▽ 要約
ドバイVARA:2023年に運営許可、2025年にOTCオプション初認可。
アブダビADGM:2024年にFSP取得でブローカー・運用許可。
日本参入:2025年10月に交換業登録の事前協議、法人中心。
ファンド:2023年にBTC/ETHファンド設定、Komainuが保管。
制度整備が進む中で機関需要を取り込めるか——野村の「Laser Digital」は、ドバイとアブダビで規制許認可を確保し、BTC/ETHファンドを上場外で運用、日本では交換業登録へ動くなど、野村レーザーデジタルの暗号資産戦略はグローバル一体で前進している。野村の投資銀行基盤と暗号資産ネイティブの人材を融合させた点が強みであり、同社は機関投資家の実需を起点に日本市場の厚みづけを狙う。
2022年の参入背景と初期戦略
市場制度の明確化が進む欧米・アジアをにらみ、機関投資家の橋渡し役に回るためデリバティブ解禁と子会社構想を並行して進めた。
2022年3月に社内「デジタル・カンパニー」を新設し、5月には機関投資家向けデジタル資産子会社の設立計画を発表した。直後にCME系商品を用いたビットコインの先物・オプション相当のOTC取引に着手し、取引所と相対をつなぐ実務能力を示した。基盤面では2018年発表・2020年ローンチのKomainuで保管機能を先行整備している。
CME対応のデリバティブ着手と保管インフラ
相対型NDF/オプションやCME連携の取引開始で実需に応えたため、暗号資産市場の価格変動局面でも機関投資家向け執行が可能になった。
野村は2022年5月、アジア顧客向けにビットコインのOTCデリバティブ提供を開始し、CMEでの先物・オプション取引執行実績も公表された。併せてKomainuによる規制下のカストディを活用し、リスク管理・分別保管・監査対応を制度準拠で構築した。
スイス拠点「Laser Digital」の全体像
グローバル一体運営のため、規制整備と人材がそろうスイスに持株会社を置き、機関ビジネスに焦点を絞った。
2022年9月、Laser Digital Holdings AGをスイスに設立。会長スティーブン・アシュリー、CEOジェズ・モヒディーンを軸に、伝統金融の統治とクリプトの俊敏性を両立する体制を敷いた。
三本柱(トレーディング/ベンチャー/資産運用)
機関向け流動性供給とOTC執行を起点に、戦略投資とロングオンリー運用で裾野を広げた。
セカンダリー取引部門は相対大口の価格影響を抑え、VCはインフラ・Web3に投資、運用は2023年にBTCファンド、同年11月にETHファンド(ステーキング付与)を設定し、保管はKomainuが担う。
拠点展開(ドバイ/ロンドン/東京)
規制明確なUAEと日本を重視したため、可用性と準拠性を両立した24時間体制を構築した。
ドバイとロンドンに続き、2023年10月に東京拠点を開設し、日本の法人顧客開拓とグローバル運用・トレーディングのカバレッジを強化した。
中東での規制ライセンス獲得(ドバイ/アブダビ)
多層的な許認可の取得で、取引・運用・デリバティブまで機関サービスの品揃えを拡充した。
ドバイでは2023年にVARAの運営ライセンスを取得し、機関向けOTCと運用を提供可能に。アブダビでは2024年にFSRAのFSPを獲得し、伝統資産と仮想資産の双方でブローカー・運用が許可された。
ドバイVARAの運営ライセンス(2023年)
厳格な4段階審査を経てVASPとして承認されたため、OTCと運用の現地提供が可能となった。
Laser Digital Middle East FZEは2023年8月にVARAのOperating Licenceを取得し、VAブローカー・ディーラーおよび運用サービスを提供できる体制に移行した。
OTC暗号資産オプション限定ライセンス(2025年)
パイロット枠で世界初のOTCオプション規制ライセンスを得たため、ヘッジと利回り設計の選択肢が増えた。
2025年8月、VARAのパイロット制度でOTCオプションの限定ライセンスを取得し、ボラティリティ管理やイールド強化の構造化提案が可能に。
アブダビADGMのFSP(2024年)
ADGMではFSP取得により、仮想資産と伝統資産の双方でブローカー・運用を許容する枠組みが整った。
2024年6月、FSRAがFinancial Services Permissionを付与し、機関向けの業務範囲を明確化(小口個人は不可)した。
日本—Laser Digital Japanの設立と狙い
交換業登録でB2B市場のゲートウェイとなるため、法人中心のブローカー機能を整備する。
2023年に東京オフィスを開設、2025年10月時点で金融庁との事前協議を進め、法人顧客に対するブローカー・ディーラー型サービスの登録準備を公表した。
交換業登録の進捗(2025年10月)
市場の量と制度改革を背景に、法人向けの国内提供に向けて申請準備が本格化した。
報道によれば、Laser Digitalは金融庁と事前協議を開始し、日本市場の成長性と規制改革を踏まえ法人顧客中心の参入を目指す。
想定サービス(B2B中心)
国内機関・交換業者向けにOTC執行、流動性提供、カストディ連携、構造化デリバティブを段階導入する。
ブローカーサービスに加え、Komainu等と連携した保管・決済、許認可範囲内での先物・オプション等のヘッジ商品、ソリューション提供まで拡張する設計だ。
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市場環境と競争条件(日本の文脈)
個人主導の厚い市場に機関フローを上乗せするため、規制の明確化とB2Bインフラが鍵となる。
JVCEAデータに基づく2025年1~7月の国内取引額は33.7兆円規模と報じられ、流動性は改善基調。一方で機関向けの執行・保管・リスク管理の要件は高く、伝統金融の与信と内部統制が参入の決め手になる。
リスク・課題と執行上の要点
規制の不確実性と市場サイクルの影響が残るため、ライセンス範囲の厳守と収益多角化が必須となる。
国内ではFIEA等の見直しに関する政策動向を注視しつつ、OTCと運用の収益バランスを取り、サイバー・オペレーショナルリスクをKYC/AMLと多層防御で抑える必要がある。コスト先行局面の継続も想定し、耐久力と説明責任が問われる。
▽ FAQ
Q. VARAのOTCオプション限定ライセンスは何を可能にする?
A. 2025年8月6日の限定許可により、BTC/ETH等の店頭オプションを機関向けに提供し、ヘッジや利回り設計が可能になる。
Q. ADGM(アブダビ)でのLaser Digitalの許可範囲は?
A. 2024年6月19日にFSPを取得し、仮想資産と伝統資産のブローカー・運用が可能(ただしリテールは対象外)となった。
Q. 日本参入のスケジュール感は?
A. 2025年10月時点で金融庁と事前協議段階。正式登録が認可されれば法人向けブローカー業務を開始予定と報じられる。
Q. 運用商品の中核は?
A. 2023年にBTCアダプション・ファンド、同年11月にETH版(ステーキング付)を設定し、Komainuが規制下で保管する。
Q. 日本市場の規模感と追い風は?
A. 2025年1~7月の取引額は33.7兆円と報じられ、税制・制度見直しの議論が進展し機関参入への期待が高まる。
■ ニュース解説
中東での許認可取得とBTC/ETHファンド拡充が進んだため、Laser Digitalは機関投資家向けの品揃えと規制対応を同時に前進させ、日本では登録協議に入った一方で収益化の耐久力が引き続き課題となる。
投資家の視点:日本の法人向けフロー獲得は「登録×流動性×保管」の三位一体が前提。短期は執行・保管の信頼性、準備金・AML体制を優先し、中期はオプション等のヘッジや構造化で安定収益化を図るのが一般的だ。
※本稿は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。
(参考:Laser Digital,Nomura Holdings,ADGM)