タイ暗号資産の売却益、5年完全非課税

▽ 要約

基本 2025–2029の個人の売却益は0%、認可業者経由が条件。
体制 対象外はP2P送付・無認可海外・法人の取引。
透明 KYC/AMLとCARF導入で監督強化と国際連携が進む。
市場 国内取引所集約が進み、BitkubやKuCoinに追い風。

個人投資家にとって「売却益0%」の実際の適用範囲は何か。結論は、2025〜2029年の5年間、SEC認可事業者経由の個人の暗号資産売却益が非課税となる。本措置は市場活性化と透明性強化を両立させる狙いで、税収は中期で増加見込みだ。タイ進出や長期滞在を検討する読者向けに、誤解の多い条件・対象外・実務の落とし穴を簡潔に解説する。

免税の骨子(期間・対象・条件)

2025年1月1日から2029年12月31日まで、SEC認可経路による個人の売却益を非課税とする省令399号が施行されたため、条件を満たす取引は税率0%となる。
非課税となるのは、(1)認可デジタル資産交換所での売買、(2)認可ブローカー経由の売買、(3)認可ディーラー等への譲渡による個人の譲渡益だ。法人の売買益は対象外で、課税は従来通りとなる。従前は15%の源泉課税の整理が論点だったが、本措置は「個人×認可経路×譲渡益」を明快に0%へ切り替える。

対象となる取引チャネル(SEC認可の三類型)

適用対象はSECライセンスを持つ交換所・ブローカー・ディーラーに限定されるため、非課税を享受するにはオンショアの正規プラットフォーム利用が前提となる。
主要例としてBitkubやUpbit Thailand、Gulf Binance、XSpring等の認可事業者が挙げられる。2025年6月にはKuCoinがERXの取得を通じて現地ライセンスで参入し、国内の流動性厚みと事業者競争が進む見込みだ。ライセンスの有無はSEC公開リストで都度確認できる。

対象外とグレーゾーン(P2P・無認可海外・法人)

P2P送付(個人ウォレット間)や無認可の海外プラットフォーム経由の売買で生じた利益は非課税の適用外となるため、0%を前提にした節税設計は成り立たない。
2025年6月にはBybitやOKX等、無認可5社への国内アクセス遮断措置が告知され、正規経路への誘導が一段と強化された。法人取引の利益は本措置の対象外で、通常の課税ルールが適用される点にも注意が必要だ。

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政策の狙い(市場活性化と透明性強化)

投資マネーの呼び込みと正規経路集中を同時に実現するため、税を免除しつつ監督を強める二段構えとなっており、資本流入と投資家保護の両立を図る。
政府はデジタル資産ハブ戦略の下で、個人の税負担をゼロにして参加コストを下げ、市場規模拡大と関連ビジネスの育成を狙う。株式の個人譲渡益が非課税であるタイの既存税制との整合も取り、資本市場一体の個人投資促進設計となっている。

税収と波及効果(「少なくとも10億バーツ」)

中期では「少なくとも10億バーツ」の税収増が見込まれており、減税でも経済活動の拡大で歳入を補うという計算だ。
取引量と周辺消費の増加、国内拠点の誘致、人材・サービス投資の連鎖により、間接税や所得税ベースが厚くなる想定である。免税は恒久措置ではないため、効果検証と制度運用の巧拙が延長可否を左右する。

透明性・KYC/AML・CARF(国際連携の強化)

KYC/AMLの厳格運用とCARFによる自動情報交換の開始準備が進むため、非課税でも匿名性は縮小し、越境資産の把握が強化される。
SEC認可事業者にはCDD・取引監視・報告義務が課される。タイはOECD「CARF」で2028年の初回交換を約束しており、国内で把握した取引データは各国当局との間で自動共有が始まる。自国の申告義務が免除されるわけではない点に留意したい。

想定インパクトと実務ポイント

制度は個人の取引コストを下げ市場参加を促す一方、時限措置と運用リスクへの備えが不可欠となる。
投資家は(1)認可経路の確認、(2)証憑・取引履歴の保存(将来延長や終了時の課税再開に備える)、(3)ハードウェアウォレット等の自己防衛、(4)居住地国の申告義務との整合をチェックしたい。国内事業者にはユーザー集約が予想され、セキュリティ水準とカストディ運用の差が競争力を左右する。

国内事業者の地殻変動(遮断と参入)

無認可海外の遮断と新規ライセンス参入が同時進行したため、国内プラットフォームへのユーザー集中が加速する。
Bitkub等の既存大手の取引量増加に加え、KuCoin Thailandのフルライセンス稼働など、競争環境が再編される。認可銘柄・手数料・カストディ体制・障害対応の品質差が、非課税メリットを最大化するうえでの選定基準になる。

リスクと留意事項(時限・市場・詐欺)

本措置は5年の時限であり、2029年末で失効し得るため、長期プランでは制度変更リスクを見込むべきだ。
価格変動・取引所ハック・詐欺は税制と無関係に残る。タイ当局は違法プラットフォーム遮断や送金規制など対策を強化しているが、ユーザー側のセキュリティ実践(多段階認証・コールド保管・フィッシング対策)は不可欠である。

適用チェックリスト(実務)

・SEC認可の交換所/ブローカー/ディーラー経由か
・個人の譲渡益か(法人は対象外)
・期間は2025/01/01〜2029/12/31か
・KYC/AMLに同意し、取引記録と原価・売却証憑を保存しているか
・居住地国での申告・国外財産報告と矛盾しないか

▽ FAQ

Q. 免税の適用期間はいつからいつまで?
A. 2025-01-01〜2029-12-31の5年。省令399号がロイヤルガゼットに掲示済み。

Q. 非課税になる取引条件は?
A. SEC認可の交換所・ブローカー・ディーラー経由の個人の売却益のみ。

Q. 対象外の具体例は?
A. P2P送付、無認可海外(Bybit・OKX等)経由、法人の売買益は課税対象。

Q. 情報共有や申告は不要になる?
A. タイはCARFで2028年交換予定。KYC/AMLで把握され、自国申告は別途必要。

■ ニュース解説

省令399号が官報掲載で発効したため、2025〜2029年は認可経路の個人譲渡益が0%となり、一方でKYC/AMLとCARFで透明性が強化される。
投資家の視点:認可経路の徹底、証憑保存、リスク分散(複数事業者・コールド保管)、居住地課税の遵守を基本に、手数料・銘柄・UX・運営健全性でプラットフォームを比較選定したい。

※本稿は投資助言ではありません。

(参考:タイ歳入局(Revenue Department),OECD,タイ証券取引委員会(SEC)