▽ 要約
マクロ鈍化:PPI上振れと小売堅調で利下げ観測後退、リスク資産が調整
規制延期:SECが複数ETF判断を10月へ再延期し不透明感が増大
フロー分岐:ARKB流出・IBIT流入などETF間で明暗、短期の下押し要因
指標変化:BTCドミナンス鈍化と清算増で過熱感が一服
「なぜこのタイミングで大手機関のBTC・ETH売却が相次いだのか」。答えは、インフレ指標の上振れとSECの判断延期が重なり、夏季の薄商いで価格変動が増幅したためだ。本稿は実際の資金フローとテクニカルの変化を整理し、9月以降の注目イベントにどう備えるべきかを示す。
何が起きたか:売却・移動の実像
市場の厚みが薄い8月中旬に機関投資家の売却・移動が集中したため、価格調整が生じつつも主要サポートで下げ止まった。
8月上旬、ブラックロックはCoinbase Primeへ101,975 ETHと2,544 BTCを、フィデリティ関連口座は14,978 ETHを移転し、機関の換金・リバランス観測が強まった。価格は8/14にBTC過去最高約124,000ドルを付けた後、8/18〜19に約115,000ドルまで調整したが、急落には至らず出来高で吸収された。
価格と時系列の要点
ATH直後の利益確定が重なったため、8/14→8/18〜19で数%の下落に止まり、テクニカル重要水準を維持した。
7/14の高値更新後も資金流入は続いたが、8/14の再高値更新後に短期の利食いが優勢化し、週明けにかけて11.5万ドル付近での攻防となった。
背景—マクロ・規制・流動性
7月の米PPI上振れと小売売上の堅調で9月利下げ観測が後退したため、短期のリスク回避が進んだ。
米7月PPIは前月比+0.9%、小売売上は+0.5%と強含み、金融緩和期待が後退した。加えてSECがSOLやXRPなど複数ETFの判断を10月へ延期し、夏枯れの流動性低下と相まって、売りが値動きを増幅した。
インフレ指標と金融政策
インフレの粘着性が示されたため、FRBの早期利下げ観測が弱まり、暗号資産などリスク資産の相対魅力度が一時的に低下した。
PPIの上振れと堅調な小売は「景気の底堅さとインフレ粘着」を示し、イベント前のポジション軽量化を誘発した。
SECのETF判断延期
審査期限が10月中旬〜下旬に延びたため、承認不透明感が短期センチメントを冷やした。
Bitwise/21SharesのSolana現物ETFなど複数案件で延長が通知され、期待先行分の剥落が発生した。
夏季の薄商いと拡張ボラ
参加者減で板が薄くなるため、まとまった売りが相場を押しやすくなった。
8月中旬は出来高が縮小し、移動・換金フローが値動きを増幅しやすい局面だった。
機関の戦略—リバランスとローテーション
高値圏での利益確定と比率調整が進んだため、ETF経由の解約と銘柄間ローテーションが観測された。
価格上昇でポートフォリオ内の暗号資産比率が膨らみ、タクティカルな縮小(リバランス)が実施されたとの見方が妥当だ。
利益確定とリバランス
長期保有者の売り出動が増えたため、利食い主導の調整が広がった。
オンチェーンでは直近4週間で長期保有者の保有残が30万BTC超減少との分析があり、休眠アドレスの活動活発化も観測された。
ETF資金フローの分岐
ETF間で流出入が分岐したため、現物相場への影響も偏在した。
2025-08-15に米現物BTC ETF合計で▲1,410万ドル、うちARKB▲4,670万ドル、一方でIBIT+1.14億ドルと資金の受け皿が存在した。ETH系ETFでも同時期に流出超が見られた。
分野間ローテーション
BTCドミナンスが60%割れに沈みデスクロス出現が意識されたため、アルト側への資金移動観測が強まった。
BTCドミナンス約59.7%まで低下し、移動平均のデス・クロスが確認されたとのレポートもあり、循環色が強まった。
市場への影響—価格・心理・デリバティブ
清算とヘッジ需要が増えたため、過熱感が和らぎ上昇一服のサインが点灯した。
8月中旬は数億〜10億ドル規模のロング清算が発生し、資金調達(ファンディング)も中立〜マイナス圏へ低下、25デルタ・リスクリバーサルがプット優位に傾いた。
価格・清算
ATH直後の反動でロング清算が連鎖したため、短期筋の持ち高調整が進んだ。
それでも現物の押し目買いで下値は限定的となり、重要支持の11.5万ドル周辺を維持した。
心理・派生市場
ヘッジ需要が上向いたため、短期的な用心姿勢が広がった。
無期限先物の資金調達率の鈍化〜マイナス転化や、プット需要の増加が観測された。
ドミナンスと循環
ビットコイン一強から循環色が強まったため、セクター内で明暗が分かれた。
ETHや一部大型アルトへの資金シフトが示唆され、テーマ・銘柄選別が重要となった。
今後の見通し—イベント通過と戦略
9月のFRB会合とSEC判断の帰趨で変動は残るため、フローと流動性を監視しながら段階的に対応したい。
ジャクソンホール〜9月FOMC、10月のETF審査期限をまたぐ局面では、オンチェーン供給動向、ETFフロー、先物プレミアムと資金調達、期近IVとスキューをセットで確認したい。
▽ FAQ
Q. 2025年8月の大手機関売却はどの程度の下押し要因?
A. BTCは8/14の約12.4万ドル高値から8/19に約11.5万ドルで下げ止まり、時価総額は一時約750億ドル減少。
Q. SECの判断延期はどのETFに影響?
A. 21Shares/BitwiseのSOLやXRP関連、複合ETFなどで審査延長され、最終期限は10月中旬〜下旬に設定。
Q. ETFフローの注目点は?
A. 8/15に米BTC ETFは▲1,410万ドル、ARKB▲4,670万ドル・IBIT+1.14億ドルで受け皿の偏在が鮮明。
Q. デリバティブ指標は?
A. 8月中旬に資金調達率が中立〜マイナス化、25Δスキューはプット優位へ傾き短期ヘッジ需要が上昇。
Q. 中長期の強弱材料は?
A. VanEckは年末18万ドル目標を維持、他方で政策・流動性イベント通過までは変動が残る見立て。
■ ニュース解説
大手機関の売却・移動がPPI上振れとSEC延期で増幅されたため、BTCはATH後に短期調整へ移行したが、11.5万ドル支持で踏みとどまった。背景にはETFフローの分岐と夏季の流動性低下があり、影響は過熱の冷却と循環強化として現れた。
投資家の視点:イベント前はレバレッジ抑制とポジション分散、押し目は現物・期近オプションの組合せで段階的に拾い、フロー反転(ETF純流入・資金調達の正常化)を確認してから積み増しを検討するのが一般的だ。
※本稿は投資助言ではありません。
(参考:U.S. Bureau of Labor Statistics,U.S. Census Bureau)