▽ 要約
フレーム刷新 FAIT撤回で2%目標を明確化
リスク転換 雇用下振れに言及し利下げに含み
マーケット ダウ最高値、米2年債利回り低下
クリプト ETH最高値圏、BTCも反発
投資家の関心は「2%目標は動くのか、利下げはいつか」に尽きるため、ジャクソンホール2025のパウエル講演は政策枠組み改定とリスク評価の転換を示した点で重要であり、ジャクソンホール パウエル講演 2025の要点を押さえることが当面の投資判断に直結する。
政策枠組みの見直しと「2%目標堅持」
平均インフレ目標を撤回し柔軟なインフレ目標へ回帰したため、2%目標の信認を再強化する枠組みに改まった。
FRBは「長期的なインフレ率2%」を再確認し、2020年導入のFAIT(過去の下振れの埋め合わせとして一時的なオーバーシュート容認)を削除した。長期目標文書は「雇用が推定最大水準を一時的に上回っても直ちに物価安定リスクとは限らない」としつつ、インフレ期待のアンカー維持を明言。これにより目標は明確さと対称性を取り戻した。
2025年版「長期目標・戦略」の主な改定点
FAIT文言削除と2%目標の明確化を柱に、雇用目標の数値化回避と「バランス・アプローチ」を再掲した。
改定では、(1)インフレの長期目標2%を再確認、(2)平均インフレ目標のオーバーシュート容認を撤回、(3)雇用は推定最大水準が変動するため数値目標は設けない、(4)目標が競合する局面ではバランスを取る、を明文化。これにより政策はルール化に偏らず裁量の余地を残す。
インフレ現状—PCE2.6%、コア2.9%の評価
総合PCEは6月に前年比2.6%へ低下した一方、コアは7月推定で2.9%と粘着的であるため、警戒は維持された。
パウエルは関税の押し上げ効果は「比較的短命な価格水準の調整」にとどまる公算としつつ、賃金・物価スパイラルの芽は注視すると述べた。インフレ期待は2%近辺でアンカーされており、枠組み改定は期待の固定化を狙う。
雇用下振れリスクと「データ次第」の利下げ含み
供給と需要の両面が減速する「奇妙な均衡」のため、リスクバランスは雇用側に傾きつつある。
講演は、失業率は低水準でも雇用増勢の鈍化と統計の下方修正が示す脆弱性に言及。政策金利は十分抑制的水準にあり、見通しとリスクの変化に応じてスタンスを調整し得るとし、9月以降の利下げ開始に含みを持たせた。
「バランス・オブ・リスク」の転換点
インフレの上振れリスクと雇用の下振れリスクが併存するため、前者一辺倒から均衡重視に舵が切られた。
労働需給の同時減速により、ひとたび悪化すれば失業率の上振れが速く顕在化し得るという認識が示された。他方、インフレ期待が安定的である限り、先行きの政策柔軟性は高まる。
9月FOMCの市場織り込み
講演直後に9月利下げ確率は約90%に上昇し、短期金利主導でカーブ全体が低下した。
フェデラルファンド先物は9月25bp利下げを濃厚視し、政策金利の「データ次第」化を即時に価格付けした。7月会合時の誘導目標4.25〜4.50%は維持されており、今後の雇用統計やPCEが判断軸となる。
市場反応—株・債・為替・暗号資産
緩和期待が広く波及したため、典型的な「株高・債券高・ドル安・暗号資産高」となった。
ダウは+846ドルで年初来初の最高値、S&P500は11セクター中多数が上昇。米2年債利回りは約10bp低下し、10年債は4.25%近辺。為替はドル安に振れ、ドル/円は146円台後半へ下落した。
株式・債券
金利感応度の高いグロースや中小型が主導したため、幅広い銘柄が買い戻された。
ダウは記録的上昇で引け、S&P500も反発。小型株指数も大幅高。債券は幅広く買われ、2年債の低下が先行しカーブ全体を押し下げた。市場は「9月着手・年内複数回の可能性」を意識。
為替
米金利低下を織り込んだドル安が優勢となり、対円でドルは一時1%超下落した。
ドル/円は一時146.6円近辺まで円高が進行。ユーロなど主要通貨も対ドルで堅調となった。金利差縮小観測が為替の方向性を決めた格好だ。
暗号資産(BTC・ETH)
流動性期待の再点火によりETHが過去最高値圏に乗せ、BTCも反発した。
ETHは+14%で一時4,880ドル前後と2021年高値を更新、ETH/BTCは年初来高水準の0.041超。BTCも11.2万ドル台から11.6万ドル台へ切り返し、暗号資産関連株ではコインベースが+6.5%。ETHでは短時間に約1.5億ドルのショート清算が発生し、上昇を加速させた。
▽ FAQ
Q. FRBは2%目標を引き上げましたか?
A. いいえ。2025年8月22日に2%を再確認し、FAITを撤回しました。(60–80字)
Q. 9月FOMC(9/16–17)の利下げ見通しは?
A. 先物ベースで利下げ確率が約90%へ上昇し、25bpが有力視されています。
Q. ダウや金利はどう動きましたか?
A. ダウは+846ドルで最高値、米2年債は約10bp低下、10年債は4.25%前後です。
Q. 暗号資産の反応は?
A. ETHが約+14%で過去最高値圏、BTCは約11.6万ドルへ反発し関連株も高騰。
Q. インフレ評価の要点は?
A. 総合PCE2.6%、コア推定2.9%で粘着的。関税の影響は一時的との見方です。
■ ニュース解説
FRBは枠組みを柔軟なインフレ目標へ再調整したため、2%目標の信認を強化しつつ雇用下振れリスクに対応できる余地を確保した。背景には関税起因の物価押上げと労働需給の同時減速があり、結果として市場は9月利下げを強く織り込んだ。
投資家の視点:政策転換点では①デュレーションの再配分(短中期の金利低下恩恵)、②株式は金利感応度・バリュエーション・収益弾力の三点で選別、③為替は金利差縮小通貨への分散、④暗号資産はボラ拡大と清算連鎖を前提にリスク管理、を検討したい。
※本稿は投資助言ではありません。
(参考:Federal Reserve Board,BEA)