2022年12月1日、Coinbase WalletはiOS版でNFTの送信機能を停止したと公表しました。同社は、Appleのアプリ審査とアプリ内課金の扱いが理由だと説明しています。日本では翌2日にも報道された出来事です。
この問題の中心は、NFTそのものの価格ではなく、ブロックチェーンで移転を実行するときの費用でした。2026年9月27日時点で確認できる公式規定と当時の報道を分け、何が止まり、何が争点になったのかを整理します。
停止したのはiOSアプリからNFTを送る機能
当時のCoinDesk報道によれば、CoinbaseはAppleが直近のアプリ更新を認める条件としてNFT送信機能の無効化を求めたと説明しました。対象はCoinbase WalletのiOS版であり、取引所の全サービスや、ブロックチェーン全体が止まったという発表ではありません。
ここで注意したいのは、Coinbaseという会社名と、利用者が資産を管理するウォレット製品を分けることです。取引所口座の入出金、NFTの売買、ウォレットから別のアドレスへの移転は異なる操作です。一つの機能に生じた制限から、全ての利用者の資産が凍結されたと広げて解釈することはできません。
また、アプリの画面から操作できないことと、チェーン上でトークンが消えることも同じではありません。画面は利用者が取引を作成する入口であり、保有記録そのものとは区別されます。問題を把握するには、表示、署名、送信、チェーンへの反映のうち、どの段階に制約があるのかを見る必要があります。
30%という数字はCoinbase側が説明した課金の争点
Coinbase側の説明では、AppleはNFT送信に必要なガス代をアプリ内課金で扱い、そこへ30%の手数料を適用することを求めたとされます。同社は、Appleの決済システムが暗号資産に対応していないため、その要求に従うことはできないと反論しました。
これは当時の当事者の主張として読む必要があります。CoinDeskの記事では、Appleからコメントを得られなかったとしています。Apple自身がこの個別審査について同じ内容を公表したかのように、Coinbaseの説明を無条件で書き換えるのは適切ではありません。
「30%のETHを支払う」という短い表現では、何を分母にした数字か分かりません。保有する全ETHの30%でも、NFTの評価額の30%でもなく、報道された争点は送信処理に伴う費用の扱いでした。また、ここでいう手数料は税務当局へ納める税金とは別です。英語の議論で使われる通称を、そのまま税制度の説明に置き換えないようにします。
ガス代はネットワーク上で処理を実行するための費用
Ethereumの公式技術資料では、ガスは処理に必要な計算量を測る単位です。ガス代は実際に使った量と、その単位当たりの料金によって決まります。NFTを移転する処理と、単純なETHの送金で、同じ計算量になるとは限りません。
Ethereumでは基本手数料と優先手数料があり、基本手数料は焼却され、優先手数料はバリデーターへの報酬になります。そのため、ガス代の全額をCoinbaseの売上とみなす説明や、全額が特定の仲介会社へ渡るという説明は正しくありません。
一方、アプリ内課金はアプリが提供するデジタル商品やサービスの決済を扱う仕組みです。ネットワークの計算資源に対する費用と、配信基盤が定める購入ルールは、目的も処理方法も異なります。今回の対立は、その違いが利用者の送信操作に現れた事例と捉えられます。
この説明はEthereumの基本的な構造を示すもので、全チェーンの料金体系が同一という意味ではありません。利用者が実際に確認する場合は、対象のネットワーク、必要な通貨、画面に示された費用の内訳を分けて見ます。NFTの購入代金と移転費用を合算した総額だけでは、どこに費用が発生したのか判断できません。
現在のApple規定もNFTの販売と閲覧を分けている
2026年9月27日に確認したAppleのApp Review Guidelinesの3.1.1には、NFTに関する販売やミント、出品、移転などのサービスをアプリ内課金で扱える旨が記載されています。また、自分のNFTを閲覧することは認めつつ、保有を条件にアプリ内機能を解除することには制限を設けています。
他人のコレクションを閲覧する場合の外部購入への誘導については、米国ストアの例外が明記されています。関連する外部決済の規定には、地域や権限に応じた条件もあります。したがって、2022年の見出しだけを根拠に、現在の全地域で全てのNFT操作に一律30%が掛かると説明することはできません。
規定の本文を読めることと、特定のアプリがどの機能で審査を通過したかを確認することも別です。一般規定は個々の審査のやり取りを全て示す資料ではありません。今回確認した公開情報だけから、2022年の個別問題がどの時点で、どの条件で解決したかまでは断定しません。
ウォレットの現在の名称とアカウント方式も確認する
現在のCoinbaseのウォレット関連ヘルプにはBase appの名称が使われています。自己管理型のウォレットについて、利用者が管理する復元フレーズがアクセスの鍵になり、Coinbaseはそのフレーズへアクセスせず、紛失時に資産を動かして救済することもできないと説明しています。
ただし、製品名の変更やアカウント方式の追加があるため、古い画面や説明を全利用者へそのまま当てはめることはできません。2022年の記事を読んだ人が、現在使っている製品、ネットワーク、ログイン方式を確認せずに操作を始めると、別のサービスの手順を適用してしまうおそれがあります。
旧記事には復元フレーズを他のウォレットへ入力する方法もありましたが、ここでは一律の解決策として再掲しません。秘密情報を入力する先が増えれば、その分だけ保管と確認の責任も増えます。まず公式ヘルプで自分の製品に対応する案内を確認し、第三者の投稿や問い合わせ窓口を名乗る相手へ秘密情報を渡さないことが基本です。
この事例を読むときに分けたい三つの層
第一はチェーン上の資産記録、第二はウォレットが提供する操作、第三はアプリを配信するストアの条件です。自己管理型の資産であっても、普段使う操作画面の機能は配信基盤の審査や製品の更新に左右されます。この三つを分けると、「自分で管理できる」と「どの端末でも同じ操作ができる」が異なることが分かります。
利用できない機能に遭遇したときは、発表日と対象版、対象ネットワークを確認します。そのうえで、既に送信した取引の失敗なのか、送信ボタン自体が使えないのかを区別します。前者には取引記録の確認が必要ですが、後者にはアプリ側の機能案内が関係し、調べる資料が違うからです。
CoinbaseとAppleの2022年の対立は、NFTの移転費用を既存のアプリ決済ルールへどう位置付けるかという問題でした。当時の説明を歴史として残しながら、現在の利用可否は現行の規定と製品案内で確認する読み方が、古いニュースによる誤操作を避けるうえで役立ちます。
よくある質問
Q. NFTの価格の30%をAppleへ払う話ですか。
A. 当時Coinbaseが問題視したのは、NFT送信に必要なガス代の課金方法です。NFT価格や保有資産全体の30%という説明ではありません。
Q. アプリで送れないとNFTは消えますか。
A. 操作機能の制限と、チェーン上の保有記録の消失は別です。対象のアプリ版やネットワーク、取引の状態を分けて確認します。
Q. 2022年の停止は現在も続いていますか。
A. 今回の公開資料だけでは、個別機能の復旧時期や現在の全対応範囲を確定していません。現行の製品案内と利用中のアプリで確認する必要があります。
この記事の出典
- CoinDesk:Coinbase WalletのiOS版NFT送信停止(2022年12月)
- Apple:App Review Guidelines 3.1.1
- Ethereum:ガスと手数料の技術説明
- Coinbase Help:ウォレットの自己管理と安全性
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




