DeepSeekの衝撃――Agentバブル崩壊とDeFAIが切り拓くWeb3 AIの新時代
- 2025/2/12
- AI
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【要約】
・「DeepSeek」の技術革新によって高性能GPUに依存しない大規模モデルのトレーニングが可能となり、Web3 AIの算力構造が大きく変化
・分散型算力プロトコルの優位性が揺らぎ、代わりに開発者やユーザーはよりコストの低い中心化クラウドの価格下落や効率向上の恩恵を受ける可能性
・Agent分野の投機バブルが崩壊傾向にある一方、DeFAIなどの新たなAI金融(DeFi+AI)プロトコルは次世代の成長領域として注目度が上昇
・Mint BlockchainはNFTエコシステムの基盤強化を目指すLayer2であり、AI AgentやRWAなど幅広い領域を統合する新しい試みとして白書を公開
・次のAI Agentブーム到来前に、過度な期待による高値掴みを避ける「慎重な売買スタンス」が個人投資家にとって重要
DeepSeekがもたらすWeb3 AIの転機
近年、Web3領域ではAIに関連するプロトコルやアプリケーションが急速に台頭し、その代表例として去年度から続く「AI Agent」ブームが挙げられます。ところが2025年に登場した新技術「DeepSeek」により、大量の高性能GPUを確保せずとも大規模モデルを訓練できるようになり、こうした分散型算力プロトコルの優位性やAI Agentプロジェクトのビジネスモデルが根底から再評価を迫られています。ここでは、DeepSeekがWeb3の上下流(インフラ層・ミドルウェア層・モデル層・アプリ層)にどう影響を与え、加えて新たに注目を集めつつあるDeFAIやMint Blockchainの取り組みを概観します。
Web3 AIの構造:インフラからアプリ層まで
### インフラ層:算力・ストレージ・L1
Web3 AIの基盤となるインフラ層では、去中心化型GPUや分散ストレージ、特化型L1などが主力です。たとえばRenderやAkash、io.netのような算力提供プロトコルは、大規模学習や推論を分散ノードで実行することで「Web2クラウド依存を低減する」という価値を訴求してきました。またArweaveやFilecoinといった分散ストレージが学習データやモデルパラメータを保持し、NEAR、Fetch.aiなどが処理効率に特化した独自のL1として台頭しています。
### ミドルウェア層:データ・開発フレームワーク・プライバシー
ミドルウェア層ではデータセットのアノテーション(GrassやVanaなど)やフレームワーク開発(Eliza、ARCなど)、プライバシー保護(Phalaなど)といった領域が活発です。これらはインフラ層から算力を呼び出し、AIモデルの学習を補完する燃料的な役割を担っています。
### モデル層:オープンソース開発と配布
モデル層ではBittensorのようなオープンソースを前提にした学習プラットフォームが台頭。これらの取り組みは「高性能GPU確保が難しい開発者でも、モデルの改良・再学習が容易になる」よう設計されています。
### アプリ層:AgentとDeFAIの台頭
最終的にユーザーに届くアプリケーション層では、従来は「Agent」系プロジェクト(GOATやAIXBTなど)が大きな注目を集めていました。一方、最近はDeFiとAIを組み合わせた「DeFAI」プロトコル(Griffain、Buzzなど)が次世代の資金効率向上や自動オペレーションを目指す動きとして期待されており、Agentが担ってきた「自動化・効率化」を金融へと広げる流れが強まっています。
DeepSeekが突き破った算力の「壁」
### “算力の護城河”が崩壊?
DeepSeekはスパーストレーニング技術を活用して推論や学習に必要な演算量を一気に削減し、コンシューマー向けのGPU(例:4090)でも大規模モデルを訓練できる道を拓きました。これにより、「高価なA100を大量に保有しなければ実用レベルのモデルは作れない」という従来の考え方が揺らぎ始めています。
### 分散型算力への逆風
もともとWeb3系の分散GPUネットワークは、「大規模クラウドより低コストでスケールできる」という期待から注目されていました。しかしDeepSeekを迅速に取り入れた中心化クラウド勢も価格競争を進めており、結果として分散型算力プロトコルがコスト面の優位性を失うリスクが高まっています。高FDV(Fully Diluted Valuation)を誇ってきた算力トークンの価値評価が急激に見直される可能性があるのです。
Agentバブルの終焉とDeFAIの新生
### Agentセクターに潜むバブル
Agent分野は「オンチェーンでの自動執行」や「ユーザー入力に応じた最適行動」といったユースケースを掲げ、市場が盛り上がりました。しかし実需や技術基盤がまだ脆弱なまま、投機的なトークン上場や高時価総額のプロジェクトが乱立。一部では米国株式市場や金融政策の影響を受け、市場全体のダウンサイクルに巻き込まれ、Agent関連トークンが価値を大きく下げる事態となっています。
### DeFAIの可能性
一方でDeFiのトレードや資産運用をAIで最適化する「DeFAI」分野は、Agentのように汎用的な機能を担うだけでなく、資本効率やガバナンス効率を高める具体的な機能を提供できるため、有望なユースケースとして再評価されています。特にDeepSeekの省算力モデルを利用すれば、より多彩な自動化戦略を構築できるため、金融AIとしての実装や拡張が進むことが期待されます。
Mint Blockchainが狙うNFTエコシステムの新基盤
### 「NFT×AI Agent」の未来構想
近頃、Mint Blockchainが発表した白書では、NFTとAI Agentをつなぐプラットフォーム構築を目標に掲げています。Mint BlockchainはOptimistic Rollup系スタック「OP Stack」を活用するイーサリアム互換のLayer2であり、Mint StudioやIP Layer、Mint Liquidなど、NFTのライフサイクル全般を支援する複数の基盤を開発中です。
### IP LayerやRWAへの応用
特筆すべきは、NFTを単にコレクティブルとして扱うだけでなく、知的財産(IP)の管理や実物資産(RWA)のトークン化を重視している点です。さらにNFT×AI Agent領域の実装を意識しており、画像認識やデータ検索、トランザクション実行などの機能をNFTに紐づける構想も示されています。将来的には多様なWeb2企業もこのNFTプラットフォームを通じて新たなビジネスモデルを模索できる可能性があります。
次のAI Agentブームに備える投資スタンス
### 過度なFOMOを警戒
AI AgentやDeFAI分野は今後再び大きな話題を呼ぶ可能性がありますが、初期段階では高いボラティリティが予想されます。特に「ローンチ直後のプロジェクト」にFOMO(恐怖による飛びつき)で資金を投入すると、高値掴みしてしまうリスクが高い点に要注意です。
### 估値の実態を確認する
開発者の経歴やGitHubのスター数、ホワイトペーパーの壮大なビジョンだけではなく、実際のプロダクトやユーザ基盤、提携先を冷静に見ることが求められます。Agent分野のように、いくら叙述が美しくとも実装が乏しいまま巨額の時価総額をつけるプロジェクトは警戒すべきでしょう。
### 分散投資と撤退基準
また小口投資家ほど、複数の銘柄に分散しすぎて目が行き届かなくなるリスクもあります。自分が理解できる範囲の銘柄を数点に絞り、時には早めの撤退基準を定めてPVP(プレイヤー同士の激しい争奪)に巻き込まれない戦略が有効です。「ダイヤモンドハンド(長期ホールド)」が報われるケースもありますが、技術進捗や資金流入を継続的にウォッチできる人材・時間的リソースがなければ、一部利確やポジション縮小も選択肢となります。
AIとブロックチェーンが開く新時代
DeepSeekがもたらす算力革命をきっかけに、Web3 AIの世界は一段と激動のフェーズへ入りました。Agentのバブルがはじける一方、DeFAIやNFTエコシステムを絡めた新プロジェクトは、より実需志向なシナリオを描き始めています。Mint Blockchainのように基盤レイヤでNFTの透明性や所有権管理を強化し、AI Agentと接続する仕組みが普及すれば、将来的にWeb2企業のオンチェーン進出も加速することでしょう。
今後は省算力モデルの急速な進化と、その上で走るDeFAIやNFTプロトコルの成熟が、暗号資産市場全体に新しい活力をもたらすと見られています。投資家にとっては、不確実性の高い初期段階こそ最も大きなリターンを得られるチャンスとなる反面、適切なリスク管理とプロジェクト評価能力がいっそう重要になる時期だといえます。