▽ 要約
概要:BISが0〜100点のAMLスコア導入を提案
出口規制:閾値未満は換金拒否で不正遮断
反応:信頼性向上と検閲懸念が並立
影響:割引市場や業界分断の可能性も
BISは2025年8月、ブロックチェーンの公開履歴を用いて各コインのリスクを数値化し、オフランプで参照する「ビットコイン クリーンさ格付け」を提案した。結論は明快で、スコア閾値を下回る資産は現金化を止めることで不正流入を抑える。読者は、仕組み・影響・想定課題を把握し、自社の対応設計に役立てられる。
提案の要点
公開履歴を用い各単位(UTXO/残高)の不正関連性を確率評価するため、オフランプで閾値管理し“ケアの責務”を促す仕組みだ。
BIS Bulletin No.111は、(1)パーミッションレス型では従来の仲介者起点のAMLが効きにくい、(2)公開台帳の来歴情報を逆手にとる、(3)点数は0〜100で、閾値以下の換金を拒否できる、(4)当局・事業者に「duty of care」を割り当てる——を柱に据える。BTCはUTXO単位、ステーブルは口座型残高のウォレット来歴を基軸に判定する。
クリーンさ(cleanliness)の定義
違法アドレスとの接触確率が低いほどクリーンと見なされるため、許可リスト経由は高得点となり、拒否リスト接触で低下する。
「クリーンさ」は環境文脈ではなくAML健全性を指す。スコアが高い資産はKYC済みの許可リストを主経由、低い資産は制裁・闇市・ランサム等の拒否リスト関連経路を含む。BISはこの尺度を“客観的な共通言語”として、各主体のコンプライアンス判断を容易にすることを狙う。
算定方法と技術的枠組み
履歴可視化とリスト運用を接合し、閾値・自動判定・責務配置を柔軟に設計することで実装可能となる。
履歴解析とリスト設計
フルノード履歴からUTXOやウォレットの来歴をたどり、分析会社のラベリング等で疑わしい経路を特定するため、許可リストと拒否リストの両面でスコアを組み立てる。
具体的には、KYC済みウォレットから来た資金は高スコア、拒否リスト関連を直接・間接に経由すれば減点。Graphイメージに示されるように、混在資産は「閾値以上/未満」で扱いを分ける発想だ。
閾値設定とオフランプ運用
国・事業者のリスク許容度に応じた閾値を設定できるため、厳格運用では許可リスト経由のみ換金可、緩やか運用では拒否リスト接触の有無確認にとどめる。
実務では、入金時にAPIで履歴照会し、基準未達は出金・換金を停止、当局報告へ。罰則を伴う「ケアの責務」を明確化することで、交換業・銀行に遵守動機を与える。
スコアの更新と継続管理
ブラックリストやタグが更新されるためスコアは参照時点の最新履歴に依存し、運用上は定期再評価が前提となる。
盗難や制裁指定の追加があれば関連UTXO/ウォレットの評価は下がる一方、長期に問題ない経路へ滞留すればリスク低減が示唆される。運用要件としては、更新頻度・異議申立て・説明可能性の整備が鍵だ。
業界の反応(賛否の分岐)
信頼性向上の期待がある一方で、検閲懸念とファンジビリティ低下への警戒が強いため、受容と反発が併存する。
肯定派は、誤受入れリスクの低減、銀行取引の円滑化、機関資金の参入促進を評価する。否定派は、検閲耐性の毀損、政治的恣意性、匿名性の後退を問題視。とりわけ「汚れコインのディスカウント市場」出現や、マイニングプールの方針差による業界分断を懸念する声がある。取引所はコンプラの明確化を歓迎しつつ、過剰ブロックや顧客紛争のリスク管理を求める。
規制・市場への波及
国際標準・インセンティブ設計・副作用対策が並走するため、制度設計と執行のバランスが重要となる。
共通スコアは国境を越えた協調を助け、FATF等の既存枠組みに接続し得る。スコアの可視化は事業者の内部統制投資を促すが、一方で汚染履歴資産の割引取引、流動性の歪み、対抗策(ミキサー/DEX移行等)も誘発し得る。スコア算出主体、監査、異議申立て、アルゴリズムの透明性は法制化で補う必要がある。
他地域の動向
匿名性強化通貨の排除、アドレス単位の制裁、トラベルルール実装など、方向性は世界的に収斂している。
日本・韓国のプライバシーコイン上場廃止、UAEドバイの匿名通貨禁止、米OFACのアドレス制裁などは、BIS提案と整合的に「透明な資産だけを金融システムに受け入れる」潮流を示す。各国はスコア制に近い実務(許可/拒否リスト運用)の精緻化を進めている。
▽ FAQ
Q. BIS提案の公表日は?誰の文書?
A. 2025年8月13日付BIS Bulletin No.111で、Aldasoro、Frost、Lim、Perez‑Cruz、Shinの連名です。
Q. クリーンさ格付けのスコア範囲は?
A. 0〜100点で、100が最もクリーン、0が高リスク。UTXOやウォレット履歴に基づきます。
Q. どこでスコアが使われる想定?
A. 取引所や銀行等の“オフランプ”で閾値判定し、基準未満は換金拒否・報告を想定します。
Q. 対象はビットコインだけ?ステーブルコインは?
A. BTC等に加えステーブルも対象。2024年の不正取引の約63%がステーブル由来との分析があります。
Q. 副作用への備えは?
A. 説明可能性、異議申立て、誤判定対応、ファンジビリティ低下への市場設計が必須です。
■ ニュース解説
BISが公開履歴を基にしたAMLスコアを提案したため、オフランプでの換金制御が現実味を帯びる一方で、ファンジビリティ低下とプライバシー侵害の懸念が強まる。
投資家の視点:入出金の経路管理(KYC済み経路の維持)、受領前のアドレススクリーニング、分別管理の強化、取引所ポリシーの確認(閾値・異議申立て)を基本動作に。将来の導入に備え、社内記録(TxID・相手方情報)の保存ポリシーを明文化しておくとよい。
※本稿は投資助言ではありません。
(参考:Bank for International Settlements)