▽ 要約
税率:暗号資産は条件付きで20%申告分離課税へ
損失:特定暗号資産は3年の損失繰越控除を導入
徴収:差押えはウォレット移転命令を中核に実効化
時期:税制は2027-01-01以降、差押えは2027-04-01
2025-12-19公表の令和8年度税制改正大綱は、税率の見直しと徴収の実効化を同時に進め、暗号資産取引の位置づけを株式等に近づけた。

暗号資産の税率はいつ、どこまで変わるのか。2025-12-19に公表された令和8年度税制改正大綱は、暗号資産の分離課税20%(条件付き)と3年損失繰越、さらに滞納時の差押え手続の実効化を掲げた。本稿では適用範囲の線引き、施行ロードマップ、投資家と事業者の実務対応を解説します。
暗号資産の申告分離課税20%と損失繰越
大綱は個人の暗号資産取引益を、一定条件の下で一律20%の申告分離課税に移行し、損失の3年繰越も認める方針を示した。
対象取引と「特定暗号資産」
分離課税の対象は、国内の登録業者が取り扱う「特定暗号資産」とその関連商品に限定される見通しだ。
対象となるのは、特定暗号資産の現物売買益とデリバティブ取引、暗号資産を投資対象とするETF等から生じる所得だ。現行は雑所得(総合課税)として累進税率が適用され、所得税45%+住民税10%で最大55%となり得るが、制度移行後は原則20%(所得税15%+住民税5%)に平準化される。
鍵となる「特定暗号資産」は、金融商品取引法の枠組みで登録簿に載る銘柄を前提に設計される。具体的にどの銘柄が該当するかは、大綱段階では明示されておらず、2026年の法令・運用整備で確定する見通しで、対象外取引との線引きが実務上の重要論点になる。
損失繰越とETF・投信の整理
損失の3年繰越控除を導入し、暗号資産ETF等の取扱いも株式等の枠組みに寄せる方向性が示された。
現物・デリバティブで生じた損失は、一定の要件を満たせば翌年以降3年間、同じ区分の利益から控除できる。損失が出た年に控除しきれない額を繰り越せるため、相場変動が大きい資産の税負担を年次で平準化しやすくなる。
暗号資産を組み入れたETFや投資信託の取扱いも、上場株式等の譲渡所得の枠組みに寄せる方向性が示された。国内で当該商品の制度整備が進めば、売却益の課税関係や損益管理を、株式投資に近い形式で整理できる余地が広がる。
徴収措置の実効化:差押えと送金命令
国税徴収法の改正で、暗号資産などを「特定電子移転財産権」と定義し、差押えを実際に移転させる手続へ改める。
差押えの基本手順:当局管理ウォレットへ移転
差押えは徴収職員が対象資産を自らの管理下に移し、保管後に公売や随意契約で換価する流れが明確化された。
差押えの効力は、差押えの命令が発せられた時点または対象資産が実際に移転した時点で生じると整理された。従来は形式上の差押えができても秘密鍵の壁で換価が困難になり得たため、ブロックチェーン上の資産を「動かす」手続を明文化した点が実務上の転換点となる。
当局が直接管理に移すことが難しい場合は、権利者に対して指定先へ移転させる送付命令を出せる。税務署が提示するウォレットアドレスへの送金を命じる構造で、従来の「アクセスできない」主張による回収遅延を抑える狙いがある。
換価段階では、公売に加えて相場を踏まえた随意契約による売却も想定される。取引所相場がある資産について運用を明確化する方針が示唆されており、価格変動の大きい資産を迅速に処分するための制度運用が焦点になる。
命令違反の罰則と施行日
送付命令に従わない場合は3年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金とする罰則が新設され、2027-04-01施行が予定される。
命令不履行そのものに刑事罰を設け、履行を間接的に確保する設計が採用された。強制的に鍵を取得する「代替執行」は現実的でないため、送付命令違反を3年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金の対象とし、差押え逃れの抑止を強める。
背景:金商法移行と国内取引の位置づけ
税率引下げと適用範囲の線引きは、暗号資産を金融商品取引法の規制枠に移す制度設計と一体で進む。
分離課税の開始時期は「金融商品取引法の改正法施行の日が属する年の翌年1月1日以後」と紐づけられた。法改正と施行準備の進捗次第で、最短で2027-01-01、制度整備に時間を要すれば2028-01-01にずれ込む可能性がある。
適用対象を国内登録業者経由に寄せたのは、取引情報の把握と投資家保護の観点が大きい。国内業者に報告・帳票の枠組みを整備しやすい一方、海外業者や自己管理ウォレットの取引は把握が難しいため、税制優遇の前提条件として「捕捉可能性」を重視した構図が透ける。
市場への影響:国内回帰とDeFiへの逆風
国内取引は税負担が大きく下がる一方、海外取引所やDEX経由は総合課税が残り、投資行動の分断が起こり得る。
国内の対象取引であれば、最大55%となり得る税負担が20%へ下がり、利益確定のタイミングやポジション調整の心理的障壁が下がり得る。損失繰越も導入されるため、相場下落局面の損失が将来の利益と相殺できる点はリスク管理の見通しを改善する。
海外取引所やDEX経由の損益は対象外となる見込みで、損失の繰越や損益通算の範囲が分断される。国内取引と海外・DeFi取引を併用する投資家は、区分ごとに取得価額・手数料・交換取引の評価を整理し、別区分で申告する必要が生じる。
業界団体は制度前進を評価しつつ、取引形態で税制を差別化することがWeb3事業の競争力を損ねると懸念している。規制は規制、税制は税制として整理すべきだという主張もあり、制度開始後の利用実態を踏まえた対象範囲の再検討が論点として残る。
今後の注目点:施行時期と準備ポイント
2026年の通常国会での法改正と政省令整備が鍵で、税制と徴収措置は別スケジュールで動く。
想定ロードマップ
大綱の記載を前提にすると、分離課税は早ければ2027年、遅ければ2028年開始となる可能性がある。
2025-12-19の大綱決定後、2026年の通常国会で関連法案の提出・審議が行われ、成立後に政省令やシステム整備が進む流れが想定される。課税区分の変更は金商法改正と連動するため、施行日確定までは「いつから何が対象か」を段階的に見極める必要がある。
差押え手続と送付命令違反の罰則は2027-04-01施行予定で、税制より先に実務が動き出す。国税当局側ではウォレット管理・換価手順・内部統制の整備が避けられず、運用の透明性とセキュリティ確保が制度の信頼性を左右する。
投資家・事業者が備える実務
施行前から取引区分の記録管理を整え、国内業者の報告書式や新しい申告区分に備えることが現実的だ。
個人は国内・海外・DEXの損益を分けて把握し、施行初年度の確定申告に備える必要がある。とくに暗号資産同士の交換やDeFi取引は記録が分散しやすいため、取引履歴の保全、評価方法の一貫性、手数料の整理を早期から進めたい。
事業者は登録区分の変更、顧客説明、税務当局向けデータ整備など、規制と税務の同時対応が求められる。ユーザーが自らの課税区分を判別できる画面設計や年間取引報告の整備は、制度開始後の混乱を減らすうえで重要な論点になる。
▽ FAQ
Q. 分離課税20%はいつから始まる?
A. 金融庁が準備する金商法改正の施行日次第で、適用開始は最短2027-01-01、遅ければ2028-01-01となり得る見込みだ。
Q. 「特定暗号資産」はどう決まる?
A. 令和8年度税制改正大綱は金融商品取引法の登録簿掲載銘柄とだけ示し、具体名は2026年の金融庁・政省令整備で確定する予定だ。
Q. 送付命令に従わないとどうなる?
A. 国税徴収法の改正で、税務署長の送付命令違反は3年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金となり、2027-04-01施行予定。
Q. 海外取引所やDEXの利益も20%になる?
A. 大綱では海外取引所やDEXは対象外で、雑所得の総合課税(所得税45%+住民税10%で最大55%)が当面は継続する見込みだ。
■ ニュース解説
税率を20%へ近づける一方で、国内登録業者を経由する取引に対象を絞ったため、投資家保護と産業振興の両立が焦点になる。徴収面では「動かせる差押え」と罰則で、滞納の逃げ得を減らす設計が示された。
投資家の視点:税制は施行時期と「特定暗号資産」の範囲が確定して初めて損益計画に落とし込める。区分管理と記録整備を先行し、制度確定後に前提条件を点検する姿勢が重要になる。
※本稿は一般的な情報提供を目的としており、特定銘柄・金融商品の売買を推奨するものではなく、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
(参考:自由民主党)





