2022年8月31日、米国のチケット販売大手チケットマスター(Ticketmaster)は、ブロックチェーン「Flow」を開発するDapper Labsと組み、イベントの主催者がチケットにひもづくNFTを発行できるようにすると発表しました。旧版の記事はこの発表を紹介したものですが、提携先の説明が混乱しており、確認できない数字も含まれていました。
この記事では、発表の中身を整理し直し、翌2023年に始まったNFT保有者向けのチケット販売までの流れを追います。あわせて、NFTとチケットを組み合わせる仕組みが何を変え、何を変えないのか、日本の転売規制との関係も考えます。
2022年8月の発表:主催者がNFTを配れるように
TechCrunchやCoinDeskの報道によると、発表の要点は次のとおりです。
- 使うチェーン:Dapper Labsが開発したFlow。Dapper Labsは、NBAの名場面の動画をNFTにした「NBA Top Shot」などで知られます。
- 主催者ができること:イベントの前、最中、後のいずれかのタイミングで、チケットの購入者にNFTを配れる。NFTを特典の会員証のように使ったり、出演者との交流の権利をつけたり、単なる記念品として配ったりできる。
- これまでの実績:チケットマスターは、さまざまな主催者を通じて、すでに500万個を超えるNFTをFlow上で発行していた。
チケットマスターの幹部は、NFTを希望する主催者に「この新しい技術を、大規模に身近なものにする機会がある」と述べていました。
旧版の記述を直す
旧版は「NFTを中心としたブロックチェーンとしてDapper Labs社が開発したもので」と、主語の抜けた文で説明していました。正しくは、Flowというブロックチェーンを開発したのがDapper Labsで、チケットマスターはそのFlowを採用した、という関係です。
また、旧版にあった「チケット価格の最大30%をサービス料として徴収」「提携の報道でFlowのトークンが7.5%上昇」「アポロシアターやThe Black Crowesなどのプロジェクト」といった記述は、今回参照した主要な報道では確認できませんでした。
チケットマスターが2010年にライブ・ネーションと合併し、ライブ・ネーション・エンターテインメントの一部になったという旧版の説明は事実ですが、「世界市場をリード」「ほぼ独占的」といった評価は、この記事では扱いません。
NFLでの試み:ポリゴンからFlowへ
チケットマスターのNFTの取り組みは、米プロフットボールのNFLとの協力から始まりました。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2021年11月 | Polygonを使い、NFLのチケット購入者に試合の「仮想の半券」をNFTで配る |
| 2022年2月 | 第56回スーパーボウルのチケット保有者、7万人以上にNFTを配る |
| 2022年8月 | Flowを採用し、主催者向けにNFTの発行機能を広げると発表 |
| 2022年シーズン | NFLの選ばれた100試合で、来場者全員にNFTを配る。全32チームのホームゲームを少なくとも3試合ずつ含む |
| 2023年3月 | イーサリアムのNFT保有者に限定したチケット販売の機能を発表 |
紙の半券を記念に取っておく習慣を、デジタルに置き換えたものといえます。
2023年:NFTを持つ人だけが買える先行販売
2023年3月、チケットマスターは、特定のNFTを持つ人だけがチケットを買える「トークンゲート販売」の機能を公開しました。最初に使ったのは米国のメタルバンドAvenged Sevenfoldです。
このバンドは、ファンクラブの会員証の役割を持つ1万個のNFTコレクション「Deathbats Club」を発行していました。NFTの保有者は、ニューヨークとロサンゼルスでのアリーナ公演のチケットを先に買う権利を得て、Decryptの報道によると、二つの公演で約1,000枚がこの仕組みを通じて購入されました。
この機能はイーサリアム上のNFTに対応していました。2022年の「チケットを買った人にNFTを配る」形から、2023年には「NFTを持つ人がチケットを買える」形へと、NFTの使い方が逆向きに広がったことになります。
2026年9月時点で、これらのNFTの配布やトークンゲート販売が現在どの程度続いているかは、公式の発表で確認できませんでした。
NFTとチケットを組み合わせると何が変わるか
チケットにNFTを組み合わせる仕組みには、次のような利点が期待されています。
- 記念品として残る:来場の証明がデジタルで手元に残り、あとから見返せる。
- ファンの識別:何度も来場した人や、会員のNFTを持つ人に、優先的な販売や特典を用意しやすい。
- 転売の管理:チケットそのものをNFTにする場合、転売の価格の上限や、転売時に主催者へ手数料が入る設定を組み込める可能性がある。
ただし、チケットマスターの2022年の発表は、チケットそのものをNFTにするのではなく、チケットとは別に記念品や特典としてNFTを配る内容でした。入場の仕組みが変わったわけではない点に注意が必要です。
課題もあります。来場者の多くは暗号資産のウォレットを持っておらず、NFTを受け取る手順そのものが負担になります。無料で配られる記念品のNFTは、受け取っても開かれないまま終わることも少なくありません。大量に配られたNFTは売買の相手も限られるため、転売で値段がつくことを期待するものではなく、あくまで思い出の品と考えるのが現実的です。主催者にとっては、配って終わりにせず、次の公演の先行販売や会員特典につなげられるかどうかが、NFTを使う意味を左右します。
日本の転売規制との関係
日本では、2019年6月14日にチケット不正転売禁止法が施行されました。販売時に転売を禁止する旨を明示し、購入者の本人確認などを行った「特定興行入場券」を、業として定価を超える価格で転売したり、そのために買い取ったりすることは禁止されています。違反すると、1年以下の懲役(2025年6月からは拘禁刑)または100万円以下の罰金、あるいはその両方が科されます。
チケットをNFTにしても、この法律の考え方は変わりません。ブロックチェーン上で自由に売買できる形にすれば、かえって高額転売を招くおそれもあります。日本でNFTチケットを設計する場合は、転売の可否や価格の上限をどう管理するかが大きな論点になります。
記念品として配られるNFTは入場券ではないため、この法律の対象ではありません。ただし、NFTの売買で利益が出れば、税金の対象になりえます。考え方はNFTの税金の記事で整理しています。
受け取る側が気をつけたいこと
- 受け取りの方法:NFTを受け取るのに、どのウォレットやアカウントが必要か。運営側が管理するアカウントか、自分で管理するウォレットか。
- 特典の条件:NFTを売ったり移したりすると、特典の権利も一緒に移るのか。
- 偽の案内:「限定NFTを受け取る」という偽のメールやSNSのメッセージで、ウォレットの署名を求める手口に注意する。
- サービスの継続:配布元のサービスが終わっても、NFTを自分のウォレットに残せるか。
NFTの仕組みの基本はNFTとは何かで解説しています。
よくある質問
Q. チケットマスターのNFTはチケットそのものですか?
A. 2022年8月に発表された仕組みは、チケットとは別に、記念品や特典としてNFTを配るものでした。入場にNFTが必要になったわけではありません。
Q. NFTを持っているとチケットを先に買えるのですか?
A. 2023年3月に公開されたトークンゲート販売では、主催者が指定したNFTの保有者だけが買える販売を設定できました。どのNFTが対象になるかは、公演ごとに主催者が決めます。
Q. NFTの形にしたチケットなら、日本で自由に転売できますか?
A. できません。チケット不正転売禁止法の対象になる入場券を、業として定価を超える価格で転売することは、NFTの形であっても禁止されています。転売の条件は販売時の規約で確認してください。
この記事の出典
- TechCrunch:Ticketmaster taps the Flow blockchain to let event organizers issue NFTs tied to tickets
- CoinDesk:Ticketmaster Partners With Blockchain Firm Dapper Labs to Issue NFTs for Live Events
- Ticketmaster Business:Ticketmaster Launches Token-Gated Sales
- Decrypt:Ticketmaster Debuts NFT-Gated Ticket Sales, Starting With Avenged Sevenfold
- 文化庁:チケット不正転売禁止法
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




