TIMEPieces(タイムピーシズ)は、米国の雑誌TIMEが2021年に始めたNFTの取り組みです。アーティストの作品をNFTとして販売し、保有者にはTIME.comの閲覧権やイベントへの招待といった特典を付けました。老舗の出版社が「NFTを購読権として使う」ことを試した例として、2022年に大きく報じられました。
旧版の記事は2022年7月の報道をもとに書かれていましたが、発行元の雑誌名や数字、当時の社長の名前に誤りがありました。この記事では公式発表と主要報道で確かめた内容に直したうえで、その後の展開と、会員特典つきのNFTを考えるときに押さえておきたい点をまとめます。
TIMEPiecesの始まりと仕組み
TIMEはまず2021年3月に、表紙をデジタル化したNFTを出品してNFTの世界に入りました。そのうえで同年9月23日、コミュニティ型のプロジェクトとしてTIMEPiecesの最初のコレクションを公開しています。TIMEの発表によると、40人を超えるアーティストが参加し、作品数は4,676点、価格は1点0.1ETHでした。
このコレクションの特徴は、作品そのものに加えて保有者向けの特典を付けた点です。持っている人はTIME.comを創刊100周年にあたる2023年まで制限なく読めるほか、対面イベントへの招待やデジタル体験への参加権も受け取れると案内されました。ブロックチェーンはイーサリアムで、ウォレットをTIME.comに接続すると保有が確認される方式です。
公開直後には、自動で購入するボットが集まって手数料が高騰し、短時間で完売したことも報じられました。のちにTIMEのデジタル部門の責任者は、誰でも参加できる形にしたことで購入競争を招いたと振り返っています。
その後のコレクションとアーティスト・イン・レジデンス
TIMEPiecesは最初のコレクションのあとも作品を出し続けました。代表的なのが、初のアーティスト・イン・レジデンスに選ばれたNyla Hayes氏による「Long Neckie Women of the Year」です。当時12歳のデジタルアーティストだった同氏が、TIMEの「Women of the Year」で取り上げた100人の女性を、首の長い独自の画風で描き直した1,000点のコレクションです。
2022年3月には、イーサリアム共同創設者のヴィタリック・ブテリン氏を表紙にした号を、雑誌1冊まるごとのNFTとして公開しました。この号は一部のTIMEPieces保有者などのウォレットに無料で配布(エアドロップ)されています。音楽をテーマにした「The Beatclub」など、外部の作家と組んだコレクションも続きました。
2023年1月には、作家ディーパック・チョプラ氏と組んだ「The Seven Collection」を販売しました。公式サイトによると、73人のアーティストによる2,400点の本の表紙をNFTにしたもので、ミント価格は0.077ETH、販売は2023年1月22日に締め切られています。
2022年7月に報じられた実績
旧版の記事のもとになったのは、2022年7月にCNBCやDigidayが伝えた内容です。Digidayによると、TIMEはNFT事業を始めてからの約14か月で1,000万ドルを超える利益を上げ、発行したNFTは2万点以上、慈善団体への寄付は約60万ドルに達していました。二次流通での取引総額は5,000万ドルとされ、TIMEはそのロイヤリティも受け取っています。
保有者は約1万2,000人で、そのうち約6,000人がウォレットをTIME.comに接続して無料の購読特典を使っていたと報じられました。NFTの平均販売額は約1,100ドルで、TIMEのデジタル購読の平均価格(約24ドル)を大きく上回っていました。
一方で、当時の報道では、NFTの保有者とTIMEの雑誌読者の重なりは1%ほどとも伝えられています。NFTの売上は、既存の読者ではなく、新しいコレクター層から生まれていたことになります。
旧版記事の誤りと訂正
旧版の記事は、TIMEPiecesを「Fashion Week誌のWeb3コミュニティ活動」と紹介していましたが、正しくはTIME誌の取り組みです。また、TIMEがこれまでに出したNFTを「約2000枚」としていましたが、2022年7月時点の報道では2万点以上です。
「TimePieces NFTを保有し、サイトにリンクしているウォレットは12000個ほど」という記述も不正確でした。報道では約1万2,000人が保有者の数で、そのうちTIME.comにウォレットを接続していたのは約半数の約6,000人です。平均価格も約1,000ドルではなく約1,100ドルと伝えられています。
当時の社長の名前は「キース・G・ロスマン」ではなく、キース・グロスマン(Keith A. Grossman)氏です。さらに旧版は、NFTの平均価格が購読料より高いことを理由に「より投資に値する」と書いていましたが、販売価格の比較は価値や将来の値動きを示すものではないため、この記事ではその評価を削除しました。
「購読をNFTに移す」構想はどうなったか
2022年7月のCNBCのインタビューで、グロスマン氏は将来の購読をNFTに移していきたいという考えを語りました。従来の購読者はデータを利用される「借り手」だが、NFTなら購読の恩恵を受けながら自分のデータを管理できる「所有者」になれる、という趣旨です。同時に、NFTによる所有はまだ初期段階で、ウォレット接続のような手間を意識させない仕組みが必要だとも述べています。
そのグロスマン氏は2022年末でTIMEを離れ、暗号資産の決済サービスを手がけるMoonPayにエンタープライズ部門のプレジデントとして移りました。CNBCなどが2022年11月に伝えています。
この記事を書いている2026年時点で、TIMEがすべての購読をNFTに切り替えたという発表は確認できませんでした。TIMEPiecesの新しい大型コレクションも、2023年1月の販売以降は確認できていません。公式サイトのnft.time.comは残っていますが、表示されているのは2023年1月に締め切られたコレクションの案内でした。
会員特典つきNFTを持つときに確認したいこと
TIMEPiecesの例からわかるのは、NFTに付いた特典は発行元の運営に左右されるという点です。TIME.comの閲覧権は最初から「2023年まで」と期限が決まっていました。作品の画像やトークンはブロックチェーン上に残っても、サイトの閲覧やイベントへの招待は、発行元が提供を続けるかどうかで決まります。
購入を検討するときは、特典の内容と期限、特典を受けるための手続き(ウォレット接続や本人確認など)、発行元が特典を変更・終了できる条件を事前に読んでおくと安心です。特典の終了後は、NFTが作品としての価値だけで評価される点も意識しておきたいところです。
国内でも会員権としてNFTを使う例は増えています。たとえば宿泊の権利をNFTにした仕組みは、NOT A HOTELのNFT会員券の活用法で詳しく取り上げています。発行元の事業が続くかどうかを見きわめる点は、海外の事例と共通です。
ロイヤリティと二次流通の見方
TIMEの利益の一部は、NFTが転売されるたびに発行元へ入るロイヤリティから生まれていました。ただし、2022年後半以降は、マーケットプレイスがロイヤリティの支払いを任意にする動きが広がり、発行元が二次流通から安定して収入を得る前提は揺らいでいます。仕組みはNFTのロイヤリティについての解説も参考になります。
コレクションの状況を見るときは、フロア価格(最も安い出品価格)だけでなく、実際の取引件数や保有者数の推移、発行元が新しい特典や作品を出しているかを合わせて確認するのが基本です。取引がほとんどない場合は、表示されている価格で売れるとは限りません。
なお、この記事は特定のNFTの購入や売却を勧めるものではありません。過去の売上や平均価格は2022年当時の数字で、現在の価値を示すものではない点に注意してください。
日本の読者が押さえておきたい税金の扱い
日本に住む人が海外のNFTを売買した場合も、所得税の申告が必要になることがあります。国税庁は、NFTを譲渡して得た利益について、取引の内容に応じて譲渡所得や雑所得などに区分されるという考え方を示しています。イーサリアムでNFTを買った時点でも、手持ちのETHを使ったことになり、その値上がり分が所得として扱われる点に気をつけましょう。
また、特典として無料で受け取ったNFTやエアドロップの扱いも、状況によって変わります。取引の記録(日時、数量、支払った暗号資産と円換算額、手数料)を残しておくと、申告のときに困りません。
区分の考え方はNFTの課税区分をまとめた記事で整理しています。個別の事情によって扱いが変わるため、判断に迷う場合は税務署や税理士に確認してください。
よくある質問
Q. TIMEPiecesはどの雑誌のNFTですか?
A. 米国のTIME誌が2021年に始めたNFTの取り組みです。旧版の記事では「Fashion Week誌」としていましたが誤りでした。
Q. TIMEPiecesを持っているとTIME.comを読めますか?
A. 最初のコレクションの特典は、TIME.comを創刊100周年の2023年まで無制限に読めるというものでした。期限のある特典なので、2026年時点で同じ特典が続いていることは確認できませんでした。
Q. TIMEはすべての購読をNFTに移したのですか?
A. 2022年に当時の社長がその構想を語りましたが、実際にすべての購読がNFTに切り替わったという発表は確認できませんでした。構想を語った社長は2022年末にTIMEを離れています。
Q. TIMEPiecesのNFTは日本から買えますか?
A. イーサリアムのNFTなので、対応するウォレットとマーケットプレイスを使えば日本からも二次流通で取引できます。ただし特典の有無や取引の状況は購入前に確認し、売買で利益が出た場合の税金にも注意してください。
この記事の出典
- TIME Launches TIMEPieces | TIME
- TIMEPieces Announces its first Artist-in-Residence Nyla Hayes | TIME
- TIME Releases First-Ever Full Magazine Issue as an NFT | TIME
- Time has earned more than $10M in profit, one year after embracing the blockchain | Digiday
- How 99-year-old publisher Time is leading legacy media into the NFT future | CNBC
- Crypto startup MoonPay hires Time president to lead its enterprise business | CNBC
- TIMEPieces NFT(公式サイト)
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




