UAE政府のビットコイン保有は6,300BTC

▽ 要約

保有:6,300BTCが政府ウォレットで初特定。
採掘:起源はCitadel採掘で、市場買いでない。
体制:Reem島施設と250MW JVが裏付け。
政策:規制整備が長期保有を後押し。

UAE政府のビットコイン保有が6,300BTCと判明し、出所は市場購入ではなく大規模マイニングだ。政府系保有として世界4位相当となり、エネルギー政策と規制整備を梃子にした国家的なデジタル資産戦略が実像を帯びた。本稿は「UAE政府のビットコイン保有」の内訳、インフラ、規制、国際比較を簡潔に解説する。

6,300BTCの出所と統治構造

Arkhamの分析で政府関連アドレスに6,300BTCが確認されたため、UAEは採掘起源の政府系保有として世界4位に位置付いた。

2025年8月25日、Arkham IntelligenceはUAE政府に紐づくアドレス群をラベル付けし、約6,300BTC(約7億〜7.4億ドル)の保有を初めて可視化した。起源は押収や市場買いではなく、UAE国内での採掘による蓄積だ。Arkhamはこれまでに約9,300BTCを産出し、うち6,300BTCがUAE側に残存していると示している。

採掘に由来—Citadel×Phoenix×2PointZero

衛星画像とオンチェーン取引の突合が2022年Reem島施設の産出を裏付けたため、保有の出所はマイニングと整理できる。
アブダビ・Al Reem島で約8万㎡のビットコインマイニング施設が6カ月で建設され、Phoenix Groupが開発・運営に関与した。オンチェーンでPhoenixとCitadel間の送金は公式発表と合致し、当該施設でBTCが生産されたことが確認された。Citadelは2PointZero(IHC傘下)のポートフォリオ企業であり、IHCの主要株主はRoyal Group(約61%)という資本関係が公的資料で確認できる。

ランキングの位置づけ(他国との対比)

政府のBTC保有は米国・中国・英国が上位を占める一方、UAEは採掘起源であるため政策シグナルが明確となった。
CoinGecko(2025年4月更新)によれば、米国198,012BTC/中国190,000BTC/英国61,245BTCがトップ3。ブータンは水力発電活用の鉱業型、エルサルバドルは購入型の代表例で、UAEは大規模採掘→政府保有という第三のモデルを示した(エルサルバドルの「1日1BTC」は2025年中断報道もあるため時点注意)。

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マイニング体制と電力政策の連動

産業規模の採掘は電力基盤と冷却技術・規制の同時整備で成立したため、今後の増強余地が大きい。

アブダビではZero Two(ADQ系)とMarathon Digitalが合計250MWの浸漬冷却マイニング拠点(Masdar City 200MW/Mina Zayed 50MW)を構築。Zero Twoはアブダビで累計550MW超のデータセンター能力を展開しており、Phoenix GroupはReem島に総額20億ドル規模のマイニング拠点を持つと公表する。

電源—原子力5.6GWとメガソーラーの併用

Barakah原発の5.6GW2GWのAl Dhafra太陽光に代表される低コスト基礎電力があるため、マイナーは余剰を吸収する可変負荷として機能し系統効率を高めうる。
Barakah原発は4基で5.6GW、太陽光は2019年稼働の**Noor Abu Dhabi(1.2GW)に加え、Al Dhafra(2GW, 2023年商用運転)が大型供給源だ。固定出力の一部をマイニングが平準化吸収する構図は、系統の柔軟性向上にも資する。

UAEのハッシュレート存在感

UAEのハッシュレートは2023年時点で世界の約3.7%と推計されるため、中東で突出したシェアとなる。
HashrateIndexの推計(2023年)では、エネルギー効率30J/THを前提に約13EH/s=3.7%。最新値は流動的だが、拠点の高密度集積がシェアの底上げに寄与している。

保有目的・規制環境—「売らない」前提の国家ストック化

経済多角化とデジタル金融の実装を狙う政策が一貫しているため、政府のBTCは短期売却圧力になりにくい。
アブダビのADGM/FSRAは2025年にデジタル資産規制枠組みを改定し、プライバシー通貨・アルゴリズム型ステーブルの扱いなどを明確化。ドバイもVARA法(2022年)で包括的枠組みを整備し、事業者受け入れの実務を磨いてきた。民間も、RAKBANKのアプリ内暗号資産取引提供やEmirates×Crypto.comの連携合意など受容基盤が広がる。政府が採掘起源のBTCを国富の一部として保持する姿勢は、押収品の売却が中心の欧米と対照的だ。

市場への示唆—政府主導ストック化の需給・制度インパクト

政府の長期ストックは下押し圧力を和らげる一方、規制・地政学・電力コストの変動がリスクとなる。
UAEのケースは「インフラ→採掘→準備金化」という政策連鎖の実例であり、ブラジルの国家準備へのBTC組入れ審議など、他国の制度設計にも波及している。投資家は「保有の源泉(押収/購入/採掘)」と「売却方針」を国別に見極める必要がある。

▽ FAQ

Q. UAEの保有はいつ、誰が特定した?
A. 2025年8月25日にArkhamが公表。政府関連アドレスに6,300BTCが確認された。

Q. 保有の出所は?市場で買った?
A. 市場購入でなく採掘。2022年建設のReem島施設産出がオンチェーンで裏付けられた。

Q. 他国の政府保有と比べて多いの?
A. 2025年4月推計で米国19.8万、中国19万、英国6.1万BTCに次ぎ、UAEは第4位相当。

Q. どんな規制枠組みが支える?
A. ADGM/FSRAの2025年改定、ドバイVARA法(2022年)などが事業・決済の制度基盤を整える。

■ ニュース解説

UAEの6,300BTCは採掘由来の政府系保有で世界4位となったため、電力・規制・資本の三位一体モデルが確認された。
事実:2025-08-25にArkhamがUAE政府関連アドレスの6,300BTCを特定し、出所はCitadelの国内採掘と示した。背景:Barakah 5.6GWや2GW級太陽光の低コスト電源、Zero Two×Marathon 250MWなどの設備とVARA/ADGMの規制整備が揃った。影響:押収売却が主流の国々と異なり、国家ストックとしてのBTC保有が制度的正当性を強め、他国の準備資産議論(例:ブラジル)を刺激している。

投資家の視点:国家の原資(押収/購入/採掘)、売却方針、電力コスト、規制安定性を国別に整理し、価格ショック時の売り手(政府・清算者)の行動制約を検証するのが有効だ。

※本稿は投資助言ではありません。

 (参考:Arkham,Marathon Digital(IR),Zero Two(公式)