11月27日 ステーブルコイン市場の転換点

▽ 要約

市況:BTCは9万ドル手前で急落後の持ち合い、ETFは資金流入継続
ステーブルコイン:USDC・USDe縮小とUSDT・RWAトークンの台頭が鮮明
規制:Worldcoinへのデータ削除命令など、プライバシー規制が前面化
構造変化:レバレッジ相場から実需・キャッシュフロー重視のスーパーサイクルへ

10月11日の急落で約60億ドルが流出したステーブルコイン市場は、USDCやUSDeからUSDT・RWA連動型への資金シフトが進み、ビットコイン9万ドル攻防や各国規制強化とともに「レバレッジ相場から実需重視」への転換が鮮明になりつつあります。

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ビットコインが9万ドル手前で失速し、ETHは短期下落観測と7,000〜9,000ドルへの強気予想が交錯する中、ステーブルコイン市場では10月クラッシュ後の資金移動が加速しています。投資家にとっての焦点は、「下げ相場入り」か「質へのローテーション」かという点です。本稿では、PANewsの一次情報をもとに11月27日時点の市況・規制・企業動向を整理し、ステーブルコイン市場の転換点と暗号資産スーパーサイクルの現在地を解説します。

市況総括:BTC9万ドル攻防と極端な恐怖

市場はビットコイン9万ドル近辺での持ち合いと急速なセンチメント悪化が同時進行しており、レバレッジ解消とETF経由の資金流入が綱引きする構図です。

PANewsの「Trading Moments」によれば、11月26日時点でBTCは約87,615ドル、ETHは約2,939ドルで推移し、Fear & Greed Indexは15と「極端な恐怖」水準に低下、24時間の清算額は約2.85億ドルに達しました。一方でビットコインETFには1.29億ドル、イーサリアムETFにも約7,858万ドルの純流入が続いており、先物・オプション市場がレバレッジを落とす一方で、現物ETFへの長期マネーが構造的に入っていることが分かります。

Arthur Hayes氏らはBTCが当面は9万ドルを上抜けにくく、8万〜8.65万ドルレンジのサポートを試しに行く可能性を指摘しており、短期的には上値の重い展開が想定されています。ただし、ETFへの資金流入が続く限り、暴落局面での現物買いが下値を支えやすくなるため、2021年までのような「清算連鎖による長期冬の時代」とは異なるボラティリティプロファイルになりつつあります。

ビットコイン:ETFマネーとテキサス州の「準備金」

短期の価格調整にもかかわらず、ビットコインは制度マネーの受け皿としての地位を強めています。

11月25日基準でビットコインETFは1.29億ドルの純流入を記録し、その多くをFidelityのFBTCが牽引しました。さらに、テキサス州は新設した「Texas Strategic Bitcoin Reserve」を通じて、BlackRockのスポットETF「IBIT」を約500万ドル分購入したと報じられており、米国の州政府として初のビットコイン購入事例となる可能性があります。これは国・州レベルの資産配分の中にBTCが組み込まれ始めたことを意味し、供給が限定された資産への長期的な需要要因になり得ます。

また、大手機関投資家によるBTCのカストディ分散も進行しており、あるストラテジー企業は約58,390BTCをCoinbaseからFidelity Custodyへ移管するなど、単一取引所への依存を下げる動きが見られます。こうした動きは、価格ボラティリティとは別次元の「インフラとしての信頼性」を重視する流れと言えます。

イーサリアム:短期調整と7,000〜9,000ドル観測

ETHはビットコイン以上にボラティリティが高い一方、「スーパーサイクル銘柄」としての位置付けが強まっています。

Fundstrat共同創業者Tom Lee氏は、ETHが短期的には2,500ドル近辺まで調整する可能性があるものの、2026年1月までに7,000〜9,000ドルへと3〜4倍の上昇余地があると発言しています。PANewsはこれを「次のスーパーサイクルへの助走」と整理しており、レバレッジポジションの解消を伴いつつも、長期のキャッシュフロー・ユーティリティを重視する資金がETHに集まりつつある構図が示唆されます。

実際、10月11日の相場急落以降も、一部のOGクラスのクジラはETHロングを積み増しており、現物・先物の建玉構造からは「短期のボトム圏を探る中長期ロングの構築フェーズ」が読み取れます。

規制・政策アップデート:データ保護と金融安定リスク

規制面では、プライバシー保護と金融安定リスクの両側面から暗号資産への圧力と制度化が同時に進んでいます。

WorldcoinとタイPDPC:生体データとトークン配布の衝突

タイの個人データ保護委員会(PDPC)は、Sam Altman氏らが共同創業したデジタルIDプロジェクトWorld(旧Worldcoin)に対し、約120万件の虹彩データの削除と国内での事業停止を命令しました。暗号資産と引き換えに生体情報を取得するモデルが、同国のデータ保護法に反すると判断された形です。

現地取引所のBinanceやBitkubはWLD取引に関する注意喚起を行っており、「KYC強化」と「オンチェーンID」の境界線が各国規制当局によって引き直されていることが分かります。生体情報を活用するWeb3プロジェクトにとっては、トークンインセンティブ設計とプライバシー保護を両立させることが今後の事業継続条件になるでしょう。

南アフリカ準備銀行:ステーブルコインを新たな金融リスクに指定

南アフリカ準備銀行(SRB)は半期金融安定性報告書で、暗号資産およびステーブルコインを新たな金融リスクとして明示しました。クロスボーダー性と既存外為規制の迂回可能性を懸念し、財務省と連携して暗号資産取引および為替管理法の改正作業を進めています。

暗号資産の普及率が高い同国では、LunoやVALRなど3社のプラットフォームに約780万人の登録ユーザーと約253億ランドの資産が集中しているとされ、ステーブルコインが既に決済・送金インフラとして機能している実態も報告されています。これは、ステーブルコインが「銀行システム外のインフラ」として規制当局に認識され始めたことを象徴する動きです。

企業・資金調達・プロジェクト動向:レバレッジ縮小とRWAシフト

10月の急落は、レバレッジ依存のビジネスモデルと実需・キャッシュフロー型プロジェクトの明暗を一段と分ける結果となりました。

ステーブルコイン:USDC・USDeからUSDT・RWAへ

PANewsの詳細分析によると、10月11日の市場クラッシュ以降、ステーブルコインの時価総額は約3,087億ドルから3,028億ドルへ縮小し、約60億ドルが市場から流出しました。USDCはこのうち約28億ドルの減少と最も大きな打撃を受け、特にSolanaチェーン上のUSDC残高は1カ月で約18.24%減少、発行量は128億ドルから87億ドルへと約41億USDC減っています。

一方で、アルゴリズム型のUSDeはTVLが146億ドルから73.8億ドルへと半減し、流動性不足から一時0.65ドルまでの大幅なディペッグを経験しました。高レバレッジのリボルビングローン戦略が資金調達コストの上昇とともに成立しなくなったことが背景にあります。

対照的に、USDTの時価総額は約1,847億ドルと過去最高を更新し、PayPalのPYUSDは2.5億ドルから3.6億ドルへと約50%増加、Circleの利回り付きUSYCも1カ月で約45%増加しました。RWAトークン全体の発行残高も、米国債連動商品を中心に330億ドルから360億ドルへと約10%増加しており、「高レバレッジ担保」から「規制順守・実質利回り」への資金ローテーションが鮮明です。

Suiチェーンに関しては、一時的に「24億ドルのステーブルコイン流入」と誤認されましたが、データ修正の結果、実際には1週間で約1.17億ドル増にとどまったことも明らかになっています。データプロバイダの精度が投資家心理に与える影響も、今後の重要なリスク要因と言えるでしょう。

Coinbase Venturesの4つのテーマとAIエージェント経済

Coinbase Venturesは2026年までの投資テーマとして、
①RWAパーペチュアル、
②プロトレーダー向け専用ターミナル、
③次世代DeFiプロトコル、
④AI・ロボティクス連携の4分野を掲げています。
これは、マクロヘッジやRWAエクスポージャーをオンチェーンで提供しつつ、AIエージェントが自律的に取引・決済を行う世界観を見据えた布石と位置付けられます。

AI×Web3の文脈では、SentientがWeb3を活用した第3のAIモデルとして、OpenAIのようなクローズドエコシステムとBittensor型の完全分散ネットワークの中間に位置する「実用志向のAIサービス」を打ち出しています。ROMAフレームワークによるタスク分解や、暗号資産・Web3領域に特化したLLM「Dobby」、TEEを用いたEnclaveなど、エージェント経済を想定したインフラ整備が進みつつあります。

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この流れを支える基盤として、SKALEとBaseがAIエージェント向けL3「SKALE on Base」をローンチし、ガスレス体験とマルチチェーン展開を両立させる構想も発表されています。また、x402プロトコルとSwitchboardがTEEベースのオラクル層を再設計し、AIエージェント経済の「価値動脈」としてのデータサービスを目指す取り組みも進んでいます。

レバレッジプラットフォーム:HyperliquidとHYPE・HyperEVM

デリバティブプラットフォームHyperliquidを巡っては、HYPEやHyperEVMエコシステムがプロトコル手数料をどこまでトークン価値に還元できるかが議論となっています。分析記事は「HyperliquidはHyperEVMをHYPEの出口流動性として必要としているのではなく、プロダクト手数料そのものがHYPEの価値源泉である」としつつ、ETHとL2の関係性を引き合いに、手数料キャプチャの難しさを指摘しています。

これは、単にTVLや取引高を伸ばすだけでなく、「どのようにトークンホルダーへキャッシュフローを還元するか」という設計が価値評価の中心になってきていることを示しています。スーパーサイクル論を紹介したPANewsの別記事でも、今後はEthereumやSolanaのようなインフラ層と、実際に安定した手数料収入を生むプロトコルのみが長期的に残るとの見方が示されています。

イベント・その他トピック:セキュリティと行動規範

最後に、投資家心理に影響を与え得るセキュリティ事案と、開発者・投資家コミュニティに向けた行動規範の議論を整理します。

Sam Altman元パートナー強盗事件とOPSECの再点検

OpenAI共同創業者Sam Altman氏の元パートナーである投資家Lachy Groom氏が、11月22日にサンフランシスコの自宅で武装強盗に遭い、約1,100万ドル相当の暗号資産を奪われたと報じられました。容疑者はUPS配達員を装い侵入し、銃で脅して電子機器を差し出させたうえで、携帯電話やPCから暗号資産を送金させたとされています。

この事件は、ハードウェアウォレットやマルチシグであっても、物理的な脅迫の前では完全ではないことを改めて示しました。資産規模が大きくなるほど、キーフレーズの分散保管、信託スキーム、地理的に分かれたマルチシグ構成など、「人質リスク」を前提にしたOPSEC設計が求められます。

Vitalikの「Galaxy Brain」警鐘とシンプルなルール

Vitalik Buterin氏は「Galaxy Brain Resistance」というエッセイで、知性の高い人ほど複雑な理屈を積み上げて不正行為を正当化しやすいと警告し、「賢い人ほど“バカみたいに単純な”ルールを必要としている」と述べています。

これは開発者だけでなく、レバレッジ取引や高利回りプロダクトを利用する投資家にも当てはまります。「最大レバレッジは○倍まで」「全資産の○%以上を1プロジェクトに集中させない」といった単純な行動ルールを事前に決めておくことが、複雑な相場環境におけるリスク管理の第一歩と言えるでしょう。

▽ FAQ

Q. 2025年11月27日時点でステーブルコイン市場に何が起きている?
A. 10月11日急落後に約60億ドルが流出し、USDCやUSDe残高が縮小する一方、USDTは約1,847億ドル、PYUSDとUSYCも増加し、RWAトークンの時価総額は330億ドルから360億ドルへ約10%拡大しています。

Q. ビットコインとイーサリアムの価格レンジとトレンドは?
A. BTCは87,615ドル前後で9万ドル手前のレンジにあり、8万〜8.65万ドルでの下値模索が続くと見られます。ETHは2,939ドル付近で、Tom Lee氏は短期で2,500ドルへの調整後に2026年1月に7,000〜9,000ドルへ向かうスーパーサイクル入りを予想しています。

Q. 最近の規制・政策で押さえるべきポイントは?
A. タイPDPCがWorldcoinに約120万件の虹彩データ削除と事業停止を命令し、南ア準備銀行は暗号資産とステーブルコインを新たな金融リスクと認定しました。テキサス州はIBITに500万ドルを投じビットコイン準備金を開始しており、規制強化と制度採用が同時進行しています。

Q. 個人投資家が意識すべき主なリスクは?
A. USDeの一時0.65ドルへのディペッグやHyperliquidのレバレッジ清算事例に加え、Sam Altman氏の元パートナーが1,100万ドル相当の暗号資産を強盗被害に遭ったように、スマートコントラクトリスク・市場リスク・物理的セキュリティリスクが三位一体で存在する点に注意が必要です。

■ ニュース解説

10月11日の急落以降、ステーブルコイン市場ではUSDC・USDeからUSDTやPYUSD、USYCといった利回り付き・RWA連動型への資金シフトが進み、ビットコインやイーサリアムは9万ドル・3,000ドル近辺での調整局面に入る一方で、ETFや州政府による買い増しなど長期マネーの流入が続いているため、レバレッジ縮小と構造的なスーパーサイクル進行が同時に起きている状況と整理できます。

複数のPANews記事が示すように、今回のサイクルでは「すべてのアルトが一斉に上がる」局面は終わりつつあり、実際の手数料収入やキャッシュフローを生むインフラ・プロトコルと、規制順守と利回りを両立するステーブルコイン・RWAトークンに資金が集まり、その他のトークンはゼロに近づく再評価が進んでいます。一方で、Worldcoinに対するタイPDPCのデータ削除命令や南ア準備銀行の金融安定リスク認定など、規制上の「赤線」も明確になりつつあり、制度化と淘汰が加速していると言えるでしょう。

投資家の視点:
本稿で整理した通り、現在の市場環境は「価格が全般に軟調=スーパーサイクル終了」ではなく、「レバレッジとストーリーベースの銘柄から、実需・キャッシュフロー銘柄への構造的なローテーション」が進んでいる局面と捉えることができます。インデックス的なエクスポージャー(BTC・ETH・主要ETFなど)と、規制順守のステーブルコイン・RWAプロダクトを軸に構造変化の方向性を確認しつつ、個別プロジェクトについては「どのような実需と手数料収入があり、どのような形でトークンホルダーに還元されるのか」「規制・データ保護リスクをどう管理しているか」といった点を冷静に比較検討することが重要になります。

※本稿は一般的な情報提供を目的としており、特定銘柄・金融商品の売買を推奨するものではなく、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

(参考:PANews