戦略的ビットコイン準備金と日本政界動向

▽ 要約

SBR概要:国家がBTCを備蓄する新たな準備資産政策
アメリカ:大統領令と上院法案、予算中立で拡大を模索
アジア:比が1万BTC・20年ロック法案、波及広がる
日本:支持拡大も政府は慎重、制度設計が鍵

各国がビットコインを国家備蓄に組み込む是非を問う声が強まる中、戦略的ビットコイン準備金(SBR)は経済安保と金融主権の両面で注目を集めるため、日本も世界の政策潮流を踏まえた現実的な選択肢整理が急務となる。

戦略的ビットコイン準備金(SBR)の基礎

国家が経済安保のため希少性あるBTCを分散備蓄に組み込む構想がSBRであり、金・石油の国家備蓄のデジタル版として機能を担うため各国で制度化が進む。
SBRは「国家の長期的な資産多様化」と「通貨・財政の非常時保険」を目的とし、購入・保管・監査・開示の統治設計が中核となる。供給上限2,100万BTCの希少性と国際送金の即時性は、外貨準備の補完資産としての合理性を後押しする。

米国の起点—大統領令と上院法案

予算中立を条件に押収BTCの売却停止とSBR整備を命じた大統領令(2025年3月6日)が出たため、上院は5年で計100万BTC購入を定めるS.954で法制化を図っている。
大統領令は「保有BTCの国家資産化」と「追加取得の予算中立化」を明記し、議会側のS.954は年20万BTC×5年の購入と分散保管を規定する。国家はまず売却停止で純減を止め、次に負債を増やさずに取得する「Budget Neutral」を選択肢化した。

州レベルの試行—進むテキサス、頓挫する州も

SBRの州版は実験段階であり、テキサスが2025年6月に州SBR基金を創設した一方、サウスダコタは同年2月に委員会で否決され、モンタナやアリゾナも賛否が割れている。
州財政でのBTC保有はリスク許容度と政治判断が直結するため、冷蔵保管・投資上限・監査頻度などガバナンスを明文化したテキサス型が先行事例となる。他州は価格変動や気候・電力論争を理由に慎重姿勢が多い。

国際波及—フィリピン・パキスタン・欧州中南米

米国の制度化を受け、アジア・新興国で立法が具体化し、欧州・南米でも公的議論が広がるため、SBRは地域横断の政策テーマとなった。
とりわけアジアではフィリピンが1万BTC・20年ロックの具体法案を提出し、パキスタンは米国に触発されたSBR構想を表明。ブラジルや英国、ポーランドなどでも公聴会・政策提言が増加し、SBRは選挙争点や財政多角化の議題として定着しつつある。

フィリピンの法案要点—1万BTC・20年ロック・債務連動

20年保有を義務づけるため短期売買の誘惑を断ち、年2,000BTC×5年の段階取得で平均取得価格の平準化を図る設計となった。
下院HB421は中央銀行に対し年2,000BTCを5年間購入(計1万BTC)し、原則20年間は債務返済以外で売却不可と定める。保管は地理分散コールド、四半期の公開報告とPoRで透明性を担保し、20年後も2年ごとに最大10%の放出制限を課す。

パキスタンと各国の反応

パキスタンは2025年5月の会合でSBR方針を公表し、米国モデルを参照した政策設計に着手したため、先進・新興の両サイドで波及が進む。
英・ブラジル・ポーランド・中国・ロシアなどでも政治家や当局関係者の関心が顕在化。正式導入前でも「国家が買う可能性」をマーケットが織り込む局面が生じ、価格シグナルを通じて政策・市場が相互作用する。

日本の現在地—支持拡大と制度設計のギャップ

ユーザー基盤は拡大したため土台は整う一方、政府は外為特会の枠組み上SBRに否定的で、政官の視野差が政策停滞を招いている。
国内の暗号資産口座は2025年1月時点で1,214万口座、預託金残高は約5兆円。他方、2024年末の国会答弁は「暗号資産は外為特会対象外」でSBR検討に否定的。こうした乖離を埋める現実解として、長期ロック・段階購入・分散保管・四半期監査・PoRの制度パッケージが要る。

連:WebX2025主要スピーカー発言総括

政党の姿勢—参政党と国民民主

参政党の神谷宗幣氏は2025年6月の国会で米SBRや税制改革を提言し、国家戦略としてのBTC活用を求めたため、国会内の論点化が進んだ。
国民民主の玉木雄一郎氏は申告分離課税20%の一貫提案に加え、米国のSBR戦略に注目する発信を続ける。超党派の勉強会やタスクフォース化で政策の具体化を図れば、与党の慎重論に対抗できる政策オプションの土台が整う。

サムソン・モウ氏の働きかけ—WebX 2025と与野党対話

モウ氏は2025年8月のWebXでSBRの最新動向を講演し、与野党関係者と面談して理解醸成を図ったため、議題化の障壁が下がり始めた。
「ウィンドウは急速に縮小」「予算中立での積み上げ」を繰り返し強調し、先行国に先回りされるリスクを指摘。日本が動くなら新体制初期の2年が勝負との経験則を共有し、官民連携の推進と国民的支持の可視化を促した。

実務論点—価格・保管・会計の三位一体

短期ボラは不可避なため、段階購入と長期ロック、リバランス規律で評価変動を平準化する設計が要る。
財務面は「購入規模・時期・上限」「ロック期間・解禁率」「評価・減損ルール」を明確化。保管は地理分散コールド・マルチ署名・鍵分掌、四半期の暗号学的監査とPoR公開、会計は時価測定と注記の厳格化で信認を確保する。

想定効果—分散と信用補完

BTCは金やドル資産と相関が低いため、外貨準備の分散効果と非常時の流動性確保に資する。
同時に「保有=自国通貨不信」ではなく「国のバランスシート強化」のメッセージとして機能し、技術国家としての対外発信力やデジタル金融エコシステムの呼び水にもなる。民間ではメタプラネットの大量保有が先行事例になった。

▽ FAQ

Q. SBRの導入目的は?
A. 経済安全保障と金融主権の補完で、希少資産BTCで準備多様化を図る(2025年時点)。

Q. 米国はどこまで進んだ?
A. 2025年3月6日に大統領令、3月11日にS.954提出で100万BTC購入案が俎上に載った。

Q. フィリピン案の特徴は?
A. HB421で年2,000BTC×5年・計1万BTCを取得し、20年ロックと四半期監査を義務化する。

Q. 日本の利用者規模は?
A. 2025年1月時点で国内口座1,214万、預託金約5兆円で、制度化の土台が整っている。

■ ニュース解説

米国が大統領令でSBRの枠を作り、上院が100万BTC購入法案を提出したため、比やパキスタンへ波及が進み、日本でも支持拡大が起きる一方で政府は慎重姿勢を崩していない。
事実:米国は押収BTCの“売らない”方針を明確化し、予算中立で追加取得を検討。背景:外貨準備の分散・安全保障の観点が強まり、各国政治の争点に。影響:法制化の速度差が国際ポジションと取得コストに直結する。
投資家の視点:国家級トレンドは民間にも波及しやすい。過度な価格前提は避け、①段階的エクスポージャー、②信頼できるカストディと監査、③政策・会計変更のモニタリングを徹底するのが一般的アプローチである。

※本稿は投資助言ではありません。

(参考:The White Hous,Congress.gov,参議院