性や深い流動性、過去の機関投資家による実証実験などの積み重ねが強みとなってきました。

しかし、RWAの本格的な拡大に合わせて、高速かつ安価な通用チェーンや、コンプライアンス機能をチェーンレベルで統合した専用ブロックチェーンが新たな選択肢として注目を集めています。たとえばSolanaやzkSyncなどは高速処理により大口トランザクションを捌きやすく、PolymeshやCentrifugeなどのRWA特化型チェーンはKYC/AMLを始めとする規制対応をコードレベルで実装しようとしています。

イーサリアムが抱える課題

  • ガス代の高騰や確定時間の遅延など、利用者コストとUXにおけるハードル
  • 機関投資家が求める高速取引・安定的な手数料が現行のL1では難しい場面がある
  • 規制要求に合わせたパーミッション型の設計やオンチェーンでのKYC統合に課題

こうした制約に対処するために、OptimismやArbitrumなどのLayer 2ソリューションや、近年進む大規模アップグレード(DencunやPectraなど)で可用性の向上が見込まれています。それでも、従来の決済インフラと比べれば性能面で課題が残るのは事実です。

次の主導権争い:チェーン上の規制対応と流動性がカギ

今後、RWA市場で覇権を握る条件としては、

  1. オンチェーンでの規制順守を実現できるか
  2. トークン化資産を活用した包括的な金融サービスを展開できるか
  3. 有力ステーブルコインや金融機関を巻き込むだけの流動性を誘導できるか
    この三つが重要になると分析されています。

既にETHを活用したDeFiプロトコル(Ondo FinanceやSpark Protocolなど)は、米国債を裏付けとするステーブルコイン運用で数十億ドル規模の資金を吸引しており、イーサリアムが築いてきた深い流動性と実績が大きな強みであることに変わりはありません。一方で、RWA特化型チェーンが独自のサービスエコシステムやカスタマイズ可能なコンプライアンス機能を整備すれば、機関投資家がそちらへ移行する可能性も十分にあるでしょう。

ニュースの解説

今回のイーサリアム財団による新財政戦略は、DeFiにおける透明性やプライバシー保護、さらにはRWA市場の進化をめぐる議論にも波及しています。財団がETH売却のタイミングを明確化し、運営コスト削減を打ち出したことは、コミュニティの不信を払拭する狙いがある一方、大幅な支出制限が技術開発やエコシステム成長に影響する可能性も懸念材料です。また、プライバシー重視の「Defipunk」方針が欧米規制当局との対立を深めるシナリオも考えられます。

一方、RWA市場では、先駆者であるイーサリアムが引き続き優勢ですが、新興の専門チェーンや高速チェーンの存在感が徐々に増しています。規制対応が要求されるなか、チェーン側がKYC・AMLを標準機能として提供したり、トランザクション速度とコストを圧倒的に下げたりすれば、機関投資家が流れ込む可能性は十分にあるでしょう。これらの動向から、ブロックチェーン業界は今後数年かけてさらに明確な「得意分野」への分化と成長を遂げると予想されます。まさに、イーサリアムを中心とするトークン化金融の新たなステージの幕開けといえるでしょう。