Yahoo香港のメタバースNFTイベント(2022年6月)の内容とその後

2022年6月、米Yahoo(ヤフー)の香港法人は、ブロックチェーン型メタバース「Decentraland(ディセントラランド)」の中で、香港の人向けのバーチャルコンサートやゲーム、NFTアート展示を行う期間限定企画「Yahoo Metaverse」を実施しました。新型コロナの行動制限が続く香港で、人が集まれる場所をオンライン上に用意するという狙いでした。

旧版の記事はこの企画を紹介していましたが、Meta(旧Facebook)の別の発表が混ざっていたほか、市場規模の数字に誤訳があり、「投資に値する」という表現も含んでいました。この記事では、当時の報道で確認できる事実を整理し直し、その後メタバースとNFTを取り巻く状況がどう変わったか、読者がいま同じような企画に参加するときに気をつけたい点までをまとめます。

何が起きたか:Yahoo香港の「Yahoo Metaverse」

香港のニュースサイトや暗号資産メディアの報道によると、Yahoo香港は2022年6月中旬に、Decentraland上でのバーチャルイベントを発表しました。Cointelegraphは6月16日付でこの企画を報じ、Yahooが香港の住民向けに仮想空間でのイベントやコンサートを開くと伝えています。Yahoo香港の現地ページでは、企画の期間を2022年6月13日から6月30日までとしていました。

内容は大きく三つです。香港の芸能人やインフルエンサーが出演するバーチャルコンサートなどのパフォーマンス、メタバース内を歩き回って参加するゲーム、そして地元アーティストによるNFT展示です。参加にはパソコンのブラウザと、暗号資産ウォレットのMetaMask(メタマスク)が必要で、当時はスマートフォンからは参加できないと案内されていました。

Yahoo香港の担当者は、メタバースを使えば時間や物理的な場所に関係なく人をつなげられると説明し、行動制限のもとでも人と交流する機会をつくりたいという趣旨を述べていました。企画は現実の会場で開くイベントではなく、あくまで仮想空間の中で完結するものでした。

NFT展示「観塘」とバスケットボールNFTの配布

企画の柱のひとつが、九龍東部の観塘(クントン)地区を題材にしたNFT展示です。英語圏の報道では「The Abyss of Kwun Tong」という名前で紹介され、再開発で街並みが大きく変わりつつある観塘を、地元のアーティスト4人が仮想空間の中に作品として再現するという内容でした。クリエイティブプロデューサーの梁氏は、狙いを「技術を使って人間らしさを残すこと」と説明していました。

もうひとつが、参加者にNFTを配るゲームです。現地の案内によると、会場内に置かれた「Yahoo」マーク付きのバスケットボール6個を集めると、ドイツのイラストレーター、Andy Gellenberg氏がデザインした限定のバスケットボールジャージNFTと交換できる仕組みでした。デザインはレア度の異なる3種類で、どれが届くかはランダム、配布先は参加者のウォレットで、受け取りまで最大2週間程度かかると案内されていました。

このように、当時の企業によるメタバース企画は「来場の記念品としてNFTを配る」形が多く、NFTそのものを販売して収益を得るというより、参加の証明や話題づくりとして使われていました。

旧版記事の誤りと、正しい事実関係

旧版の記事には、いくつか訂正が必要な記述がありました。主なものを整理します。

  • 学校・ギャラリー・カフェとの提携:旧版は、Yahooの企画の説明に続けて「Metaは学校、アートギャラリー、カフェなどと提携」と書いていましたが、これはYahooではなくMeta(旧Facebook)が同じ時期に発表した別の取り組みです。Metaは香港でVR・ARの体験企画を進め、中環街市でのNFT展示や、カフェでのVR体験などを予定していました。
  • 「約8年後に5億ドル」:旧版は、NFT関連の収支が約8年後に5億ドルに達すると書いていましたが、当時の報道で引用されていたのはマッキンゼーによる「メタバース関連の支出が2030年までに最大5兆ドル規模になりうる」という推計で、対象も金額も異なります。
  • サムスンのETF:旧版は、サムスン電子の資産運用部門がこの技術に焦点を当てたETFを準備していると書いていました。実際にはサムスン・アセット・マネジメント(香港)が「Samsung Asia Pacific ex NZ Metaverse Theme ETF」(銘柄コード3172)を2022年7月7日に香港証券取引所へ上場したもので、対象はNFTではなく、メタバースに関連するアジア太平洋の上場企業の株式です。

また、旧版の「この技術に関連するプロジェクトは投資に値する」という結びは、根拠のない投資判断にあたるため削除しました。JPモルガンがDecentraland内に仮想ラウンジを開いたことは当時の報道で確認できますが、それは同社のブランド発信の取り組みであり、メタバース関連の資産の値上がりを示すものではありません。

背景:コロナ禍の香港と2022年のメタバースブーム

2022年前半の香港では、新型コロナの感染対策として、飲食店や公共施設の利用にワクチン接種証明を求めるなどの厳しい制限が続いていました。Cointelegraphも、飲食店などに入るために陰性証明などが求められる状況を背景として紹介しています。人が集まるイベントを開きにくい中で、仮想空間を代わりの交流の場にするという発想が企業の間で広がっていました。

世界的にも、2021年秋にFacebookが社名をMetaに変えたことをきっかけに、メタバースへの関心が急速に高まっていました。DecentralandやThe Sandboxといったブロックチェーン型のメタバースでは、土地(LAND)がNFTとして売買され、企業が仮想店舗やイベント会場を構える例が相次ぎました。Yahoo香港の発表の直後には、DecentralandのトークンMANAが一時的に上昇したとも報じられています。

Yahoo香港の企画は、こうした流れの中で、メディア企業が読者との接点を仮想空間に広げる実験のひとつだったといえます。なお、日本の「Yahoo! JAPAN」は現在LINEヤフー株式会社が運営しており、香港のYahooとは別の会社です。

その後どうなったか(2026年時点)

企画のあと、メタバースとNFTを取り巻く環境は大きく変わりました。2022年後半には暗号資産市場の下落が続き、Decentralandについては同年10月、分析サイトDappRadarのデータをもとに「1日のアクティブユーザーが数十人程度」とする報道が出ました。Decentraland側は、取引を伴わない来訪者も含めれば月間のアクティブユーザーは5万人を超えると反論しており、利用者の数え方によって見え方が大きく異なる状況でした。

香港でYahooの横に並んでいたMetaも、2023年3月にInstagramとFacebookでのNFT(デジタルコレクティブル)機能の提供を終えると発表しました。同社は、クリエイター支援の軸をリール動画の収益化や決済機能など、より多くの利用者に関わる分野に移すと説明しています。Yahoo香港が同様のメタバース企画を継続的に開いているかどうかは、今回の調査では確認できませんでした。

一方、香港では2022年末から翌年にかけて行動制限が段階的に解除され、あわせて政府が暗号資産の産業振興に舵を切りました。2023年6月には暗号資産取引所の免許制度が始まり、その後はステーブルコインの規制整備も進んでいます。メタバース企画のきっかけだった「集まれない状況」は解消され、関心の中心は規制の整った取引や決済へと移っていきました。

こうした企画に参加するときに知っておきたいこと

企業のメタバースイベントで配られるNFTは、多くの場合「参加記念品」です。受け取ったNFTに売買の相場がつくとは限らず、配布元の企画が終わると、表示や利用の場がなくなることもあります。受け取る側は、記念品としての価値と金銭的な価値を分けて考えるのが無難です。

参加に暗号資産ウォレットが必要な企画では、偽の配布ページにも注意が必要です。公式を装ったサイトでウォレットを接続させ、署名を求めて資産を抜き取る手口は、人気イベントの時期に特に増えます。配布ページのURLは主催者の公式サイトやSNSの告知から確認し、シードフレーズ(復元用の単語)は誰にも入力・送信しないようにしてください。NFT受け取り専用のウォレットを分けておくのも有効です。

Decentralandを初めて使う場合は、アカウントや仮想IDの作り方を先に確認しておくと、当日に慌てずに済みます。手順はDecentralandで仮想IDを作る手順の解説記事にまとめています。

日本の読者向け:制度と税金の扱い

海外企業のメタバースイベントに日本から参加すること自体は、特別な手続きを必要としません。ただし、参加のためにMANAなどの暗号資産を購入する場合は、日本で金融庁に登録された暗号資産交換業者を使うのが基本です。登録のない海外業者の利用は、トラブルが起きても国内の制度による保護を受けにくくなります。

イベントで無料配布されたNFTを受け取った場合や、それを売却した場合の税金は、取引の内容によって扱いが変わります。国税庁はNFTに関する情報をFAQの形で公表しており、無償で受け取った場合や、売却して利益が出た場合の考え方が示されています。記念品を受け取っただけで直ちに多額の税が生じるケースは多くありませんが、売却などで利益が出たときは、記録を残したうえで最新の案内や税理士に確認してください。

香港の暗号資産政策のその後については、香港のデジタル資産政策2.0を解説した記事で詳しく扱っています。

よくある質問

Q. Yahoo香港のメタバース企画はどこで開かれましたか?

A. ブロックチェーン型のメタバース「Decentraland」の中で開かれました。現実の会場で開くイベントではなく、パソコンのブラウザとMetaMaskを使って仮想空間に入る形式で、期間は2022年6月13日から6月30日までと案内されていました。

Q. 学校やカフェとの提携はYahooの企画ですか?

A. いいえ。学校、アート施設、カフェなどと組んでVR・AR体験を行う計画は、同じ時期にMeta(旧Facebook)が香港で発表した別の取り組みです。旧版の記事ではこの二つが混ざっていました。

Q. 配布されたNFTはいまも売買できますか?

A. 配布されたNFTの現在の取引状況は確認できませんでした。一般に、イベントの記念品として配られたNFTは売買の相場がつかないことも多く、価値が保証されるものではありません。

Q. 日本のYahoo! JAPANと関係はありますか?

A. ありません。香港のYahooは米Yahoo(Yahoo Inc.)のグループで、日本のYahoo! JAPANはLINEヤフー株式会社が運営する別の会社のサービスです。

この記事の出典

※本記事は公開情報をもとにした一般的な情報提供であり、投資の勧誘や助言ではありません。暗号資産・NFTの価格は大きく変動します。最新の情報は各公式発表をご確認ください。