ロシアのアート集団プッシー・ライオットは2022年夏、米テキサス州で行った抗議行動の場面をNFTにして、女性のリプロダクティブ・ライツ(妊娠・出産に関する自己決定の権利)を支える団体への寄付を募りました。旧版の記事は抗議の時期を「3月」、ウクライナ支援の落札額を「約675万円」としていましたが、一次報道で確かめると、抗議は6月、落札額は約675万ドルでした。
この記事では、何が起きたのかを日付つきで整理し直し、抗議の記録をNFTにするという試みの仕組みと、その後の関係者やプロトコルの動きを追います。社会運動とNFTの関わり方を考える材料として読んでください。
テキサス州議会議事堂での抗議(2022年6月)
Decryptの報道によると、2022年6月9日、プッシー・ライオットのメンバーらはテキサス州オースティンの州議会議事堂で、3階から「MATRIARCHY NOW!」と書いた横断幕を垂らしました。行動には、創設メンバーのナジェージダ(ナージャ)・トロコンニコワ氏が率いるUnicorn DAOの参加者と、ラコタ族の先住民グループIkiya Collectiveが加わっています。
時期は、暗号資産業界の大型会議「Consensus 2022」がオースティンで開かれていた最中でした。トロコンニコワ氏は、テキサスはリプロダクティブ・ライツをめぐる争いの最前線で、全米が注目していると語っています。抗議の場面は記念のNFTとして発行され、集まった資金はすべてリプロダクティブ・ライツのために使うと発表されました。
旧版の記事はこの抗議を「3月」の出来事としていましたが、報道の日付から6月の誤りとみられます。
「Proof of Protest」NFTの仕組み
続いて7月上旬、グループは「Proof of Protest(抗議の証明)」と名づけたNFTを発行しました。背景には、2022年6月24日に米連邦最高裁が人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた判例(ロー対ウェイド判決)を覆したことがあります。
このNFTは、DeFi(分散型金融)のAaveを手がける開発チームが作ったソーシャル基盤「Lens Protocol」で発行されました。Lensでは投稿そのものを「収集(collect)」でき、SNSに投稿するのと同じ手軽さでNFTを作れます。ミントはLens対応のアプリ「Lenster」上で24時間だけ受け付けられました。当時のLensはPolygon上で動いており、イーサリアム本体より手数料を安く抑えられる点も、寄付の窓口として使いやすい理由でした。
集まった暗号資産の寄付先として名前が挙がったのは、Center for Reproductive Rights、Fund Texas Choice、SisterSong、NARAL Pro-Choice America、Fos Feminista、Planned Parenthood、URGEの7団体です。旧版の記事では団体名の区切りが崩れ、URGEが文の外に出ていたため、ここで改めて並べました。なお、このNFTでいくら集まり、各団体にいくら渡ったかは、公開情報では確認できませんでした。
UkraineDAOとUnicorn DAO:それ以前の資金集め
トロコンニコワ氏はこの年、NFTを使った資金集めをいくつも手がけています。代表的なのが、ロシアのウクライナ侵攻直後に立ち上げたUkraineDAOです。CoinDeskなどによると、ウクライナ国旗の画像を1点もののNFTにしたオークションが2022年2月26日から3月2日まで開かれ、2,258ETH(当時約675万ドル)で落札されました。
落札したのは個人ではなく、共同購入の仕組み「PartyBid」を通じてお金を出し合った3,271人のグループです。出資額に応じてLOVEトークンが配られ、売上はウクライナの市民や兵士に物資を送る団体Come Back Aliveに送られました。旧版の記事が「約675万円」としていたのは、ドルと円を取り違えた誤りです。また旧版はトロコンニコワ氏を「彼」と書いていましたが、同氏は女性です。
同じ年の5月には、女性やLGBTQ+のアーティストを支えるUnicorn DAOが450万ドルを調達したとCoinDeskが報じています。作品を買い集めて保管・展示することで、偏りのあるデジタルアート市場の構成を変えるのが狙いとされていました。
その後:メンバーはロシアで訴追、Lensは運営体制が変化
2026年9月時点で確認できたその後の動きを整理します。
- トロコンニコワ氏:The Moscow Timesによると、ロシアの裁判所は2023年11月、同氏の欠席のまま逮捕を認めました。2025年1月にはロシア当局が国際指名手配の対象に加えたと、ロシアの通信社が伝えています。
- ほかのメンバー:The Art Newspaperによると、2025年9月、モスクワの裁判所はマリア・アリョーヒナ氏ら5人に対し、ロシア軍に関する「虚偽情報」を広めたとして、欠席裁判で8〜13年の刑を言い渡しました。トロコンニコワ氏はこの5人には含まれていません。
- Lens Protocol:その後、独自のネットワーク「Lens Chain」に移り、2026年1月にはMask Networkが今後の製品開発を主導すると発表しました。プロトコルの所有権や資金の移転はないと説明されています。抗議NFTを発行したLensterは、のちに「Hey」へ名前を変えています。
Lens Chainの技術面はLens Chain V3とAvail DAの解説でも取り上げています。
抗議の記録をNFTにする意味
NFTは、誰がいつ発行し、誰が持っているかをブロックチェーンに残せます。抗議の写真や動画をNFTにすると、場面そのものを改ざんされにくい形で記録しつつ、共感した人から少額ずつ資金を集められます。国をまたいで送金でき、銀行口座を凍結されやすい活動家でも資金を受け取りやすいという事情もありました。
一方で、ブロックチェーンに残るのは「そのNFTが発行された」という記録であって、写っている内容が本物かどうかまでは保証しません。画像や動画そのものは多くの場合ブロックチェーンの外に保存されており、保存先が消えれば見られなくなることもあります。記録としての価値は、発行者が誰かと、元データをどう保管しているかに左右されます。
もう一つの論点は、誰がその場面を「所有」するのかです。旧版の記事は、居合わせた観光客がスマートフォンで撮影した映像が使われたと書いていましたが、撮影者が誰かは一次情報で確認できませんでした。撮影者と発行者が別の人である場合、NFTを発行する前に使用の許可を取っているかも、記録としての信頼性を左右します。
NFTを通じた寄付に参加する前に確かめたいこと
- 発行者が本人か:アーティストや団体の公式サイト・公式SNSから、発行元のアドレスやページが案内されているかを見ます。有名人の名前を使った偽のミントサイトは珍しくありません。
- 寄付先と送金の記録:寄付先の団体名だけでなく、送金先のアドレスや、送金後の報告があるかを確認します。ブロックチェーン上の送金は誰でも追えるため、報告がないこと自体が判断材料になります。
- 使うネットワークと手数料:同じNFTでも、どのチェーンで発行されているかで必要な暗号資産や手数料が変わります。
- 日本の税金:暗号資産で支払ったり寄付したりすると、取得時より値上がりしていた分が所得として扱われる場合があります。扱いは状況で変わるため、国税庁の資料で確かめてください。NFTの課税の考え方はNFTの税金の解説にまとめています。
寄付を目的にしたNFTは、転売で利益を得るためのものではありません。購入額は戻らない前提で、支援したい活動かどうかで判断するのが自然です。
よくある質問
Q. プッシー・ライオットの抗議NFTはいつ発行されましたか?
A. テキサス州議会議事堂での抗議は2022年6月9日で、その場面の記念NFTが発行されました。続く7月上旬に、Lens Protocolを使った「Proof of Protest」NFTが24時間限定でミントされています。
Q. UkraineDAOの国旗NFTはいくらで落札されましたか?
A. 2,258ETHで、当時の相場で約675万ドルです。PartyBidを通じて3,271人が共同で入札し、売上はウクライナ支援団体Come Back Aliveに送られました。
Q. Lens Protocolは今も使えますか?
A. 独自ネットワークのLens Chainに移って運営が続いており、2026年1月からはMask Networkが製品開発を主導しています。当時のアプリLensterは現在Heyという名前になっています。
Q. 寄付目的のNFTを買うときの注意点は?
A. 公式の案内から発行元を確かめること、寄付先への送金の記録や報告があるかを見ること、暗号資産で支払う際の税金の扱いを確認することが基本です。
この記事の出典
- Decrypt:Pussy Riot Crashes Texas State Capitol, Mints Commemorative Ethereum NFT
- The Cryptonomist:Pussy Riot: NFTs for women's reproductive rights
- CoinDesk:Ukrainian Flag NFT Raises $6.75M for Country's War Efforts
- CoinDesk:UnicornDAO Raises $4.5M to Empower Women and LGBTQ NFT Creators
- The Moscow Times:Russia Arrests Pussy Riot Co-Founder Tolokonnikova in Absentia
- The Art Newspaper:Pussy Riot members sentenced to prison in absentia over anti-war performances
- Lens:Mask Network to Steward the Next Chapter of Lens
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




