▽ 要約
ハイライト GPPにUSDC統合、銀行が即時送金を試行可能。
スケール 日次5兆ドル処理の決済網に新たな清算手段。
テック 法定通貨指示の裏でUSDC清算、KYC/AMLも維持。
コンテクスト XRPL対応とGENIUS法で採用機運が加速。
国際送金の遅さと高コストを解消できるのか—その答えに直結する動きが、CircleとFinastraのUSDC統合です。日次5兆ドル規模のGPPにデジタルドル決済を接続し、銀行は既存オペレーションのまま即時・低コストの選択肢を得ます。USDC国際送金を既存インフラへ“差し込む”設計のため、コンプライアンスや為替管理の枠組みも維持しやすく、検証から商用化への橋渡しが容易になります。
提携の実像—GPPにUSDCを統合
GPPの決済ハブにUSDC清算を接続したため、銀行は既存の送金指示を変えずに、裏側の清算のみを高速・低コストなデジタル通貨へ切替えられる。
今回の戦略提携は、Finastraの決済ハブ(第1弾はGlobal PAYplus)とCircleのUSDCインフラを接続するものです。送金指示は従来どおり法定通貨建てで発行し、清算部分のみをUSDCに置換。これにより、多段のコルレス・チェーンに全面依存せずとも、銀行は“もう一つの清算レール”を選択できるようになります。発表では、GPPが日次5兆ドル超のクロスボーダー・フローを処理し、Finastraは130超の国で8,000社(上位50行中45行)を顧客に持つ点が強調されました。
銀行は何を得るのか
既存ワークフローを維持したまま清算のみ高速化できるため、検証コストが低く、商用移行も段階的に進められる。
銀行側のオペレーションはSWIFT等の既存運用を保ちつつ、個別トランザクションでUSDC清算を選択可能です。KYC/AMLや制裁・為替管理はGPPの枠組みに乗るため、リスク管理と即時性の両立が図れます。移行は“置換”ではなく“増設”であり、失敗時のリスクや教育コストを抑えたA/B運用が可能です。
仕組み—フィアット指示のままUSDC清算
法定通貨の送金指示を維持したため、会計・税務・為替の実務整合性を損なわずに清算の即時化だけを先取りできる。
送金元で金額相当のUSDCに変換→ブロックチェーンで移転→受取側で現地通貨へ償還、の直線的フローです。週末・祝日を跨いでも24/7で移転でき、調停・着金確認はオンチェーンで即時に可視化されます。銀行はノストロ最適化や流動性管理の改善余地を得ます。
従来ネットワークとの比較—速度・コスト・可用性
RTGSの営業時間や中継行の有無が律速となる従来型に比べ、USDC清算は24/7稼働で中継コストと待ち時間を抑制できる。
コルレス型の国際送金は、複数行を経由することで手数料が累積し、着金まで1〜3営業日かかるのが一般的でした。一方、USDC清算は中継ノードが少なく、ネットワークに依存する手数料のみで、実行時間は数秒〜数分のレンジに収まります。平日稼働に縛られないため、週末や時差の影響も受けにくく、トラッキングもオンチェーンで即時です。
スピードとコストのベンチマーク
清算時間は秒〜分、手数料はネットワーク依存だが中継行手数料が不要となり、少額送金の採算性が改善する。
SWIFT gpiの高速化は進むものの、ルートや営業時間の非連続性が遅延要因になります。USDC清算では連続稼働と単純経路により、リテール規模の国際送金でも送金総コストを圧縮しやすく、B2Bでは支払サイト短縮がキャッシュ・コンバージョン・サイクルの改善に寄与します。
透明性と成功率
オンチェーン記録により即時の可視化と照合が可能なため、途中失敗や調査コストを抑え、成功率とCXの向上が見込める。
ブロックチェーン上の台帳で状態が逐次確定するため、経路不明・再調査といった手戻りを削減できます。ガバナンス上も、KYC/AML・制裁チェックはGPP側で担保されるため、実務整合性を保ったまま監査可能性を高められます。
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Ripple/XRPとの関係と相違
ボラティリティを持つXRP中継と、価値安定のUSDC清算は設計思想が異なるが、USDCのXRPL展開で両者は補完関係を強めつつある。
RippleはXRPとRippleNetで送金最適化を追求してきましたが、銀行にとってはブリッジ資産の価格安定性が採否の閾値になりやすい側面があります。USDCは1:1の米ドル連動で価値が予見可能なため、会計・ヘッジ運用がシンプルです。2025年6月にUSDCがXRPLで稼働し、同社のRLUSDも進展するなど、実装面では共存・相互補完が進んでいます。
橋渡し資産の安定性
USDCは完全準備・償還性を備えるため、決済途中の価値変動リスクを抑え、受取額の予測可能性が高い。
XRPは秒単位の運用でリスク最小化を図る設計ですが、変動リスクをゼロにはできません。一方、USDCの準備資産・開示・償還枠組みは、銀行のコンプライアンス審査や会計処理の確度を押し上げます。
協調の芽—USDC on XRPLとRLUSD
USDCのXRPL展開と、RLUSDの制度整備・保管体制の強化により、レールと資産の相互運用が現実解として広がっている。
XRPLの高速性や決済実績(累計数十億件)と、ステーブルコインの価値安定性が重なる領域では、銀行・フィンテック双方にとって実装難易度とリスクのバランスが良化しています。
インパクト—銀行・事業者・規制当局
外為・ノストロの最適化や手数料構造の見直しが進む一方、預金流出懸念や発行体規制の厳格化など新たな課題も顕在化する。
銀行:ノストロ・プレファンディング縮減と着金即時化で運転資金効率が改善します。他方、手数料収入の圧縮や預金の一部がステーブルコインに移る懸念があり、発行・流通に関与する戦略や商品付加価値の再設計が求められます。
送金・決済プロバイダー:銀行が自前で低コスト即時送金を提供できるようになると、個人送金の棲み分けが変わります。既存事業者はステーブルコインレールを併用した現金オン/オフランプや加盟店決済の差別化が鍵に。
利用者(個人・企業):少額国際送金やB2B支払いのT+0化、料金低下、資金可用性の向上が恩恵です。企業は分散配置の予備資金を圧縮し、キャッシュマネジメントを刷新できます。
規制当局:米GENIUS法などで枠組みが整備され、消費者保護・準備資産・監督分担が明確化。一方で、銀行と非銀行発行体の規制パリティ、透明性・リアルタイム開示の標準化が焦点になります。
市場の反応と展望
主要インフラへの統合が“実証から本実装”へモメンタムを与え、発行体・カード網・銀行連合の競争と協調が同時進行で加速する。
の時価総額は約2,7〜2,9千億ドル規模まで拡大し、機関・カード網・銀行の参入が相次いでいます。今回の統合は、インターネット・ネイティブな清算手段を既存の銀行レールに組み込む象徴的なマイルストーンであり、今後は貿易決済、証券・トークナイズド資産のDVPなど周辺領域へ拡張が見込まれます。銀行連合による共同ステーブルコイン構想も浮上しており、実装競争の舞台は“どのコインか”から“どのインフラで動かすか”へと移りつつあります。
▽ FAQ
Q. 発表の日時と対象は?
A. 2025年8月27日、CircleとFinastraがGPPへのUSDC統合を発表し、世界の銀行向けに提供されます(5兆ドル/日規模)。
Q. 実務で何が変わる?
A. 送金指示は法定通貨のまま、清算をUSDCに切替可能となり、KYC/AMLや為替管理は既存GPPで継続します。
Q. Ripple/XRPとの関係は?
A. USDCは価値安定の橋渡し資産で、2025年6月にXRPLでも稼働。RLUSD等と補完関係が進展しています。
Q. 規制面の整合は?
A. 米GENIUS法(2025-07-18)や日本の改正資金決済法(2023)で枠組みが整い、発行体要件と開示が明確化しています。
■ ニュース解説
USDC清算がGPPに統合されたため、銀行は既存フローを維持しつつ清算のみを即時・低コスト化でき、一方で規制・監督の整合と銀行の収益構造見直しが進む。
CircleとFinastraがGPPにUSDCを接続し、フィアット指示のままUSDCで清算可能になった。ステーブルコイン市場拡大と各国の制度整備が進み、XRPLなど複数レールでの相互運用が広がるため、銀行のノストロ削減やB2B送金のT+0化、手数料構造の再編、預金シェア移動への備えが課題となる。
投資家の視点:採用の実証→本実装の段階にあるため、(1) 規制準拠(準備資産・開示頻度・監督当局)(2) 接続先(カード網・銀行ハブ・CBDC実験)(3) 収益モデル(手数料逓減下の付加価値)を軸にプレイヤーを評価するのが一般的です。マルチチェーン対応や法域ごとのライセンス取得状況は実装速度の先行指標になります。
※本稿は投資助言ではありません。
(参考:Circle Pressroom,PR Newswire,U.S. Treasury)