金融庁の暗号資産『金商法一本化』は何を変えるか

▽ 要約

背景:投資対象化と被害増で、金商法一本化を提示。
施策:情報開示・不公正取引・無登録勧誘を強化。
国際:MiCA・IOSCOに整合、税制20%分離課税も検討。
日程:2026年法案、周知1年を経て2027年施行見込み。

暗号資産の投資対象化と被害増加を受け、金融庁は主要適用法令を資金決済法から金融商品取引法へ一本化する方針だ。これにより情報開示、不公正取引、無登録勧誘の取締りを金商法ベースで整備し、市場の公正と投資家保護を強化する。本稿は金融庁 暗号資産 金商法 一本化の背景、変更点、事業者・投資家への影響、海外比較、スケジュールを簡潔に解説する。

提案の背景と目的

投資対象化が進み苦情も増えたため、より強力な開示・監視・執行を備える金商法枠組みへ再設計する狙いがある。
2025年1月時点で国内口座は約1,214万、預り残高は約5兆円に達し、投資経験者の7.3%が暗号資産を保有する。金融庁相談窓口には月平均300件超の相談が寄せられ、無登録勧誘や「出金できない」等の被害が散見される。こうした実態から、投資家保護と市場の公正確保を軸に、金商法の開示義務や不公正取引規制、強いエンフォースメントを適用する政策意図が示された。

投資家保護と市場健全化

説明責任を強化することで情報の非対称を是正し、公正な価格形成を促す狙いだ。
発行・流通の両面で、虚偽記載・誤認リスクを抑える情報開示や市場監視の制度化が中心となる。不招請勧誘や断定的判断の提供など、不適切な販売行為の抑止も期待される。

国際整合・税制連動

MiCAやIOSCO勧告と歩調を合わせるため、規制体系の明確化と税制20%分離課税の同時整備を図る。
国際的な投資家にとって理解しやすい制度設計を採ることで、国内ETFなど新たな投資チャネルの可能性も開く。

現行規制と金商法の違い/一本化での変更点

決済安全性中心の資金決済法から、投資者保護・市場公正中心の金商法へ軸足を移し、規制を一元化する。
資金決済法は交換業登録や分別管理など決済インフラの安全性確保が主眼で、投資向け開示や相場操縦・インサイダー規制は限定的だった。一本化案では、暗号資産を有価証券とは別の新カテゴリーとして金商法に位置付け、特性に即した規定を整備する。

情報開示(資金調達型トークン)

多数の投資家を勧誘する発行ではホワイトペーパー等の法的開示を義務付け、虚偽に制裁を科す。
事業計画、トークノミクス、関係者、リスク等を網羅し、重要事項の変更は継続開示。発行主体不在型は、流通関与者に必要情報の提供を求めうる。

二類型規制(資金調達・事業活動型/非資金調達型)

投資性の高い発行型は開示中心、ビットコイン等の非発行型は勧誘・運用行為の規制と市場監視を中心に据える。
無登録の投資助言・運用、SNSやセミナーでの違法勧誘を明示的に排除し、助言・運用には金商法ライセンスを要求する方向だ。

不公正取引規制

相場操縦、ポンプ&ダンプ、フロントランニング、ウォッシュトレード等に対応する包括的ルールを導入する。
従来の「発行者」「重要事実」の概念に依存し過ぎない設計とし、実態に即した市場濫用対策を構築する。

その他(内部管理・保全)

交換業者の内部統制・資本規制の高度化や、顧客資産の厳格な保全を法令水準へ格上げする。
現行の高水準カストディ要件は法定義務化が想定され、システム・リスク管理も監督対象が拡充される。

ステーブルコイン/NFTの扱い

ステーブルコインは資金決済法の枠で継続検討、NFTは用途多様性を踏まえ一律の金融規制は慎重姿勢が示されている。

関連:日本初のJPYCと世界ステーブルコイン比較

暗号資産事業者への影響と準拠課題

短期はコンプラ負担が増す一方、長期は参入拡大と商品多様化で市場の厚みが増す可能性が高い。

コストとガバナンス

適格性審査や内部統制・監査・報告の強化で人員・システム投資が増える。
法令対応、開示書類作成、上場審査体制の増強が必要になる。

新規参入と新商品

明確な枠組みで銀行・証券の参入やETF等の商品開発が進みやすくなる。
流動性・取引高の増加は業界の裾野拡大に資する。

上場審査と海外トークン

発行体の開示をモニターし、不備があれば上場廃止等の対応が求められる。
海外発行体からの情報確保や、応じない銘柄の取扱制限が課題となる。

技術多様性と柔軟適用

ゲーム・ファン・L2・DeFi等の多様性に配慮し、勧誘の広がり等で適用強度を調整する柔軟性が鍵だ。

会計・税務の整合

企業保有暗号資産の表示・評価、投資家の期待形成を踏まえた適正開示が求められる。

投資家・消費者への影響(利点とリスク)

安全性とアクセスは高まる一方、銘柄選別と制度移行期の一時的混乱には留意が必要だ。

利点

正確な情報開示と市場監視でだまされにくくなり、ETF等で投資経路が広がる。
分離課税20%になれば損益通算・繰越控除等の制度設計も現実味を増す。

リスク

匿名性が高い銘柄等は開示困難により取扱縮小の可能性があり、革新の萎縮を招かぬ設計が重要だ。

移行期対応

KYC追加や銘柄入替など一時的な不便は避け難いが、長期的な利用者利益につながる。

海外主要国の規制との比較

EUはMiCAで包括規制、米国は既存法運用が中心、香港・シンガポールはライセンス制で段階的に強化する。

EU(MiCA)

発行者のホワイトペーパー義務、CASP認可、マーケットアビューズ規制等を包括整備。

米国(SEC/CFTC)

統一法未整備だが、SECは有価証券性を軸に執行、2024年に現物BTC ETFが承認され市場アクセスが拡大。

シンガポール(PSA)

DPT事業者にAML・技術リスク管理と広告規制、法定通貨連動型の安定価値コイン枠組みを別途整備。

香港(VASP/ステーブルコイン)

取引所はSFCの厳格ライセンス制、個人向けは大型銘柄中心。2025年8月にステーブルコイン発行者の新制度施行。

業界・有識者の反応と提言

一本化の方向性は概ね支持だが、類型別規制と技術多様性への配慮、税制同時改正を求める声が強い。

業界団体

JBA・JVCEAは統一ルールと国際調和を支持、開示義務化と過度な萎縮回避のバランスを提案。

H政治・専門家の見解

自民党web3WGは「暗号資産」を金商法の独自区分とし20%分離課税を提言、法律家は米国の明確化法案に近いと指摘。

経営者の見方

大手経営者は“規制強化+税制改正”の同時進行なら市場活性化に資すると評価。

スケジュールと今後の注目点

2026年通常国会で改正案提出、成立後1年の周知を経て2027年施行が有力視され、年末の税制大綱も焦点だ。

▽ FAQ

Q. いつ施行される見込み?
A. 2026年提出→成立後に約1年の周知を経て2027年施行見込みと公表・発言が相次いでいます(年月は明示資料を参照)。

Q. 税率はどうなる?
A. 2026年度税制改正要望に暗号資産の20%分離課税が盛り込まれ、ETF解禁要望と併走します。

Q. 市場規模の現状は?
A. 2025年1月時点で国内口座約1,214万、預り残高約5兆円、投資経験者の7.3%が保有と整理されています。

Q. ステーブルコインとNFTは?
A. 現時点では一本化の対象外方針で、ステーブルは資金決済法、NFTは一律規制を避け慎重検討です。

Q. 何が最も変わる?
A. 発行時の開示義務化と市場濫用規制の本格導入、無登録勧誘の厳格取締りで投資家保護が段違いに強化されます。

■ ニュース解説

投資対象化の進展と苦情増により制度の強化が必要となったため、金融庁は金商法一本化で開示・業規制・市場規制を統合し、国際基準とも整合を図る。
事実・背景・影響を整理すると、①国内市場は利用者・資産規模ともに拡大、②被害・無登録勧誘の顕在化、③MiCA・IOSCO等の国際潮流、④税制・会計の整合ニーズが並行している。一本化は短期に事業者負担を増やすが、長期には参入促進・商品多様化・市場の信頼性向上に資する可能性が高い。

投資家の視点:情報開示の質・頻度、勧誘規制、取扱銘柄の見直し、税制の最終決着(20%・損益通算・繰越控除)を注視。移行期はKYC・銘柄入替・手数料改定などの運用変更に備え、国内ライセンス事業者の利用と分散保管を基本に、ポンプ&ダンプ等の不公正取引に巻き込まれない取引リズムを徹底したい。

※本稿は投資助言ではありません。

(参考:金融庁,EUR‑Lex,IOSCO