▽ 要約
市況 10月高値からの35%調整後もBTCは8万ドル台にとどまり、先物清算とETFフローの反転でレバレッジ整理が進みつつある。
心理 ソーシャルメディア上のビットコイン感情は2023年12月以来の低さとなり、個人投資家のパニック売りが2年ぶり高水準に達している。
経済 米労働統計局によるCPI公表延期と世界株安が重なり、金利見通しとリスク資産全体のボラティリティが再び意識されている。
制裁 英国NCAの「オペレーション・デスタビライズ」で128人逮捕と3,260万ドル押収が明らかになり、制裁回避に対する仮想通貨規制の実効性が問われている。
11月22日のビットコイン市場は、35%調整後も8万ドル台で推移する一方、ETF資金フローの反転とセンチメント悪化、CPI延期や制裁強化が重なり、投資家にリスクと機会の両面を突きつけている。

2025-11-22時点のビットコインは、10月初旬の過去最高値$126,251から約35%調整した後も8万ドル台を維持し、レバレッジ解消とETF資金フローの反転が同時進行する局面に入っている。一方で、Santimentが指摘するようにソーシャルメディア上のビットコイン感情は2023年12月以来の悲観水準まで悪化し、個人投資家のパニック売りは2年ぶりの高まりを見せている。さらに、米国のCPI公表延期や英国によるロシア制裁回避ネットワークへの大規模摘発など、マクロ指標と規制リスクも重なっている。本稿では、ビットコイン市場の価格レンジと需給、ETF・デリバティブの動き、規制・政策、RWAやDeFiプロジェクト動向を整理し、短期の揺れと中長期テーマを切り分けて把握するための材料解説する。
市況総括
ビットコインは大幅調整後も8万ドル台を維持しているため、レバレッジ清算とETFフローの変化を通じて一旦の「整理局面」に入ったとの見方が強まりつつある。
2025-11-22時点でビットコイン現物価格はおおよそ$84,000前後、高値$85,000台・安値$80,000台前半のレンジで推移している。10月初旬に付けた$120,000超の高値からは約35%下落しており、短期間に急伸したポジションが巻き戻される典型的な「レバレッジの洗礼」を受けた格好だ。特に株式・ゴールドなど他のリスク資産も同時に調整していることから、暗号資産固有の要因だけでなく、金利観測やマクロ要因が複合的に効いている。
デリバティブ市場では、直近24時間で暗号資産先物の清算総額が約21億9,500万ドルに達し、そのうちロング側が約20億1,600万ドル、ショート側が約1億7,900万ドルと、主にロングポジションの損失が目立った。ビットコインの清算は約11億1,100万ドル、イーサリアムは約4億5,900万ドルとされ、大型ポジションを抱えていた投資家ほど痛手を受けた可能性が高い。清算の波が一巡したかどうかは建玉動向次第だが、過度なレバレッジが削ぎ落とされている局面であることは確かだろう。
現物ETFのフローは、前日までの大規模流出から一転して、11月21日にはビットコイン現物ETFが純流入約2.38億ドルを記録している。フィデリティのFBTCが約1.08億ドルの流入でトップとなり、グレイスケールのミニトラストETFも数千万ドル規模の流入を受ける一方、ブラックロックのIBITは1億ドル超の流出となった。銘柄間では資金の入れ替えが続いているが、全体としてはETFを通じた買い需要が戻りつつある。
イーサリアム現物ETFも同日に約5,571万ドルの純流入となり、8日連続で続いていた純流出のトレンドを反転させた。最大の流入を記録したのはFidelity FETHで、日次の純流入は約9,540万ドル、累計純流入も25億ドル超に達している。一方、ブラックロックのETHAは約5,368万ドルの純流出と資金シフトを受けたが、累計では依然として大きな純流入を維持している。
一方で、ソーシャルメディア上のセンチメントは、Santimentによれば2023-12-11以来の低水準に落ち込み、XやReddit、Telegramでは個人投資家のパニック売りシグナルが2年ぶりの高さに達しているとされる。価格が想定レンジ内で落ち着きを取り戻しつつあるのに対し、心理面は依然として「恐怖優位」の局面にある。このギャップは、現物ETFを通じた中長期マネーと、ソーシャル上で情報を取り合う短期トレーダーの視点の違いとも言える。
レンジ・需給の見方
ETF投資家による押し目買いと、先物ポジション整理の進展により、73,000〜84,000ドル帯が当面の「痛みのレンジ」として意識されているため、中期的な底値圏の形成が議論されている。
Bitwiseのリサーチディレクターは、ブラックロックIBITの平均取得コスト付近と、ビットコイン財務会社Strategy(旧MicroStrategy)の取得コスト帯を比較し、概ね73,000〜84,000ドルのゾーンが今回サイクルにおける「痛点」かつ底値候補になり得ると分析する。この水準まで下落すると、ETFや上場企業の保有分が含み損に転じ始め、売り圧力と防戦買いが交錯しやすいからだ。
オンチェーンでは、強制ロスカットと逆張りの動きが同時に観測されている。分散型取引所HyperLiquidでは、新規作成されたウォレットが約170万USDCを入金してビットコインの20倍ロングを構築し、別のウォレットでは約70万5,000ドルの利益を上げたと報告されている。短期ボラティリティを積極的に取りにいくクジラが依然として存在する一方、そうした高レバレッジ取引が相場の上下動を拡大させている面も否定できない。
その対極にあるのが、過度なレバレッジで大きな損失を出したケースだ。台湾系著名投資家Huang Licheng(Maji)氏のアドレスは、過去のトレードを通算すると2,000万ドル超の損失を計上しているとされ、直近24時間でもETHロングで11万5,000ドルの損失を出し、残高が7,000ドル程度にまで減少したと伝えられている。レバレッジを多用した逆張りが、トレンド転換を見誤るとどれほど大きなダメージを生み得るかを示す象徴的な事例と言える。
予想市場Polymarket上では、「11月中にビットコインが8万ドルまで下落する確率58%、7万5,000ドルまで下落する確率21%」といった分布が示されている。これは、短期的な深掘りリスクが完全には払拭されていない一方で、8万ドル近辺での反発シナリオにも一定の期待が残っていることを意味する。オプション市場のボラティリティと組み合わせて見ると、市場参加者は「急落からのリバウンド」を想定しつつも、もう一段の下押しにも備えている、というのが足元のコンセンサスに近い。
規制・政策アップデート
米国の統計発表スケジュール変更と英国の制裁回避摘発強化が同時進行しているため、短期的なボラティリティ要因と中長期のコンプライアンスコスト増加リスクを織り込む必要が高まっている。
米国では、労働統計局(BLS)が10月分の消費者物価指数(CPI)と実質所得指数の公表を取りやめ、11月分CPIと実質所得指数を2025-12-18にまとめて公表すると発表した。第3四半期の雇用コスト指数(ECI)は12-10に公表される予定であり、インフレと賃金動向を示す重要データの「空白期間」が生じる格好となる。CPIとECIはともに金利政策との結び付きが強く、暗号資産を含むリスク資産のバリュエーションに直結しやすい指標だ。
このため、次回FOMCまでの数週間は、投資家が限られた情報に基づいて金利見通しを更新せざるを得ず、やや手探りの相場展開になりやすい。仮に12月のデータが市場予想を下回れば「インフレ鈍化+利下げ接近」の見方が強まり、逆にインフレ再加速が確認されれば「長期高金利+リスク資産調整」のシナリオが意識される。ビットコインが「デジタル・ゴールド」として物価ヘッジ的に買われるか、「ハイベータ資産」として売られるかは、金利期待を巡るストーリー次第と言える。
英国では、国家犯罪対策庁(NCA)が主導する「オペレーション・デスタビライズ」により、ロシア制裁回避ネットワークを対象とした一連の強制捜査の結果、累計128人の逮捕と約3,260万ドル相当の暗号資産・現金の押収が行われたことが明らかになった。この作戦は2024年に開始され、昨年末時点で84人逮捕・約2,550万ドル押収だったところから、最新データではマネーロンダリング容疑などで45人を追加逮捕し、600万ドル超の現金を押収した形となる。
制裁・AML分野での実務的な執行強化は、ミキサーやOTCブローカー経由のフローにも監視の目が強まっていることを示している。取引所やカストディアンにとっては、ウォレットスクリーニングやトラベルルール対応、制裁リストのアップデート対応など、コンプライアンス投資の継続が不可欠になりつつある。プロトコルレベルでも、Tornado Cash事案以降、プライバシーと規制順守のバランスをどう取るかが中長期的なテーマになっている。
企業・資金調達・プロジェクト動向
RWA・DeFi・インフラ各領域で大手金融機関と暗号資産ネイティブ企業の提携・新商品が進んでいるため、価格調整局面でも「トークン化」と流動性インフラへの長期投資は継続している。
RWA(Real World Asset)領域では、2025-11-21時点のオンチェーンRWA時価総額が約356億7,000万ドルと、ステーブルコインを除くトークン化市場としては比較的一定の成長を維持している。保有者数は約53万9,900アドレス、月間取引件数は約93万7,000件とされ、相場全体のボラティリティが高まるなかでも、実需に根ざしたトークン化証券・マネーファンド・不動産などへのアクセス需要は着実に積み上がっている。
規制面では、米連邦預金保険公社(FDIC)がトークン化預金に対する保険適用のガイドライン策定を検討していると報じられている。これは、銀行預金をオンチェーンに載せる際に「どこまでが保険対象か」「破綻時の弁済順位をどう扱うか」といった実務的な論点に答えようとする動きだ。ロシアではUSDTが「財産」に該当するかどうかを巡る訴訟が憲法裁判所に持ち込まれるなど、ステーブルコインやトークン化資産の法的位置づけを巡る議論が各国で加速している。
民間セクターでは、Ant InternationalとUBSがブロックチェーンベースのクロスボーダー決済・トークン化預金で提携し、HSBCは米国とUAEの法人顧客向けにトークン化預金サービスを提供する計画を進めている。これにより、24時間即時決済や自動化された流動性管理、マルチカレンシー口座の効率化などが期待されており、トークン化技術が「見えないところで銀行インフラを置き換えていく」流れが一段と鮮明になりつつある。
Ondo Financeは、リヒテンシュタイン当局の承認を得て、EUを含む30市場の小口投資家にトークン化株式・ETFを提供可能となった。従来はプロ投資家しかアクセスできなかった米国株や債券へのエクスポージャーを、小口のオンチェーン投資家にも開放する動きであり、RWAを通じた「グローバル証券口座」のような使い方が今後広がる可能性がある。
DeFiでは、レンディング大手AaveがV4アップグレードとリテール向けAave Appを通じて「オンチェーン資本市場インフラ」への進化を加速させている。AaveのTVLは約540億ドルと競合Morphoの5倍超で、19チェーンに展開しつつも約8割の流動性をEthereumに集中させる戦略を取る。V4では、Prime/Coreの二重市場構造に加え、Liquidity HubとSpokeによるモジュラー設計を導入し、金利モデルやリスクパラメータを市場ごとに柔軟に差し替えられるようにすることで、ガバナンス負荷を抑えつつ多様な資産クラスを取り込む構想だ。
さらに、約6億ドル規模のトークン化マネーファンドを担保とするRWA市場「Horizon」を通じて、オンチェーン上でのドル建て債券投資とレンディングを接続し始めている。リテール向けのAave Appでは、最大年率6.5%・残高100万ドルまでの保護をうたう設計となっており、これまでディーファイと距離を置いていた一般投資家層に対しても「高利回りかつ一定の安全性を備えた預金代替」としてアピールする狙いがある。
日次レポートでは、Binance Alphaが新トークン「MineD」「Kyuzo’s Friends」のローンチを予定していることや、データ可用性・ストレージ系プロジェクトIrysが総発行100億枚・初期流通20%のIRYSトークンエコノミクスを公開したことも取り上げられている。Irysはエアドロップと将来のインセンティブに8%を割り当て、残りをチーム・投資家・エコシステム成長予算に配分する設計を公表しており、インフラ系トークンの分配モデルとしても注目される。
資金調達面では、マーケットメーカー兼投資家のDWFLabsが3,000万〜7,500万ドル規模の新ファンド立ち上げを検討しているとされるほか、予想市場プラットフォームPolymarketが約120億ドル評価での新ラウンドを模索しているとの報道も出ている。ボラティリティが高まるなかでも、インフラやデリバティブ、データ基盤といった「土台部分」に資本が集まる構図は崩れておらず、次の強気局面を見据えた仕込みが静かに進んでいる。
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イベント
今回の急落局面は、世界株安・金相場の調整・マクロ指標の空白・ソーシャルセンチメント悪化・個別の大型ポジション清算といった複数要因が重なったため、今後のイベントごとに市場の反応が分かれやすい。
マクロ面では、12-10公表予定の米雇用コスト指数(ECI)と、12-18に予定される11月分CPI・実質所得指数が、利下げタイミングと金融条件の先行指標として注目される。暗号資産市場は、利下げ織り込みの度合いに応じて「ドル安・長期金利低下=リスク資産買い」か「インフレ再燃=リスク資産売り」のいずれかのシナリオを織り込んでいくとみられる。指標サプライズが大きいほど、短期的な値動きも荒くなりやすい。
暗号資産ネイティブなイベントとしては、ビットコイン現物ETF・イーサリアム現物ETFのフローが再び大幅な流出に転じないか、あるいは足元の純流入が継続するかが、短期レンジの強弱を見極めるうえで重要となる。特に、IBITやFBTC、グレイスケール系ミニトラストなど「フラッグシップETF」のフローは、そのまま機関投資家マネーの方向性を映す鏡でもある。
また、Aave V4テストネットや新規RWAプロジェクトのローンチ、各国規制当局によるトークン化預金ガイドライン・ステーブルコインの法的位置づけの確定など、中長期の採用トレンドに関わるイベントも積み上がっている。価格だけに視点を集中させるのではなく、「どのインフラがどの規制枠組みのもとで使われるのか」という観点からニュースを整理しておくことが、次のサイクルでのテーマ選定に役立つだろう。
▽ FAQ
Q. 2025-11-22時点のビットコイン価格と下落幅は?
A. 2025-11-22時点でビットコインは約$84,000で推移し、10月初旬の過去最高値$126,251から約35%下落した水準にある。
Q. ビットコイン現物ETFとイーサリアム現物ETFの資金フローは?
A. 11月21日のビットコイン現物ETFは純流入$2.38億、イーサリアム現物ETFは純流入$5,571万で、前日の大規模流出から資金が戻りつつある。
Q. 米国のCPI発表スケジュール変更は暗号資産市場にどう影響する?
A. 米労働統計局は10月分CPI公表を中止し、11月分CPIと実質所得指数を2025-12-18に発表予定で、利下げ観測とリスク資産のボラティリティを高めやすい。
Q. 英国の「オペレーション・デスタビライズ」で何が起きた?
A. 2024年開始の同作戦ではロシア制裁回避を巡り累計128人が逮捕され、仮想通貨と現金合計3,260万ドル超が押収されるなど、AML・制裁順守の圧力が強まっている。
Q. 現在の個人投資家センチメントはどのような状態か?
A. Santimentによるとソーシャルメディア上のビットコイン感情は2023-12-11以来の低水準で、XやRedditでパニック売りシグナルが2年ぶりの高まりを示している。
■ ニュース解説
ビットコインは10月初旬の史上最高値から約35%調整したため、先物清算とETF資金流出入の急変、ソーシャルセンチメントの悪化が同時に表面化し、73,000〜84,000ドル帯を軸とする「底値探索」と「押し目狙い」がせめぎ合う局面となっている。一方で、RWA・DeFi・トークン化預金などインフラ領域では引き続き大手金融機関やプロジェクトによる開発・提携が進んでおり、価格とファンダメンタルの動きが乖離しやすい時期でもある。
投資家の視点:短期的には、レバレッジ比率やETFフロー、主要マクロ指標(CPI・ECI)と規制ニュース(制裁・AML・ステーブルコイン規制)を組み合わせて、ボラティリティの「トリガー」となるイベントの有無を確認しつつ、ドル建てレンジと自らの許容リスクに応じたポジションサイズ管理・分散投資を検討することが一般的な対応と考えられる。中長期では、RWA・DeFi・インフラなど構造的テーマへの配分を整理し、「価格のノイズ」と「採用トレンド」を切り分けてモニタリングすることが重要になる。
※本稿は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
(参考:PANews)





