米国クリプト規制の急進展を整理:税制・価格・紙幣

▽ 要約

クリプトウィーク 下院がGENIUS等を採決・前進
デミニマス 300ドル・年5千ドル非課税を提案
ビットコイン JPモルガン目標16.5万ドル

米国の暗号資産政策は7月の「クリプトウィーク」で下院が複数法案を通過させ、税制見直し案や市場見通しも加速したため、米国クリプト規制の急進展を俯瞰すると制度・需給・政治が同時進行で変化していることがわかる。投資家は規制確度と資金フローの連動を早期に把握するメリットが大きい。

下院「クリプトウィーク」の実像と到達点

7月17日に下院がGENIUS・CLARITY・反CBDCの3案を採決し、うちGENIUSは18日に署名されたため、米国の制度枠組みはステーブルコインから先行整備が進んだ。
米下院は7月14日の週を「クリプトウィーク」と位置づけ、事前に金融サービス委員会が議題化を告知していた。結果として、ステーブルコイン連邦枠組みを定めるGENIUS法は上院を経て下院でも308対122で可決され、7月18日に署名・成立。デジタル資産の区分と監督整理を狙うCLARITY法は下院で294対134と賛成多数で通過し、上院審議へ進んだ。連邦準備制度によるCBDC創設を禁じる反CBDC法案は219対210で下院可決となった。これらは、当初の手続き停滞(7月15日のルール採決否決)を挟みつつも、週内に巻き返して成立・通過に至っている。

GENIUS法:ステーブルコインの連邦枠組み

ステーブルコイン発行者に1:1準備資産・月次開示・不当表示禁止を義務付けたため、銀行・ノンバンク双方の参入条件が統一され市場の信頼性が向上する。
準備資産は現金・預金・短期国債などに限定され、発行・償還ルールや監督機関の権限も明確化された。証券・商品規制からの切り分け条項が設けられ、決済用途に焦点を当てた制度設計となっている。

CLARITY法:資産区分と監督の機能分担

トークンの性質に応じたSEC/CFTCの所管整理が進むため、発行体・取引所・カストディの適用法令が可視化され、企業のコンプライアンス計画が立てやすくなる。
定義・登録手続・取引ルール等を包括する市場構造法であり、証券該当性の判定や適格オフラムの明文化など、曖昧さの解消を狙う。

反CBDC法案:連邦発CBDCの禁止

国家による監視通貨への懸念を踏まえた抑制的な立法であり、民間主導のデジタルマネー整備を優先させる政策シグナルとなった。
プライバシーや金融包摂を巡る論点は残るが、少なくとも今後数年の政策は「民間発行+監督強化」に軸足を置く。

関連:金4,000ドル・BTC高騰と州コイン:デベースメントトレード

少額決済の非課税化:Lummis税制案の要点

少額決済の税負担が障壁となるため、1取引300ドル・年5,000ドルまでのデミニマス非課税やマイニング等の所得計上時点の見直しが提案された。
ワイオミング州のシンシア・ルミス上院議員は、デジタル資産課税の包括改正案(S.2207)を6月30日に提出。主な柱は①1取引300ドル未満の非課税(年5,000ドル上限、物価連動)②マイニング・ステーキング等の取得時課税を売却時課税へ繰延③30日ウォッシュセール規制の導入④寄附評価の簡素化、など。ジャック・ドーシー氏の「日常決済の非課税化」提言とも方向が一致している。

課税対象の見直し:マイニング・ステーキング

取得時点課税はキャッシュアウトが伴わないため納税資金確保が難しいが、売却時課税へ改めることで納税資金と課税ベースの整合性が高まる。
課税上の二重取り回避を明確にし、計算コスト低下と納税コンプライアンス向上を狙う。

普及効果と残る論点

少額決済の摩擦を下げることで実需利用を促す一方、悪用防止のトレーサビリティや上限管理の実務設計が課題として残る。
POS・ウォレット側の税務レシート標準化や、利用者の年次上限管理UIといった実装面が普及速度を左右する。

JPモルガンのBTC目標16.5万ドル

金の民間保有額とのパリティ比較でビットコインは割安とされ、10月初旬の12万ドル前後から約40%の上昇余地が示された。
JPモルガンのリサーチは、ボラティリティ調整後のBTC/金の相対価値が改善し、ETFへの個人マネー流入が「ディベースメント(通貨希薄化)取引」を後押ししていると指摘。CME先物の機関フローはプラスながら、個人主導のETFフローに比べ緩やかとした。

ゴールド比較モデルとボラ調整

BTCのボラが金に対し低下したため必要リスク資本比が縮小し、民間保有金の時価総額に照らす理論値は16.5万ドル近辺となった。
相対価値のシフトは2024年末から顕著で、現在の理論値との乖離が拡大している。

フロー動向:ETFとCME

現物ETFには2024年末以降の個人マネーが厚く、直近四半期でも純流入が回復しており、需給の受け皿として機能している。
一方、先物市場の機関投資家は純買い越し傾向だが、価格形成への寄与はETFフローに及ばない。

トランプ「250ドル札」構想の現在地

H.R.1761が2月27日に提出されたが目立った進展はなく、紙幣デザインを巡る他の象徴立法(「Trump Train」構想、100ドル札差し替え案)も併走している。
ケンタッキー州のアンディ・バー下院議員は支持を表明し、9月下旬に賛意の論説を発表。原案はジョー・ウィルソン議員らが提出し、財務長官に250ドル紙幣の印刷を求める内容。並行して、ワシントンD.C.メトロの「Trump Train」改称法案や100ドル札のトランプ差し替え案も登場しているが、いずれも可決の見通しは立っていない。

▽ FAQ

Q. 「クリプトウィーク」はいつ何が可決された?
A. 2025年7月17日に下院がGENIUS308-122、CLARITY294-134、反CBDC219-210で可決し、GENIUSは18日に署名された。

Q. Lummis税制案の非課税枠は?
A. 1取引300ドル未満、年間5,000ドル上限(物価連動)で、S.2207として2025年6月30日提出された。

Q. JPモルガンのBTC16.5万ドル目標の根拠は?
A. 金とのパリティ比較とETF流入。ボラ調整後で割安と評価し、10月初旬の価格から約40%上振れと試算。

Q. 250ドル札法案の進捗は?
A. H.R.1761は2月27日提出・委員会係属中。関連の「Trump Train」改称なども提出済みだが未可決。

■ ニュース解説

7月の法案可決で枠組みが先行整備され、6月提出の税制改正案が実需の摩擦低下を狙う一方で、10月の相場観はETF流入と金連動の相対分析が後押しとなった。
投資家の視点:制度面ではステーブルコインの法的確度を前提に、取引所・カストディ・開示体制を再点検。税制はデミニマス活用を見据え会計・記録管理の自動化を準備。需給はETFフローの持続性とボラ低下のペースを観測する。

※本稿は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。

(参考:米下院金融サービス委員会,Congress.gov,Clerk of the House