▽ 要約
基本:NAVは資産−負債、mNAVはEV÷BTC NAV。
メタプラ:2025-06-26でNAV1,922億円・mNAV5.2倍。
資本政策:mNAV3倍未満は転換社債・優先株へ軸足。
比較:Strategyは概ね1.7〜2.0倍で推移。
投資家の最大の疑問は「株価は保有資産価値に対し高いのか低いのか」だ。答えは、NAV(純資産価値)とmNAV(NAV倍率)で即時に可視化できる。本稿はmNAV(NAV倍率)の定義・式・読み方を整理し、メタプラネットの実数値(2025-06-26時点)で応用面を示す。読み終えるころには、決算資料と株価から企業評価を素早く判断できる。
NAV・mNAVの定義と式
NAVは資産から負債を差し引いた価値、mNAVは企業価値をBTC NAVで割った倍率のため、両者で「実物資産価値」と「市場の上乗せ(または割れ)」を分解できる。
NAV(Net Asset Value)は「資産合計−負債合計」で、投信では1口あたり、企業では総額や1株あたりで用いる。ビットコイン保有企業に適用する際は、保有BTC数×時価=BTC NAVとし、mNAV=EV(時価総額+有利子負債−現金)÷BTC NAVで算出する。mNAV>1はプレミアム、1未満はディスカウントを意味する。前提通貨と評価時点の統一が必須となる。
計算ステップと実務上の注意
算式は単純でも、通貨・時点・希薄化を揃えないとmNAVの解釈を誤る。
手順は①BTC保有量を確認②評価時点のBTC価格でBTC NAVを算出③EV(時価総額+有利子負債−現金)を同一通貨・同一時点で計測④mNAV=EV÷BTC NAV。希薄化(新株発行・転換)の影響や現金・負債の急増減はEVを動かすため、四半期ごとに再計算するのが望ましい。
ETF・投信との違い
ETFは解消メカニズムがあるためNAV乖離が限定される一方、企業株は償還がないためmNAVが大きく振れる。
ETFや投信では裁定で基準価額乖離が縮小しやすいが、企業株は需給に左右されやすい。よって、同じBTCエクスポージャーでも株式はプレミアム(またはディスカウント)が持続し得る。mNAVはこの乖離を定量化する。
メタプラネットの事例(2025年)
同社はBTC NAVを主要資産指標、mNAVを資本政策のシグナルに用いるため、株式発行とBTC購入の速度が連動する。
メタプラネット(3350)はビットコイン・トレジャリー企業として、保有BTCを基軸にNAVとmNAVを開示している。2025-06-26時点、保有は12,345BTC、BTC NAVは1,922億円、同日のmNAVは5.2倍だった(いずれも円換算、会社・調査資料ベース)。同社はワラント等による株式発行を「mNAVが高い局面で」活用し、BTCの取得ペースを高める。一方、mNAVが3倍を下回る場合は転換社債や優先株など非希薄化型へ軸足を移す方針が示されている。
mNAVが示す期待とリスク
mNAVが高いほど成長期待を映すが、BTC価格や発行ペースが鈍れば圧縮しやすいため、倍率単独評価は危険となる。
外部リサーチは、歴史的に同社がmNAV対比3〜10倍のプレミアムで取引された局面がある一方、指標単独での高低判断に警鐘を鳴らす。経営側は短期の時価評価益より「BTCイールド(1株あたりBTC増加率)」や「BTCゲイン」を重視し、実際の蓄積スピードでmNAVを“カバー”できるかを重視している。
海外比較(Strategyほか)
Strategyは2025年時点で概ね1.7〜2.0倍が目安とされ、企業ごとの調達力と実行でmNAVは分かれる。
MicroStrategy(現Strategy)は大量調達とBTC増加の実績で恒常的なプレミアムを維持してきた。他方、マイニング企業(MARA、Riot 等)はビジネス特性が異なり、mNAVよりEPSや稼働ハッシュが注目されやすい。ETFの普及は「株式によるBTCエクスポージャー」の相対魅力を薄め、mNAV圧縮圧力として働く可能性がある。
▽ FAQ
Q. mNAVの計算式は?
A. mNAV=EV÷BTC NAV。EVは時価総額+有利子負債−現金で、通貨と評価時点を統一する。
Q. メタプラネットの2025-06-26時点の数値は?
A. BTC NAVは1,922億円、mNAVは5.2倍。同日開示・調査資料に基づく実数値である。
Q. mNAVが1未満の意味は?
A. NAV割れ(ディスカウント)。資本調達が難化し、希薄化や成長鈍化の懸念が強まる。
Q. Strategy(MSTR)の一般的水準は?
A. 2025年時点で概ね1.7〜2.0倍。大量調達とBTC蓄積の実績がプレミアムを支える。
Q. 企業価値(EV)は?
A. EV=時価総額+有利子負債+優先株等−現金等。買収価格の概算に使われる。
■ ニュース解説
mNAVは時価が保有BTC価値をどれだけ上回るかを示すため、ETF普及で圧縮圧力が強まる一方で、株式発行とBTC増加を両立できる企業はプレミアムを維持しやすい。
事実:2025-06-26時点でメタプラネットのBTC NAVは1,922億円、mNAVは5.2倍。背景:2024年以降のスポットETF普及で代替手段が拡大し、企業株のプレミアムは実行力や資本政策の巧拙に左右されやすい。影響:mNAVが高い局面の発行はBTC取得を加速するが、実績が伴わなければ倍率は変動しやすい。
投資家の視点:mNAVの水準だけでなく①BTCイールド(1株あたりBTC増加率)②レバレッジと有利子負債③希薄化設計(ATM/優先株/CB)④“Months to mNAV cover”の勘所を併せて点検するのが一般的だ。
※本稿は投資助言ではありません。
(参考:Metaplanet)