トランプ「TACO理論」とは何か──由来・市場効果・多言語の広がり

▽ 要約

用語:TACOは“Trump Always Chickens Out”の略称。
市場:関税表明で急落、後退で反発を狙う売買が定着。
反応:本人は「交渉だ」と反論、政党は風刺で応酬。
多言語:西仏独ほか各言語へ翻訳されSNSで拡散。

TACO理論は、関税で脅して相場が荒れると後退する癖を端的に示す造語であり、発表直後に下げた株を買い戻す“定跡”まで生みました。由来・反応・事例を一次資料で点検し、どこまで経験則として有効かを解説します。

定義と由来──Unhedged発のキャッチアップ

FTコラムで市場の“耐性低下”が指摘され、TACO理論が命名された。
TACOは“Trump Always Chickens Out”の略で、2025年5月初旬にFTのアームストロング氏がUnhedged欄で提示しました。狙いは、強硬表明→市場動揺→政策後退という連鎖への投資家の学習効果を短い語で可視化することです。

ウォール街の文脈──「TACOトレード」の経験則

恫喝での急落を“買い”、後退での反発を“売る”という機械的パターンが定着した。
一連の売買は脅しの信頼性低下を前提に成立します。関税の実装が遅延・縮小されるとの期待が価格に織り込まれるため、初動の下げが過度になりやすく、短期でのリバウンドを誘発します。

「トランプ・プット」との関係

政策転換が下支えとして働くとの見方が以前からあり、TACOはその定式化だ。
“プット”の比喩は「下落に耐え切れず政策を緩める」行動への皮肉で、これにTACOが上書きされる形で投資家の行動様式が共有されました。

政治・メディアの反応──反論と風刺の連鎖

当人は「交渉だ」と否定したため、メディア露出が増え用語はかえって定着した。
2025年5月28日、ホワイトハウスの場で「TACO」への見解を問われたトランプ氏は「そんな言葉は知らない。悪い質問だ」「それは交渉と呼ぶ」と反論し、弱腰との見方を退けました。その後、報道・解説で用語は急速に普及しました。

党派的な演出──DNCの「タコストラック」

揶揄を可視化する街頭パフォーマンスが、用語の一般化を後押しした。
2025年6月、DNCはRNC本部前に“TACO”スローガンのタコストラックを派遣し無料配布を実施、政党間のプロパガンダ合戦に発展しました。共和党側も即時に応酬し、用語は政治的レトリックとしても消費されました。

SNSミーム化──画像・動画・各国語訳の拡散

“チキン”と“タコス”の視覚記号がミーム化し、各国語訳が世界流通した。
スペイン語「Trump siempre se acobarda」、仏語「Trump se dégonfle toujours」、独語「Trump macht immer einen Rückzieher」などの翻訳見出しが各国報道で並び、ネット上では風刺画像や動画が大量拡散しました。

歴史的な「タコス」関連エピソード

食文化のモチーフは2016年から政治言説と結びつき、2025年に再接続した。
2016年の「タコス・ボウル」投稿はヒスパニック迎合と受け取られ炎上しました。一方、同年の「Taco Trucks on Every Corner」発言は“タコストラックの壁”抗議につながり、食の象徴が政治表現に転化する前例となりました。

タコス・ボウル投稿(2016年5月5日)

シンコ・デ・マヨの投稿が逆効果となり、ステレオタイプ批判を招いた。
「最高のタコスボウルはトランプ・タワー・グリルに」との文言は、移民政策発言との齟齬を突かれ、主要メディアでも炎上事例として扱われました。

「タコストラックが街角に」(2016年9月)

支持者発言が皮肉化され、ラスベガスでは“タコスの壁”抗議が展開された。
MSNBCでの発言が嘲笑と対抗運動を誘発し、複数台のタコストラックを壁状に並べる抗議がトランプ・ホテル前で実施されました。

政策の実像と市場──Liberation Day関税と“後退”の検証

包括関税は大統領令14257で正式化されたが、その後の縮小・延期が繰り返された。
2025年4月2日の「Liberation Day」では全輸入10%の基礎関税と国別相互関税が宣言されましたが、対中は145%の上積みを30%へ暫定引下げ、EU向け50%関税は7月9日へ延期するなど、実装段での調整が続きました。

数字で見る“後退”の具体例

対中145%→30%、EU50%は期限再延長と、脅しの最大値から現実解へ収斂した。
米中は5月に一時休戦で関税を大幅に引下げ、EUについては首脳協議で発動延期が繰り返されました。最新局面でも再引上げ示唆と緩和の往復が続き、市場は“最終的に下げる”前提で反応しています。

投資家の対応とリスク

経験則は短期には機能し得るが、用語の普及は“強行”に振れる逆噴射も招く。
「TACO」定着が“弱腰見透かし”を強める一方、揶揄に反発し強行へ転じるリスクを挙げる論考もあります。裁判所の判断や通商相手の報復、為替・物価・投資計画への長期的な不確実性にも留意が必要です。

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▽ FAQ

Q. TACOとは何の略で、いつ誰が言い始めた?
A. “Trump Always Chickens Out”で、2025年5月にFTのロバート・アームストロング氏がUnhedgedで提示しました(5月2日)。

Q. Liberation Day関税の法的根拠と要点は?
A. 2025年4月2日の大統領令14257でIEEPAを根拠に、全輸入10%の基礎関税と相互関税を宣言しました。

Q. 実際に「後退」した事例は?
A. 対中は145%を30%へ暫定引下げ、EU50%は7月9日へ延期され、相場は反発局面を繰り返しました。

Q. 当人はTACOをどう否定した?
A. 2025年5月28日に「それは交渉だ」「悪い質問だ」と反論し、弱腰ではなく厳しすぎると主張しました。

Q. 政党のパフォーマンス例は?
A. 2025年6月3日にDNCがRNC前で“TACO”スローガンのタコストラックを展開し無料配布を実施しました。

■ ニュース解説

大統領令で包括関税が宣言された一方で市場混乱を受けた縮小・延期が相次いだため、投資家は“最終的に下げる”との期待で売買の経験則を共有した。
整理すると、①2025年4月2日に包括関税が法制化、②5〜7月に対中・対EUで縮小や延期が断続、③その往復が短期売買の定跡化と為替・物価の不確実性を助長しました。
投資家の視点:短期のイベントドリブンでは初動の過剰反応に逆張りする余地が生まれますが、政策の“逆噴射”リスク、報復関税、裁判所判断、為替・資材コストへの波及を定量化し、シナリオごとにヘッジ(ボラティリティ、為替、セクター分散)を組むのが無難です。

※本稿は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。

(参考:Federal Register,The White House