▽ 要約
市況:BTCは9.3万ドル台に反発も、ETFフローと恐怖指数が慎重なセンチメントを示す
規制:英国が暗号資産を個人財産と明記し、米国ではBofAの1〜4%配分提案とCMEの新ボラ指数が議論を喚起
機関マネー:Vanguardの暗号資産ETF解禁やKalshi・SIGの動きで、伝統金融との接続が加速
リスク:American Bitcoin急落やAIによるスマートコントラクト攻撃など、新旧のリスク事例を整理
12月4日の暗号資産市況は、英国のデジタル資産法成立とVanguardの暗号資産ETF解禁を軸に、ビットコイン9.3万ドル回復と機関マネー・技術リスクの両面から整理する。

暗号資産 市況 を追う投資家にとって、足元の価格変動だけではもはや十分ではありません。英国が暗号資産を「個人財産」として明文化し、Vanguardがついに暗号資産ETFの取引を解禁した一方で、トランプ一族が関与するマイニング企業の急落やAIによるスマートコントラクト攻撃の実験結果など、不安材料も増えています。この記事では12月4日時点の市況・規制・機関マネー・リスク事例を横断的に整理し、今後数カ月の投資判断に必要な論点をコンパクトに解説します。
市況総括
ビットコインと主要アルトは急落後に反発しているものの、ETFフローと恐怖指数は依然として慎重なセンチメントを映し出しており、価格と投資家心理のギャップが意識されています。
ビットコイン:9.3万ドル回復とETFフローの質
ビットコインは一時8.38万ドルまで売られた後、12月3日時点で9.35万ドル付近まで反発し、年初来ではほぼ横ばい圏まで戻しています。恐怖・強欲指数は「28」と恐怖ゾーンにあり、24時間あたり約4.15億ドルのロスカットが発生するなど、レバレッジ調整の途中段階にあることがうかがえます。
ETFフローを見ると、12月2日のビットコイン現物ETFは約5,849.95万ドルの純流入で5日連続のプラス、SolanaとXRPのETFにも資金が入る一方、イーサリアムETFは約991万ドルの純流出でした。ETF全体の運用資産は約1,195.9億ドルとビットコイン時価総額の約6.6%に達しており、現物ETFが価格形成に与える影響は無視できません。
一方、市場構造の面では、クジラの買い増しペース鈍化や古い世代のマイニング機の採算割れなど、サイクル後半に典型的な兆候も観測されています。ハッシュレートやマイナーのキャッシュフローが圧迫される局面では、在庫売りが断続的に上値を抑えうるため、価格だけでなくオンチェーン発行側の売り圧力も併せてモニターする必要があります。
イーサリアムとマクロ:利下げ期待とボラティリティ
イーサリアムは3,000ドル台を維持しているものの、ネットワーク手数料とDEX出来高は直近で大きく減少しており、取引需要の鈍化がうかがえます。デリバティブ市場では先物プレミアムが低位にとどまり、プットオプション需要の強さから下方向ヘッジが厚く積み上がっている点も、上昇トレンドの持続性に対する市場の疑念を反映しています。
マクロでは、CME FedWatchが12月FOMCでの25bp利下げ確率を約89%と織り込みつつあり、2026年初頭の新FRB議長指名観測も含めて、「より緩和的な政策へのシフト期待」がリスク資産全体を支える構図です。同時にCMEがビットコインボラティリティ指数(BVX/BVXS)をローンチし、株式市場のVIXに相当するヘッジ手段が整いつつあることは、機関投資家のリスク管理ツールが一段と充実してきたことを示します。
規制・政策アップデート
制度面では、英国のデジタル資産法成立と米大手銀行の配分方針の変化が、暗号資産の「制度的な居場所」を大きく書き換えつつあります。
英国デジタル資産法と「個人財産」認定
英国では「Property (Digital Assets etc) Act 2025」が12月2日に国王裁可(Royal Assent)を受け成立し、同日発効しました。同法は、暗号資産やNFTなどのデジタル資産が、従来の「動産」や「債権」とは異なる第3のカテゴリーとして個人財産権の対象たり得ることを明文化しています。
これにより、英国法の下では暗号資産について、所有権の確認、遺産としての承継、破産・倒産手続における取扱い、盗難時の差し押さえや返還請求といった法的主張が明確になります。これまで判例ベースで運用されてきた領域が成文法で裏付けられたことで、英国を拠点とするカストディ事業者やトラスト構成のスキーム設計は、より予見可能性の高い形で組成できるようになります。
米国マクロと予測市場・ボラティリティ指標
米国では、金利政策と規制環境に加え、「イベントドリブン」の投資手段が整備されつつあります。KalshiはCFTC認可のイベント契約取引所として、選挙や経済指標に連動する合約残高を急拡大させており、直近の資金調達では約110億ドルの評価額が付与されています。同所の指定マーケットメイカーにはSusquehanna International Group(SIG)が入り、RobinhoodとともにLedgerXの株式90%を取得し、2026年に向け合規なイベント先物・デリバティブ・プラットフォームの立ち上げを計画しています。
マクロリスクを直接取引するこうした市場は、ビットコインやイーサリアムといった暗号資産と、伝統的な金利・インフレ・選挙リスクの橋渡しを担いつつあります。今後、ビットコインボラティリティ指数(BVX)や米国の利下げパスに連動するデリバティブが厚みを増せば、暗号資産は単独のリスキーなオルタナではなく、「マクロポートフォリオの一部」として位置付けられやすくなる点は、長期投資家にとって重要な変化です。
企業・資金調達・プロジェクト動向
機関投資家の参入とプロジェクト側のビジネスモデル再構築が同時進行しており、「キャッシュフローを持つ暗号インフラ」と「消費者向けプロダクト」の両方でニュースが相次いでいます。
機関マネー:Vanguard・米銀・Strategy・SIG
最大級のインパクトは、インデックス運用大手Vanguardが暗号資産ETFの取引解禁に舵を切ったことです。Vanguardは約9.3兆ドルの運用資産と5,000万超の顧客口座を抱えつつも、これまでビットコインETFの取り扱いに慎重でしたが、12月第1週からビットコイン・イーサリアムなどの暗号資産ETF取引を認めると報じられています。自社で暗号資産ファンドを組成するわけではないものの、「取扱い拒否」から「アクセス容認」への転換は、既存ETFへの潜在的な資金流入余地を広げる一歩といえます。
同時に、Bank of Americaは富裕層向けウェルスマネジメント顧客に対し、ポートフォリオの1〜4%程度を暗号資産に配分し得るとの見解を示し、2026年1月以降に複数のビットコインETFをフォローするとしています。これはあくまで「上限目安」としての示唆に留まるものの、大手行が明示的にアロケーションレンジを示したことは、投資顧問業務の観点からも象徴的です。
マイクロストラテジーを前身とするStrategy Inc.は、保有ビットコイン約600億ドルに対し負債は約80億ドルと低レバレッジであることを強調し、「ビットコイン価格が年率1.36%上昇すれば、理論上は永続的な配当支払いが可能」と発言しました。今週だけで14.4億ドルの現金を積み増したともされ、自己資本のビットコイン・トレジャリー化を前提とした「上場ビットコイン保有会社」というモデルが中長期的に持続可能かどうかが、今後1〜2年の検証テーマになります。
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取引所とインフラ:Binance新体制、AI・TPU・セキュリティ
取引所では、Binance共同創業者の何一氏が共同CEOに就任し、規制順応と新規事業の両立を掲げた経営体制への移行が進んでいます。一方で同社は12月5日に15本のBTC建て・FDUSD建てなどの現物ペアを上場廃止する計画も公表しており、流動性の薄い銘柄を整理しコンプライアンスリスクを抑える動きが続いています。
セキュリティ面では、MetaMaskが「Transaction Shield」をローンチし、審査済みトランザクションについて月最大1万ドルまでの補償を提供する有料サービスを開始しました。しかし防御側の努力を上回るスピードで攻撃能力も高度化しており、Anthropicは405本の実際に攻撃されたスマートコントラクトを使ったベンチマーク(SCONE-bench)で、10種類のLLMが約51%の合約で攻撃スクリプト生成に成功、最大460万ドル相当の資金を奪取し得ることを示しました。2025年の新規脆弱合約34本に対するテストでは、最良モデルが55.8%を攻略し、ゼロデイ脆弱性まで自律的に発見できるとされており、「AIによる防御」が急務であることが浮き彫りになっています。
ハードウェアレベルでは、GoogleのTPU(Tensor Processing Unit)が、後量子暗号やゼロ知識証明の生成、高度なZK-Rollup・DePIN・AIネットワークなどでGPUを補完し得るインフラとして注目されています。ただしCUDAエコシステムの厚みやGoogle Cloud依存リスクなどから普及には時間を要するとみられ、Web3の計算資源はGPU+TPU+専用ASICの分層モデルに向かうとの見方が広がっています。
DeFi・L1トレンド:FlowのDeFi転身、Solanaプライバシー、リアルイールド
L1の構造変化として象徴的なのが、かつてNBA Top ShotでNFTブームを牽引したFlowの「DeFiチェーンへの転身」です。Flowは内蔵型の自動化レンディング「Flow Credit Market(FCM)」と、年率最大25%の暗号資産利回り・10%の法定通貨利回りをうたうコンシューマー向けアプリ「Peak Money」を投入し、FLIP-351提案によるFLOWトークンのデフレ化も進めています。TVLは年初来+187%で1.07億ドルに増加、累計口座数は4,100万超とされるものの、NFTからDeFiへの既存ユーザー転換や他L1との競争など、課題も多い状況です。
Solanaでは、暗号計算ネットワークArcium、TEEベース拡張のMagicBlock、プライバシー送金のUmbraやPrivacy Cash、暗号化オーダーブックを備えるVanishやPythiaなど、12のプライバシー関連プロジェクトが一斉に紹介されました。ZKP・MPC・TEEといった異なる技術を組み合わせつつ、「規制順守と取引秘匿性の両立」を志向するプロジェクトが増えている点は、今後の機関マネー流入を考えるうえで重要な潮流です。
一方、「リアルイールド」を掲げるDeFiトークンの実態はプロジェクトごとに大きく異なります。Ethena(ENA)はTVL約73億ドルから年率3.65億ドルの手数料を上げつつ、大半をユーザーインセンティブに還元しており、純粋なプロトコル収入は年率約60万ドルにとどまります。Pendle(PENDLE)はTVL縮小とともに代替資産化が進み、価格調整はむしろファンダメンタルズ悪化の反映といえます。Hyperliquid(HYPE)は年率12億ドル超の収入をほぼ全額バーンに回す「高収益モデル」である一方、市場は既に高い成長期待を織り込みつつあり、ここからは手数料引き下げとシェア拡大の成否が問われます。
主要イベントと投資家が見るべきリスク
直近イベントの積み上がりと、象徴的な失敗事例の両方を把握することで、短期トレードと長期ポジション管理のバランスを取りやすくなります。
直近イベントカレンダーとフローの行き先
イベント面では、香港での現物イーサリアムETF上場、Solana上のJupiterによる分散型トークンセール・プラットフォーム「DTF」ローンチとHumidiFi(WET)販売、Fusakaアップグレードを含むイーサリアムの技術ロードマップなどが並行して進んでいます。加えて、CoinbaseのDash永続先物上場や、Stableチェーンのメインネット稼働とSTABLEトークンのトークノミクス公開など、デリバティブ・ステーブルコイン・RWAの各分野でプロダクトが増えています。
オンチェーンでは、TetherがTron上で10億USDTを新規発行する一方、USDC TreasuryがSolana上で合計5億USDCをミント、Pump.funがKrakenへ累計5.55億USDCを送付するなど、大口USDC/USDTフローも観測されています。こうしたステーブルコインの移動は、マーケットメイク資金の再配置や新興プロトコルへの流動性供給の前兆となる場合が多く、単なる「ニュース」としてではなく、ポジション構築の地図として把握する価値があります。
マイニング株急落と個人投資家の失敗事例
トランプ一族が関与するビットコインマイニング企業American Bitcoin(ABTC)の株価は、ロックアップ解除を契機に1日で約40〜50%急落し、時価総額で約10億ドルが吹き飛びました。同社は約3,000BTCを保有するとされ、ビットコインの「レバレッジ銘柄」と期待されてきましたが、実際にはロックアップ構造や早期投資家の売り圧が株価を大きく左右し得ることが示された格好です。
よりミクロなレベルでは、個人投資家の失敗例にも共通パターンが見られます。中央集権取引所FcoinやFTXへの過大な依存による資産消失、「上場前のインサイダー情報」を信じてビットコインから小型アルトへ全額ローテーションした結果の大幅な機会損失、ウォレットのセキュリティ不足による60万ドル超のトークン盗難、友人経由の案件で数百万元規模の損失を出した「熟人局」などが典型例です。
これらは、①取引所・ウォレットのカウンターパーティリスク、②情報の非対称性を利用した「なんちゃってインサイダー」、③流動性の薄い銘柄への過度な集中、④信用リスク(プロジェクトや友人)という4つの軸に整理できます。英国法による財産権保護やMetaMaskの補償サービスが進んでも、こうした人間側の意思決定ミスは制度だけでは完全には防げないことを、あらためて示していると言えるでしょう。
▽ FAQ
Q. 2025年12月4日時点でビットコイン相場はどのような状況ですか?
A. 2025-12-3時点でビットコインは約9.35万ドル、ETF純流入5,849.95万ドルで反発中ですが、恐怖指数28と投資家心理はなお慎重です。
Q. 英国のProperty (Digital Assets etc) Act 2025は暗号資産にどのような影響がありますか?
A. 2025-12-2に成立した同法は暗号資産を個人財産として明記し、英国・北アイルランドでの所有権、相続、盗難時の回収や破産手続での扱いを明確化します。
Q. Vanguardの暗号資産ETF解禁は市場にどのようなインパクトを与えますか?
A. 運用資産約9.3兆ドルのVanguardがビットコインなどETF取引を解禁し、5,000万超の口座から既存暗号ETFへのアクセスが開かれることで、長期的な資金流入余地が拡大します。
Q. Bank of Americaが示した1〜4%の暗号資産配分はどう位置付ければよいでしょうか?
A. 米銀大手Bank of Americaは2026年以降を見据え、ポートフォリオの1〜4%を暗号資産に充て得るとし、高ボラティリティ資産を長期分散投資のサテライトポジションとして扱う考え方を示しました。
Q. American Bitcoin急落やAIによるスマートコントラクト攻撃はどのようなリスクを示唆しますか?
A. American Bitcoin株はロックアップ解除後に40〜50%急落し、Anthropic実験ではAIが55.8%の新規脆弱合約を攻撃可能と判明し、銘柄固有リスクとスマートコントラクトリスクの双方が顕在化し得ることを示しました。
■ ニュース解説
足元の暗号資産市場は、価格面ではビットコイン9万ドル台のレンジを維持しつつも、英Property (Digital Assets etc) Act 2025の成立やVanguardによる暗号資産ETF取引解禁、Bank of Americaの1〜4%配分提案など、制度と機関マネーの両面で「正統資産クラス」への組み込みが一段と進んでいます。一方で、トランプ一族が関与するAmerican Bitcoin株の急落や、AnthropicによるAIスマートコントラクト攻撃実験が示すように、上場株とオンチェーン資産の両方で新旧のリスク事例も増えており、「成熟と脆弱性」が同時に進行している局面といえます。
中立的に整理すると、第一に、英国法の整備やCMEのビットコインボラ指数、KalshiやSIGのような規制下の予測市場・デリバティブプレーヤーの台頭は、暗号資産をマクロポートフォリオに統合するためのインフラを着実に厚くしています。第二に、Vanguard・Bank of America・Strategy Inc.といった伝統金融の大口プレーヤーが、ビットコインを「長期保有+キャッシュフロー」の観点で捉え始めたことで、ボラティリティを許容したうえでの構造的な買い手が増える可能性があります。第三に、FlowのDeFi転身やSolanaのプライバシー・プロジェクト、リアルイールドDeFiの精査が示すように、高利回りや成長物語の裏側にある収益構造・トークノミクスを冷静に分析する姿勢がこれまで以上に重要になっています。
投資家の視点:個々の投資行動に踏み込まない範囲で考えると、①ビットコインや主要L1などコア資産と、American Bitcoinのような「レバレッジ銘柄」やリアルイールドDeFiトークンを明確に区別する、②英国や米国の規制・会計・税制のアップデートが自らの保有形態(現物/ETF/証券化商品)にどう影響するかを確認する、③AIによる脆弱性探索の高度化を前提とし、スマートコントラクトの監査状況や利用チェーンの安全性をチェックする、④FcoinやFTXの事例を踏まえカウンターパーティリスクと口座集中を避ける――といった点が、リスク管理上の基本線になります。短期の価格動向に翻弄されるのではなく、こうした制度・インフラ・リスク構造の変化を踏まえたうえで、自身のリスク許容度と時間軸に合ったポジションサイズと商品選択を検討することが重要です。
※本稿は一般的な情報提供を目的としており、特定銘柄・金融商品の売買を推奨するものではなく、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
(参考:PANews)





