企業の暗号資産購入が加速──カナダ上場企業のHYPEトークン取得とフランス企業のビットコイン巨額調達を徹底分析

▽ 要約

企業の暗号資産購入が世界的に拡大
・カナダのTony G Co‑Investment HoldingsがHYPEトークン10,387枚(約43.9万ドル)を取得し、DeFi投資を本格化
・取得発表後、同社株価は前日比63%急騰し市場が強い関心を示す
・フランスのThe Blockchain Groupは最大100億ユーロ超の資金調達権限を得て、2032年までにビットコイン総供給量の1%(約17万BTC)取得を目指す
・同社は既に1,471 BTCを保有し、発表直後に株価が20%上昇

企業の暗号資産購入が示す新潮流

最初に押さえておきたいのは、企業の暗号資産購入が単発の話題ではなく、資本市場と暗号資産市場の融合を示す構造的な変化である点だ。本稿では、カナダ上場企業とフランス上場企業が実行した二つの大型取引を軸に、その背景と波及効果を詳述する。

1. カナダ上場企業がHYPEトークンに初参入

1‑1 取引概要

  • 取得企業: Tony G Co‑Investment Holdings Ltd.(CSE: TONY)
  • 取得量: 10,387.685 HYPE
  • 平均取得価格: 42.24 USD/HYPE
  • 総額: 438,828.46 USD
  • 決済プラットフォーム: WonderFi Technologies(カナダ規制準拠マーケット)

1‑2 経営陣の狙い

CEOのマット・ザハブ氏は「次のイノベーションを支えるデジタルインフラへの戦略的コミットメント」と強調し、DeFi基盤への長期投資であることを明言した。HyperLiquidは2024年末ローンチ以来、1 USD → 42 USDまで高騰しており、同社はプロトコルの成長性に賭けた格好だ。

1‑3 市場の反応

取得発表当日、Tony G株は63%高を記録し、投資家は「HYPE版MicroStrategy誕生」を連想した。DeFiコミュニティでは早くも「HYPE ETF」の噂が浮上し、トークン価格は強気基調を継続している。

2. フランス企業が描く「ビットコイン財務会社」構想

2‑1 巨額調達スキーム

The Blockchain Group(Euronext Growth: ALTBG)は2025年6月、株主総会で100億ユーロ超の資金調達権限を95%以上の賛成で可決。資金はビットコイン取得に充当される。

  • 既存プログラム: 3億ユーロATM増資(TOBAMが引受)
  • 新たな枠: 最大100億ユーロまで増資・社債・ワラントを柔軟発行
  • 目標: 2032年までに**BTC総供給量の1%(約170,000 BTC)**保有

2‑2 足元の保有状況

  • 現保有: 1,471 BTC(約1.6億ドル)
  • 直近取引: 5月私募増資で80 BTC、6月転換社債で590 BTC取得
  • 幹部人事: ビットコイン戦略を統括する副CEOにアレクサンドル・レゼ氏を6年任命

2‑3 株式市場の評価

増資枠承認を受け、株価は20%上昇し4.90ユーロまで急伸。投資家は“欧州版マイクロストラテジー”への期待を織り込みつつある。

3. 業界インパクトと将来展望

3‑1 資金流入が示すシグナル

HYPEトークンとビットコインはいずれも供給が限定されるデジタル資産であり、上場企業が積極取得に動いたことで次のような波及効果が想定される。

観点期待される影響
流動性企業買いによる取引所在庫の減少で上昇圧力が強まる
信頼シグナル機関投資家の参加が市場心理を安定させ、他企業の参入を後押し
規制MiCA(EU)など透明化が進むことで、財務資産としての暗号資産採用が加速

3‑2 他企業への波及可能性

Tony GのHYPE投資は、DeFiトークンまで企業財務に組み込む先例となった。一方TBGのビットコイン集中戦略は、欧州企業がインフレヘッジとしてBTCを保有する流れを可視化。今後、「どの暗号資産をどれだけ保有するか」が上場企業の競争軸になる可能性が高い。

ニュースの解説

暗号資産市場はこれまで個人やファンドが牽引してきたが、企業の暗号資産購入が本格化したことで相場の“基礎需要”が底上げされつつある。特にTBGが提示した「総供給量1%」という数値目標は、株主の合意を得たうえで巨額の調達枠を確保した点で画期的だ。マクロ的にはビットコインETFの普及、MiCA施行、北米規制緩和などが背後にあり、今後はアジア企業や米中小型株にも同様の動きが波及するだろう。

一方で、暗号資産は依然としてボラティリティが高く、企業価値を左右するリスク要因にもなり得る。財務に組み込む企業が増えるほど、価格変動が株式市場へ直接波及する局面も想定されるため、投資家は企業のヘッジ手段や開示姿勢を精査する必要がある。

今回の二件は、暗号資産が「投機対象」から「企業の戦略的資産」へ移行する過程を象徴している。市場はこれを歓迎する一方、規制環境とリスク管理の両輪が揃わなければ、次の拡大フェーズには進めない。今後も企業買いのニュースが相次ぐかどうかが、暗号資産市場の中期トレンドを占う重要な指標となるだろう。