12月1日 ビットコイン8.6万ドル割れと12月下落相場

▽ 要約

価格:BTCは11月の10万ドル割れに続き、12月1日に8.6万ドルを再び割り込み調整が長期化。
フロー:ロング清算と中期保有者の売りが中心で、ETFや長期クジラは一部で買い支えを継続。
マクロ:金4,200ドル台・銀高値更新、流動性逼迫で12月はリスクオフ気味のスタート。
テーマ:英国DeFi税制やスイスCARF延期、Hyperliquid・RWA・予測市場など次サイクルの土台を整理。

12月1日時点のビットコイン8.6万ドル割れと12月入りの下落相場を軸に、ETFフローやマクロ・規制・RWA・DEX・新インフラ動向を俯瞰し、過度な楽観・悲観を避けるための視点を整理します。

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11月から続くビットコインの調整局面を、12月1日の8.6万ドル割れをどう位置付けるか悩んでいる投資家は多いはずです。10万ドル割れからのリバウンドは一見落ち着いたように見えたものの、月またぎで再び売り圧力が強まり、12月相場はリスクオフ気味のスタートとなりました。本稿では「86,000ドル前後の攻防」と「12月入りのフロー変化」を中心に、市場構造・マクロ・規制・RWA・DEXなどを整理し、短期の値動きに振り回され過ぎないための材料を解説します。

市況総括:12月1日の8.6万ドル割れとセンチメント

12月1日のビットコイン急落は、11月の調整局面がまだ終わっていないことを改めて示しつつも、構造的なリスクオフよりは清算と流動性要因に近い形で表面化しています。

急落の経緯と86,000ドル前後の攻防

11月上旬、ビットコインは12万6,251ドルの史上最高値から20%超下落し、4日には10万ドルを一時的に割り込むなど、大きな調整局面に入りました。
その後も売り圧力は続き、11月21日には8万6,000ドルを割り込み8万5,400ドルまで急落、24日には再び86,000ドルを下回る場面があり、86,000ドル前後が短期的な節目として意識されてきました。

一方、11月25日前後には8万8,000ドル近辺まで戻し、「急落後の売り圧力が和らぎつつある」とのレポートも出ていましたが、12月1日朝のアジア時間に再び売りが強まり、ビットコインは90,000ドル近辺から8万7,000ドル割れまで1時間で3〜4%急落、同日中に8.6万ドルを下回る水準まで売られる展開となりました。

短期的には、10万ドル割れから続く下落トレンドの中で、8.6万ドル帯が「7カ月ぶり安値圏」として意識される一方、出来高と清算規模を見る限り、単一イベントではなく、11月からのポジション調整の延長線上と整理するのが妥当です。

レバレッジ清算とETF・保有者フロー

11月21日前後の急落では、先物市場全体で9億ドル超のポジションが清算され、その多くがロング側の強制決済でした。12月1日の急落でも数億ドル規模のロング清算が発生しており、「価格が落ちるから売られる」のではなく、「レバレッジの解消が価格を押し下げる」という順序が見て取れます。

売り圧力の主体については、オンチェーン解析やアセットマネジャーのレポートで、5年以上の超長期クジラよりも、3〜5年保有の中期層と短期レバレッジ勢に偏っているとの指摘が増えています。これは、2019〜2021年の強気相場で買った層が、心理的な利益ラインやトレーリングストップに触れ始めている可能性を示唆します。

一方で、スポットBTC ETFには11月後半以降も日次ベースで純流入が続く日が多く、ETF経由の長期マネーが一定の押し目買いを行っている構図も確認できます。鯨の取引所入金やオンチェーン移動も増えていますが、「全体として長期クジラが一斉に逃げている」という状況とは言えず、ポジションの入れ替えとレバレッジ整理が前面に出ている段階と見ることができます。

マクロ環境と12月リスクオフ相場

12月相場の難しさは、金利低下期待と世界的な流動性逼迫、そしてリスクオフの兆しが同時に存在している点にあります。

流動性・金利・ゴールドとの相対比較

11月後半から金(ゴールド)は1オンス4,200ドル台まで上昇し、銀も55〜56ドル台の過去最高圏に達するなど、実物資産への需要が再び強まっています。スポットBTC ETFが上場して以降、金は年初来で5割超上昇する一方、ビットコインは直近の調整で年初来騰落率を削っており、「デジタルゴールド」としての相対評価はやや揺らいでいます。

背景には、米財務省の支出延期や国債発行計画の調整がもたらす世界的なドル流動性の逼迫があり、「レバレッジを使ったリスク資産」は一段と厳しい環境に置かれています。ビットコインの下落はセンチメント悪化だけでなく、マージンや先物ポジションの負担増に起因する「流動性縮小」の反映と見ることもできます。

株式・アルトのリスクオフ連鎖

株式市場では、米ハイテク株や新興国株の利益確定売りが出始めており、11月末にはS&P500の高値から1日で1.5兆ドル規模の時価総額が蒸発したとの試算も出ています。暗号資産市場もこれに連動する形で、11月中に時価総額が大きく減少し、ビットコインの8.6万ドル割れと同時にイーサリアムやソラナなど主要アルトが7〜8%幅で下落しました。

12月1日の相場は、明確な単一ネガティブニュースがない中での「流動性主導のリスクオフ」とされており、「材料がないのに落ちている」ことが投資家心理を一段と冷やしています。とはいえ、これまでの強気局面で積み上がった信用取引・デリバティブポジションを踏まえると、「ニュース不在の急落」は過去サイクルでも珍しくなく、必ずしもトレンド転換のサインとは限りません。

規制・政策アップデート:税制・AML・情報共有

価格ボラティリティの陰で、税制・AML・情報共有ルールは静かに、しかし確実に変化しており、12月以降のフローにとって無視できない要素となっています。

英国DeFi税制の「無盈無亏」とスイスCARF延期

英国HMRCは、DeFiレンディングや流動性供給について「No Gain No Loss(無盈無亏)」原則を導入する方針を示し、ユーザーがAaveなどのプロトコルに資産を預けても、それ自体では課税イベントとしない方向性を打ち出しました。
実際の売却・交換など経済的な損益が確定したタイミングで課税する設計が想定されており、頻繁に担保を出し入れするDeFiユーザーの申告負担と「意図しない課税イベント」を大きく減らす可能性があります。

一方、スイス連邦政府はOECDの暗号資産報告フレームワーク(CARF)について、2026年1月1日に国内法へ組み込みつつ、国際的な口座情報の自動交換開始を2027年以降へ延期すると決定しました。これは短期的に一部のクロスボーダー投資家に猶予を与えるものの、中長期的に匿名性に依存した節税余地が縮小していく流れは変わらないと考えられます。

日本居住者から見れば、「DeFiは税務処理が重いから避ける」「スイス経由の口座は把握されにくい」といった旧来の前提が徐々に崩れつつあり、今後は各国のルールを前提とした運用設計が一層求められます。

AML強化と取引所リスク(Upbit・Interpolなど)

韓国では、Upbit親会社DunamuがKYC義務違反を理由に2,000万ドル超の制裁金を科され、さらにSolanaネットワーク上で3,000万ドル規模の資産流出インシデントが発生するなど、取引所リスクが改めて意識されています。
規制当局は即座に現地検査に入り、Upbitが目指していたウォン建てステーブルコインや海外上場構想に対する評価軸も、「成長性」から「ガバナンスとリスク管理」へとシフトしています。

国際的には、InterpolおよびASEANAPOLが東南アジアを中心とした「サイバー奴隷」型詐欺ネットワークに警鐘を鳴らし、人身取引・オンライン詐欺と暗号資産を組み合わせた犯罪への対策強化を宣言しました。これにより、規制の焦点は「暗号資産そのもの」から「暗号資産を利用した犯罪スキーム」へと移りつつあり、KYC・AML体制の整った事業者ほど相対的に評価され、オフショアや高匿名性に依存するビジネスモデルは一段と逆風が強まると見られます。

企業・プロジェクト動向:マイナー・DEX・RWA・新インフラ

12月入りの下落相場の裏側で、マイナー・取引所・DeFi・RWA・新インフラはそれぞれ「事業継続性」と「次の収益源」を模索しています。

マイナー採算悪化とTetherのマイニング撤退

ビットコインマイニングでは、ハッシュレートが1ゼタハッシュ超へ達しセキュリティは過去最高水準にある一方、「ハッシュレート価格」は1PH/sあたり34ドル前後と、年初からほぼ半減した水準まで落ち込んでいます。
難易度調整によりブロック間隔は概ね10分前後を維持しているものの、高コストマイナーの退出と大手・低コスト事業者への集約が進んだ結果とみられます。

象徴的なのが、Tetherによるウルグアイのマイニング事業撤退です。同社は当初5億ドル規模の投資計画を掲げながら、エネルギー価格交渉の難航を理由に1億ドル超の投資で打ち切り、多くの従業員を削減する判断をしました。
上場マイナー株の時価総額は11月だけで数百億ドル規模の縮小となっており、「BTC価格への純粋なレバレッジ」ではなく、「電力契約と設備投資に強くレバレッジしたデータセンター事業」として再評価する必要が高まっています。

Hyperliquid・予測市場・RWA・x402と次サイクルの土台

パーペチュアルDEXのHyperliquidでは、HIP-3に基づく「Builder-Deployed Perpetuals」モデルが稼働し、11月にはサードパーティが開設した市場の取引高が月間30〜40億ドル規模に達したと報じられています。
50万HYPE前後をステークしたビルダーだけが市場を開設できる仕組みは、質の高いデプロイヤーの選別とトークンロックアップを同時に実現する一方、流動性が特定プロトコルに偏在する点は今後の課題です。

また、Polymarketなどの予測市場では、選挙・経済指標・スポーツなど既存の数兆ドル規模のベット・保険・デリバティブ市場を「イベントに対する二値ベット」という共通プロトコルで再構成し得るとの議論が続いており、Hyperliquidでも予測市場対応を意識したHIP-4構想が取り沙汰されています。

RWA(現実資産)では、米国債・短期債に加え、不動産・プライベートクレジット・未上場株式のトークン化案件が増加していますが、二次市場価格は実体価値だけでなく流動性とナラティブに大きく左右されやすく、「オンチェーン価格=フェアバリュー」とみなすのは危険です。
同時に、AIエージェント間マイクロペイメントに特化したx402のようなプロトコルが提案され、ソフトウェア同士がタスク完了の瞬間に小額決済を自動実行できる世界観が描かれています。これらは短期の値動きよりも、次サイクルで「どの土台が残るか」を判断する上で重要なピースです。

▽ FAQ

Q. 12月1日時点でビットコイン急落の主因は何ですか?
A. 数億ドル規模のロング清算と株式・アルトのリスクオフ連鎖に加え、世界的なドル流動性逼迫が重なり、材料不足の中で8.6万ドル割れまで売り込まれたと整理されています。

Q. ビットコイン8.6万ドル割れはテクニカル的に重要ですか?
A. 8.6万ドルは11月下旬の安値帯で、10万ドル割れから続く下落トレンドの中間ゾーンかつ7カ月ぶり安値圏で意識されますが、出来高の伴わない一時的なスパイクに終わる可能性も残ります。

Q. 売り圧力の主体は長期クジラなのでしょうか?
A. オンチェーン解析では5年以上の長期クジラより、3〜5年保有の中期層やレバレッジ勢のロング清算が中心とされ、ETFには依然として純流入の日もあり、全体が全面撤退している状況ではありません。

Q. 12月相場で注目すべき規制・テーマは何ですか?
A. 英国DeFi税制の無盈無亏ルール、スイスCARF延期、AML強化による取引所リスクの選別に加え、Hyperliquid HIP-3やRWA・予測市場・x402といった「次サイクルのインフラ候補」が重要な観察ポイントです。

■ ニュース解説

12月1日時点のビットコイン相場は、11月の10万ドル割れに続く調整局面の延長線上にあり、8.6万ドル割れはレバレッジ清算と世界的な流動性逼迫が重なった結果とみるのが妥当です。スポットETFには依然として押し目買いも入り、超長期クジラが一斉に退場したわけではない一方、3〜5年保有層の利益確定とデリバティブ清算が短期的な売り圧力を強めています。

規制・税制面では、英国DeFi税制の無盈無亏ルールやスイスCARF延期が象徴するように、論点は「暗号資産を禁止するかどうか」から「どのようなルールのもとで透明性を確保するか」へと移行しつつあります。AMLや情報共有の枠組みが整備されるほど、KYC・ガバナンスを備えた事業者とそうでない事業者の格差は拡大し、長期的にはオフショアや高匿名性依存のモデルが淘汰されていく可能性が高いでしょう。

一方で、Hyperliquid HIP-3、予測市場、RWAトークン化、x402などの新インフラは、伝統金融と暗号資産の境界を溶かしながら「次のサイクルの土台」を形成しつつあります。これらは短期チャートには直ちに反映されないものの、2〜3年先を見据えたときに、どのセグメントが生き残りうるかを判断する上で重要な材料です。

投資家の視点:
現状は「金利低下期待と実物資産高騰がリスク資産を支えつつ、世界的な流動性逼迫とリスクオフの波が周期的に襲う」複雑な局面です。短期的には、
・8.6万ドル前後の攻防と、清算規模・出来高の推移
・ETFフローと中期保有者・鯨のオンチェーン動向の乖離
・マイナーや取引所関連銘柄のガバナンス・規制リスクの織り込み度合い
・RWA・予測市場・AI決済インフラなどインフラ系テーマの実需と収益化の進捗

を、価格だけでなくオンチェーンデータや規制ニュースと組み合わせて冷静にモニターすることが重要です。
そのうえで、12月相場のノイズに過度に反応するのではなく、「どの水準までのドローダウンなら許容できるか」「次サイクルで残るであろうセグメントはどこか」といった中期軸の前提を明確にし、ポジションサイズとレバレッジ水準を調整していく姿勢が求められます。

※本稿は一般的な情報提供を目的としており、特定銘柄・金融商品の売買を推奨するものではなく、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

(参考:Bloomberg