テザーUSA₮始動と9月利下げ観測の衝撃

▽ 要約

ステーブルコイン テザーが米向け「USA₮」を年内発行へ
規制枠組み GENIUS法準拠・月次開示と1:1準備を義務化
金融政策 9月FOMCの25bp利下げ観測が米株を最高値圏に
資本市場 Gemini上場とBTC現物ETFに5.53億ドル流入

米規制が明確化する中、テザーのUSA₮(USAT)計画、FRBの利下げ観測、米株最高値、暗号資産企業の上場とETF流入が同時進行しているため、ドルのデジタル化とリスク資産の再評価が加速している。本稿は制度面と資本循環を横断し、投資判断の前提となる事実を解説する。

テザーの新ドル建て「USA₮」と米国戦略

米規制の明確化を受け、テザーはUSA₮を米国内で年内ローンチするため、OCC管轄の信託発行体と保管体制を組み透明性を前面に出す。
テザーは米居住者向けに新たなドル連動トークンUSA₮(USAT)を発表し、発行主体に米通貨監督庁(OCC)認可のAnchorage Digital Bankを起用する。準備金カストディはCantor Fitzgeraldとされ、月次の準備報告と監査手続を前提とする。USDTは域外商品として並行存続するが、米市場でのコンプライアンス重視が鮮明になった。

GENIUS法準拠と開示・非利付けの要件

GENIUS法は1:1準備・再担保禁止・利付け禁止を定め、CEO/CFOの月次認証と会計士による月次検証を義務づけるため、ステーブルコインの信頼性が制度面から担保される。
同法は支払型ステーブルコインを「証券」に該当しないと明確化し、連邦・州の許認可発行主体のみを認める。月次の準備構成開示、年次監査、破綻時の保有者優先など保護条項を規定し、外資系発行体にも「同等規制判定」による参入ルートを用意する。

経営体制—Bo Hines起用と米本拠の設置

政権の親暗号資産方針を追い風に、米国事業を統括する指揮官としてBo Hinesが起用されたため、12〜24か月での拡大が経営計画の焦点となる。
Hinesはホワイトハウスの暗号資産関連ポストを経て戦略顧問に就任し、USA₮部門のトップを務める。拠点はノースカロライナ州シャーロットを予定し、米国決済エコシステムへの内在化を急ぐ構えだ。なおUSDTの時価総額は約1,690億ドルと最大手の座を維持している。

関連:米国利下げ観測、雇用減速とCPI鈍化で強まる

FRBの利下げ観測とS&P500最高値圏

雇用減速と物価の落ち着きを背景に9月25bp利下げ観測が優勢となり、マグニフィセント7主導の業績堅調と相まってS&P500は6,500台後半の最高値圏にある。

9月FOMCのコンセンサス

エコノミスト調査と先物確率が9月の25bp利下げを高確率で示すため、年内の複数回利下げや連続利下げシナリオが台頭している。
大手の予想は9月開始の25bp利下げが主流で、年内3回、年明けまで4会合連続とする見立てもある。政治面では大統領による公然の緩和圧力や理事人事が不確実性を高めるが、FRBの独立性とインフレ見通し次第で幅は調整される公算だ。

株式市場—AI相場と最高値更新

利下げ観測とAI関連の増益を受け資金が大型テックに回帰したため、S&P500は連日で最高値を更新し6,500台後半まで上昇した。
年初来の増益率とEPS上方修正が支えとなり、情報技術セクターの寄与が拡大。タリフ要因やバリュエーションの張りは警戒材料だが、足元では「緩和+業績」の二重ドライバーが優勢である。

暗号資産企業の上場・資本調達

規制の明確化とリスク選好の回復を受け、欧米の大手が米資本市場に接続するため、評価額と浮動株の拡大を狙う動きが加速した。

CoinShares—SPAC経由でNASDAQへ

評価額約12億ドルのSPAC統合で米NASDAQに移行する計画が発表されたため、EMEAでのETP運用に米調達基盤を付与する狙いが明確だ。
CoinSharesは約100億ドルの運用資産とEMEAでの高いシェアを背景に、持株会社Odysseus Holdingsを介した上場を志向。年内〜翌年にかけて承認・クロージングへ進む見込みだ。

Gemini—米大型IPOの成功

Geminiは9月12日にNASDAQ上場し想定超の28ドルで公開されたため、4.25億ドルを調達し初値は37ドル台と順調な滑り出しとなった。
需要は公募の20倍超と伝えられ、ナスダック自身も5,000万ドルを出資するなど市場の関心は高い。未解決の規制案件はあるが、上場での開示と資本強化が信頼回復に資すると期待される。

ビットコイン市場—ETFフローと価格観

現物ETFへの巨額流入が続いたため、ビットコインは11万ドル台を維持し強気ムードが回復している。

現物ETFの資金動向

9月11日の純流入は5.53億ドルと報告され、IBITとFBTCが主導したため、現物需給が価格の下支えに機能している。
複数セッション連続のプラスフローで累計流入は拡大。従来現物を直接保有できなかった投資家層がETFを通じ参入し、ボラティリティは残るものの需給面の地合いは改善した。

価格レンジと強気予測

史上高値更新後は11万ドル台で推移する一方、ウィンクルボス兄弟は10年で100万ドル到達の可能性を強調したため、長期の貯蔵資産論が再燃した。
短期は政策金利とETFフローが左右するが、長期は「デジタル黄金」仮説と採用拡大が鍵。強気シナリオは大胆だが、投資方針はリスク許容度と時間分散に基づくべきだ。

▽ FAQ

Q. USA₮(USAT)はいつ、どのように発行される?
A. 2025年内に米国向け開始予定。発行はAnchorage Digital Bank、準備金は現金と米短期国債。

Q. GENIUS法の中核要件は?
A. 1:1準備・再担保禁止・利付け禁止に加え、CEO/CFO月次認証と会計士の月次検証・開示が必須。

Q. GeminiのIPO規模と評価額は?
A. 9/12にNASDAQ上場(GEMI)。公募28ドルで4.25億ドル調達、初値37ドル、時価総額約33億ドル。

Q. 直近のビットコインETF資金流入は?
A. 9/11に5.53億ドルの純流入。IBITが約3.66億、FBTCが約1.35億で、4日連続の資金流入。

Q. S&P500とFRBの見通しは?
A. S&P500は6,500台後半の最高値圏。市場は9月25bp利下げを高確率で織り込み、年内複数回観測。

■ ニュース解説

テザーのUSA₮計画が米規制準拠で動き出し、同時にFRBの利下げ観測が強まったため、米株は最高値圏にあり、暗号資産企業の上場やETF流入が資本循環を押し上げる。
投資家の視点: マクロは「緩和方向×AI業績」でリスク資産に追い風だが、利下げ幅の不一致・地政学・評価倍率の上振れは変動要因。現物ETFフローと規制整備(GENIUS法)の定着度をモニターしつつ、(1) ドル建てキャッシュ/短期債とのバランス、(2) 株式はEPSの上方修正継続銘柄を軸、(3) クリプトはETF経由・大手カストディ併用での段階的エクスポージャーが一般解。

※本稿は投資助言ではありません。

(参考:Reuters,White House,Congress.gov