トランプメディア ビットコイン金庫計画が波紋──25億ドル調達と“TACO取引”で見る暗号資産の行方

【要約】
・トランプメディア ビットコイン金庫計画が25億ドル規模で実施予定
・MicroStrategy(現:Strategy)のビットコイン運用を模倣か
・“TACO取引”が示すトランプ発の政治的リスクと市場の反応
・HashKeyによるBTCとETHの最新動向分析
・ビットコイン相場は11.4万ドル付近が重要な抵抗線として注目

トランプメディア ビットコイン金庫計画がもたらす衝撃

トランプ前大統領が率いる**トランプメディアテクノロジーグループ(Trump Media & Technology Group)**は、ビットコインを自社の財務戦略に組み込むべく、総額25億ドルの資金調達を行うと発表しました。5月27日付の公式文書によると、約15億ドルの普通株と10億ドルのゼロクーポン転換社債を発行することで資金を確保し、トランプメディアの金庫資産としてビットコインを組み入れる計画です。

この構想は、既存の現金やその他の投資資産とともにビットコインを運用することで、企業価値向上と政治的リスクの回避を図る意図がうかがえます。現CEO兼会長であるDevin Nunes氏は、「金融機関の干渉から自社を守る最適な手段」だと強調しました。

前脚否認、後脚で一転発表:投資家が揺れた株価と市場反応

同社は5月27日早朝、一部メディアの報道を否定しながらも、結局その日の夜に正式リリースを行いました。この二転三転する発表姿勢の影響で、同日株価は一時10.38%下落。ビットコインは一時11万ドル(日本語表記では約11万ドルとします)を超えて上昇する場面がありましたが、市場では「高いボラティリティは政治的発言によるもの」との見方もあります。

なお、トランプメディアはTruth Social、Truth+、Truth.Fiといった複数のサービスを展開中。2024年12月時点ではドナルド・トランプ氏が依然52.9%を出資する形で支配力を維持しているものの、同社株式の一部は長男のDonald Trump Jr.が管理する信託ファンドへ移管されました。こうした大統領家族による金融ツール活用が、政治と暗号資産を交錯させる新潮流として注目を浴びています。

MicroStrategy(Strategy)を模倣?ビットコイン金庫の狙い

トランプメディアの動きは、Michael Saylor氏の率いる**MicroStrategy(現:Strategy)**によるビットコイン大量保有戦略に酷似していると言われます。Strategyは2020年以降、株式・転換社債・優先株など多様な金融手段を使って資金を調達し、ビットコインを積極的に購入。その結果、累計で58万枚以上、総コスト約406.1億ドル相当のビットコインを保有しています。

賛否両論あるものの、低金利での調達とビットコイン上昇がうまくかみ合った例として知られ、投資家からは「トランプメディアもStrategy流の長期保有戦略を目指すのではないか」との声が上がっています。しかし一方で、継続的な増資が株式の希薄化や市場リスクを高めるとも指摘されています。

大統領家族×暗号資産:多角的な金融ツール運用

トランプメディアの収益基盤は広告やサブスクリプションが中心ですが、直近の四半期ではわずか82万ドルの収入に対して3200万ドルの損失を計上しており、財務状況に警戒感が出ていました。そこで、**ビットコイン(金庫資産)**と「Truthウォレット」内で使えるユーティリティトークン構想など、新たな収益モデルへの転換が本格化しつつあります。

3月には大手取引所Crypto.comとの提携も発表され、デジタル資産ETFや米国製造業関連銘柄への投資商品などを共同開発する計画があるとのこと。さらに、1月にはTruth.Fiブランドを立ち上げ、7億ドル超の現金準備から2.5億ドルを暗号資産投資に振り向ける方針が明らかになりました。これら一連の動きは、トランプ家による大胆な金融イノベーションへの意欲を示しています。

HashKey視点:TACO取引とBTC相場の行方

同時期に、HashKey Groupは「TACO取引(Trump Always Chickens Out)」というマーケット用語が注目されていると報告しました。これはトランプ前大統領がたびたび強硬策(高関税など)を宣言し、市場が急落するものの、結局“手のひら返し”で状況が好転する――そんな政治的リスクと市場の反動を揶揄した言葉です。

暗号資産の領域でも、トランプの政策言動に左右される傾向は顕著です。HashKeyのチーフアナリストJeffrey Ding氏によると、ビットコインは機関投資家の買い支えも相まって、依然として長期的には強気トレンドを維持。一方で、114,000ドル付近が抵抗線として機能しており、短期的な調整リスクは無視できないと警告しています。

市場データから読む現在の動向

  • BTC価格帯:107,000~110,000ドルで推移し、114,000ドルが重要なレジスタンスに
  • ETH動向:SharpLinkが4.25億ドルの私募資金を活用してETHを主要資産とする方針を発表し、関連銘柄も上昇傾向
  • 市場占有率:BTCが63%、ETHが9.3%(5月28日時点)
  • ETFの資金流入:ビットコインETFは9日連続、イーサリアムETFは7日連続での純流入
  • TACO取引:政治的な発言による急落・反発が継続

アルトコインのシーズンと呼ばれる一斉高騰が起きにくい局面だとの見解もあり、投資先は基本的なユースケースと実需を伴うプロジェクトへシフトしつつあります。灰度(Grayscale)がAI関連暗号資産に着目し始めたことや、Suiエコシステムが活発化している点も、ビットコインやイーサリアム以外の銘柄へ関心を広げる材料となっています。

ニュースの解説

今回のトランプメディア ビットコイン金庫計画は、金融界と政治界をまたいだ大胆な動きとして各所にインパクトを与えています。これほど大掛かりにビットコインを“企業金庫の軸”と位置付ける取り組みは、MicroStrategyに次ぐ例といえるでしょう。一方で、発表の翻意や政治的駆け引きで市場が翻弄される現象は“TACO取引”として揶揄され、暗号資産市場のボラティリティ要因の一つになっています。

HashKeyのレポートが示すように、ビットコインやイーサリアムは長期保有を中心とした安定的な機関投資家の動きが続く一方、114,000ドル付近の上値抵抗も明確に観測されています。政治リスクが再燃すれば短期的な荒い値動きが想定されるため、投資家は慎重なリスク管理と市場トレンドの見極めが必要です。トランプ家が今後どのように金融戦略を広げていくのか――その一挙手一投足が暗号資産業界の行方を左右する可能性があるといえるでしょう。