▽ 要約
方針 金融庁がJPYC承認方針、秋に発行へ
法制 電子決済手段として全額保全と償還を義務
技術 ERC-20等の既存チェーンで相互運用性確保
市場 3年で1兆円目標、送金・法人決済で普及狙う
円建てステーブルコインは本当に使えるのか——その答えに踏み込むのが本稿だ。金融庁が国内初の「JPYC」承認へ動き、法制度・技術・市場の要件が出揃った。JPYC 金融庁承認の具体像を整理し、利用者・事業者・投資家が何を見ればよいかを短時間で把握できるようにまとめた。
金融庁承認のポイント(法的位置づけとスケジュール)
国内初の円建てステーブルコイン承認は2025年8月の登録完了後に数週間で発行開始となる見通しで、電子決済手段として厳格な資産保全と償還が求められる。
JPYC社は資金移動業の登録(想定:第二種)を経て発行主体となる。電子決済手段に位置づけられるため、暗号資産とは別枠で監督され、発行・償還・仲介の各機能にライセンスが紐づく。利用者保護では、(概ね)発行残高の全額保全、分別管理、広告規制、KYC/AML対応が要件化される。発行開始時期は月内登録→秋ごろ販売開始という段取りで、まずは国内の送金・決済領域から展開される。
ライセンス区分と利用者保護(第二種・1件100万円上限)
第二種資金移動業で1件100万円の送金上限が想定されるため、個人・法人の少額〜中規模決済に適合し、1JPYC=1円での払戻し義務がパリティ維持の基盤となる。
払戻し可・全額保全という制度設計は、価格安定性と流動性の確保を目的とする。利用者から預かった資産は発行体の固有財産と分別され、指定の保全手段(信託等)で守られる。仲介業者側にも情報提供や本人確認の義務が課され、クロスボーダー決済や買取業務における説明責任が明確化する。
技術設計と運用(パブリックチェーン×準備資産)
独自チェーンは用いず既存のパブリックチェーンで発行するため相互運用性が高く、預金と日本国債を準備資産としてペッグ維持を図る。
JPYCトークンはERC‑20等の規格を採用し、主要L1/L2との接続性を確保する。チェーン選択はウォレット互換性・手数料・セキュリティのバランスで決まり、スマートコントラクトによる自動決済の拡張性も確保される。準備資産は即時性の高い現預金と高流動の国債が中心で、償還請求に対応可能なキャッシュ比率の維持が運用上の要諦となる。
利息帰属とコンプライアンス運用
裏付け資産から生じる利息・クーポンは原則として発行体の収益に計上され、ユーザー側は安定的な額面価値の維持を主利益とするため、性質は預金ではなく決済手段に留まる。
この区別により、預金保険の対象外である一方、決済手段としての即時性・相互運用性を活かしたユースケースを設計できる。KYC/AML、取引追跡、異常検知やブロックリスト対応などのオペレーションは、法令・ガイドラインに沿って随時強化が求められる。
用途と市場規模(送金・法人決済・個人決済)
国際送金と法人決済のコスト削減が主用途となり、3年で約1兆円の発行目標を掲げる一方、個人のキャッシュレス決済でも即時性と少額性で利便が高まる。
海外送金では為替両替や中継銀行の手数料圧縮が期待でき、企業間では請求・支払・消込の自動化やDVP/条件付決済の導入余地がある。個人用途では少額のP2P支払い、Web3サービス内課金、チケット・クーポン連動などが想定される。国内先行導入後、貿易決済や越境ECでの展開が次段階となる。
グローバル比較(USDT/USDC支配と日本の立ち位置)
世界ではUSDT/USDCが時価総額の大半を占める約2,850億ドル市場を形成するため、JPYCは円建て決済の選択肢提供で為替リスク回避に資する。
米ドル建て主流の中で、円建ては日本居住者・日本法人の会計通貨と整合する利点が大きい。2025年以降は国内でもUSDCの取り扱いが始まり、ドル建てと円建ての併存が進む。円建てステーブルコインの定着は、円のオンチェーン利用と円貨決済圏の厚みづくりにつながる。
日本経済・金融市場への影響と課題
国債需要の増加は金利低下圧力となり得る一方、AML監視やデペッグ耐性、情報開示の徹底など実務課題の解消が不可欠となる。
準備資産としてJGBが積み上がれば、米国におけるUSDT/USDCと同様に国債需要の新規プレイヤーが出現する。市場面では、発行拡大の速度と流動性管理の巧拙がペッグ安定性を左右する。制度・監督面では、分別管理、保全スキーム、換金フローの可視化、異常時のコンティンジェンシー(一時停止・償還優先手順等)を明確化する必要がある。
運用・開示の焦点(裏付け資産・分別・透明性)
裏付け資産の組成・満期分散・換金性を明示し、月次等の残高・保全状況を公開することで、パリティへの信認を維持する。
会計上は電子決済手段の特性に応じた表示・注記が求められ、償還フローや買取条件、停止条項の説明は利用者保護の観点で重要だ。仲介業者には広告・表示規制や説明義務が課され、国際的な送金経路では相手国規制との整合も論点となる。
主要リスク(市場・オペレーション・制度)
国債価格の急変、システム障害、規制変更はペッグ安定性を揺るがすため、流動性バッファ、冗長化、法改正対応のロードマップを備える。
発行拡大に伴うスケーリングでは、チェーン混雑や手数料上昇、ブリッジ/カストディのセキュリティも要管理領域となる。想定外の換金需要に対しては現金同等物の比率管理と日次のキャッシュフロー計画が鍵だ。
▽ FAQ
Q. JPYCの発行開始はいつ?
A. 2025年8月の登録後に数週間で開始見込み、秋口発行が計画されています(国内初・円建て)。
Q. ライセンス区分と上限は?
A. 資金移動業(第二種)想定で1件あたり上限100万円。国内少額決済や法人の定常支払いに適合します。
Q. 1JPYC=1円の根拠は?
A. 裏付け資産の全額保全と払戻し義務です。預金・日本国債を準備し、等価償還でパリティを維持します。
Q. 3年で1兆円の根拠は?
A. 発行体が示す目標で、国際送金・法人決済・DeFi決済の採用拡大を前提に設計されています(2025年方針)。
Q. 世界市場の規模感は?
A. 主要ステーブルコイン時価総額は約2,850億ドル(2025年8月)、USDT/USDCが大半を占めます。
■ ニュース解説
国内初承認で円建てオンチェーン決済の商用展開が現実味を帯び、法制度の整備と監督のもとで市場拡大が進む一方で、裏付け資産の管理・開示と換金フローの厳格運用が信認維持の前提となる。
投資家の視点:円建てステーブルコインは為替ヘッジなしでオンチェーン利便を得られる決済基盤であり、事業者は与信・送金コスト・回収管理の改善余地を評価しつつ、カウンターパーティ・償還・運用開示の3点を継続監視したい。
※本稿は投資助言ではありません。
(参考:JVCEA,財務省・金融庁 資料,会計基準(ASBJ))