12月2日 ビットコイン続落と中国規制強化

▽ 要約

市況:12月1日にBTC急落、11月はBTC・ETHとも月次▲20%超で出来高も6月以来の低水準。
規制:人民銀行主導の13部門会議がステーブルコインを含む仮想通貨取引の違法性を再確認し、監督体制を「システム治理」へ格上げ。
企業:MicroStrategy株が保有BTC価値を下回るディスカウント、HashKeyは香港「暗号第一株」上場に前進。
マクロ:利下げ観測とFRB議長候補ハセットの動向が、ビットコイン続落局面での流動性環境とステーブルコイン規制の行方を左右。

12月入りの暗号資産市場はビットコイン続落と中国本土の規制強化、MicroStrategyやHashKeyの企業動向、FRB人事と利下げ観測が重なり、短期の下押し圧力と中期の再評価余地が交錯する局面にある。

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ビットコインが10月の史上高値から調整を続ける中、12月の初日も急落で始まり、投資家は「この下落は一過性か、それともサイクル転換か」という問いに直面している。直近では中国人民銀行が主導する13部門会議でステーブルコインを含む仮想通貨取引の違法性が再確認され、マクロ側では12月FOMCでの利下げ確率が8割超まで織り込まれるなど、政策要因も複雑に絡んでいる。こうした環境下で、MicroStrategy株のディスカウント拡大やHashKeyの香港IPO準備は、暗号資産が伝統金融とどう接続されるのかを示す重要なシグナルとなるため、本稿では市況・規制・企業動向を整理し、投資家が押さえておくべきリスクと論点を解説する。

市況総括:12月も続くビットコイン調整

ビットコインは10月の約12万ドル高値から二桁%の調整局面にあり、12月1日の急落と11月の出来高・ETFフローの弱さが、市場のリスクオフ基調を裏付けている。

12月1日の急落と連鎖清算

12月1日朝には、BTCが約9万ドルから1時間で約3.7%下落し、8.7万ドル割れまで急落する過程でレバレッジポジションの連鎖清算が発生した。

Coinglassデータによれば、この局面で4時間あたり約4.34億ドルのポジションが清算され、そのうち約4.23億ドルがロングポジションであり、個人・短期筋の逆張りロングが一気に巻き上げられた形だ。
テクニカル面では11月最終日のローソク足が長い上ヒゲを伴う陰線となり、月足ベースでの上昇トレンドが否定されたことで、「牛市構造の崩れ」が意識されている。また、予測市場Polymarketでは、2025年にBTCが10万ドルを回復する確率は35%まで低下する一方、8万ドル台への下落シナリオは50%程度まで高まっており、短期センチメントは極度に悲観的だ。

こうした動きは、10月11日の急落以降続く低流動性とレバレッジ調整の延長線上にある。複数のVC・投資家のコメントでは、薄い板に対する大口売りと、オラクルや清算設計の弱点を突いたデリバティブ市場の「杠杆清洗(レバレッジ洗浄)」が重なり、個別の悪材料以上に市場構造由来の下げ圧力が支配的との指摘が多い。

11月の出来高減少とETF流出

11月のスポット取引量は約1.59兆ドルと前月比▲26.7%で、今年6月以来の低水準に落ち込んだ。

取引所別ではBinanceの現物出来高が約5,993億ドル、DEX全体も約3,978億ドルにとどまり、UniSwapやPancakeSwapのような主要DEXもボリューム減少が確認されている。
価格面では、SoSoValueの集計でBTCが月間▲21.4%、ETHが▲26.7%と、ともに▲20%超の下落となり、時価総額上位100銘柄のうち10銘柄が▲40%超のドローダウンを記録した。

現物ビットコインETFは11月に約35億ドルの純流出となり、2月以来最大の月次アウトフローとなっている。
一方、コモディティ市場では現物銀価格が1オンス57ドル超の史上高値を更新しており、伝統的な安全資産への資金回帰が暗号資産からの資金流出を一部補完しているとみられる。

このように、11月〜12月初旬の下落は単発のセンチメント悪化というより、ETF・現物・デリバティブ・他資産クラスのフローが同時に逆風となっている局面と整理できる。

規制・政策アップデート:中国と米国

中国本土の規制強化と米国の利下げ局面入り・FRB議長人事観測が同時に進んでおり、暗号資産のリスクプレミアムを左右する政策要因が一段と重要になっている。

中国13部門会議とステーブルコインの位置づけ

11月28日に中国人民銀行が主導した「打撃虚擬貨幣交易炒作工作協調機制会議」には13部門が参加し、仮想通貨およびステーブルコイン関連ビジネスを改めて「非法金融活動」と明確に位置づけた。

会議声明では、ビットコインなどの仮想通貨は法定通貨と同等の法的地位を持たず、法定通貨として流通させることはできないと再確認したうえで、「ステーブルコインは仮想通貨の一種であり、顧客確認やAML要件を十分に満たせていないため、マネロンや資金洗浄、違法なクロスボーダー送金のリスクが高い」と指摘している。

今回の会議は、2021年のいわゆる「9・24通知」が10部委による連名文書だったのに対し、新たに中央金融弁公室・国家金融監督総局・司法部が加わり、規制体制が「部門協調」から「システム治理」へ格上げされた点が特徴だ。
同時に、情報フローと資金フローを一体でモニタリングする技術ベースの監視体制を強調しており、オンチェーン・オフチェーン双方を対象とした運用レベルでの厳格化が進む可能性が高い。

もっとも、今回の声明は2017年や2021年の方針を翻す「新規制」ではなく、既存の禁止政策の再確認という性格が強い。香港については、PA日報などの解説が「中国本土は制限、香港はオープン」という二層構造が維持されると整理しており、HashKeyなど香港ライセンスを持つ事業者に対する直接的な後退シグナルにはなっていない。

FRB議長候補ハセットと利下げ局面

一方、米国ではトランプ政権下の次期FRB議長候補としてケビン・ハセットが浮上しており、その暗号資産への姿勢と金融政策スタンスが注目されている。PANewsによれば、ハセットはCoinbase株を百万ドル規模で保有し、同社の学術・規制アドバイザリーボードメンバーを務めた経歴を持つほか、ホワイトハウスのデジタル資産ワーキンググループにも関与してきたとされる。

記事では、2025年に推進されている「GENIUS法案」により、ドル建てステーブルコインの監督主体としてFRBが中心的役割を担う構図が示されており、新議長のスタンス次第で数千億ドル規模のステーブルコインマネーが暗号資産市場へ流入し得ると指摘している。

利下げのタイミングについては、CME FedWatchや各種デリバティブのインプリド確率が12月9〜10日のFOMCでの25bp利下げを80〜90%程度織り込んでおり、J.P.モルガンやBofAも12月利下げをベースシナリオとするレポートを公表している。
より積極的な利下げと暗号資産に理解のある議長の組み合わせは、中長期的にはリスク資産全般、とりわけビットコインやステーブルコインにとって追い風になり得る一方で、短期的には「利下げ前に流動性がさらに悪化するリスク」もあるため、単純な強気材料とは言い切れない局面だと言える。

企業・プロジェクト動向:MicroStrategyとHashKey

企業サイドでは、ビットコイン保有企業の象徴であるMicroStrategy株の急落と、香港で「暗号第一株」を目指すHashKeyのIPO準備という対照的なニュースが出ており、暗号資産と伝統金融の接点の両極を示している。

MicroStrategy株ディスカウントと4つのリスク

MicroStrategy(ティッカー:MSTR)は、10月6日からの下落率が▲57%に達し、12月1日の日中だけでも▲12%前後下落した結果、時価総額が約450億ドルまで縮小した。

同社は約65万BTCを保有しており、現在価格ベースの評価額は約550億ドルと見積もられている。仮に約82億ドルの負債と14億ドルの現金準備を差し引いても、ビットコイン純資産は約468億ドルと推計され、市場評価はその水準をも下回るディスカウント状態にある。
日本語圏でも、この「ビットコイン現物より安いMSTR」という状況は、X(旧Twitter)上の解説アカウントやYahooリアルタイム検索などで広く取り上げられている。

PANewsの特集は、MSTRが直面し得るリスクを4つに整理している。第1に、ビットコイン調整局面でのヘッジ手段としてMSTRがショート対象となりやすく、モルガン・スタンレー等の大手が空売り圧力を強めることで「ビットコイン中央銀行」の物語を崩しにかかるリスク。第2に、可転換社債など低コスト負債に依存した「杠杆フライホイール」が、株価低迷で借換え余地を失い、現金償還を迫られることでビットコイン売却を強いられるリスク。第3に、ビットコイン価格が横ばいでも、「安く借りて高く買う」というストーリーが崩れることで、株価のプレミアムが急速に消失しうる「信認崩壊リスク」。第4に、指数採用を通じて取り込んだ受動的資金が、指数除外観測の浮上とともに一気に逆流する「関門リスク」である。

要するに、MSTRはビットコイン上昇のベータを超えるレバレッジを提供する一方、金融機関・規制・指数ルールといった旧来システムの文脈で「攻められやすい構造」を内包しており、現在のディスカウントはその複合リスクを織り込みにいっている局面と理解できる。

HashKeyの香港IPOと合規エコシステム

12月1日、HashKey Holdings Limitedは香港取引所の主板上場聴聞を通過し、モルガン・スタンレー系などを共同スポンサーとして、最短で2026年1月にも約5億ドル規模のIPOを行う計画を示した。

上場申請書によれば、HashKeyの収益の約71.8%はライセンス取引所「HashKey Exchange」の取引促進サービスに由来し、2024年の収入は約51.7億香港ドルに達した。取引量ベースではアジアの地域在岸プラットフォームとして最大級であり、香港の市場シェアは75%超とされる。機関投資家数はリテールに比べ少ないものの、月間平均取引量はリテールの約4.7倍であり、実際のボリュームを牽引している。

一方で、2022〜2024年の累積損失は23億香港ドル超と依然赤字であり、2025年8月末時点の現金とデジタル資産残高は約22.5億香港ドルで、現在の消費ペースなら約40カ月分のランウェイがあるとの開示だ。
グループトークンHSKについては、2024年末と2025年中間期の利用率がそれぞれ1.71%、0.49%にとどまっており、白書で約束された「純利益の20%を用いたHSKの市場買い戻しとバーン」は、黒字化達成前のため未実施である。

中国本土の規制強化と対照的に、香港は引き続き合規VAハブとしてのポジションを維持しており、HashKeyのIPOは「規制フレンドリーな取引所×上場株×プラットフォームトークン」という三層構造モデルを試す事例となる。

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市場への示唆:5つの指標と今後のシナリオ

ETFフロー・レバレッジ・ステーブルコイン供給・保有者構造・マクロ流動性という5つの指標が、現在のビットコインサイクルの方向性をほぼ決めており、それぞれの足元の状態から見えるシナリオを整理しておく必要がある。

ETF・レバレッジ・ステーブルコインの組み合わせ

PANewsの「5大信号」レポートは、現物ビットコインETFの累計保有枚数が51.5万BTC超に達し、マイナー新規供給の約2.4倍にあたることを確認している。

2024年第1四半期には121億ドルの純流入がビットコインの史上高値更新を直接後押しした一方、2025年11月の37億ドル純流出は、12.6万ドルから8万ドル台への調整と軌を一にしている。
ETFフローがマイナー供給を凌駕する規模となった現在、ETFの資金出入りは「クジラのオンチェーン移動」に匹敵する価格ドライバーとみなしてよい。

同レポートはさらに、
①年率8〜12%程度の永続スワップ資金調達率のピークが局地的天井となりやすいこと、
②ステーブルコイン供給とその取引所残高の増減が現物市場への原生流動性を規定していること、
③長期保有者(LTH)と短期投機資金の比率がボラティリティ耐性を左右すること、
④マクロ流動性(グローバルM2や米国実質金利)の変化がETF経由でレバレッジを伴って現物・デリバティブに伝播することを指摘する。

現在は、ETFが月間で大きな純流出に転じる一方、資金調達率はなおプラス圏を維持し、ステーブルコイン供給も大きな伸びを欠くなど、5つの指標の方向性が揃っていない局面であり、結果としてトレンドではなく急激な上下動とボラティリティ拡大が顕在化していると解釈できる。

短期のリスクと時間軸の整理

短期的には、低流動性下でのさらなるレバレッジ清算と、MicroStrategyのようなレバレッジ型ビットコイン・エクイティに対する売り圧力が続くリスクが残る。レポートによれば、DragonflyやTribe Capitalなど複数の投資家が、今回の調整を「薄い板」「リスク管理の不備」「不十分なオラクル・清算メカニズム」が重なった去杠杆(デレバレッジ)イベントと位置づけており、価格が一定水準まで戻っても信用供給が回復しにくい局面が続く可能性がある。

一方で、中国本土のステーブルコイン規制強化が「残存していたグレーなオンショア資金」の出口を事実上ふさぐことになれば、香港やドル建てステーブルコイン圏への資金移動はむしろ透明化が進むとの見方もある。
12月FOMCでの利下げが実現し、2026年にかけてマクロ流動性が再び拡大するシナリオでは、ETFとステーブルコイン供給が再度プラス方向に揃うタイミングが来年以降訪れる可能性もあるが、その場合でも今回の下落で傷んだ信用・レバレッジの修復には時間を要するだろう。

投資家にとっては、「価格の絶対水準」よりも、
①ETF・ステーブルコイン・レバレッジ指標の方向性が揃うか、
②中国や米国の規制が新たな禁止ではなくルール明確化にとどまるか、
③MicroStrategyのようなレバレッジ・プレーが再びプレミアムを取り戻すか、といった条件が中期トレンド転換の鍵になると考えられる。

▽ FAQ

Q. 中国人民銀行など13部門会議では何が決まったか?
A. 2025年11月28日の会議で中国人民銀行は仮想通貨とステーブルコインを違法金融活動と再確認し、13部門が協力して継続的に取り締まる方針を示した。

Q. ビットコインは直近どの程度下落したのか?
A. 2025年10月の約12万ドル高値から12月1日には一時8.5万〜8.7万ドル台まで下落し、11月単月ではBTC▲21%、ETH▲27%と推計されている。

Q. MicroStrategy株はビットコイン保有と比べてどう評価されているか?
A. 2025年12月1日時点でMicroStrategyは約65万BTC(約550億ドル相当)を保有する一方、時価総額は約450億ドルで、純ビットコイン資産よりも低い水準で取引されている。

Q. HashKeyグループの香港IPO計画の概要は?
A. HashKeyは2025年12月1日に香港取引所主板の聴聞を通過し、2026年1月にも約5億ドル規模のIPOで「香港の暗号第一株」上場を目指すと開示している。

■ ニュース解説

12月入りの暗号資産市場では、10月高値からの調整が続くビットコインと、13部門会議でステーブルコインを含む仮想通貨取引の違法性を再確認した中国本土の規制強化、さらに12月利下げ観測とFRB議長候補ハセットの動向が重なり、価格・フロー・規制の三つ巴でセンチメントが揺れている。MicroStrategy株のディスカウント拡大やHashKeyの香港IPO準備は、暗号資産が伝統金融の中でどのように再評価されるのかを映すミクロな鏡として機能している一方で、短期的には市場全体のリスクプレミアムを押し上げる要因にもなり得る。

事実関係としては、
①BTC・ETHともに11月は月次▲20%超の下落と出来高減少、ETF純流出が確認されていること、②中国人民銀行主導の13部門会議が2021年方針を再確認しつつ、ステーブルコインを明示的なターゲットとした「システム治理」へと監督体制を格上げしたこと、
③米国では12月FOMCでの25bp利下げ確率が8割超に達し、FRB新議長候補として暗号資産に理解のあるハセットの名前が挙がっていること、
④MicroStrategyは約65万BTCを保有する一方で株価が保有BTC価値を下回る水準まで調整し、レバレッジ構造と信用ストーリーに市場の注目が集まっていること、
⑤HashKeyは香港で合規なデジタル資産エコシステム構築を掲げつつ、「暗号第一株」としてのIPO準備を進めていることが挙げられる。

投資家の視点:短期的には、低流動性・レバレッジ清算・規制ヘッドラインが重なった局面であるため、価格水準そのものよりも
①ETF・ステーブルコイン供給・資金調達率といったフロー指標、
②中国本土と香港、米国の規制・政策スタンスの差異、
③MicroStrategyなどレバレッジ型エクイティのプレミアム/ディスカウント推移、という三点をモニタリングすることが重要になる。
中期的には、利下げサイクル入りとステーブルコイン規制の具体的な実務設計が明らかになるにつれて、暗号資産への資金フローが「どのルートを通じ、どの程度のレバレッジを伴って戻るのか」がテーマとなるため、単一の価格目標に依存するのではなく、時間軸とシナリオ別のリスク許容度を整理したポートフォリオ設計が求められる。

※本稿は一般的な情報提供を目的としており、特定銘柄・金融商品の売買を推奨するものではなく、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

(参考:中国人民銀行