【要約】
・Tether CEOのPaolo Ardoino氏がビットコイン2025大会で講演し、同社の去中心化インフラ構想を明かした
・Tetherは2022年だけで130億ドルの利益を上げ、現在は1530億ドル超の資産規模を誇る
・同社は10万BTCを保有し、年内には世界最大規模のビットコインマイニング事業者になる可能性がある
・新興国では4.2億人がUSDTを利用し、その35%が実質的な「貯蓄手段」として使用
・KUBA(AIプラットフォーム)やKeet(P2P通信ツール)など、ビットコインを軸とした多角的なインフラ開発に着手
・QCP Capitalの分析によると、最近のBTC清算額は約10億ドルだが価格は堅調を維持
・Bitfinex Alphaは今回の価格下落を“崩壊ではなく健全な調整”と評価
Tether CEOがビットコインを「悟空」に例える理由
ビットコイン2025大会で登壇したTether CEO、Paolo Ardoino氏は「ビットコインは、自分の幼少期を彩った漫画『ドラゴンボール』の悟空のような存在だ」と語りました。悟空が物語を通じて強大な力を発揮し続けるように、ビットコインもグローバル規模で抜群の影響力を持ち、強さを増しているという比喩です。
Tetherは2014年に創立された際、世界初の安定通貨(ステーブルコイン)USDTを世に送り出しました。CEO自身が「ビットコインとTetherは仲間のような関係」と評するように、ビットコインにおける価値移転とUSDTの流動性が相互補完し合うことを理想的な形と捉えています。
USDTの成長と企業の役割
Tetherは創立当初こそ注目度は限られていましたが、現在のUSDT資産規模は1530億ドルを突破し、圧倒的な存在感を示しています。
さらにCEOによれば、Tetherは2022年に130億ドルの利益を計上。正式な大規模広告やマーケティングを行っていないにもかかわらず、市場ニーズに合致した「使いやすいデジタルドル」を提供した結果、利用者数が急増しました。
また、Tetherは単なる発行体ではなく「去中心化のためのインフラストラクチャを提供する企業」である点が強調されました。同社のゴールは、既存の金融機関のように中間手数料を取るのではなく、ユーザー自身が資産とデータをコントロールできる環境を整えることにあります。
新興国での需要と個人主権の重要性
Tetherは約4.2億人の利用者を抱えるとされ、そのうち**35%**にあたるユーザーがUSDTを貯蓄手段として活用しているとのことです。トルコ、アルゼンチン、ベトナムなど、インフレ率が高い国では、法定通貨の信用が揺らぐ中で安定通貨(USDT)が「実質的なドル口座」として機能しています。
これは単なる金融サービスの話ではなく、「個人が自らの資産を守る手段を持つ」という主権確立につながります。こうした背景から、Tetherは本社をビットコインを法定通貨と認めたエルサルバドルに置き、公共インフラ・教育プログラムなど幅広い分野での支援を続けています。
Tetherのビットコイン投資とマイニング事業
Tetherは1200億ドルを超える米国債に加え、10万BTC以上のビットコインを保有していると公表しました。さらにCEOは「年内にも世界最大のビットコインマイニング企業になる可能性がある」と述べています。
ビットコインを大量に保有しているだけでなく、積極的にマイニング事業へ参入する理由は、ネットワークを自ら支えたいという意図があるからだといいます。マイニングによってブロックチェーンのセキュリティを実際に担保し、ただの投資家や発行体にとどまらない姿勢を示す点がTetherの大きな特徴です。
新規AIプラットフォーム「KUBA」と通信ツール「Keet」
TetherはビットコインやUSDTといった金融分野だけでなく、技術インフラの開発にも注力しています。その一例が、AIプラットフォーム「KUBA」と、P2P通信ツール「Keet」です。
- KUBA:小型デバイスでも動作するローカル推論型のAIプラットフォーム。ユーザーが自分のデータを完全に管理できるため、従来のクラウド中心型AIが抱えるプライバシー問題を解決する可能性を秘めています。
- Keet:サーバーを介さず、音声や文字、ファイル共有をすべてP2Pで行う通信アプリ。クラウドが不要な設計により、企業や政府などの第三者にデータが集中しないよう配慮されています。
CEOは「クラウドは必ずしも我々の味方ではない。真の自由を守る手段は点と点を直接つなぐP2Pにある」と強調しました。
BTC市場の動向:QCP CapitalとBitfinex Alphaの分析
一方でビットコイン市場は最近、約10億ドルの清算が起き、投資大手ブラックロックの関連ETFからも大口資金が流出するなど荒れ模様でした。しかし、QCP Capitalは「ビットコインは依然として10.2万ドル台を維持しており、短期的には大きな暴落にはつながらない見通し」と述べています。
また、Bitfinex Alphaの最新レポートによれば、ビットコインは4月の安値から一時歴史的高値の11.1万ドル超まで急上昇していたものの、ここへきて初めて顕著な調整を見せています。とはいえ、この調整は「レバレッジ解消と利益確定による一時的な動きであり、構造的には強気基調が崩れていない」としています。米国の経済・金利環境が不安定な中でも、ビットコインは依然として“健全なリセット”段階と考えられているようです。
ニュースの解説
Tetherが展開する「ビットコイン・安定通貨・AI・P2P通信」という多角的プロジェクトの背景には、一貫した「去中心化インフラの提供」という理念があります。法定通貨のインフレに苦しむ新興国のユーザーから見れば、USDTは生命線となる貯蓄手段。マイニングへの参入やAI基盤整備を通じて、ただの通貨発行体を超えた役割を目指しています。
市場全体としては、急激な値動きが目立つ一方で、ビットコインのボラティリティはある程度コントロールされている形です。専門家の視点でも、大手ファンドの売りや高レバレッジの解消が同時期に重なっただけで、下落自体は全般的に「健康的な調整」と評されています。
Tetherのような主要プレイヤーが今後さらなる事業拡大を図ることで、市場全体に与える影響力は高まると予想されます。特にAIや通信インフラがビットコインとどのようにシナジーを生むか、今後の動向が注目されるところです。