12月3日暗号資産:BTC調整と26–27年相場観測

▽ 要約

市況:BTCが12月1日に8.7万ドル割れ、QT終了と利下げ観測の中でボラティリティが再拡大。
政策:日本の暗号資産20%分離課税案とMiCA、欧州10銀行のユーロ連動ステーブルコイン構想が中長期マネーフローを左右。
企業・プロジェクト:Coinbase訴訟やEthena・Rayls、Tronと新興L1の収益格差から、次サイクルの勝ち筋が見え始めている。
構造変化:ビットコイン4年周期終焉論、予測市場ブーム、ポストCT時代、ZKと共有セキュリティの進展が投資家のゲームを変えつつある。

12月3日の暗号資産市況では、ビットコイン急落と日本の税制転換、欧米のステーブルコイン・利下げ観測が交錯し、2026〜27年に向けた相場シナリオの前提が組み替えられつつある。

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ビットコインは12月1日に2時間で4,000ドル超下落し8.7万ドルを割り込んだ一方で、FRBのQT終了や2026年以降の利下げ観測、日本の暗号資産20%分離課税案、欧州MiCAとユーロ連動ステーブルコイン構想など、中長期では追い風になり得る材料も同時に出ている。本稿では12月3日時点の一次情報を基に、市況・規制・企業動向・市場構造の4軸から「なぜ今弱いのか」と「それでも2026〜27年強気相場観測が残っている理由」を整理し、短期ノイズと中長期ドライバーを分けて捉えるための視点を解説する。

市況総括:BTC急落と26〜27年サイクル観測

ビットコインと主要アルトはフラッシュクラッシュに見舞われたが、半減期後の「期待外れ相場」はサイクル論から見ると必ずしも異常ではない。

12月1日の急落では、BTCが一時8.6万ドル台まで下落し、ETHも200ドル超反落、数億ドル規模のロスカットが発生したと推計されている。中国人民銀行の規制再確認、日本銀行の追加利上げ観測、米現物ETFフローの弱さ、2016年ETHクジラや長期WBTC保有者の売りなどが重なり、リスクオフ環境でレバレッジ解消が一気に進んだ格好だ。
一方でFRBは約3年半続いたQTを停止し、マーケットは年内の利下げ開始と2026年前後にかけた緩やかな金利低下を織り込み始めている。短期的なボラティリティの裏では、流動性環境そのものはリスク資産にとって徐々にプラス方向に傾きつつある。

サイクル面では、幂律+対数周期モデルが「2025年に大バブルは来ない」可能性を事前に示していた。2011・2013・2017年の3つの基調バブルを主波とすると、2021年はその半調波にとどまり、次のフルサイズの波は2026年末〜2027年半ばに到来するというのが同モデルの結論である。Michael Saylor氏も、半減期による日次供給減少より、ETF・企業・国家レベルの「恒常的な買いフロー」の方が価格決定要因として支配的になっていると述べる。足元の調整は、構造需要の立ち上がりを待ちながら高ボラレンジを行き来する過渡期と位置づけられる。

規制・政策:日本税制とMiCA・ステーブルコイン

税制と包括的な規制フレームワークは、どのマネーがどのルートで暗号資産に流入するかを決める中長期ドライバーになりつつある。

日本では、暗号資産取引益を株・FXと同じ申告分離課税の対象とし、所得税・住民税合わせて一律20%とする案が政府・与党内で検討されている。現行は総合課税で最大55%の税率となるため、個人投資家が国内で利確しづらい構造的なボトルネックになってきた。2026年度税制改正大綱に盛り込まれれば、最短で2027年1月以降の課税期間から適用される可能性があり、海外口座や法人スキームに依存していた資金の一部が国内で回り始める余地が生まれる。

欧州ではMiCA全面適用から約1年で57件超のCASPライセンスが発給され、ドイツとオランダがハブとして台頭している。1カ国で認可を取ればEU27カ国でパスポート提供可能という仕組みにより、「規制の緩い国に集まる」という旧来型アービトラージは成立しづらくなった。その上で、INGやBNPパリバなど欧州10銀行が2026年後半稼働を目指すユーロ連動ステーブルコインを構想しており、MiCA準拠の銀行発行ステーブルが立ち上がれば、オンチェーン流動性の通貨分散と欧州機関マネーの流入経路拡大につながる可能性がある。

米国ではステーブルコイン規制法に基づく詳細ルールの整備が進み、銀行チャネル経由のドル建てステーブルコイン発行が現実味を帯びつつある。一方、中国人民銀行は暗号資産とステーブルコイン取引の違法性を改めて強調し、資本流出とシャドーバンキング拡大への警戒を緩めていない。地域ごとのスタンス差は残るものの、「無規制のまま放置される」時代から「ルールメイク競争」の段階に入ったと捉えられる。

企業・プロジェクト:Coinbase・Ethena・Rayls・L1収益

取引所ガバナンスとインフラ系プロジェクトの成否は、次サイクルの受け皿を左右する。最近の一次情報からは、勝ち筋と課題のコントラストが見え始めている。

Coinbaseでは、Brian Armstrong CEOやMarc Andreessen氏らを対象とした株主代表訴訟が提起され、KYC/AML欠陥や6.9万口座規模の情報流出リスクを認識しながら、その開示前に総額約42億ドルの株式を売却したと主張されている。直接上場の選択やその後の和解プロセスも含め「取締役が誰の利益を優先したのか」が争点であり、暗号資産企業における受託者責任の線引きを巡る重要な事例になる可能性がある。
同社は本店登記地をデラウェア州からテキサス州へ移す計画も公表しており、「どの法域を選ぶか」が今後の暗号資産企業にとってガバナンスと規制リスク両面での戦略変数になりつつある。

ステーブルコイン/インフラ領域では、USDeで急成長したEthenaが脱ペッグとTVL半減を受け、SuiやSolana上でのホワイトラベル型ドル資産提供に軸足を移し始めた。トークナイズド国債などRWAを担保に組み込む構想も示されており、「高レバレッジ運用トークン」から「準マネーマーケットファンド的ステーブル基盤」へポジショニングを変えようとしている。一方、Tether出資とブラジル中銀DREX試験参加という強力なバックグラウンドを持つRaylsは、企業向けL2+プライベートチェーン構想を掲げつつも、RLSトークンがTGE後ピークから約75%調整し、空投条件への不満もあってリテールの勢いを取り込みきれていない。

公チェーン収益では、TronがUSDT決済を軸に日次収益トップを維持する一方、MovementやSomniaなど一部新興L1は日収数十ドル〜数百ドルにとどまり、「氷と火」の構図が際立つ。高FDVや大型資金調達と、ユーザーが実際に支払う手数料収入のギャップは、次サイクルでバリュエーションの再点検を迫る材料になり得る。

関連:ビットコイン4年周期は崩壊か:ヘイズ論

市場構造:予測市場・ポストCT・インフラ技術

価格チャートの背後では、投機ゲームのルールと情報チャネル、基盤技術も静かに変化している。

予測市場については、Polymarketなどの成長が注目される一方で、IOSGはイベント数の少なさやオープンインタレストの集中、決着までの長さ、情報格差といった構造的制約を指摘する。多くの市場が薄い板と広いスプレッドに悩まされており、「ストーリーとしての分かりやすさ」に比べ、継続的な取引需要は限定的だという見方だ。

「ポスト加密Twitter」論では、かつてCrypto Twitterが担った叙事発見と信頼ルーティング、反身性ループの機能が弱まり、情報と流動性がクローズドなグループチャットや限定コミュニティに分散していると整理される。Xを眺めていれば誰でも同じナラティブに乗れた時代は終わり、中位プレイヤーは専門家集団とほぼ同じテーブルで戦わざるを得ない環境に近づきつつある。
インフラ面では、ZK/STARK、Verkle Tree、歴史的証明、共有セキュリティなどの組み合わせにより、「ラズパイ級ハードウェアでも数百GB規模のフルノードを短時間で同期できる高TPSチェーン」を実現できるかが次のブレークスルー候補とされる。真に誰でも検証可能なチェーンを先に実用化したL1/L2が、次サイクルの“プラットフォーム銘柄”になるとの見方も根強い。

▽ FAQ

Q. 日本の暗号資産20%分離課税案はいつから適用される可能性がありますか?
A. 2026年度税制改正大綱に盛り込まれれば、最短で2027年1月以降の課税期間から暗号資産所得に一律20%の分離課税が適用されるシナリオが想定されています。

Q. ビットコインはなぜ12月1日に8.7万ドル付近まで急落したのですか?
A. 中国人民銀行の規制再確認、日本銀行の利上げ観測、米現物ETFフローの弱さ、長期保有者の売りが重なり、2025年12月1日に2時間で約5%下落したと分析されています。

Q. 欧州10銀行が発行予定のユーロ連動ステーブルコインの狙いは何ですか?
A. INGやBNPパリバなど欧州10銀行は、2026年後半にMiCA準拠のユーロ連動ステーブルコインを発行し、米ドル建てステーブル依存を和らげつつ、EU域内とオンチェーンの決済インフラを強化することを目指しています。

Q. Coinbaseの42億ドル内幕取引訴訟では何が問題視されていますか?
A. Brian Armstrong氏やMarc Andreessen氏らが、KYC・AML欠陥や情報流出リスクを開示する前に総額約42億ドルの株式を売却したとされ、その是非が受託者責任違反として争点になっています。

Q. 次のビットコイン大相場はいつ来ると予測されていますか?
A. 幂律と対数周期モデルでは、第4の基調バブルは2026年末から2027年半ばにかけて発生する可能性が高く、2025年はその手前の調整フェーズと位置づけられています。

■ ニュース解説

12月1日前後のビットコイン急落とその後の軟調相場は、中国・日本の金利や規制、ETFフロー、長期保有者の売りといった短期要因が重なった結果であり、一方でFRBのQT終了、日本の分離課税案、MiCAと欧州銀行のユーロ連動ステーブルコイン構想、米ステーブルコイン規制法といった中長期の制度・マクロ要因は、暗号資産市場にとって構造的な追い風となり得る。幂律モデルやSaylor氏の議論が示すように、次の大きなビットコイン相場は従来の四年周期ではなく、ETFや企業・国家の保有拡大と規制の安定化に連動して2026〜27年にずれ込むシナリオが有力視されている。
投資家の視点としては、短期の急落やニュース見出しだけで方向感を判断するのではなく、①税制・ステーブルコイン・包括規制(MiCAなど)がどの水準で落ち着くか、②FRBの利下げパスと米財政・債務政策が実体経済と流動性にどう波及するか、③Coinbaseやインフラ系プロジェクト、L1・L2がどれだけ実収益とユーザーベースを拡大できるか、④情報チャネルの断片化と予測市場・ZKインフラの進展が個人投資家のエッジにどう影響するか、といった中長期ファクターをモニターしつつ、自身の時間軸とリスク許容度に応じたポジションサイズと分散を設計することが重要になる。

※本稿は一般的な情報提供を目的としており、特定銘柄・金融商品の売買を推奨するものではなく、投資助言ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

(参考:PANews