【要約】
・全チェーンステーブルコイン戦争は「王者USDT」「挑戦者USDC」「錬金術師FRAX」の三つ巴
・USDT0が街頭ドルとDeFi圏の橋渡しを推進、短期で20億ドル超を移動
・CircleはIPO成功で合規性を武器にCCTPを前面へ、機関投資家を囲い込み
・FRAXはfrxUSD・FXBなどで純オンチェーン利回り曲線を構築し実験を続行
・B2B決済や新興国送金など四つの利⽤領域で流動性の主導権争いが激化
全チェーンステーブルコイン戦争とは何か
2024年以降、チェーン横断の価値移転技術が急速に普及し、「全チェーンステーブルコイン戦争」という新局面が生まれた。狙いは唯一かつ真に互換的なデジタルドルの地位である。市場シェア首位のUSDT、合規志向のUSDC、そして実験色の強いFRAXが、それぞれ異なるアプローチで主導権を競う。
王者USDT/USDT0の統合戦略
TetherのUSDTは実取引量の約9割を握り、特に手数料の低いTronネットワークに根を張る。2024年に登場したUSDT0はLayerZeroを用いたOFT規格で、Ethereum上にロックしたUSDTを起点に各チェーンへ原生発行する単一資産だ。わずか数か月で20億ドル超の跨チェーン移転を実現し、街頭ドル(ストリートドル)とDeFi資本市場(エンタープライズドル)をシームレスにつなぎ始めた。
挑戦者USDC/CCTPとCircle上場の意味
一方、Circle発行のUSDCは市場シェアこそ2位だが、**Cross-Chain Transfer Protocol(CCTP)**により“焼却→再鋳造”方式でクリーンな価値移転モデルを提示。2025年6月のニューヨーク証取への上場では初値比+168%、時価総額185億ドルを記録し、合規フレームと透明性を訴求した。VC支援フィンテック企業が多いアルゼンチン・インドなどでは取引量がUSDTに肉薄し、機関投資家と規制環境を味方に勢力拡大を狙う。
錬金術師FRAXのオンチェーン実験
FRAXは決済シェアこそ小さいが、frxUSD/sfrxUSD金庫、FXBオークションを通じて国債利回りとDeFi最適化利回りを組み合わせた独自の利率曲線を展開する。「神託トラスト」が担保資産を運用し、取引の全履歴はL2「Fraxtal」で可視化される。高利率が流動性を引き寄せる一方、巨額のショート攻撃リスクという“ソロス・テスト”を常に抱える点が特徴だ。
ストリートドルとエンタープライズドルの融合
Tron上のUSDTは、インフレ国の個人送金や対中国貿易決済で日々小口利用されるストリートドルとして機能する。他方、EthereumやL2で運用されるUSDC/USDTは機関投資の担保・流動性プールに組み込まれるエンタープライズドルだ。USDT0は両世界を一本化し、「低手数料送金→高利率運用」という往復をブリッジ料不要で実現することでTether帝国の防衛と拡張を同時に図る。
終局に向けた三つの戦場
- 次世代フィンテック基盤
新興B2B決済企業は合規USDCか柔軟USDT0かで分岐する。 - ユーザー体験競争
CCTPの垂直統合とUSDT0+LayerZeroの分散型モデル、どちらが安全か。 - 西側市場の覚醒
米欧で可編程性と利回り需要が爆発した時、Circleの地盤が拡張を加速させるか、USDT0が一気に食い込むかが焦点となる。
ニュースの解説
2025年6月、CircleのIPO成功とUSDT0の急成長は、ステーブルコイン市場が規制適合性と跨チェーン機能という二軸で再編されることを示した。USDT0の「単一資産×全チェーン流通」モデルは、従来の多重ブリッジに替わる実務的解決策として評価が高い。一方、CCTPは発行者自らが担う鉄壁の合規モデルで、金融当局の支持を得やすい。今後、香港の《ステーブルコイン条例》(2025年8月施行)や米国GENIUS法案の進捗により、両陣営の優位性が地域ごとに鮮明化すると見込まれる。市場参加者は全チェーンステーブルコイン戦争の行方を注視しつつ、送金コスト・規制リスク・利回り機会を勘案した通貨選択が求められる。