▽ 要約
市況 … ビットコインが10月高値12.6万ドルから35%調整し、8万ドル台で底値模索が続く中でレバレッジ清算とETFフローが市場を揺らしている。
ETF … ビットコイン現物ETFは9.03億ドルの大幅流出後に2.38億ドルの純流入へ反転し、ETH現物ETFも8日連続流出を終えて5,571万ドル流入に転じるなど、機関フローは選別的な押し目買いを示している。
企業 … StrategyやNakamotoなどビットコイン財庫企業は担保追加や配当余力アピールで市場を意識する一方、エルサルバドルは7日で1,098BTCを買い増し国家レベルの長期保有姿勢を継続している。
テック … イーサリアムは量子コンピュータ脅威とウォール街資本の集中を受け、PQC導入やバリデータ分散などガバナンスとインフラ両面の課題に直面し、Circle Arcなど新L1もUSDCガスで実需獲得を狙う。
ビットコイン相場が12.6万ドル高値から35%調整する中でETFフロー、企業財庫、マクロ環境がどう変化しているかを11月23日時点で整理する。

ビットコインが10月初頭の12.6万ドル高値から8万ドル台前半まで一気に崩れた今、市場は「これは新しい弱気相場なのか、それとも長期上昇トレンド内の大きな押し目なのか」という問いに揺れています。結論から言えば、レバレッジ清算とマクロ不安が短期の下押し圧力を強める一方で、ETF・国家・企業財庫といった長期プレイヤーの買いは選別的に継続しており、構造的な強気シナリオ自体は維持されています。この記事では、11月23日時点のビットコイン相場と暗号資産市場の動きを、市況・政策・企業・イベントの4つの切り口から整理し、投資家が押さえるべき指標とリスクを立体的に俯瞰できるように解説します。
市況総括
ビットコインが12.6万ドルから約8.2万ドルまで35%調整したため、レバレッジ清算とETFフロー、投資家センチメントが連鎖的に悪化しつつも中長期マネーの押し目買いが局所的に入り始めています。
11月21日時点でビットコインは7カ月ぶり安値となる8万0,553ドルまで下落し、6週間で暗号資産全体の時価総額は約1.2兆ドル失われました。10月初頭の史上最高値12万6,223ドルからの下落率は約35%に達し、年初来リターンもマイナス圏に転落しています。オプション市場では年末時点で「9万ドル未満に終わる確率」が50%まで上昇し、10万ドル超えの確率は30%に低下するなど、ディフェンシブなポジション取りが強まっています。
フロー面では、11月21日にビットコイン現物ETFが単日9.03億ドルという過去2番目の純流出を記録し、市場のリスク回避姿勢が鮮明になりましたが、その翌営業日には一転して2.38億ドルの純流入に転じています。富達のFBTCには1.08億ドル、グレースケールのミニ信託BTCには8,493万ドルが流入する一方、ブラックロックのIBITからは1.22億ドルが流出し、「一律の売り」ではなくプロダクト間の入れ替えが進んでいることが分かります。
センチメント指標も極端な水準に達しています。オンチェーン分析会社Santimentによると、X・Reddit・Telegramなど主要SNS上のビットコイン関連投稿の強気/弱気バランスは2023年12月11日以来の悲観に傾いており、個人投資家の恐慌的な投げ売りが2年ぶり高水準に達しています。こうした極端な悲観は過去サイクルで中期的な底値圏に重なることも多く、今回も「価格は下げたが、長期プレーヤーはむしろ積み増しを検討している」局面に近いと考えられます。
レンジ・需給の見方
ビットコインの短期レンジが8万〜9万ドル帯に切り下がったため、オプションとETF、レバレッジ指標を組み合わせた需給分析が今後数週間の相場観を左右する焦点となっています。
オプション市場では8万5,000ドルストライクのプットが厚く積み上がり、年末に向け下落リスクヘッジを取る動きが鮮明です。一方で、予測市場Polymarketでは「11月中に8万ドルを割り込む確率」が約58%、「7万5,000ドルを試す確率」が21%とされており、市場参加者の多くが「一段安リスクは残るが、調整幅は歴史的には許容範囲」と見ていることがうかがえます。
デリバティブでは、10万7,000ドルから8万5,000ドルへの急落11日間で、過去24時間だけでも18.7億ドル相当のポジションが清算され、その87%がロング側でした。一週間累計の清算規模は50〜70億ドルに達し、BTCとETHの建玉(OI)はそれぞれ約585.5億ドルと327.2億ドルまで縮小していますが、依然として多くの取引所で資金調達率はプラス圏にあり、ロング優位のレバレッジ構造が続いている点には注意が必要です。
投資家心理面では、こうした急落と清算の連鎖にもかかわらず、FundstratのTom Leeは「2026年1月末までにビットコインは15万〜20万ドルに到達し得る」と強気スタンスを崩しておらず、BitMEX創業者Arthur Hayesも「ドル流動性との比較では下値余地が限定されつつあるが、急ぎ過ぎるべきではない」と慎重な押し目観を示しています。つまり、短期はオプション・レバレッジ調整に支配されつつも、中長期の強気シナリオはまだ完全には崩れていない状況です。
規制・政策アップデート
米金融政策の方向感が依然不透明なため、12月FOMCとその後の利下げペースがビットコインを含むリスク資産全体のボラティリティを高止まりさせており、規制・制裁関連ニュースもマイニングやインフラ企業のリスクプレミアムを押し上げています。
米金融政策と金利見通し
9月・10月に合計50bpの利下げを実施したにもかかわらず、米連邦準備銀行ボストン連銀の柯林斯総裁は「12月会合での追加利下げには慎重であるべき」と発言しており、現行政策スタンスを「適度に引き締め的」と位置付けています。一方、CME FedWatchでは12月に25bp利下げが行われる確率が約69.4%まで上昇し、据え置きの確率は30.6%に低下しており、市場はすでに「年内最後の小幅利下げ」をかなり織り込んでいる状態です。
この「慎重なFRBと楽観的な市場」のギャップが、ビットコインのボラティリティを高める要因になっています。リスクオフが強まる局面では、AIグロース株やハイイールド債と同じくビットコインも売られやすく、11月後半の急落局面ではテック株の調整と歩調を合わせて8万ドル前後まで下押しされました。一方で、CryptoQuantのKi Young Juは「2025年末までは強い反発を期待しづらいが、来年以降の流動性回復がゴールドやビットコインの再評価につながる」としており、短期のタイトな金融環境と長期のインフレヘッジ需要が綱引きする構図が続きそうです。
制裁・規制リスクとマイニング・取引所
米国はビットコインマイニング大手Bitmainに対する「Operation Red Sunset」と呼ばれる国家安全保障調査を進めており、マイニング機器が遠隔操作で電力網にリスクを与えないか、輸入関税の適正などを精査しています。また、英国国家犯罪捜査局(NCA)はロシア制裁回避に関与した疑いで128人を逮捕し、3,260万ドル相当の暗号資産と現金を押収するなど、制裁・マネロン関連の取締りは強まる一方です。
これらの動きは、マイニングハードウェアや取引所株のリスクプレミアムを押し上げるだけでなく、「特定国・特定企業に依存したインフラ集中リスク」への市場の警戒を高めています。とりわけ、すでに地理的に米国・欧州へバリデータが集中しがちなイーサリアムなどのPoSチェーンでは、規制当局のスタンス次第で検閲リスクが再び意識される可能性があります。
企業・資金調達・プロジェクト動向
価格調整が進む一方で、国家・上場企業・財庫(トレジャリー)・インフラプロジェクトはそれぞれ異なる時間軸でポジションを取り続けており、これがボトムゾーンでの需給の厚みを決める重要なファクターとなっています。
ビットコイン財庫と企業バランスシート
ビットコイン財庫企業Strategyは、保有する約65万BTCについて「現在水準であれば71年間の配当支払いを賄える」とX上で説明し、年率約1.41%の価格上昇が続けば配当原資をカバーできると試算しました。もっとも、この試算は「すべての保有BTCを売却または担保にできること」や「税務・市場ショックの影響が限定的であること」など複数の前提に依存しており、コミュニティからはレバレッジ構造と指数除外リスクに対する懸念も根強くあります。
一方、財庫企業Nakamotoは、2.5億ドル規模のコンバーチブル債に関連する担保としてCoboに1,003BTCを追加提供したことがオンチェーンデータから確認されており、価格下落に伴うマージンプレッシャーに対応するかたちでBTC担保を厚くしています。こうした「企業バランスシートにビットコインを組み込む動き」は、価格上昇局面ではレバレッジを通じて上昇を加速させる一方、今回のような急落局面では追加担保や清算リスクを通じて下落を増幅し得る両刃の剣です。
レバレッジの脆さは個人レベルでも顕在化しています。ある大口投資家は5〜7月にかけてAaveでUSDTを借り入れながら700WBTCを平均11万6,603ドルで取得しましたが、最近の急落で清算が迫り、8万5,628ドルで全量を取引所に送金して売却した結果、約2,168万ドルの損失を確定させました。企業・個人を問わず、「ビットコインを担保にした循環レバレッジ」は価格がトレンド転換した局面で極めて大きな損失を生み出し得ることが改めて示されたと言えます。
国家・長期投資家の積み増し
こうしたレバレッジ勢とは対照的に、国家レベルでは長期目線での買い増しが続いています。エルサルバドルは過去7日間で1,098.19BTCを追加購入し、保有残高は7,478.37BTC、評価額は約6.32億ドルに達したと公表しました。また、米不動産企業Cardone Capitalも185BTCの追加取得を行うなど、長期のバランスシート運用としてビットコインを組み込む動きは広がっています。
センチメント的には、CryptoQuantやGlassnodeが指摘するように、今回の急落で短期保有者の損失確定がFTX崩壊時以来の水準に達している一方、長期保有者の売却は限定的です。国家・機関・企業財庫がDCA(ドルコスト平均法)的に買い増しを続けることで、7万〜8万ドル台には「時間分散された現物買い主体の厚いサポート」が形成されつつあると見ることもできます。
イーサリアムとインフラ・新興プロジェクト
イーサリアムでは、Vitalik ButerinがDevconnectで「量子コンピュータが2028年頃までに楕円曲線暗号を破る可能性があり、所有権の前提が根底から揺らぎ得る」と警告し、ポスト量子暗号(PQC)への移行が長期ロードマップの重要テーマとして前面に出てきました。現在、イーサリアムはL2をテストベッドとして格子暗号やハッシュベース署名を試験導入し、本格的な暗号アルゴリズム移行を段階的に進める方針です。
同時に、スポットETFやDAT(デジタル・アセット・トラスト)を通じて約1,258万ETH、供給量の10%超が機関投資家の手に渡っているとされ、イーサリアムが「開発者主導のオープンインフラ」から「ウォール街の金融コモディティ」へと性格を変えつつある点も議論を呼んでいます。バリデータの地理的集中(北米・欧州)やカストディ事業者への依存も進んでおり、量子リスクと合わせて「技術・経済・地理の三重集中」をどう緩和するかが今後数年の重要な論点です。
インフラ・決済領域では、CircleがUSDCをガスとして用いるL1「Arc」のテストネットを公開し、EVM互換と可変的なプライバシー設定、Circleフルスタックとの統合を活かしてRWAや企業向け決済の基盤を狙っています。既にP2P法定通貨チャネルや安定通貨ウォレット、クロスチェーンブリッジなど11プロジェクトがテストネット上で稼働を開始しており、熊相場下の「タスク系エアドロ期待」だけでなく、USDC流動性を活かした実需ユースケースの実験場として注目されています。
イベント
短期のボラティリティが高止まりする中で、今後1〜2週間のマクロイベントと業界ニュースのタイミングが、押し目の深さや反発の起点に影響を与える可能性があります。
来週のマクロ・業界カレンダー
米国では感謝祭ウイークに入るため指標の数自体は限られるものの、11月22日までの新規失業保険申請件数や小売売上高、PPI、コンファレンスボード消費者信頼感指数など、景気減速とインフレ鈍化の度合いを測るうえで重要なデータが前半に集中して発表されます。これらの結果は12月FOMCでの利下げ幅や来年前半の金利パスに影響し、結果としてビットコインのリスクプレミアムにも跳ね返ってくることになります。
業界固有のイベントとしては、CoinbaseによるBTC・ETHの内部ウォレット移行が予定されており、大規模なオンチェーン移動がチェーンアナリティクスで監視される見込みです。今回の移行はあくまで内部アドレス間の再配置であり、入出金アドレスやサービス提供への影響はないと説明されていますが、フィッシング詐欺などを誘発しやすい局面であることからユーザー側の注意も必要です。また、SolanaエコシステムではCoinbaseによるVector.funの買収やTensor関連の再編など、メメコイン取引からNFTマーケットプレイスまで含めたエコシステム再編が進行しており、「どのレイヤーが次の強気局面で取引フロントエンドを握るか」が焦点になりつつあります。
▽ FAQ
Q. 2025年11月のビットコイン急落幅はどれくらいですか?
A. 2025-11-21時点でビットコインは10月初の12.6万ドルから約8.2万ドルまで下落し、およそ35%の調整となっています。
Q. 現物ETFのフローは直近どう変化しましたか?
A. 11月21日にビットコイン現物ETFが9.03億ドルの純流出となった後、翌営業日には2.38億ドルの純流入へ反転し、富達FBTCが1.08億ドル流入で首位となりました。
Q. エルサルバドルや企業財庫は何をしているのですか?
A. エルサルバドルは7日間で1,098.19BTCを買い増し、StrategyやNakamotoなど財庫企業も担保追加や長期保有方針を維持する一方、一部はレバレッジ清算に追い込まれています。
Q. イーサリアムと量子コンピュータの関係が話題なのはなぜですか?
A. Vitalik氏が2028年前後に量子計算が現行ECDSAを破るリスクを指摘したためで、イーサリアムはL2で格子暗号などPQCを試験しながら、ガバナンスやバリデータ分散も含めた長期的な設計見直しを進めています。
Q. 投資家はこの局面でどこに注意すべきでしょうか?
A. レバレッジ比率やETFフロー、企業財庫の担保状況といった「売りのトリガー」になり得る指標を確認しつつ、ドル建て予算と時間軸をあらかじめ決めたうえで段階的なエントリーを検討するのが一般的な対応です。
■ ニュース解説
ビットコインは10月の史上最高値から35%調整し、ETFからの資金流出やレバレッジ清算、マクロ環境の不透明さが重なったため、短期的には8万ドル割れリスクを意識せざるを得ない状況が続いています。一方で、ビットコイン現物ETFやETH現物ETFが急落後に再び純流入へ転じ、エルサルバドルや企業財庫の買い増しも続いていることから、中長期の需要はむしろ押し目を拾う方向に動いていることが読み取れます。
投資家の視点:短期的には、清算ドミノとマクロ指標発表に伴うボラティリティ拡大を前提に、レバレッジや証拠金管理を最優先するフェーズと捉えるのが一般的です。そのうえで、中長期のビットコイン・イーサリアムへの投資を検討する場合は、ETFフロー・企業財庫・国家保有・オンチェーン指標(損益分布や長期保有率など)を組み合わせて「どの価格帯で現物需要が厚いか」を見極め、ドル建て予算と時間分散を徹底することがリスク管理の基本になります。
※本稿は一般的な情報提供を目的としており、特定銘柄の売買や投資行動を推奨するものではありません。
(参考:PANews)





