【要約】
アメリカ大統領に就任したドナルド・トランプ氏とその家族が相次いでMEMEコインを発行し、大口投資家による資金流入や仮想通貨市場の吸血現象、さらにはソラナネットワークの混雑を引き起こすなど、短期間で大規模な波紋を広げています。トランプ自身が発行したTRUMPトークン、続くメラニア夫人のMELANIAトークン、それに伴う価格変動と法的リスク、そして偽ニュースや周辺人物の提言など、複雑に絡み合う最新動向をまとめました。
TRUMPトークンの誕生――大口投資家の攻防
ドナルド・トランプ氏が1月18日に正式にリリースした「TRUMPトークン」は、発行直後から市場に衝撃を与えました。上場時の約0.1824ドルから一時は82ドル近くまで急騰し、最大時のFDV(Fully Diluted Valuation:完全希釈後の時価総額)は約820億ドルに達しています。約2日で450倍もの伸びを見せたことになり、MEMEコイン特有の投機熱を象徴する出来事となりました。
しかし、いわゆる「10U戦神」(少額投資家)が爆益を得られたかというと、必ずしもそうではありません。PANewsの分析によれば、上位1000位の大口アドレスは初回購入時の平均金額が59万ドル(約6500万円)と桁外れに大きく、その平均取得価格も約27ドルにのぼります。こうした大口投資家が市場を牽引し、小口の投資家が追随した形となりました。
さらにTRUMPトークンは発行後からアドレス数が急増し、チェーン上だけでも85万を超える保有者を記録。しかし、トークン上位1000アドレスだけで全流通量の約39%を持つという偏りも判明しています。ある最強の投資家アドレスは発行からわずか1分後に約109万ドル相当を投入し、購入単価は0.1835ドル前後。最高値ベースでは数億ドル以上の評価額に達したとも言われ、内部情報の利用や極めて速い意思決定が推測されています。
そして、トークン価格は最高値付近から60%超下落しており、MEMEコイン特有の乱高下も改めて浮き彫りに。政治的ブランドを持つ大統領発のトークンとはいえ、高いボラティリティは避けられない事例となっています。
続く「第一夫人コイン」MELANIA――急騰と市場への影響
トランプ氏本人のMEMEコイン発行に続き、1月20日には妻であるメラニア・トランプ氏も「MELANIAトークン」を発行し、新たな熱狂を巻き起こしました。上場後わずか数時間で時価総額が130億ドルを超え、累計取引高は13億ドル超に達するなど、短期的に巨大な流動性を集めています。
しかし、その吸血効果は大きく、TRUMPトークンやその他の仮想通貨から資金が急速に流出する「吸血相場」を引き起こしました。TRUMPも一時40ドルを割り込む場面があり、全体のMEMEセクターが大幅に調整されました。さらに、MELANIAの発行過程やトークンロックアップ期間に関しても、チーム分配のロックがわずか30日しか設定されていない点などが疑問視されています。
公式サイトやドメインが前日に作成されたこと、解放スケジュールが不透明な部分があることなどから、投資家の間では議論が絶えません。ソラナネットワーク上の取引急増によりシステム負荷がかかり、主要ウォレットやDEXが混雑・送金遅延に見舞われたことも大きな話題となっています。
偽ニュースに要注意――POWERトークンは実在せず
1月21日に突如拡散された「トランプ大統領が新たなMEMEコイン“POWER”を発行」という情報は、公式アカウントを装ったSNS投稿が発端でしたが、事実無根と確認されています。PANewsも「POWERに関する発表はトランプの公式声明ではない」と報じており、このようなフェイクニュースが投資家心理を混乱させる例が増えている点は、改めて注意が必要です。
仮想通貨界隈では、ニュースと偽情報の拡散スピードが非常に早く、トレーダーのフットワークの軽さとも相まって価格変動が急激に起こりがちです。特に政治家や著名人に関連する偽トークンは、一瞬で大金を集めてしまうリスクもあるため、情報源の精査が不可欠と言えます。
仮想通貨市場への波紋――前Coinbase CTOの提言と懸念
元Coinbase最高技術責任者(CTO)であるBalaji Srinivasan氏は、TRUMPトークンが急速に価値を高めたことに対する法的リスクを指摘し、興味深い案を提示しました。彼によると、もしトランプ氏が大統領として公務に就く段階で多額の暗号資産を保有する場合、「大統領の職務と金銭的利益との衝突」が問題視される可能性があります。
そこで、TRUMPトークンを空投(エアドロップ)する形で多くの国民に配布すれば、利益相反の批判を緩和できるのではないか、とBalaji氏は主張しています。ただし、そのためには数十億ドル相当を還元しなければならず、実現性は未知数です。また、同氏はMEMEコインを「基本的にゼロサムあるいはマイナスサムの宝くじ」と厳しく評価しており、短期の投機としての利用に留めるべきだと警鐘を鳴らしました。
トランプ就任と政府効率部DOGEの訴訟問題
トランプ大統領が就任を終えた直後、イーロン・マスク氏が率いるとされる「政府効率部(DOGE)」をめぐり、複数の訴訟が連邦裁判所に提起されました。報道によれば、このDOGEは連邦諮問委員会法(FACA)の透明性要件を満たしていない可能性が指摘されています。具体的には、会議の公開、記録の保存義務、構成員の多様性といった問題が焦点となっています。
マスク氏は「DOGEの全活動をオンラインで公開する」との見解を示していますが、実際には暗号化メッセージアプリの利用でやり取りされる部分が多く、一般市民が監視しきれない構造だという批判もあるようです。大統領就任直後から取り沙汰されるこうした司法リスクは、政治とテクノロジーの新たな融合が生む混乱の一端でもあります。
新時代のMEMEトークン――政治と投資の狭間
ドナルド・トランプ氏やメラニア夫人による相次ぐMEMEトークンの発行は、投資家だけでなく政治の世界にまで強いインパクトを与えています。TRUMPトークンで見られたように、大口投資家の大規模な資金投入による急騰と暴落は、従来のMEMEコイン以上に注目を集める一方、偽ニュースの氾濫やロックアップを巡る不明点、そして法的リスクなど多くの課題を浮き彫りにしているのも事実です。
さらに、こうした動きがソラナなどのブロックチェーン基盤に異常な負荷をかけ、市場の流動性を大きく左右している点も看過できません。政治的ブランドを伴うトークンは投資と支持の境界を曖昧にし、既存の法や規制の枠組みでは対処が難しい「グレーゾーン」を生んでいます。
一方で、前Coinbase CTOのエアドロップ提言や各方面からの法的・社会的な懸念は、暗号資産が政治・経済にどのような変化をもたらすかを浮き彫りにする格好の例とも言えます。いまやMEMEコインは単なるネットの遊びではなく、政権や国民生活にも影響を及ぼしかねない存在として、ますます目が離せない局面に入りました。