▽ 要約
保管 準備金の「高品質資産」保管参入を検討。
決済 トークン化送金と外部ステーブル対応を拡張。
政策 2025年7月GENIUS法成立で規制明確化。
ETF 保管はコインベース優位、参入余地あり。
米銀シティグループがステーブルコイン関連のカストディや決済、ETF向け保管、自社コインを含む暗号資産サービスの参入を検討している。背景にはGENIUS法の成立と監督指針の見直しがあり、企業の24/7資金移動ニーズと合致する。シティグループ ステーブルコインの動向を総覧し、規制・競合・実装状況を短時間で把握できる。
シティの検討内容と現在地
法整備で参入障壁が下がったため、準備金カストディ・決済・ETF保管・自社コインとトークン化預金を段階的に実装する方針が鮮明になった。
シティのサービス部門は、ステーブルコイン裏付資産(米国債や現金等)のカストディを「第一の選択肢」と位置づける。一方で、24/7のリアルタイム資金移転を実現するトークン化基盤(Citi® Token Services, CTS)を拡張し、外部ステーブルの送受金・即時ドル転換の提供も検討中だ。さらには、暗号資産ETFの裏付け現物(BTCなど)の保管需要を取り込む構えで、自社ステーブルコインと「トークン化預金」にも言及している。
準備金カストディ(Stablecoin Reserves)
ステーブルコインの裏付資産が安全資産に限定されたため、保管・管理の受託需要が銀行に流入しやすくなった。
新法は発行体に高流動資産での1:1保全と月次開示を求めるため、伝統的カストディアンの運用統制・照合・レポーティング機能が価値を持つ。シティは国債・現金等の分別管理、担保運用、エスクロー統制を一体で提供でき、発行体・決済事業者のバックエンドとしての位置取りを狙う。
決済・送金(Citi Token Services/ステーブルコイン対応)
トークン化された内部ドルの24/7移転が実用化したため、国際資金移動の摩擦を抜本的に低減できる。
CTSはプライベートDLT上で常時流動性を移転し、米・英・シンガポール・香港拠点で稼働している。ニューヨーク—ロンドン—香港間の常時送金にも対応し、外部ステーブルの入出金や即時ドル化を視野に、企業財務のタイムゾーン制約を解消する。
自社ステーブルコイン/トークン化預金
対顧客の利便が主眼のため、まずはトークン化預金が軸となり、必要に応じて自社コインを補完する見立てだ。
CEOは「シティ版ステーブルコイン」を検討しつつ、当面は内部・対法人のオペレーション最適化を優先する姿勢を示す。JPMのJPMコイン同様、銀行預金と同等価値のトークンで即時決済を回し、将来の外部接続性を担保する。
暗号資産カストディとETFビジネス
ETF普及で現物保管の需要が急増したため、伝統的保管銀行に機会が広がる一方、暗号ネイティブ勢との競争が強まる。
現物ビットコインETFは承認後に急拡大し、最大のIBITは約900億ドル規模。現状はコインベースが発行主体の80%超を保管するが、証券カストディで実績のある銀行参入により、信頼性と機関マネーの受け皿が拡充する。
ブローカレッジ(将来候補)
価格変動リスクと自己勘定規制の制約があるため、売買仲介は慎重に検討すべき領域で、中核は当面カストディと決済になる。
規制環境の転換と競争地図
規制が明確化したため参入が加速する一方、資本規制・相互運用性・監督細則の整備はなお進行中である。
2025年7月18日に米連邦法「GENIUS法」が成立し、裏付資産・開示・順序付け弁済などの枠組みが確立。4〜7月にはFRB・FDIC・OCCが事前承認を求める旧指針を撤回し、銀行の許容業務(カストディや一部ステーブル活動)を再確認した。これによりBofAやフィサーブ等も計画を公表し、JPMはデポジットトークンとステーブルの関与を示唆、モルガン・スタンレーは状況を注視する。
米国の法運用(GENIUS法と監督)
施行までの猶予があるため、OCC・財務省等の最終規則で詳細が詰まる。
GENIUS法は保全資産の範囲や開示、倒産手続の優先順位を定義し、施行は18カ月以内(または規則公布後120日)。並行して三局の共同声明がカストディのリスク管理を再確認し、銀行に求める統制の輪郭を示した。
競合・提携(Coinbase/Circle/Payoneer)
既存エコシステムが強いため、銀行は提携で実需を取り込みやすい。
コインベースはETF保管を広く掌握し、Circleは2025年6月にIPO、USDC流通が拡大。シティは同社IPOの主幹に名を連ね、外部接続の布石を打った。PayoneerはCTSを採用し、24/7グローバル資金移動を稼働させている。
海外銀行の動き(SocGenほか)
欧州ではMiCA整備のため、銀行発行ステーブルが実装に進む。
ソシエテ・ジェネラルは2023年にEURCVを発行し、2025年にはUSDCVを公表。各行はパブリック/プライベート鎖の選択で分かれ、ガバナンスと普及のトレードオフが政策論点となる。
▽ FAQ
Q. シティは何を優先する?
A. 2025年8月時点で準備金カストディが最有力で、決済・ETF保管、自社コインとトークン化預金を段階的に検討。
Q. GENIUS法はいつ成立し何を義務化?
A. 2025年7月18日成立。1:1保全や月次開示、AML/KYC徹底を義務づけ、倒産時の優先弁済も規定。
Q. コインベースのシェアは?
A. 暗号資産ETFの発行主体の80%超でカストディを担い、最大ETF(IBIT)は約900億ドル規模。
Q. Citi Token Servicesの提供範囲は?
A. 米・英・シンガポール・香港でUSDの24/7移転を提供。NY—ロンドン—香港の常時送金にも対応。
Q. 他の大手行の動きは?
A. BofAが自社ステーブル検討、JPMはデポジットトークンと関与表明、MSは注視の姿勢。2025年夏に表明が集中。
■ ニュース解説
規制明確化で銀行の参入が進みつつあるため、シティは準備金カストディと決済を起点に暗号資産保管・自社コインへ展開し、他方で資本規制や相互運用の実務整理が残る。
投資家の視点:①銀行カストディの進展=機関マネー流入の下支え、②24/7送金の普及=トレジャリー効率の改善、③規制細則・資本負担・サイバー対策=実装速度のボトルネックに留意。
本稿は投資助言ではありません。
(参考:Federal Reserve Board,FDIC)