▽ 要約
ビットコイン BITCOIN法は100万BTCを5年取得。
ゴールドカード 100万ドル寄付で移民審査を迅速化。
レギュレーション ゲンスラー発言とBitGoのIPOが指標。
政策・規制・市場が同時多発的に動く米国で、仮想通貨を巡る意思決定の地殻変動が起きている。BITCOIN法の戦略備蓄、富裕層向けゴールドカードやH‑1B新費用、報道発言、SECの路線転換、BitGoのIPOまで、一次情報を基に米国仮想通貨戦略を俯瞰し、投資家が直近で押さえるべき「何が変わったか」を解説する。
ビットコイン備蓄構想:BITCOIN法と政権の温度感
1百万BTCの戦略備蓄を5年で構築し20年保有する法案が提出され、政権内でもビットコイン活用論が拡大したため、財政と市場への影響が論点となる。
米ワイオミング州のシンシア・ルミス上院議員は「BITCOIN法」を上程し、財務省の分散型金庫で政府保有BTCを管理する戦略備蓄の創設を掲げた。取得は年20万BTC・5年で計100万BTC、取得後20年間は原則売却不可で、売却は連邦債務の償還目的に限定される。財源はFRB還流金や保有金の評価替えなど既存資源の多角活用を想定し、赤字計上を避ける設計だ。トランプ大統領も「ビットコインを国家レベルで取り込むべき」と言及しており、与党内の支持が広がる一方、市場への需給影響や価格変動リスクの精査が求められる。
法案の骨子と財源スキーム
取得上限は年20万BTC・総計100万BTCで、FRB還流金や金証券の評価替えを活用し赤字を生じさせないと設計されたため、財源の中立性が焦点だ。
購入は市場攪乱を避けるための透明な手順を規則で定め、既存の政府保有BTC(押収分等)は売却せず戦略備蓄に集約する。四半期ごとの「プルーフ・オブ・リザーブ」公表と第三者監査を義務付け、鍵管理の厳格化と公開アテステーションで説明責任を担保する。
政治・市場反応
大規模購入は需給を歪め得る一方で国家保有は信認向上要因となるため、購入手順の透明性と保有ルールの厳格化が必須となった。
トランプ氏は2024年のインタビューで「35兆ドルの債務を“クリプト小切手”で」と発言し、競争相手国に遅れない積極姿勢を示した。ただし、価格高騰やボラティリティ拡大の副作用も懸念される。市場面では段階的・分散的な取得、入札・相対の組合せ、機微情報の厳格管理がカギとなる。
移民・報道政策:ゴールドカードと“違法”発言の波紋
富裕層誘致の新ビザとH‑1B追加費用が導入され、同時にテレビ報道を“違法”とする発言が相次いだため、法的正当性と産業影響に注目が集まる。
トランプ大統領は大統領令で「ゴールドカード」を創設し、個人100万ドル(企業スポンサーは200万ドル)の金銭的ギフトを根拠に、移民ビザ審査の迅速化を指示した。実務は商務省・国務省・DHSが90日以内に整備する。加えて、国外所得に税制上の優遇を与える「プラチナカード」(500万ドル)構想も示されたが、こちらは議会承認が必要とされる見込みだ。
H‑1Bの10万ドル追加費用
9月21日発効の10万ドルは新規申請に適用されるとホワイトハウスが説明したため、IT企業やインド人材を中心に採用計画の見直しが広がる。
政権はH‑1Bの乱用抑止と賃金水準の底上げを掲げる一方、企業側は人材獲得コストの急騰とプロジェクト停滞を懸念。例外規定(国家利益)も示され、運用詳細と法廷審査の行方が注目される。
「ネガティブ報道は違法」発言と放送規制論
大統領が放送免許の剥奪に言及し否定的報道は“違法”と述べたため、第一修正との整合性を巡り与野党と法曹界から批判が起きた。
深夜番組の休止を巡る論争やFCCの発言も重なり、政府によるメディアへの「ジョーボーニング(圧力)」の疑義が拡大。保守陣営内からも将来のブーメランを懸念する声が上がり、司法審査・議会監督・世論の三層で攻防が続く見通しだ。
規制当局と業界:ゲンスラー発言とBitGoのIPO
SECの路線転換下で前委員長は「ビットコイン以外は多くが無価値」と発言し、一方でカストディ大手BitGoは高成長を示してIPOを申請した。
ゲーリー・ゲンスラー前SEC委員長は退任後も投資家保護を最優先とし、「ビットコインは別として多くのトークンはファンダメンタルズに乏しい」と指摘。新委員長ポール・アトキンスの下で、四半期開示見直しや集団訴訟条項の容認など、規制トーンはビジネスフレンドリーに転換している。
BitGoの事業指標とIPO環境
2025年上期収益は41.9億ドルに拡大し純利益1260万ドルを計上したため、機関向けカストディの収益多角化と上場市場の回復が示された。
同社はNYダウntownでのNYSE上場を目指しティッカーは「BTGO」、主幹事はGoldman SachsとCitigroup。24年通期も30.8億ドル規模の収益を計上しており、CircleやBullish、Gemini、Figureなどの連続上場と相まって、「インフラ銘柄」を中心に暗号資産産業の成熟が可視化している。
▽ FAQ
Q. BITCOIN法は何を定める?
A. 5年で100万BTC取得・20年保有・債務償還目的のみ売却・財源はFRB還流金や金評価替え等の活用を想定。
Q. ゴールドカードの条件は?
A. 個人は100万ドルのギフトで移民審査を迅速化、企業スポンサーは200万ドル。実装は90日以内に省庁が整備。
Q. H‑1Bの10万ドル追加費用は誰に適用?
A. 2025-09-21発効。新規申請のみ対象とホワイトハウスが説明。現保有者と更新は対象外との整理。
Q. ゲンスラー前委員長の要旨は?
A. 「ビットコインは別」で多くのトークンは基礎的価値に乏しい。規制は投資家保護を優先。
Q. BitGo IPOの注目点は?
A. 上期収益41.9億ドル、純益1260万ドル。NYSE“BTGO”、主幹事GS/Citiで上場準備中。
■ ニュース解説
戦略備蓄の創設と富裕層誘致の新制度が同時進行したため、政策の軸足は「資本呼び込み・国家バランスシート強化」へ移行し、一方で表現の自由や技能移民の受け皿縮小が制度面の火種となる。
背景には、政権交代に伴うSEC路線の転換、安定的な機関需要、そしてETF後の市場制度化がある。影響として、ビットコインの需給逼迫・移民コストの上昇・メディア規制論争の長期化・カストディ銘柄の資本市場での評価再編が見込まれる。
投資家の視点:短期は政策見出しでボラが増しやすい。BTCは国家需要の思惑がプレミアム化を誘発し得る一方、取得手順と売却制約の制度設計が価格形成の鍵。株式では「規制明確化×インフラ収益モデル」を持つカストディや合規支援に資金が流れやすい。移民・税制は人的コストや採用計画に直結するため、H‑1Bの運用細則と司法審査の進展をモニター。メディア規制論は広義のプラットフォーム・広告市場にも波及し得るため、規制当局の実効権限と裁判所のスタンスを注視したい。
※本稿は投資助言ではありません。
(参考:The White House,U.S. SEC EDGAR)