【要約】
・2020年から2025年にかけてのイーロン・マスク氏とドナルド・トランプ氏の関係を振り返る
・「DOGE」という部局名は仮想通貨“Dogecoin”ではなく、あくまでも新設官庁・「Department of Government Efficiency」の略称
・大統領選やSNS動向など、両者の協力と衝突が繰り返された点に注目
・関係の変遷と政権内での対立の具体例を紹介
仮想通貨ユーザーが注目する理由
仮想通貨市場の動向を追う方々にとって、イーロン・マスク氏は非常に馴染み深い存在です。実際には、以下で取り上げる2020年から2025年にかけてのトランプ氏との関係史では、仮想通貨そのものを直接言及する場面が多くはありません。しかし、マスク氏がSNS上でしばしば「Dogecoin」などを取り上げたこともあり、一部の投資家は「DOGE」という文字に敏感になりがちです。ところが、本稿で取り上げる「DOGE」とは「Department of Government Efficiency」という部局の略称であり、いわゆる仮想通貨“DOGE”とは異なる点にご留意ください。
2020年:表面的な協調と相互称賛
宇宙開発を契機とした接近
2020年、大統領選を前にしたドナルド・トランプ氏とイーロン・マスク氏は、宇宙開発を中心に表面的な協調関係を築きました。スペースXが有人宇宙船の打ち上げに成功した際、トランプ氏はマスク氏を「現代の天才」と称し、宇宙産業を政権の成果としてアピール。マスク氏はパンデミック下でのテスラ工場再開をめぐる問題でトランプ政権から支援を受けました。
大統領選への態度
一方で、マスク氏は2020年当時にトランプ氏個人を明確に支持したわけではありません。表向きは大統領の宇宙政策を評価していましたが、後に民主党候補に投票していたと示唆する発言もあります。ただし、この時期はテスラやスペースXなどの事業目的で政権との利害が一致し、友好的な言葉がしばしば交わされていました。
2021~2022年:距離を置いた緊張期
トランプ氏のSNS追放とマスク氏の違和感
2021年1月、連邦議会襲撃事件を機にトランプ氏の主要SNSアカウントが停止されます。マスク氏は直接的にトランプ氏を擁護はしなかったものの、「検閲状態には問題がある」という趣旨の言及を行い、既存SNSの在り方に疑問を呈しました。ここで「言論の自由」をめぐるマスク氏の姿勢が注目され、2022年に進められたTwitter買収計画へとつながります。
Truth SocialとTwitter買収騒動
トランプ氏は自らのSNSであるTruth Socialを立ち上げ、一方のマスク氏はTwitterを買収しようとする動きを見せました。マスク氏がTruth Socialの名称を揶揄する場面もあり、両者の間に静かな溝が生まれます。マスク氏が「今後は共和党に投票する」と発言した一方で、トランプ氏の個人支持とは距離を置く姿勢を示すなど、この時期は友好が表立って深まることはありませんでした。
2022年後半:買収完了と一時的な接近
トランプ氏アカウント復活
2022年10月末、マスク氏がTwitter買収を完了すると、真っ先に議論になったのがトランプ氏のアカウント停止措置。マスク氏は世論投票を実施したうえで「永久追放は極端すぎる」として復活を決断しました。トランプ氏は自分のプラットフォームを優先すると宣言し、すぐにはTwitterへ戻りませんでしたが、SNS上で再びつながる可能性が取り沙汰されました。
しかし水面下では衝突
一方、買収交渉のさなかには両者が罵り合うシーンも見られました。トランプ氏がマスク氏を「デタラメ野郎」と呼び、マスク氏も「彼はもう引退すべきだ」と応酬する場面が報道され、SNS上の舌戦が過熱。友好的な面と対立的な面が同時進行する複雑な時期だったといえます。
2023年:トランプ氏のSNS復帰とマスク氏の政治姿勢
DeSantis支援とトランプ氏の再登場
2023年、マスク氏は共和党の有力候補ロン・デサンティス氏を好意的に扱うなど、トランプ氏を明確に支持しないまま選挙戦を見守る姿勢を見せました。しかし、トランプ氏が逮捕写真(マグショット)をTwitterに投稿すると、マスク氏は「次元が違う」と反応。トランプ氏が持つ強い影響力を改めて意識し始めた様子がうかがえます。
2024年:驚くべき「同盟」への転換
暗殺未遂事件を経た協力
2024年7月、トランプ氏が選挙集会中に暗殺未遂事件に遭ったことが転機となり、マスク氏は一転してトランプ氏への全面的な支援を表明。両者が共同で演説会を行うなど、にわかには信じがたいタッグが形成されました。さらにマスク氏は選挙資金やSNS上の発信力を駆使し、トランプ陣営を後押しする一大勢力に。結果としてトランプ氏は大統領選で勝利し、両者の蜜月関係はピークを迎えます。
DOGE(Department of Government Efficiency)の誕生
選挙勝利後、トランプ大統領は官僚機構改革を目的に「DOGE」と呼ばれる新設部署を立ち上げ、マスク氏を共同長官に任命しました。ここで誤解が生じることがありますが、DOGEとは仮想通貨「Dogecoin」の略ではなく、あくまでも行政組織の略称です。皮肉にもこのネーミングが一部の仮想通貨投資家の興味を惹く結果となりました。
2025年前半:一時の蜜月と暗雲
スリム化策と対立
DOGEは各省庁のリストラを進め、予算削減を断行。しかし官僚組織や野党の猛反発を招き、マスク氏の本業であるテスラ社にも逆風が吹き始めます。トランプ政権の関税政策などで部品コストが高騰し、テスラ株は大幅下落。両者は表向き協力を続けましたが、経済面や移民政策などで温度差が顕在化していきました。
「ビッグ・ビューティフル・ビル」をめぐる不満
大型予算法案の内容にマスク氏が反発し、公然と「醜悪極まりない法案だ」と批判。トランプ大統領は逆に「彼のEV普及策はやりすぎだ」と応じるなど、政府内での亀裂が目立つようになります。最終的にマスク氏はDOGE長官を退任し、トランプ大統領と笑顔で握手する場面が演出されましたが、関係が修復したわけではありませんでした。
2025年中頃:決定的な衝突
SNS上での暴露合戦
退任直後、マスク氏は「私がいなければトランプは選挙に勝てなかった」とSNSで発信し、トランプ大統領も「彼は政権内でやりたい放題だった」などと反撃。マスク氏はさらに「エプスタインのリスト」にトランプ氏の名前が含まれていると示唆し、トランプ氏陣営は猛反発。両者の不和はもはや和解不可能な段階に突入したと報じられました。
ニュースの解説
今回のトランプ大統領とイーロン・マスク氏の一連の騒動は、政治権力と革新的実業家の「蜜月から対立」へ至るドラマとして大きく注目を集めました。とりわけ、マスク氏が新設組織「DOGE」の長官を務めた点は、仮想通貨Dogecoin支持者にとって誤解を生みやすい要素でもありました。しかし本記事のとおり、この“DOGE”は行政改革を目的とした部局であり、仮想通貨関連の施策を担うものではありません。
一方で、マスク氏が政権をサポートしつつ自身の企業やSNSをフル活用する動きは、政治とビジネスの相互依存が加速する象徴的出来事と見られています。トランプ大統領もまたSNSを武器にしてきた存在であり、両者の連携・決裂の一挙手一投足が世論や市場へ即座に反映されました。現時点では相互不信が深まり、関係修復は難しいと見られますが、今後も両者の言動が世界の動向に影響を及ぼす可能性は十分に考えられます。仮想通貨市場のトレンドも含め、イーロン・マスク氏やトランプ大統領が発信する情報には引き続き注目が集まるでしょう。