香港キャセイの子どもの絵チャリティNFT|マイルで買える寄付の仕組みと課題

2022年6月1日、香港の航空会社キャセイパシフィックを傘下に持つキャセイ、香港・深水埗(シャムスイポー)地区で子どもを支援するNPO「The Hub Hong Kong」、そしてNFTの販売サイトArticoinの3者は、子どもたちが描いた絵をNFTにして寄付を募る取り組みを発表しました。NFTはキャセイのマイルでも購入でき、売上は子ども向けの教育プログラムに充てられるとされました。

旧版の記事はこの取り組みを紹介していましたが、コンテストの名前など一部に誤りがありました。この記事では、発表の内容を公式情報で確かめ直し、NFTによるチャリティの仕組みと、その利点と限界を整理します。

何が行われたか:子どもの絵を5,000点のNFTに

取り組みの出発点は、The Hubに通う6歳から18歳の子どもと若者50人以上が参加した絵画コンテストでした。テーマは「My Home in Sham Shui Po(深水埗のわが家)」で、自分の暮らす地域の記憶や物語を描くものです。旧版の記事はテーマを「Deep Water Involved My Home」と書いていましたが、正しくは上記のとおりです。

子どもの部と10代の部からそれぞれ上位5作品、合わせて10作品が選ばれ、これらが合計5,000点の限定NFTとして発行されました。販売条件は次のとおりです。

項目 内容
価格 1点300香港ドル、または5,460マイル
購入方法 キャセイのオンラインショップでマイル、現金、マイルと現金の併用で購入し、Articoinで受け取る。Articoinでクレジットカードやデビットカードで直接買うこともできる
売上の使い道 純収益の全額をThe Hubの子ども向け教育・育成プログラムに充てる
転売 二次流通での売買は想定せず、寄付者向けの記念品として位置づける

The Hubは、マイルで購入できる慈善目的のグリーンNFTとしては初めての試みだとしていました。

背景:深水埗とThe Hubの活動

深水埗は香港でも所得水準が低い地区として知られ、狭い住宅に暮らす家庭が多い地域です。The Hubは2013年に設立されたNPOで、この地区の子どもたちに学習支援や芸術、体験活動の機会を提供しており、会員は3,000人を超えるとされています。

コンテストのテーマが「わが家」だったのは、子どもたちが自分の住む場所をどう見ているかを表現してもらうためです。

キャセイにとっては、マイル会員に新しい使い道を提供しつつ、地域貢献を示す取り組みでもありました。マイルを寄付に回せる仕組みは、現金を出すよりも参加のハードルが低く、航空会社の会員制度と相性のよい方法です。

「グリーンNFT」とは何を意味していたのか

ArticoinはグリーンNFTの販売サイトを名乗り、「Proof of Capacity(容量証明)」という方式のブロックチェーンを使うことで、従来のイーサリアムを使うマーケットプレイスと比べて消費エネルギーを約2,600分の1に抑えられると説明していました。一部のNFTには、インドにある香港の電力会社CLPの風力発電所から生まれたカーボンクレジットを受け取れる選択肢も付けていました。

2022年当時、NFTは発行や取引に多くの電力を使い、環境に悪いという批判を受けていました。これは主に、当時のイーサリアムが大量の計算で取引を承認する方式をとっていたためです。

ただし、イーサリアムは2022年9月に「The Merge」と呼ばれる移行を行い、電力消費を大幅に減らす方式に切り替えました。公式サイトによると、この移行でエネルギー消費は約99.95%減ったとされています。そのため、「NFTは環境に悪い」という批判や、それを前提にした比較は、2022年9月以前と以後で意味が大きく変わっています。

その後どうなったか:成果は公表されず

この取り組みで何点が売れ、いくらの寄付が集まったのかについて、公式な結果の発表は確認できませんでした。The Hubのウェブサイトには2026年時点でも販売ページが残っていますが、集まった金額などの記載はありません。寄付を目的とした企画では、終了後に成果を報告するかどうかが、参加者の信頼に大きく関わります。

また、Articoinの公式サイトには本稿執筆時点で接続できず、現在の運営状況も確認できませんでした。NFTを発行したサイトが運営を終えると、購入者が作品を表示したり移したりできなくなる場合があります。今回のNFTは寄付者向けの記念品という位置づけでしたが、デジタルの記念品であっても、発行元のサービスが続くことが前提になっている点は覚えておく必要があります。

香港のNFT・暗号資産を取り巻く環境

この取り組みが発表された2022年、香港は暗号資産やWeb3の拠点を目指す姿勢を強めていました。その後、香港の証券先物委員会(SFC)は2023年6月1日から暗号資産取引所の免許制度を始め、条件を満たした取引所が個人投資家にもサービスを提供できるようにしています。

一方、寄付者向けの記念品として発行され、転売を想定しない今回のようなNFTは、投資の対象となる暗号資産とは性格が異なります。価格の値上がりを期待するものではなく、寄付の証しとして持つものです。チャリティNFTを検討するときは、それが投資商品として売られているのか、寄付の記念品として配られているのかを最初に確かめると、期待とのずれを防げます。

マイルで寄付できる仕組みも、使い切れずに期限を迎えそうなマイルの行き先として、航空会社の会員にとって分かりやすい選択肢でした。企業の会員制度と寄付を結びつける方法は、NFTを使わない形でも広く行われており、NFTはその記念品を形にする手段のひとつと位置づけられます。

チャリティNFTの利点と限界

旧版の記事は、NFTの「不可分でかけがえのない性質」によって、慈善活動の汚職や不透明な監査の問題を改善できると書いていました。しかし、この点は慎重に考える必要があります。

  • 記録されるのは売買だけ:ブロックチェーンに残るのはNFTの発行や移転の記録で、集まったお金が実際に何に使われたかまでは記録されません。
  • 公開型かどうか:誰でも確認できる公開型のブロックチェーンでなければ、外部から取引を検証することは難しくなります。
  • 結果の開示が重要:寄付の透明性を高めるのは、NFTそのものより、団体が集めた金額と使い道を公表することです。

一方で、寄付に「作品を持つ」という楽しみを加えられること、若い世代や海外の人に参加してもらいやすいことは、チャリティNFTの利点です。子どもの作品がそのまま寄付の記念品になる今回の形は、支援する側とされる側をつなぐ工夫として評価できます。

日本の読者が押さえておきたいこと

日本でも、NFTを使った寄付や地域支援の取り組みは行われています(チャリティーNFTの事例)。参加する場合は、次の点を確認するとよいでしょう。

  1. 寄付先の団体が実在するか:団体の公式サイトや登記、過去の活動報告を確かめます。
  2. 売上のうち寄付に回る割合:「売上の一部」なのか「純収益の全額」なのかで、実際の寄付額は大きく変わります。
  3. 税制上の扱い:日本で寄付金控除の対象になるのは、国や自治体、認定NPO法人など一定の団体への寄付です。海外の団体への寄付やNFTの購入は、原則として控除の対象になりません。
  4. 「チャリティ」をうたう詐欺:災害や社会問題に便乗して寄付を装うNFTも出回ります。NFT詐欺の手口も参考にしてください。

よくある質問

Q. キャセイのチャリティNFTはいくらで買えましたか?

A. 1点300香港ドル、または5,460マイルでした。キャセイのオンラインショップでマイルや現金で買うか、Articoinでカードで直接購入できました。

Q. 売上は何に使われましたか?

A. 純収益の全額が、香港・深水埗のNPO「The Hub Hong Kong」の子ども向け教育・育成プログラムに充てられるとされました。集まった金額の公式な発表は確認できませんでした。

Q. グリーンNFTとは何ですか?

A. ここでは、消費電力の少ないブロックチェーンで発行し、環境への負荷を抑えたと説明されるNFTを指します。なおイーサリアムも2022年9月の移行で電力消費を約99.95%減らしています。

Q. NFTを使えば寄付の透明性は高まりますか?

A. NFTの売買の記録は残りますが、お金の使い道までは記録されません。透明性を高めるには、団体が集めた金額と使い道を公表することが欠かせません。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。