トランプが揺るがす仮想通貨市場――Truth Socialエコシステムの代替トークンからFRB罷免問題まで

【要約】
・トランプ前大統領のメディア企業がTruth Social向けの実用型トークンを検討
・トランプ一家が支援するステーブルコイン「USD1」がBNB Chainで時価総額10億ドルを突破
・もしトランプ氏がFRB議長パウエルの解任に踏み切れば、米国経済と仮想通貨市場に深刻な影響が及ぶ可能性
・米国債とドルの信用が揺らげば、安定資産としての評価が変化し、暗号資産市場に予測不能の波及をもたらす

Truth Social向けトークン構想:トランプメディアの新たな一手

2025年4月末、トランプ前大統領の関連企業である「トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ(Trump Media & Technology Group)」が、Truth Socialのユーザー向けに実用型トークンを導入する可能性を示唆しました。報道によると「Truth デジタルウォレット」を通じて、同社独自の代替トークンを用いた「Truth+ サブスクリプション費用」の支払いが計画されているといいます。将来的には、Truth Socialエコシステム内の決済手段として他のサービスや商品にまで利用範囲が広がる可能性があるとのことです。

既に同社は「Truth.Fi」という金融テックブランドに関する商標出願を済ませており、ダウンロード可能な“デジタルウォレット”ソフトウェアに言及している点が注目を集めています。SNSと独自通貨が連携する事例は過去にもありましたが、トランプ陣営が直接関与しているため、米国政界の動きが仮想通貨の普及にどのような影響を与えるのか、専門家の間でも意見が分かれています。

トランプファミリー支援のステーブルコイン「USD1」がBNB Chainで10億ドル突破

同じく4月末には、トランプ一家の支援を受ける暗号プロジェクト「World Liberty Financial(WLFI)」が発行するステーブルコイン「USD1」の時価総額がBNB Chain上で10億ドル(約1,300億円相当)を超えたとも報じられました。
ブロックチェーン上のデータを見ると、USD1は三度にわたる大規模な増資を経て、BNB Chain上に数億ドル規模の供給量を確保。さらにイーサリアム上の既存の発行量を合算すると、全体の流通量が10.2億ドルを突破したといわれています。
専門家によれば、これほど急速に増資を行った背景には、分散型金融(DeFi)やクロスチェーンの流動性プール、複数の取引所への展開を狙う拡大戦略があるとみられます。昨今、複数のステーブルコインが法規制や運用体制の厳格化により信用力を問われる中、USD1が着実に時価総額を伸ばしている事実は、市場に新たな選択肢を提示しているといえるでしょう。

トランプ vs. パウエル:FRB独立性への挑戦が招く仮想通貨市場への影響

トランプとFRBの対立の背景

トランプ氏は以前から、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ・利下げ方針に強い不満を表明してきました。景気刺激策として利下げを要求するトランプ氏に対し、ジェローム・パウエルFRB議長は経済状況に基づいた慎重な金融政策を崩さず、「政治的圧力から独立した運営」を守ろうとしています。
しかし近年、大統領の意向に背いて金融政策を行うFRBと、経済指標の低迷を票集めに利用したい政治サイドとの衝突がたびたび表面化しており、トランプ氏はSNSのTruth Social上でパウエル氏を名指し批判するなど、両者の対立は頂点に近づいているとの見方があります。

もし解任が実行されたら?

本来、米国大統領はFRB議長をそう簡単に罷免できません。1913年制定の連邦準備法や関連する判例(1935年の「ハンフリー執行者訴訟」)では、議長解任には「正当な理由」が必要とされています。しかし仮に最高裁が大統領に幅広い権限を認める判断を下した場合、トランプ氏が強引にパウエル氏を解任する可能性はゼロではありません。
もしFRB議長が政治的動機で解任されれば、米国の金融政策の独立性に対する市場の信頼は大きく揺らぎます。結果として、米国債の信用力低下から金利上昇を招きかねず、莫大な国債を抱える米国は利払いコストの増大で財政的に苦境に陥るでしょう。さらに「先行き不透明」となったタイミングで投資家がリスク回避を図れば、その動揺は株式や債券だけでなく、仮想通貨市場にも及ぶはずです。

ビットコインやステーブルコインの命運は?

これまでビットコインはハイリスク資産としてNASDAQなどハイテク株と連動しやすいとされてきましたが、貿易問題や政治リスクが顕在化した局面では、むしろビットコイン価格だけが急騰したケースがあります。もし米国の中央銀行が政治の介入で混乱すれば、ドルや国債を「安全資産」とみなしてきた投資家が一気に暗号資産に流入する可能性を完全には否定できません。
一方で、ドル建てステーブルコインは国債を裏付け資産として保有していることが多く、アメリカのソブリンリスクが急上昇すればステーブルコインの信用不安に直結します。発行体が保有する米国債の価値が毀損するおそれがあれば、最悪の場合はステーブルコインの大規模な売りや「取り付け騒ぎ」が起こる可能性もあり得ます。

ニュースの解説

今回のニュースは、トランプ氏の政治的影響が単にSNSサービスやステーブルコインの動向にとどまらず、米国金融当局の独立性やドルの信用へも大きな波紋を広げうるという点で注目に値します。Truth Socialエコシステムにおける実用トークンの登場と、USD1の急拡大は、仮想通貨市場の分散化や新興プロジェクトの勢いを示す一方、主要法定通貨の基盤が揺らげばそれらの安定度も脆弱になりかねません。
米国債やドルの評価が変われば、仮想通貨市場全体がボラタイルな展開に陥るリスクが高まります。ステーブルコインには裏付け資産としての国債が組み込まれているケースが多いため、FRB議長罷免のような政治リスクが現実化する場合、ドルペッグ通貨の信認が深刻な試練を迎えるかもしれません。
一方で、歴史的にみれば大きな経済不安がビットコインなど分散型資産への需要を押し上げる可能性も指摘されています。もし米国で金融政策の独立性が失われた場合、従来の枠組みに依存しない「非中央集権型」の仮想通貨に目を向ける投資家が増えるかもしれません。今後、トランプ氏とパウエル議長の綱引きがどのように進展し、さらに仮想通貨市場にどのような影響を及ぼすのか、引き続き注視する必要があるでしょう。