BRC-20は、Bitcoin上に残したデータを一定の規則で読み取り、代替可能なトークンの残高を管理する仕組みです。2023年3月にdomo氏が始めた実験で、画像などを記録するOrdinalsの用途を、数量で扱うトークンへ広げようとしました。
ただし、BitcoinそのものにEthereumと同じトークン実行機能を追加したわけではありません。記録が置かれる場所と、その記録を解釈して残高を計算する仕組みが異なります。初期の設計と、2026年9月27日に確認した拡張の資料を分けて説明します。
2023年3月に始まったトークンの実験
domo氏の原文書は、インスクリプションを使ってオフチェーンの残高状態を作れるか試す実験だと説明しています。Bitcoin上の代替可能性について唯一の標準を決めたものではなく、設計の改善余地が大きいことも明記していました。
現在のBRC20開発資料の歴史説明は、最初のトークンであるordiの作成日を2023年3月8日としています。旧記事には3月9日開始とありましたが、日付の違いを裏付けなく時差によるものと決め付けることはできません。本記事では資料の記載に沿って、3月に始まった実験として位置付けます。
原文書には設計を根拠とする金銭的な判断を強く控えるよう求める記述もあります。これは当初の実験性を理解するための説明です。のちに取引市場ができたことだけで、作者が当初から価値の上昇を保証していたことにはなりません。開発の意義とトークンの市場評価は、分けて考える必要があります。
Ordinalsへの記録とBRC-20の残高は別の層
Ordinal Theory Handbookは、インスクリプションを、Bitcoinの最小単位であるsatに関連付けたコンテンツとして説明しています。画像やテキストなどの内容をBitcoin取引に記録し、Ordinalsの規則で追跡する仕組みです。BRC-20はこの方法を使い、処理の種類や数量などをJSONという形式で記します。
Bitcoinのノードが検証するのはBitcoinの取引です。一方、BRC-20の名前、発行上限、残高、操作が有効かどうかは、インデクサーと呼ばれる解析システムがBRC-20の規則に沿って判断します。Bitcoin上にデータが載ったことと、有効なBRC-20残高として認識されることは同一ではありません。
例えば、発行上限を超える記載や、使える残高を超える移転指定は、文字として記録されていても、意図した数量の残高にはならない場合があります。保存先がBitcoinだからといって、書き込んだ数値がすべて残高として認められるわけではありません。利用するウォレットや市場がどの規則に対応しているかも関わります。
deploy・mint・transferの役割を分ける
初期設計の中心は三つの操作です。deployはトークンの名前や最大供給量などを定義する処理、mintはその定義に従って数量を得る処理、transferは残高を別の相手へ移すための処理です。deployしただけで、最大供給量のすべてが作成者の残高になるという意味ではありません。
| 操作 | 何を記録するか | 誤解しやすい点 |
|---|---|---|
| deploy | 識別名、上限などの定義 | 定義と全数量の取得は別 |
| mint | 取得する数量 | 上限や一回当たりの条件に従う |
| transfer | 送る数量の指定 | 記載と、その後の移転を区別する |
原設計では、mintの残高はmintインスクリプションの最初の所有者に付与されます。そのインスクリプションを後で他人へ渡すだけでは、同じ数量の残高が自動的に相手へ移るわけではありません。画像NFTの売買と同じ感覚で操作すると、何を移しているのかを取り違えます。
transferは、まず送る数量を指定した記録を作り、その有効な記録を相手へ移すという二段階で説明されています。この転送用の記録は何度も使える送金指示ではありません。取引画面に見えるインスクリプションと、インデクサー上で管理するトークン数量を区別することが、初期仕様を読む際の要点です。
合計残高と、次に使える残高は一致しないことがある
Layer 1 Foundationの仕様資料は、合計残高、利用可能な残高、転送用に割り当てた残高を区別しています。画面ごとに違う残高が表示される場合、まずどの種類の数量を示しているかを確認する必要があります。
仕組みを説明するため、仮に合計800単位のうち、300単位の転送用記録を有効に作成した場合を考えます。まだ相手へ移していなくても、別の操作に使える残高は500単位となります。合計が800と表示されているからといって、さらに600単位の転送用記録を有効に作れるわけではありません。
この例は残高の区分を示す仮定であり、実際のウォレットを操作した記録ではありません。サービスの画面では、承認待ちの取引や解析の進行状況も別に示されることがあります。数字が違うだけで紛失や不正と即断せず、操作の段階と、参照している残高の定義を照合する必要があります。
また、同じインスクリプションを見ていても、解析システムの実装や対応する仕様が違えば判断がずれる可能性があります。Bitcoinの取引IDを確認することに加え、対象のトークン名、操作の種類、有効性を確認する視点が必要です。一般的なBTC送金の確認だけですべてを判断できるとは限りません。
ERC-20との違いと、BRC2.0の位置付け
ERC-20はEthereumなどのスマートコントラクトで使われるトークンの規格です。BRC-20は名前が似ていても、初期設計で同じ実行環境を提供したわけではありません。残高を移すという利用上の目的が近くても、処理をどこで検証し、どの規則で確定させるかが違います。
一方、現在の開発資料はBRC2.0のProgrammable Moduleを説明しています。これはBRC-20の記録方式を土台に、EVM互換のコントラクト処理を追加する拡張です。コントラクトの作成や呼び出しをインスクリプションとして記録し、専用のインデクサーがEVMの処理を実行する構成とされています。
したがって、「Bitcoinの全ノードがEVMコントラクトを実行するようになった」という説明は正確ではありません。Bitcoinの取引順序を利用する部分と、インデクサーがコントラクトの状態を計算する部分を分ける必要があります。また、この拡張を2023年3月の初期BRC-20が最初から持っていた機能として紹介することもできません。
開発資料は2025年の拡張の登場を説明していますが、本記事では個別のアプリやすべての市場の対応を実測していません。ある資料で機能が説明されていることと、手元のウォレットや取引サービスがその機能を使えることは別です。初期仕様、改訂された基本仕様、拡張モジュールのどれを扱う説明かを確かめてください。
古い件数や市場予測を、現在の実績にしない
旧記事は日次インスクリプション数や、2025年のBitcoin NFT市場規模に関する予測を載せていました。しかし、インスクリプション全体の件数はBRC-20だけの利用件数とは限らず、将来予測は実績でもありません。今回、元の集計条件や予測と同じ対象の実績を再現確認していないため、確定した成果としては掲載していません。
domo氏の原文書にも、デモ用Duneダッシュボードはすでに壊れている、または古くなっているという注記があります。過去の紹介記事から開ける資料でも、残高確認の現役サービスとして使えるとは限りません。文書が残っていることと、表示内容が現在の状態を反映していることは別です。
BRC-20を理解する際は、まず何を記録し、誰がどの規則で残高を計算するのかを押さえると、宣伝や相場情報と仕組みを分けて読めます。新しい機能が増えたことは、特定のトークンの価値や売却のしやすさを保証しません。本記事は資料に基づく解説であり、トークンの発行・移転や売買を実行した手順書ではありません。
よくある質問
Q. BRC-20はBitcoinの公式な追加機能ですか?
A. Bitcoin取引に記録したデータを、BRC-20の規則でインデクサーが解釈する仕組みです。BitcoinのノードがBRC-20の残高規則を直接検証するわけではありません。
Q. mintのインスクリプションを渡せば残高も移りますか?
A. 基本仕様では、mintのインスクリプションの移転だけで残高は変わりません。残高の移転には有効なtransferの処理を区別する必要があります。
Q. BRC2.0は初期のBRC-20と同じですか?
A. 初期の操作はdeploy・mint・transferが中心でした。現在説明されているBRC2.0は、専用インデクサーによるEVM互換処理を加える拡張として区別します。
この記事の出典
- domo:BRC-20実験の原文書
- Ordinal Theory Handbook:Inscriptions
- Layer 1 Foundation:BRC-20仕様
- BRC20 Knowledgebase:仕組み
- BRC20 Knowledgebase:歴史と拡張
- BRC20 Knowledgebase:Programmable Module
※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。




