【要約】
・Pectraアップグレードによりイーサリアムの技術開発が新段階へ
・3つの主要戦略(L1拡張、Blobs拡張、ユーザー体験向上)を提示
・イーサリアム財団新任トップが目指す「より迅速かつ透明な運営」
・新機能導入のリスクに対するセキュリティ企業の警鐘
・ETH価格への影響:2200ドル回復はあるのか?
・ネットワークの可用性向上とL2の成長による今後の見通し
Pectraアップグレードの背景と概要
2025年5月7日、イーサリアムがPectraアップグレードを完了しました。これは過去の大型アップグレードと同様に、ネットワーク性能やユーザー体験を改善するための一連の機能向上を含むものです。このPectraによって、イーサリアムの次の段階である「Fusakaアップグレード(今秋予定)」へスムーズに移行し、さらに来年予定される「Amsterdamアップグレード」までを見据えた長期的戦略が加速するとされています。
イーサリアム財団は、これまで「研究開発への注力」と「クライアントの多様性」を強みとしてきました。しかしコミュニティからは「公式のロードマップが不透明」「決定や実行が遅い」「DeFiなど実需との連携不足」といった課題が指摘されていました。こうした声に対応すべく、新任のタマス・スタンチャック(Tamas Stanczak)氏とシェイ・ウォン(Shay Wong)氏が連携し、財団の運営手法を大きく変えようとしている点が今回のアップグレードとあわせて注目されています。
財団が掲げる3大戦略:L1拡張・Blobs拡張・UX向上
(1)L1拡張と長期目標
タマス氏によると、イーサリアムは今後**「4年で100倍の拡張」を目指すロードマップを描いており、今年中に3倍、来年までに10倍、最終的にはZK技術の活用などで100倍まで伸ばす野心的なプランを設定しています。これにともない、アップグレードの頻度も半年に1回程度**に上げていく方針が示されました。
(2)Blobs拡張の重要性
Pectraでは、EIP-7702などを通じてBlobsと呼ばれるデータ管理機能の改善が実装されました。開発者の間では「blob手数料が大幅に下がり、Rollupの効率が上がる」という期待が高まっています。これにより大規模なDAppが運用しやすくなり、将来的には1ドルを下回るレベルのトランザクション手数料も現実的になるという見方があります。
(3)ユーザー体験(UX)の向上
さらにイーサリアム財団は、ウォレットの利用やアカウント抽象化(Account Abstraction)、開発者が感じる煩雑さを解消するための仕組みづくりを急いでいます。今後はコミュニティやアプリ開発者との連携を強化し、「プロダクト思考」でエンドユーザーが使いやすい機能を提供していくことが最大の焦点となります。
新機能に伴うリスクとセキュリティ上の注意点
セキュリティ企業の**慢霧(SlowMist)**はPectraアップグレードによる新機能の導入が「便利になる反面、新しい攻撃ベクトルを生む可能性もある」と警鐘を鳴らしています。特に下記の点が強調されました。
- ユーザー:異なるチェーン間での契約アドレスが同一とは限らず、誤った操作で資金を失うリスク
- ウォレット提供者:署名のチェーンID混在によるリプレイ攻撃リスクの注意喚起
- 開発者:
msg.sender == tx.origin
に依存した権限管理の手法は脆弱化する可能性 - 取引所:スマートコントラクト経由での入金を追跡し、虚偽入金を防止
このように利便性を高めるための新技術である一方、従来のセキュリティ慣行が通用しなくなるケースが出始めています。今後はウォレットやDeFiサービスだけでなく、ユーザー教育もより重視されるでしょう。
Pectraアップグレード後のETH価格動向
今回のPectraアップグレードは技術的には成功と評価され、ネットワーク障害や重大なバグは報告されていません。しかし、市場の反応は総じて静かで、アップグレード直後のETH先物プレミアムは大きな変動を示しませんでした。背景には、世界的な景気後退懸念やグローバルな金融不確実性が影を落としていると考えられます。
また、イーサリアムは依然としてL1の手数料やL2との連携が課題とされるほか、他のチェーン(SolanaやBNB Chain、Tronなど)の台頭にもさらされています。たとえばSolanaは巨大なアクティブユーザー数を抱え、Tronは安定的な手数料収益を得るなど、各チェーンが特色を生かして勢力を拡大しています。
一方で、イーサリアムが培ってきたセキュリティと開発者基盤の厚みは依然強力です。アップグレードを機にDeFiやNFTなどの分野が新たに活性化すれば、ETHが再び2200ドルを超える可能性も十分に残されています。特に「Rollupのさらなる進化」と「高い質のDApp誘致」が、今後の鍵を握ると専門家は分析しています。
ニュースの解説
今回のイーサリアム Pectraアップグレードは、大規模な技術刷新の第一歩であり、今後予定されるFusakaやAmsterdamといった連続アップグレードへの試金石とみられます。財団の新指導部が掲げる「実務的なスピードアップ」「長期的な拡張目標」「ユーザー中心設計」は、競合チェーンとの性能格差を埋め、さらに先行するための重要な柱です。
しかし同時に、進化のスピードを上げるほど、セキュリティ検証やコミュニティ調整も慎重を要します。今回のアップグレードを通じて、開発者やユーザーは新機能の恩恵だけでなく、新たなリスクについても理解を深める必要があるでしょう。Pectraアップグレードがもたらす技術革新が、イーサリアム全体の飛躍につながるのか、今後数か月の動向が大きな注目を集めそうです。