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【要約】
・米国株の不振やAI市場への不安、取引所への大規模ハッキングなど複数要因が重なり、仮想通貨市場が再び大幅下落
・ビットコインは一時9.1万ドルを下回り、イーサリアムも主要サポートを割り込むなど下落が顕著
・Bybitの大規模ハッキング被害は14億ドル相当にのぼり、既に10万ETHが不正換金されたとの分析も
・韓国や米国を中心とした規制環境の変化がリスク回避姿勢を加速
・AI関連銘柄や名人コイン(名人トークン)の失速が目立ち、山寨銘柄全体で売り圧力が増大
・フォーマルなETF申請や市場全体の成熟化などプラス材料もあるが、市場は当面下押しリスクを警戒
暗号資産市場全体が再び下落した背景
仮想通貨市場は2月下旬に入り、再び大幅な下落傾向を示しています。要因としては、米国株の反発失敗やAI市場をめぐる不透明感、さらに大規模ハッキング事件による投資家心理の悪化などが挙げられます。
とりわけ、米国主要株価指数の下落や大口投資家の利上げへの警戒感が色濃く、リスク資産とされる仮想通貨は売りが先行しがちです。加えて、Deepseekと呼ばれるAI関連プロジェクトの台頭がもたらした競合懸念や、一部ハイテク大手の業績不安がAI関連銘柄全般に波及し、暗号資産の押し下げ要因となっています。
Bybit取引所のハッキングと大規模な資金流出
今回の下落局面で特に注目を集めているのが、Bybit取引所に対するハッキング事件です。2月21日以来、同取引所から14億ドル相当のイーサリアム(ETH)と関連トークンが盗まれ、暗号資産史上でも類を見ない規模となりました。
さらに、解析企業Spotonchainの報告によると、盗まれた約49.9万ETHのうち10万ETH(約2.5億ドル)がすでに複数のアドレスに分散後、THORChainなどを介してビットコインやステーブルコインなどに換金されたとされています。残る39.9万ETHはいまだハッカーが保有しており、その保有量はイーサリアム共同創業者ヴィタリック・ブテリン氏やイーサリアム財団を上回るとの指摘もあります。
Bybitは流動性確保のためにブリッジローンを手配したとされますが、今回の事件が市場全体のセンチメントを悪化させたことは否めません。
イーサリアム下落の影響と懸念
Bybit事件の影響を最も受けているのはイーサリアムだと見られています。2,600〜2,800ドル付近の主要なサポート帯を割り込んだことで、一段安を警戒する声が増加。
さらに、一部のトレーダーはBybitが自力でETHを買い戻す可能性を見込み、大量のロングポジションを積み上げていたようですが、その思惑が外れたことで連鎖的なロスカットが発生しました。期日指定の先物決済やオプション市場でも未決済建玉(OI)の減少が目立ち、イーサリアム全体が弱気ムードになっています。
ビットコイン急落と専門家の見解
Arthur Hayes:ビットコインは7万ドルまで下落の可能性
BitMEXの共同創業者Arthur Hayes氏は、ビットコイン価格が急落した局面で、さらなる下振れを予想しています。多くのヘッジファンドがビットコインETFとCME先物の両建てなどで利回りを稼ぐ中、価格が一段安となればこうしたポジションの手仕舞いが進むため、市場全体の売り圧力が増大し7万ドル付近まで下がり得ると述べました。
Quinn Thompson:12ヶ月以内に新高値を付ける確率は低い
暗号資産関連ヘッジファンドLekker Capitalの創業者Quinn Thompson氏は、「今から6〜12ヶ月のうちにビットコインが新高値を更新しない確率は80%」と警告。一方で「9.5万ドル台でも一定の利益確定を視野に入れるべき」と述べるなど、慎重な見方が広がっています。
Matrixport:ビットコインの重要サポート割れ
暗号資産金融企業Matrixportは、ビットコインが上昇ウェッジを下抜けたことでさらなる下落リスクを指摘。特に取引量が少ない状態でのテクニカル崩れは、買い支えの弱さを示すため注意を要するとしました。
各国の規制動向とETFの行方
米国SEC:Cardano現物ETFを受理
Grayscaleが提出したCardano(ADA)に関する現物ETF申請を米国SECが正式に受理しました。ビットコインやXRPなど複数の現物ETF申請がある中、最終的な判断がどう下されるかに注目が集まっています。
韓国:Upbitに新規ユーザの取引制限
韓国金融情報局(FIU)は、国内最大手取引所Upbitの新規登録ユーザに対する暗号資産の入出金を3ヶ月間制限すると発表。マネーロンダリング防止や利用者保護の強化が目的とされますが、流動性低下や取引量の鈍化が懸念され、投資家のリスク回避ムードをさらに高めました。
AI Agent銘柄・名人コインの失速
今年に入り注目を集めたAI Agent関連銘柄や、著名人が名前を冠した「名人コイン」も軒並み下落に転じました。バイラル効果で瞬間的に資金が集まったものの、多くが実用化に至っていない、あるいは話題性に依存していただけとの見方が強く、資金流出のペースが速まっています。
特に名人コインに関しては、川普(トランプ)関連トークンが発端でしたが、後発のプロジェクトが乱立し、投資家の注目と資金が分散・減退。結果的に多くの銘柄で70〜90%を超える暴落が起き、名人トークン市場自体の信頼度が低下しました。
手数料収益モデルへの注目:Hyperliquidの例
相次ぐハッキングや投機的な銘柄の崩壊を受け、投資家の一部では「実需に基づく収益モデルを持つプロジェクト」に資金を振り向ける動きも散見されます。
たとえば分散型取引所(DEX)Hyperliquidは、デリバティブ取引の手数料収益を全額トークンの買い戻しに充てる仕組みを採用。日次取引量が数十億ドルに達することで継続的な手数料が発生し、トークンHYPEの価格を下支えするといった構造が注目されています。市場が軟調な局面でも一定の取引需要があれば収益が見込める点が、投資家の新たな投資先として評価されつつあります。