▽ 要約
承認:SEC等がETHEとETHのステーキングを承認。
制度:NYSE Arcaの規則変更が即時効力で適用。
利回り:報酬は再投資されNAV向上に寄与。
危険:スラッシングと引出待機に留意。
米国で初めて現物型暗号資産ETPにステーキングが組み込まれました。グレイスケールETH ETP ステーキング承認により、ETHE/ETHは価格連動に加えネットワーク報酬を取り込む設計に移行します。読者は承認の制度背景、収益・コスト・税務の勘所、競合比較と市場影響を短時間で把握できるよう解説する。
承認の要点
承認はNYSE Arcaの規則変更が9月下旬に即時有効化されたため、ETHEとETHが保有ETHをステークできるようになり、米国初のステーキング対応現物ETPが誕生した。
SECは8〜9月にかけて手続きを進め、9月17日に商品型信託の汎用(ジェネリック)上場基準を採用、取引所側の簡素化された変更手続を後押ししました。これにより、個別銘柄ごとに重い審査を要さず、ETP側の機能追加が機動的に可能になりました。
承認の経緯と制度整備
SECがジェネリック上場基準を承認したため、NYSE Arcaは従来の個別審査を経ずに規則変更を即時有効化でき、ETHE/ETHのステーキング許容が制度面で整った。
この過程では、夏に示された液体ステーキング(LST)に関するコーポレート・ファイナンス部の見解(一定の事実関係では証券該当性なし)も不確実性の緩和に寄与しました。
信託契約の改定とステーキング手数料
株主承認を経て信託契約が改定され、信託によるETHステーキングと報酬受領が明文化され、報酬の一部をスポンサー等に配分できる条項が追加された。
SEC提出書類では、ステーキング対価の合計最大23%がスポンサーのステーキング手数料、カストディ費用、バリデーター取り分に充てられ、残余は信託に帰属する旨が開示されています。税務条項も補強され、連邦税法上の地位維持や必要時の迅速な契約修正権限が付されました。
GrayscaleのETH ETPに何が起きるか
ステーキング導入で価格連動+ネットワーク報酬の二層収益が可能となり、同社の大型(ETHE)と低コスト(ETH)の両商品でトータルリターンの底上げが見込まれる。
ETHEは100万ETH超を保有する大型ETF、ETHは年0.15%の低コスト商品(初期6か月・最大20億ドルまで手数料0%の施策)として2024年7月に上場済み。10月6日の発表時点で、ETHE約48億ドル、ETH約33億ドルの規模が示され、両者合算で米国ETH系ETPの約4分の1強を占める水準です。
運用リターンと実務(パッシブ・ステーキング)
報酬は信託内に自動再投資されるため、投資家は操作不要でNAVに利回りが内在化し、基本目的である現物ETH連動も維持される。
グレイスケールは機関カストディと多様なバリデーターに委託する「パッシブ・ステーキング」を採用。事前準備として約4万ETH(=1,250バリデーター相当)の移動がチェーン上で観測されています。
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ステーキング報酬の扱い(利回り・再投資・税制)
ETHのネット利回りは近時年2.9〜4%程度で、報酬は信託財産に再投資されるため、未実施に比べNAVの相対的押上げ要因となる。
税制面では、米国の多くの投資家にとってステーキング報酬がインカム課税に該当し得る点が論点です。信託はグラントー・トラスト形態のため、ファントムインカムに配慮し、スポンサーに迅速な契約修正権限を付与して税務適格性を維持する構えが取られています。
投資家への影響(機関・個人)
ETF経由でネイティブ利回り付きETHエクスポージャーが得られるため、鍵管理やノード運用無しで受動的収益が期待でき、機関・個人双方の参入障壁を下げる。
一方、ステーキングはスラッシングや引出待機(通常数日〜数週間、混雑時は最大50日程度の想定も)といった運用・流動性リスクを伴います。未ステークの流動性バッファや委託先分散でリスク低減が図られますが、目論見書・開示の精読が不可欠です。
市場の反応と価格への示唆
短期の反応は穏当だが、長期の需要拡大と供給抑制(報酬の内部化)がETHの下支え要因となる可能性が高い。
2024年7月のETH ETF上場以降、米国のETH系ETPへは資金流入と流出を繰り返しつつも残高は拡大基調。今回のステーキング対応は、NAVの逓増メカニズムを付与するため、投資家マインドの改善と出来高増加、ディスカウント縮小の材料となり得ます。
他のETF/ETPとの比較(BlackRockやBitwise等)
手数料は多くが0.19〜0.25%のレンジで、BlackRockのETHAは0.25%(初年度一部免除)と低コスト戦略を継続。
NASDAQは2025年7月にETHAへのステーキング追加を提案済み。VanEck、Fidelity、Invesco、ARK/21Shares、Bitwiseなども追随し、「利回り付きETF」の覇権争いが始まっています。グレイスケールはETHミニの0.15%と先行実装で差別化しました。
技術的背景(PoSとリスク管理)
PoSでは担保ETHをステークして検証に参加し、報酬を得る一方で不正や長時間オフラインにはスラッシングが適用される。
イーサリアムは2022年のMerge後にPoSへ完全移行。引出申請後は待機時間が発生し、ネットワーク混雑で長期化しうるため、ETFは常時未ステーク分の流動性スリーブを維持し、解約や移行に備える設計が求められます。
▽ FAQ
Q. SECはいつ、どのように承認しましたか?
A. 2025年9月下旬にNYSE Arcaの規則変更が即時有効化され、10月1日付官報にも関連通知が掲載。ETHEとETHでステーキングが可能になりました。
Q. ステーキング報酬は投資家へどう反映されますか?
A. 受取ETH等は信託に再投資されNAVに反映。最大23%がスポンサー等の対価となり、残余が投資家価値を高めます。
Q. 期待利回りはどの程度ですか?
A. ETHは過去半年平均で約2.98%、一般に年3〜4%前後。市場・総ステーク量・MEV状況で変動します。
Q. 主なリスクは?
A. スラッシング、運用障害、引出待機の長期化(通常数日〜数週間、混雑時は数十日)などが挙げられます。
Q. 競合の動きは?
A. BlackRockのETHA(0.25%)が上場済みで、NASDAQがステーキング追加を提案。各社が追随姿勢です。
■ ニュース解説
承認でETHE/ETHは価格連動に利回りが加わり、SECのジェネリック基準採用で今後の機能追加も柔軟になったため、長期の資金呼び込みと需給改善が期待される。
SECと取引所の制度整備が進み、LST等の位置づけが明確化したため、ETFは利回りを内在化できるようになった。投資家は手数料・税務・リスク開示を比較し、用途に応じて低コスト(ETH)と規模(ETHE)を使い分けるのが現実的だ。
投資家視点:低コストのETHは長期インカム向き、規模の大きいETHEは流動性重視と割り切り、管理報酬とステーキング手数料を差し引いた“実質利回り”で比較する。
※本稿は一般的な情報提供を目的としており、投資助言ではありません。